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「イージス・アショア 強まる地元の不信」(時論公論)/増田剛・nhk
2019年06月18日 (火)
増田 剛 解説委員
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/369716.html
北朝鮮の弾道ミサイルの脅威に対応するためだとして、政府が導入を決めた新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」。
今月に入って、配備候補地とされた秋田市に関連する防衛省の調査報告に誤りが見つかったほか、その後の住民説明会で職員が居眠りをしたことで、地元では、配備計画に対する不信が日増しに強まっています。岩屋防衛大臣は、きょう、秋田県を訪れ、知事や秋田市長に謝罪。その上で、計画への理解を求めましたが、野党からは、大臣の辞任を求める声があがっています。
地元の不信が強まる中で、配備計画の先行きはどうなるのか。
この問題について考えます。
岩屋防衛大臣は、きょう、秋田県庁を訪れ、佐竹知事と会談。部屋に入るなり、深々と頭を下げて謝罪しました。「防衛省としての姿勢が問われる事態が生じ、誠に申し訳なく、深くお詫び申し上げる」。
これに対し佐竹知事は、「住民の怒り、不信感などをふまえると、防衛省の作業は、マイナスからのスタートだ。丁寧な説明というより、正確な説明をしてほしい」と述べました。
配備計画に対する地元の不信が、これほどまでに高まったのは、なぜなのか。これまでの経緯をみていきます。
政府は、北朝鮮のミサイル発射が相次いでいたおととし12月、迎撃態勢を拡充するためだとして、新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」のアメリカからの導入を決定しました。
現在、日本のミサイル防衛は、イージス艦に搭載する海上配備型のSM3と、地上配備型のPAC3の2段構えです。日本に落ちてくるミサイルを、SM3が大気圏外で撃ち落とし、撃ちもらした場合は、PAC3が大気圏内で撃ち落とす仕組みです。
イージス・アショアは、このイージス艦のミサイル迎撃機能を地上に配置するもので、2基で日本全体をカバーできるとされています。日本の東と西にバランスよく配置することや日本海側にあることを理由に、防衛省は、去年6月、秋田県と山口県にある陸上自衛隊演習場を配備候補地にすると発表しました。秋田市の新屋演習場と萩市のむつみ演習場です。
ただ、地元の住民からは、「北朝鮮の攻撃対象になるのではないか」とか、「レーダーが発する電波が健康に影響するのではないか」といった、不安の声が多く出されました。これを受けて、防衛省は、去年10月から、候補地周辺で、電波による人体や環境への影響などについて調査を実施。先月下旬、その結果を地元に伝えました。
それによりますと、レーダーから半径230メートル以上離れた場所では、人体への影響はなく、2つの配備候補地とも、この範囲に住宅地はないとしています。また、レーダーの周囲に設置する防護壁に、電波を吸収する素材を設置し、影響をさらに少なくする対策を取るとしています。一方、攻撃目標となり、周辺地域が危険にさらされるのではないかという懸念に対しては、それぞれの施設に防空部隊を配置し、警備体制を250人規模として、周辺地域も含めて防護するとしていました。防衛省は、こうした対策によって、イージス・アショアを安全に配備できると強調し、地元も説得できるだろうと考えていたのです。
ところが、今月に入って、こうした空気を一変させる事態が起こりました。秋田市の新屋演習場を、東日本では、唯一の「適地」だとした、調査報告のデータに誤りが見つかったのです。
防衛省は、新屋演習場のほかに適当な場所がないか、調査してほしいという地元の要望を受け、東北地方の国有地19か所について配備の可能性を検討しましたが、レーダーの電波を遮る山があることなどを理由に「いずれも適していない」という結論を出しました。
イージス・アショアは、弾道ミサイルを探知・追尾するため、周囲にレーダーの電波を放ちます。電波を遮る高い山がある場所は、配備に適さないとされています。具体的には、候補地から山を見上げた角度が10度以上ある場所は「適さない」とされ、調査したうちの9か所については、いずれも15度以上あると説明していました。
ところが、この角度が、いずれも実際より大きく評価されていたことが明らかになったのです。なぜ、このような誤りが起きたのか。
防衛省は、地図情報ソフトの「グーグル・アース」を使って、山の断面図を作成していました。ただ、グーグル・アースは、山の起伏を強調するために、山の高さが実際の数値よりも大きく示されています。つまり、高さと水平方向の距離、それぞれの縮尺が異なっていたのです。その結果、実際の角度は4度なのに、15度と過大に算出した例もありました。担当者は、縮尺の違いに気づかないまま、定規で長さを測り、角度を計算したため、間違ってしまったのです。
安全保障上の適地を絞り込む調査で、現地での測量も行わず、ソフトの特性を理解せずに使用してチェックも怠ったという、ずさんといわれても仕方がないミス。地元の住民からは、「中学生でもできる計算を間違えている人たちに『安全です』と言われても、安心できない」という声も上がりました。
しかも、地元の不信にさらに拍車をかける事態も起こります。
今月8日、調査データに誤りがあったことが発覚して初めての住民説明会で、出席していた職員の一人、東北防衛局の担当部署の次長が、居眠りをしていたことが、住民からの指摘により確認されたのです。防衛省の調査の信頼性が問われている、まさにその場で起きた職員の居眠り。岩屋防衛大臣は「緊張感を欠いた、誠に不適切な行為で、厳重注意を行った。大変、申し訳なく思う」と謝罪しました。ただ、その一方で、インフラ整備などの観点から、秋田市の新屋演習場が東日本で唯一の「適地」であるとの判断は変わらないとしています。
これに対し秋田県の佐竹知事は、態度を硬化させています。
佐竹知事は今月10日の県議会で、「今回の間違いは、国がこの問題を軽く考えているために起きた。話は振り出しに戻った」と述べ、国への不信を露にしました。そして、きょうの岩屋大臣との会談では、「他の調査地について、地形の適性やインフラ整備のコストを比較できるようスタートに戻って検討してほしい。それがない限り、協議に入ることはできない」と述べ、現状では、配備に関する協議には応じられないという考えを示しました。岩屋大臣は、失った信頼を取り戻すのは容易ではないことに、改めて気づかされたのではないでしょうか。
ただ、野党からは、厳しい批判が出ています。
立憲民主党の枝野代表は、おととい、「計画は振り出しに戻るような客観的な状況であり、『地元の合意なく決めない』と言っていたことを含め、『岩屋大臣は任にあらず』ということは、はっきりしている」と述べ、岩屋大臣は混乱の責任を取って辞任すべきだという考えを示しました。
一方、与党からも、厳しい声が上がっています。自民党の岸田政務調査会長は、おととい、「防衛省の対応は、言語道断で許し難い。今の状況で、秋田市への配備の可否は判断できない」と述べました。
今回、調査報告の誤りが発覚したことで、地元からは、調査が、秋田市への配備を進めるための「結論ありき」だったのではないかと疑う声が出ています。西日本における配備候補地とされた山口県萩市や隣接する阿武町でも、「信用できない」という声があがっています。
そもそもイージス・アショアは、本当に日本の安全保障に有効なのかと、導入の必要性に疑問を呈する声まで出始めています。
民主主義国家が安全保障政策を進める上では、国民の信頼を得ることが不可欠です。調査が「結論ありき」だと疑念を抱かれる中、このままで地元の理解が得られるとは、到底、思えません。
防衛省は、少なくとも、調査報告を精査し直した上で、不信を強める地元に対し、今度は正確に、誠意を持って、説明を尽くす必要があると思います。
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