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先日、浦野広明さん(立正大学法学部客員教授(税法学)・税理士)を囲んで、日本の税制の歪みについての贅沢な講義を受けた。浦野さんが作成したレジメは、A4で27頁という気合いの入ったもの。「どうする消費税? 財源問題と税制のあり方」という標題。
浦野さんも、到底その全部を語り尽くすことはできず、また、講義を受けた側がどれだけ消化できたかも心もとない。その講義の中で印象に残ったことを2点だけ書き留めておきたい。すべて、浦野さんの受け売りである。
[1] タックスヘイブン日本
言うまでもなく、タックスヘイブンとはtax haven=「租税回避地」のことである。普通、タックスヘイブンとして知られているのは、モナコ公国、サンマリノ共和国、英国領のマン島やジャージー島、カリブ海地域のバミューダ諸島、バハマ、バージン諸島、ケイマン諸島、ドバイ(アラブ首長国連邦)、バーレーンなどである。また、香港、マカオ、シンガポールなども、税率が極めて低いため、事実上のタックスヘイブン地域にあたる。
ということが常識なのだが、実は、タックスヘイブンとは他国のことではない。大企業や富裕層にとってだけの話だが、現在の日本がタックスヘイブンであることを見逃してはならない。
安倍首相はかつて施政方針演説で、「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指します」と述べた。しかし、今さら目指す必要などない。既に今、日本の大企業や富裕層は手厚い租税特別措置(優遇税制)によって、税負担が著しく軽減、ないしは完全に免除されている。これが、「タックスヘイブン日本」の実状。
大企業の法人税負担について鋭い分析をしている「不公平な税制をただす会」の共同代表・菅隆徳税理士は、さまざまな大企業優遇税制をやめて法人税に超過累進税率を適用すると、16年度で法人税収が29兆1,837億円になるとしている(全国商工新聞2018年10月15日)。ちなみに実際の法人税収は10兆4,676億円であるから、19兆円もの増収が見込めることになる。
主要大企業の法人3税(法人税・法人住民税・法人事業税)の負担額と率は、下記のとおりである(単位は億円)。なお、法人実効税率は30.3%から31%だというが、大企業の税負担は極めて低い。いや、錚々たる大企業が、マイナス負担で、還付を受けてさえいるのだという。なるほど、これが、「タックスヘイブン日本」の実態。
税引前純利益 法人3税 負担率%
トヨタ自動車 22,381 4,049 18.1
武田薬品工業 2,479 ▲46 ▲1.9
キヤノン 2,736 493 18.0
三井物産 3,545 ▲54 ▲1.5
本田技研工業 4,659 597 12.8
丸紅 565 ▲66 ▲11.6
デンソー 1,809 395 21.8
伊藤忠商事 765 93 12.1
小松製作所 1,710 410 24.0
アステラス製薬 2,916 160 5.5
京セラ 697 154 22.1
いすゞ自動車 699 233 18.8
豊田自動織機 1 ,141 820 20.3
住友商事 2,100 ▲46 ▲2.2
(出所:菅隆徳「公平税制」第397号(2018年9月15日))
また、2017年度予算の申告所得税収入は3兆740億円であるという。浦野さんは、この金額を、金持ち優遇の分離課税制度と、度重なる累進性緩和の結果、かくも過小になったものだという。浦野さんの計算によると、分離課税を総合課税とし、1974年当時の超過累進課税の税率を適用すれば、所得税収入額は、13兆1,673億円になるという。予算より約10兆円を超える所得税の増収が見込まれるというのだ。
「法人3税」と「所得税」を、真っ当な課税にしただけで29兆円の財源が生まれる。19年度予算の消費税全税収19兆3,920億円を遙かに超える財源がある。消費増税回避はおろか、消費税全廃も可能なのだ。
[2] トヨタには、4800億円還付の消費税
消費税には、逆進性があるという。金持ちも貧乏人も、消費生活に同率の税負担を求められる。年金生活者には、最も切実に身を切る悪税である。また、消費者に負担を転嫁できない弱い立場の中小業者にも負担感は大きい。
では、巨大企業の代表格、トヨタ自動車株式会社は、年間幾らの消費税を納めているのか。答は、ゼロである。いや、ゼロどころではない。国庫から4,815億円もの還付を受けているのだ。
これが、「輸出免税制度」という大企業優遇策のカラクリによるものだという。トヨタに限らず、世界中に輸出しているわが国の巨大企業は、輸出免税制度によって消費税を負担するのではなく巨額の還付を受けている。これは、事実上の国庫補助金にほかならない。庶民が国庫に納めた消費税が、国庫からトヨタにまわっていると言ってもよい。
消費税額の計算は、次のようなものである。
事業者の「B消費税の納付税額」は、課税期間中の「@課税売上げに係る消費税額」から「A課税仕入れ等に係る消費税額」を差し引いて算出する(@−A=B)。
@「課税売上げに係る消費税額」は、原則売上金の8パーセント。A「課税仕入れ等に係る消費税額」は、原則仕入れ総額の8パーセント。@からAを差し引いて、B納付すべき消費税額、が算出される。この、「課税仕入れ等に係る消費税額を差し引く」ことを「仕入税額控除」というのだそうだ。
ところが、「輸出免税制度」では、輸出売上にはゼロの税率が適用され、一方その売上に対応する課税仕入の8%は、仕入れ税額控除の対象となる。そこで、トヨタ自動車の2019年3月期の単独決算は、以下の通りとなり、消費税を1円も払わず4,815億2,160万円の還付を受けている。
トヨタ自動車株式会社の消費税計算(18年4月1日〜19年3月31日)
@ 「課税売上げに係る消費税額」 3,270億8,000万円
@ 輸出売上8兆5,458億円×0% 0円
A 国内売上4兆0,885億円×8% 3,270億8,000万円
@+A 3,270億8,000万円
A 「課税仕入れ等に係る消費税額」 8,086億0,160万円
仕入額を売上高の80%と推算して 10兆1,075億2,000万円
その消費税額は10兆1,075億2,000万円×8%=8,086億0,160万円
B 納税額(@の金額からAの金額を仕入税額控除したもの)
@−A ▲4,815億2,160万円(納税ではなく還付となる)
なんという、至れり尽くせりの大企業偏重、金持ち優遇の税制。そのツケは、すべて庶民にしわ寄せなのだ。こんな政権与党を、延命させておいてなんの利益があろうか。
(2019年7月2日)
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