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室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。自らの子育てを綴ったエッセー「息子ってヤツは」(毎日新聞出版)が発売中
イラスト/小田原ドラゴン
室井佑月「そして歴史はくり返す?」
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190703-00000007-sasahi-pol
AERA dot. 7/4(木) 7:00配信 週刊朝日 2019年7月12日号
作家・室井佑月氏は、「非正規労働者」を官僚が言い換えたことについて、疑問を呈する。 * * * 6月21日付の東京新聞にこんな記事が載った。 「格差隠し 言葉すり替えか」という見出しの。 発言があったのは19日の野党合同ヒアリング。厚生労働省の伊沢知法年金課長が非正規労働者への厚生年金適用について説明する中で「最近『非正規というふうに言うな』と大臣から言われている」と述べ、「フルタイムで働いていらっしゃらないような方々」と言い換えた。 言い換えで、非正規労働者の境遇が改善するわけでもない。所得が正規より低く、国民年金であろう非正規労働者の老後資金の問題まで出てくるとヤバいから? その前日、朝日新聞デジタルに、「『年金給付水準の低下』原案から削除 財政審が配慮か」という記事が載った。「財政制度等審議会(財務相の諮問機関)が麻生太郎財務相に提出した建議(意見書)で、原案にあった『将来の年金給付水準の低下が見込まれる』『自助努力を促すことが重要』との文言が削除されていたことがわかった」という。 こちらも、財政審がでたらめな話し合いをしていたというのでもなく、言葉を削除しただけで、なんら我々の未来の状況が変わるわけでもない。 厚労省の職員や財政審委員の方々が置かれている立場もわかる。安倍首相や麻生大臣はおっかないのだ。逆らうにはそれなりの覚悟がないとできないに違いない。 けど、考えて欲しい。あの二人は、これからお金に苦労することなんてないんだろうと思われる。その逆で今回、無いことにされた、無いことにされそうな人々がたくさんいる。問題があるのにその問題を無視することは、問題の渦中にいる人たちに対し、勝手にしろといっているのとおなじことだ。彼らの場合、それは死活問題となる。 政治家の選挙と人の命、どちらが大事かはいうまでもない。本来、政治とは世の中の弱者を救うためのものではないのか? 森友学園、加計学園、自衛隊の日報問題、金融庁の報告書の受け取り拒否、財政審の意見書の言葉隠し……。公的な文書の改ざんや隠蔽は、書こうと思えばまだまだある。それがどんなに危険なことであるか。どんなに愚かなことであるか。 権力者への過剰な忖度もそうだ。この国は戦後、陸海軍や内務、外務、大蔵各省など、日本のあらゆる組織が公文書を焼いてしまった。当時の閣議でそうせよと決めたことだ。 その結果、戦争を美化するものや歴史修正主義者が生まれた。国が強いた個人に対する酷いことや、都合の悪い記録が消されたことは大きい。 今は、国のために血を流せと発言する政治家まで現れた。国のことをまず考えろと。統治するものにとってその考えが浸透するのは、楽に違いない。 そして、弱者は見殺しにされる。酷いことだと思っても、声をあげづらい世の中ができあがる。
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