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臺宏士 フリーランス・ライター
論座 2019年07月05日
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テレビ朝日(東京・六本木)の正面玄関受付のあるホールに飾られた「報道ステーション」の垂れ幕。古舘伊知郎氏の後任メインキャスターは、テレ朝社員の富川悠太氏が引き継いだ。
■4年前も「更迭」人事?
テレビ朝日の看板番組「報道ステーション」でプロデューサーを務めるなど同局のジャーナリズムを支えてきた松原文枝・経済部長(52)が7月1日付で「若返り」を理由に報道局を離れ、総合ビジネス局のイベント事業戦略担当部長に異動した。
原発再稼働、安全保障、憲法改正など安倍晋三首相が強くこだわる政策に正面から問いかける報ステ時代の特集は大きな注目を集めた。これが原因で「更迭された」とも言われている。
7月からは、放送番組を国内外に販売したり、映画・コンサート、展覧会など放送事業以外での収益を図る仕事に就く(参院選や夏の終戦企画もあり着任は8月後半らしい)。
今回の松原氏の異動をめぐっては、同担当部長というポストが、松原氏を迎えるに当たって新設されたもので、昇格もないままの報道局以外への転出であることから、局内でも異例の人事だと受け止められている。
早河洋会長の下、安倍政権との距離を縮めるテレビ朝日にあって、「テレ朝ジャーナリズム」の退潮を危惧する声が出ている。
■株主総会でも質問
「今回の人事で落ち込んでいるんじゃないか。会社を辞めるなんてことも考えるなよ。こういう人事異動もある」――。
松原氏の周辺を取材すると、テレビ朝日で7月の人事異動の内示(発表)が6月21日にあった後、ある役員は松原氏にそう言って励ましたらしいという情報が入った。
関係者によると、テレビ朝日の社内人事は、人事担当を含む3人の役員を中心に進められ、担当部長以上のポストについては、実権を握る早河会長の了解を得る仕組みになっている、という。
松原氏の異動を「テレ朝 政権追及 経済部長を左遷 ”忖度”人事か?」といち早く報じた「日刊ゲンダイ」(6月24日)の取材に対して、テレビ朝日広報部は「通常の人事異動の一環です」と回答し、6月27日のテレビ朝日ホールディングスの株主総会でも松原氏の異動について出た質問に対して、会社側は同様の答弁で押し切ろうとしたという。
木で鼻をくくったような説明を額面通りに受け止める社員は、まずいない。ある関係者が明かす。
「役員がわざわざ本人に『辞めるな』と言うなんてことは、かえって今回の人事が左遷だということを示したようなものではないでしょうか。通常の人事異動でそんなことを役員がしたなどと聞いたことがありません」
左遷なのかどうかはともかく、社員の目から見ても不自然さが目立つ人事であったことは間違いないようだ。
■「安倍政権に厳しい番組づくり」が理由?
松原氏がいまの経済部長に着任したのは2015年4月だった。在任期間は2019年4月で5年目に入り、時期的には異動になっても確かにおかしくはない。問題はその異動先だ。
過去の経済部長の異動先を見てみると、前々任の経済部長は、クロスメディアセンター長、前任者は、政治部長への異動後に、同じ7月1日付の人事でアナウンス部長として昇格するなどいずれも放送の現場にとどまっているのとは対照的なのだ。
仮に報道局以外に行く場合でも秘書や企画などといった経営にかかわる部署が多いという。経済部長として築いた企業とのパイプをビジネスに生かしてもらうという理由が成り立たないわけではない。ただ、こういうケースでは表向き昇格人事を装うことが多いが、それもない。
松原氏の異動について別の民放キー局の関係者は「今回の人事異動は、松原さんが報道ステーションのチーフ・プロデューサーだったときに起きた出来事までさかのぼると思います。松原さんの安倍政権に厳しい番組づくりに経営陣はもともと報道から出したかったのです」と指摘する。
報ステ時代にいったい、松原氏の周辺では何が起きたのか。当時のテレビ朝日内で起きていたことを関係者に尋ねてみた。すると、安倍政権との関係を深めるトップの姿が浮かび上がってきた。
■テレ朝・早川会長と幻冬舎・見城社長と安倍首相
松原氏は、1991年にテレビ朝日に入社した1年後の1992年に報道局の政治部に異動となった。その後、経済部をへて2000年に、「報道ステーション」(2004年4月〜)の前身にあたる「ニュースステーション」(1985年10月〜2004年3月)のディレクターになる。2012年には、チーフ・プロデューサー兼プロデューサーという立ち場で約100人のスタッフを率いることになった。
折しも時代は、民主党政権がこの年の12月に崩壊。自民党が政権与党に復帰し、第二次安倍政権が成立するなど政治状況はがらりと変わった。
第一次安倍政権は2007年7月の参院選で敗北し、約1年で退陣を余儀なくされた。「アベノミクス」の言葉が象徴するように、第2次安倍政権では憲法、歴史認識、安全保障といった安倍首相好みの政策は当面、脇に置かれて、経済政策重視の姿勢を打ち出した。また、かつては激しかったメディア批判も手控え、良好な関係にも気を使うなど発足当初、安全運転の政権運営との評価も受けた。
しかし、その一方で、新聞、テレビなどメディアトップと安倍首相との度重なる会食は、読者、視聴者のメディア不信を招いた。
このころ早河会長も2013年3月22日と2014年7月4日の2回、会食をともにしている(読売新聞「安倍首相の1日」から)。報道畑の出身ではない早河会長に安倍首相を紹介したのは、見城徹・幻冬舎社長と言われている。幻冬舎は『約束の日 安倍晋三試論』(小川榮太郎)、『総理』(山口敬之)――などのいわば、安倍政権のPR本の版元である。
首相との会食には当然ながら、見城氏もテレ朝の放送番組審議会委員長を務める関係から同席していた。菅義偉官房長官も報道各社幹部との会食を頻繁に行っていることはよく知られているが、その実態は不明だ。
早河会長が、安倍首相や菅官房長官との携帯電話やメールでのやりとりを周囲にうれしそうに話すというのは、局内で語られる蜜月ぶりを示すエピソードだ。
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幻冬舎の見城徹社長
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テレビ朝日の早河洋会長
■見城氏、安倍首相を大絶賛
早河会長、見城氏の2人と、安倍首相との関係が露骨に番組づくりに結びついたと言われているのは、2017年10月の衆院選(10月10日公示、22日投開票)を2日後に控えた10月8日、インターネットテレビ局「AbemaTV」に安倍首相が単独出演したことだろう。
見城氏は本来、番組審議会の委員長としてテレビ朝日の番組のお目付役であるはずなのだが、テレ朝が出資し、早河会長が会長を務める「AbemaTV」に自分の名前を冠したトーク番組「徹の部屋」(原則毎月1回、2016年7月〜19年6月・全44回)を持っていて、そこに安倍首相を招いたのである。
「すごく、あれですよ、ハンサムですよ」
「内面がにじみ出ているお顔です」
「本当にね、信義に厚い方、それから私利私欲がない」
「いい人過ぎるんですよ。独裁の感じは全くしないです」
見城氏は、安倍首相を前にこう大絶賛したのである。余りにあからさますぎて「ほめ殺し」に見えるほどの持ち上げぶりは番組の最後まで続いた。
国政選挙の直前に特定の政党のトップを単独出演させることは、放送法4条が定める政治的公平の観点から各局とも控えている。放送法対象外とは言え、テレビ朝日が40%出資する「AbemaTV」で、露骨に政府寄りの番組を配信するのは問題だ、という声はテレ朝社内からも多く出た。
テレ朝との関係は一例だが、安倍政権はこうしてメディアの経営者との関係を深めていく。
■「報ステ」チーフ・プロデューサー退任の経緯
安倍政権は「安全運転」を1年ほど続けた後、2013年の終わりごろから「暴走運転」に変わっていった。
安全保障政策関連では、国家安全保障会議設置法(11月成立)、「特定秘密保護法」(12月成立)に続いて、2014年に入ると、「武器輸出三原則」を改めた「防衛装備移転三原則」を4月に閣議決定し、武器輸出に道を開いた。7月には憲法9条の解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行うなどそれまで封印してきた政策を、反対する国民の世論を押し切って次々に実現させた。
エネルギー政策でも大きな方針転換が図られる。4月に閣議決定した「エネルギー基本計画」で原発を「ベースロード電源」と明記し、原発再稼働の方針を打ち出した。民主党政権が東京電力・福島第一原発事故(2011年3月)を受けて決定した「2030年代に原発稼働ゼロ」という理念は葬られてしまった。
この年の沖縄では辺野古新基地建設の是非が争点となった名護市長選(1月)、名護市議選(9月)、沖縄県知事選(11月)、衆院選(12月)と四つの選挙で沖縄県民は反対の意思を安倍政権に突き付けた。
一方、メディアにとっては大きな痛手を負う年となった。朝日新聞が8月、過去の慰安婦報道の一部を誤報と認めて取り消し、当時の木村伊量社長が退任することになった。この出来事は松原氏にも小さくない影響を与えることになる。
衆院選で自民党が勝利した2014年12月。松原氏は、チーフ・プロデューサーから経済部長への異動を上司から告げられるのである。
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「これは単なる安倍批判じゃないんです。日本人がどういう生き方をしようかということを考えるうえでの一つの材料にして頂きたい、一つの考え方として申し上げた」。古賀茂明氏は「I am not ABE」に込めた意味について番組内でそう語っていた=2015年3月27日(テレビ朝日「報道ステーション」から)
■古賀茂明氏の告発
松原氏の異動が一般に広く知られることになったのは、報道ステーションでゲスト・コメンテーターの古賀茂明氏が番組中に「(松原氏は)更迭された」と明かしたことがきっかけだったろう。古賀氏が発言したのは、2015年3月27日。最後に出演したときだった。
「今日が最後ということで、テレビ朝日の早川会長とか古館プロダクション(古館プロジェクト)の佐藤会長のご意向ということで私は今日が最後なんですけど、これまで非常に多くの方から激励を受けまして、一方で菅官房長官はじめ官邸のみなさんにはものすごいバッシングを受けてきました」
古賀氏は降板になった理由をテレビ朝日が官邸による圧力に屈したためだと告発したのだ。事前に打ち合わせのなかった突然の発言だった。古賀氏の降板については当時、メディアが番組中での告発を受けて大きく報じたので覚えている人は多いだろう。
2015年1月、後藤健二氏ら日本人2人を拘束したイスラム国は、反イスラム国の勢力に2億ドルの支援を安倍首相が表明したのに対し、同額を身代金として要求した。このニュースに関連して、古賀氏は1月23日、襲撃を受けたパリの新聞社「シャルリー・エブド」への共感を示す「私はシャルリー」というメッセージになぞらえ、「『I am not ABE』というプラカードを掲げて、日本は攻めてこない国に対して攻撃することを考えていない国と、しっかり言っていく必要がある」とコメントした。
関係者によると、この発言をリアルタイムで見ていた菅官房長官の2人の秘書官が抗議の電話やメールを報道局の関係者に送り、このうち警察庁出身の中村格秘書官からの「古賀は万死に値する」(『週刊現代』2015年4月18日号)とのメールを受け取った報道局ニュースセンター編集長が、古賀氏の発言を問題視して局内は大騒ぎになったという。
もともと古賀氏は官邸から出演させないよう名指しされていた識者の一人だった。松原氏は「番組として共有し、了解したコメントで問題ない」と反論したと聞くが、この発言で古賀氏の降板の流れが決まったらしい。
菅長官は「オレだったら放送法に違反してるって、言ってやるところだけどな」と2月24日のオフレコの場で番記者たちに語ったという。どの条文に反していると言いたいのかは不明だが、テレビ朝日幹部にも伝わることを意識した菅長官のいわば“脅し”である。
古賀氏はこの告発に続いて、松原氏の異動にも触れ「更迭された」と表現したのだった。
次のようなやりとりをMCの古舘伊知郎氏との間でしている。
古館氏 マスコミの至らなさ、ふがいなさももちろん認めるところはあ
りますが、この番組でいえば、数日前に川内原発に関する地震動に対
する不安の指摘、あるいは3.11には核のゴミがまったく行き場がない
問題、あと沖縄の辺野古の問題ですね。北部でのアメリカ海兵隊の思
惑があると、批判すべきところはやらせていただいているんです
古賀氏 素晴らしいですね。それ、私も昨日ツイートしたんですよ。こ
んな立派なビデオを作ってますよと。(テレビ朝日の)サイトに行って
特集のところをクリックしてくださいと。すごく反響もありました。
で、あれを作っていたプロデューサーが今度更迭されるというのも事
実です。
古館氏 更迭ではないと思いますよ。私は人事のことはわかりませんが。
古賀氏 いや人事のことを……。
古館氏 人事異動、更迭、やめましょう古賀さん。これ、見てる方よく
わからなくなってくるんで。
古賀氏 やめましょう。僕はそんなこと言いたくないので。
古館氏が、古賀氏に「(政府を)批判すべきところはやらせていただいている」と例示した報ステの特集とは、▽原発の使用済み燃料から出る高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)について世界が抱えている問題を検証した(3月11日)▽沖縄北部の高江や辺野古では海兵隊の訓練など基地機能の強化が着々と図られている現状を報告した(3月17日)▽九州電力・川内原発の再稼働問題で原子力規制委員会が合格とした新規制基準の審査では地震動の評価が不十分ではないかと指摘した(3月24日)−−の三つだ。
■ギャラクシー賞の大賞に選ばれた特集
松原氏の下の報ステでは、安保、沖縄、原発、改憲といった世論を二分するような大きな政策課題を積極的に取り上げてきたことが高く評価された。1年後には「Nステ越え」(18年6カ月)を周囲に公言していた古館氏も目標を達成することなく番組を去ることになるが、直前に放送された、「特集 独ワイマール憲法の“教訓”」(2016年3月18日放送)は、なかでも反響が大きかった特集の一つだ。
ドイツのワイマール憲法に定めのあった、国家緊急権の悪用がヒトラーを生んだ経緯を、自民党の憲法改正草案にある緊急事態条項と重ねながら検証した内容で、松原氏が経済部への異動後もディレクターとして企画立案、構成などすべてを手がけた。
この特集は、「ギャラクシー賞」(放送批評懇談会主催)のテレビ部門で大賞に選ばれている。平日帯のニュース番組の大賞受賞は初めてという。松原氏は授賞式で「時代が変容しているなか、このような番組や特集が大賞を受賞したことが嬉しい」と語っていた。
こうした数々の優れた番組を視聴者に届けてきた松原氏が2015年4月に経済部への異動となった理由は今回の「若返り」ではなく、「番組リニューアル」とされたようだ。
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第2次安倍政権発足後初めての衆院選(2014年12月)を前に、自民党が民放各局に送った「選挙時期における報道の公平中立ならびに構成の確保についてのお願い」の文書(11月20日付)=左=と、テレビ朝日「報道ステーション」の担当プロデューサーに宛てた文書(11月26日付)=右。
■自民党から「担当プロデューサー」宛ての文書
しかし、古賀氏が「更迭」と表現したように報道ステーションをめぐっては、その伏線ともいえる出来事が、2014年にはいくつも起きているのだ。次にそれらをみていきたい。
2014年12月の衆院選(2日公示、14日投開票)の争点の一つは、約2年間続いた「アベノミクス」の評価であった。11月21日に衆院が解散されると、報道各社は特集を組んだ。
報道ステーションでは「衆院選企画」として連日、テーマを絞った特集を放送した。その第1回(11月24日放送)で取り上げたのが、アベノミクスの検証だった。
これに自民党がかみついた。
自民党は福井照報道局長名で「貴社の11月24日付『報道ステーション』放送に次のとおり要請いたします」とのタイトルの文書を作成し、自民党を取材する平河クラブの所属記者を通じて「担当プロデューサー」宛ての文書を出した。放送から2日後の26日付。担当プロデューサーとはもちろん松原氏のことである。
自民党は「アベノミクスの効果が、大企業や富裕層のみに及び、それ以外の国民には及んでいないかのごとく、特定の富裕層のライフスタイルを強調して紹介する内容の報道がなされた」と非難し、「公正中立な番組作成に取り組んでいただきますよう、特段の配慮をお願い申し上げます」と番組内容に注文を付けたのだった。
特集で取り上げられたように、豪華客船「飛鳥U」のスウィートの売れ行きが好調だったり、「富裕層」と「超富裕層」がアベノミクス以前より25%も増えたりするなど、富裕層に恩恵が及んでいるのは間違いない。その一方で、物価上昇によって実質賃金が目減りとなってしまった低所得者層には恩恵が届いていないという現実がまず、あるのである。
自民党の報道局長が放送法4条の「報道は事実をまげないですること」という規定を知らないわけではあるまい。そもそも、放送法3条は「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」と定める。
お構いなしの番組介入である。
自民党が11月25日に公表した政権公約のキャッチフレーズは「景気回復、この道しかない」。少しでもアベノミクスについて批判のニュアンスを含んだニュースには目を光らせていたようで、自民党は萩生田光一筆頭副幹事長、福井報道局長の連名で「選挙時期における報道の公平中立ならびに構成の確保についてのお願い」と題した文書を20日にも在京民放キー局の編成局長、報道局長宛てに出したばかりだった。
■TBS「NEWS23」への首相生出演
この文書を自民党が出した直接のきっかけは、11月18日に安倍首相がTBSの報道番組「NEWS23」に生出演した際に流れた「街の声」に否定的な声が多かったことだった。
東京・有楽町とJR大阪駅前で聞いた6人(男4人、女2人)のうち5人が否定的な感想で、安倍首相は「これ、おかしいじゃないですか」とその場でTBSの編集を批判し、その後延々と反論したことがあった。街の声が6人合わせて54秒だったのに対して、安倍首相は2分22秒もアベノミクスの成果について2倍を超える時間を使ってたっぷりとしゃべり続けたのだった。
文書が各局に具体的な対応を求めた4項目の一つに、「街角インタビュー、資料映像等で一方的な意見に偏る、あるいは特定の政治的な立場が強調されることのないよう、公平中立、公正を期していただきたいこと」というのがあった。
テレビ朝日の内部でもこの文書に反応した人は少なくなかったとある関係者は明かした。安倍首相が衆院を解散した11月21日のニュースで、解散の是非を聞いた街の声からは、否定的な声が当初予定よりも削られたらしい。
こうして2014年の衆院選では民放各局の多くの番組で街頭インタビューそのものが消えたという。
一方、安倍首相が衆院の解散権を行使する前とは言え、解散の流れが明らかな政治状況のなかで、TBSは「生出演 安倍首相に問う 総選挙の狙い」と銘打っていた。
安倍首相や自民党は、番組の批判をする際には、必ずと言っていいほど、政治的公平を定めた放送法4条を持ち出す。特定の政党のトップが選挙直前に約35分間にもわたって出演したのである。萩生田氏らは自分たちに都合が良い場合は、目をつぶるというのでは、ご都合主義の説得力のない要請文だと受け取られかねないと思わなかったのだろうか。
■制作現場の責任者個人を標的
民放各局に同じ文面で配られた11月20日付の文書と違って、テレビ朝日への26日付の文書は、制作現場にいる責任者個人を標的にした点で悪質だった。これは自民党が放送現場への圧力と萎縮を狙ったと考えるのが自然だ。
しかもテレ朝では、2件の文書はデスククラスの現場まで下りてきたという。
これでは自民党の思惑にまんまと乗せられてしまう懸念もあり、ある関係者は「現場からは反論する文書を出すべきだという声も出たと聞きました。慌てた幹部は『これまでと同じように事実関係をしっかり固めて批判するべきところは批判していく、ということでいい』ということにして現場を収めたようです」と明かした。
これらの自民党の文書については2015年1月の放送番組審議会でも取り上げられた。委員の一人から「情報番組は全体的に少し弱腰だったという印象があった。自民党がテレビ局に公平性を要請する文書を送ったが、萎縮や過剰な反応があってはならない」という意見が出された。
これに対して局側からは「選挙報道の中では、公示後と同じレベルの公正さを早い段階からきちんと担保していこう、という約束事を報道局全体でしている。今回の選挙に限らず、自民党の文書にも関係なく、常に同じである」との見解が示された。
しかし、報道ステーションを率いる松原氏が自民党に狙い撃ちされたのは明らかで、自民党が勝利した総選挙が終わり、ほどなくした12月下旬、松原氏は異動の打診を受けるのである。
古賀氏が指摘するような「更迭」でなく、会社の言うように本当に「番組リニューアル」だったのだろうか。テレビ朝日の見識を信じたいとは思うのだが。
(本稿で取り上げた報道ステーションの特集は、テレビ朝日のサイトではいずれも執筆時点では閲覧できない)=「テレ朝人事の波紋(下)」に続く
https://webronza.asahi.com/national/articles/2019070300004.html
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