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朝日新聞デジタル 2019年6月29日12時00分
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「山本太郎氏の演説に勇気づけられた」と話す名古屋市在住の50代男性
参議院議員の山本太郎氏が立ち上げた政治団体「れいわ新選組」が4月の設立以来、2カ月余りで2億円超の寄付を集めたとしています。山本氏はどちらかというと好き嫌いが大きく分かれる政治家であり、「れいわ」の政策の実現性を疑問視する見方もありますが、「短期間でこれほどの個人献金が集まるのは異例」(政治資金に詳しい日本大の岩井奉信教授)といいます。彼らは個人としてどんな思いで「政治」にお金を託したのでしょうか。実際に寄付した人たちにSNSで連絡を取り、会ってみました。(牧内昇平)
■通帳残高は数万円
きっかけは、インターネットでみた街頭演説だった。
《あなたの生活が苦しいのは、あなたのせいにされていませんか。あなたが役に立たないからとか、あなたが勉強してこなかったからだとか。冗談じゃない!》
山本氏の言葉を聞くうち、名古屋市に住む50代男性は、涙があふれてきた。
4月末のことだった。電子部品工場で3時間ほどの残業を頼まれ、自宅に帰り着いたのは夜9時過ぎだった。数カ月前に念願の正社員になったのはいいが、このところ残業続きだ。家賃3万8千円の1Kアパートには、「おかえり」と声をかけてくれる家族はいない。朝8時15分の始業からほとんど休憩なしの仕事。疲れすぎて食事を作る気がしない。もやしときゅうりをつまみに缶酎ハイを1本あけた。
「明日も6時半に起きて出勤しないとな……」「一体なんのために生きているのだろうか……」
街頭演説の動画に出会ったのは、そんなときだった。
正直言って、これまでは山本氏のことが大嫌いだった。「脱原発」をくり返すだけのタレント政治家。単なる目立ちたがり。そんな風に思っていた。
でも……。
通帳の残高は5万円ほどしかなかったが、その中から1万円を寄付した。
■時給1050円
20年近く、非正規の仕事を転々としてきた。
派遣会社から最初に紹介されたのは、自動車の組み立て工場。ラインを流れてくる乗用車の座席にシートを固定する。60秒に1台こなすのがノルマ。左手の握力が弱い男性にはつらかった。後ろにいた派遣先の社員が「こいつダメだ」と言った。一日で仕事がなくなり、寮で待機を命じられた。その後も愛知県内で製造業派遣の仕事を渡り歩いた。要求通りに働けないとすぐ契約を切られ、長く仕事がなければ寮からも追い出された。
いまの部品工場で働き始めたのは、昨春のことだった。時給は1050円。一生懸命働いたら「正社員にならないか」と声をかけてもらえた。だが、正社員になったら、以前よりも仕事がきつい。毎日2、3時間の残業。不慣れな事務仕事も加わり、神経をすり減らす。「不安定な非正規か、過労でブラックな正社員か」。こんな二者択一があることは聞いていたが、その通りだった。
「20年間、本当につらかったけど、政治は一度も助けてくれませんでした。ハケンのときはモノ扱いされ、最低賃金すれすれの給料です。でも、すべて『自己責任』で済まされてきました」
《自信を奪われてるじゃないですか、みんな》《自己責任? 違う。国がやるべき投資をやってこなかったから》
山本氏は演説でそう語っていた。男性は6月、新たに8千円を寄付した。
■脱原発から格差解消へ
芸能人だった山本氏は東日本大震災をきっかけに政治に関心をもち、脱原発をかかげて2013年の参院選で初当選した。原発への問題意識が出発点だったが、現在の軸足は貧困や格差の解消に移っている。
注目を集めているのは街頭演説である。名古屋、大阪、神戸、東京……。全国各地の繁華街で長時間にわたる演説を行ってきた。インターネットで配信された動画は数万回再生されているものも多い。
《1年間で2万人くらいひと死んでるんですよ、自殺で。命を落とさなきゃいけないくらい追い込まれた人たちがいるんですよ。働き方にもっと余裕あったとしたら、こんなことになる? 自分が存在していいんだっていう世界になってたらこんなことになる?》
山本氏の言葉はときに過激だが、生活苦を抱える人びとから一定の支持を得ている。
東海地方の30代女性は、小学生の娘と2人暮らしのシングルマザー。飲食業で正社員として働く。月収は手取りで15万円に満たない。忙しいときは6日連続、7日連続の勤務が当たり前。ときどき娘は「さみしい」と泣くが、暮らすためには働くしかない。
「働いても、働いても、苦しい。それだけです」
■養育費も拒まれて
結婚した男性はまったく育児をせず、仕事から帰るとパソコンでゲームをした。離婚したが、養育費の支払いを拒まれた。子どもが小さいころは、育児で残業ができず、パートの仕事しか選択肢はなかった。カフェや社員食堂、学校の給食室……。調理の仕事を転々としたが、どこも月収は13万円くらい。やむを得ずクレジットカードで借金したこともある。子どもが寝静まってから、ひとり泣いた日を数え上げたらキリがない。
「死にたいと思ったことは何度もあります。そのたびに、子どものためにと思いとどまりました。とりあえず今日一日、息をしよう。お先真っ暗だから、先のことは考えないようにしよう。そう自分に言い聞かせて、なんとか生きてきました」
女性が「れいわ」に1千円を寄付したのは、ゴールデンウィークのころだ。切り詰めてばかりでうつ状態になっていた。自分にご褒美を一つだけ許そうと思い、数カ月前に携帯電話をスマホに変えた。インターネットを見る機会が増え、山本氏の演説を知った。
《生きててくれよ! 死にたくなるような世の中、やめたいんですよ》
その言葉にふれ、寄付を思い立った。これまで政治には関心がなかった。投票にすら行かなかったこともあるが、今は生活の苦しさをなんとか「政治」で変えたいと思っている。
■月収16万円
東京都在住の40代女性も、2人の娘を自力で育ててきた。21歳で結婚。35歳のときに離婚してからは、当時小学生だった娘2人を養うために保険業界で必死に働いた。これまでの人生で、選挙には1回しか行ったことがなかった。
「あの頃どう生きてきたか。今となっては全然思い出せない。それくらい余裕がなくて、貧乏でした。世の中がどうのとか、政治がどうのとか、考える余裕は全くありませんでした」
現在は飲料会社で正社員として働いているが、収入は手取りで16万円。昇給の見通しはない。子どもたちは無事に成人を迎えたが、現時点で貯金はゼロ。年をとってからの生活が不安でならない。
《生活が苦しいのをあなたのせいにされるなんて、ムチャクチャな話だと思いません?》
動画上の山本氏から「選挙に行こう」と促され、「たった一票でなにが変わるの?」と思っていた自分を後ろめたく感じた。5月、6月と、2千円ずつ「れいわ」に寄付した。週末だけ飲む「第三のビール」の本数を減らすことになるだろう。
■日々の生活に追われ
筆者は5月以降、ツイッターで「『れいわ』に寄付した」という人に連絡をとった。返答をくれたのは30人ほどだが、生活苦をかかえる人、格差解消や貧困対策を切実に求めている人が多かった。日々の生活に精いっぱいで、これまでは投票に行かなかった人もいた。
「毎月1千円ずつ、合計3千円寄付しました。10年以上前に個人で会社をたちあげましたが、倒産するかもしれません。本業とは別に、夜は食品仕分けのアルバイトをしています。生活に直結する消費増税が一番の問題です」(九州地方、50代男性)
「月5千円をメドに寄付しています。清掃工場で働いていますが、徹夜勤務もあるのに月収は手取りで17万円ほど。給料が少ないのに困っています。これまで選挙にはあまり行きませんでしたが、自分も何かしなきゃと思っています」(中国地方、40代男性)
「合計3万円寄付しました。認知症グループホームと訪問介護ヘルパーの掛け持ちです。休みは週に1日もありません。それでも月収は手取りで20万円くらい。ひとり暮らしの若い人たちも同じ条件で働いていて、さらに苦しそうです」(大阪府、60代女性)
山本氏は「れいわ」を立ち上げた4月以降、選挙を戦うための寄付を市民からつのっている。2カ月余りで集まった寄付金は2億円を超えたとしており、6月上旬の時点では1千円や5千円など少額の寄付が6〜7割を占めるという。政治資金に詳しい日本大の岩井奉信教授は「政治に対して寄付する文化が日本に根付いていない中で、短期間でこれほどの金額が集まるのは異例だ」と指摘する。神戸学院大の上脇博之教授は「一昨年に結成した立憲民主党もそれなりに個人からの寄付を集めたが、今回の山本太郎氏への寄付も注目すべきお金の集まり方だ」と話す。
■半信半疑の声も
「れいわ」がホームページでかかげる政策は「消費税廃止」「最低賃金1500円」「奨学金徳政令(返済を免除)」など、低所得者の耳に心地よい政策が並ぶ。財源については、デフレ期には積極的に国債を発行して、工面したお金を減税や社会保障の財源にするという「反緊縮」の考え方を鮮明に打ち出しており、国の借金が野放図に増える心配もつきまとう。
低所得者がすべて山本氏を支持しているわけでもない。東北地方に住む月収10万円台の40代女性は「コロコロと党を変えて重みが感じられず、信用するのは難しい」という。
ある政治学者は「国会で力をもつには、最終的には野党で結集するしかない。仲間づくりの努力をしなければ、山本氏はいつまでたっても影響力のないインディーズ(独立系)候補にすぎない」と指摘する。
山本氏の率いる「れいわ」が参院選後にどれほどの政治勢力になるかは未知数である。
■待ったなしの貧困・格差問題
それでも、財布の底をはたいて山本氏を後押ししようという人びとがいることは事実だ。生活苦に寄り添おうとする山本氏の立ち居振る舞いに、彼らは共感を覚えているのではないか。「生きててくれよ」という彼の叫びが共感を得るのは、裏を返せば、「自分は生きていていいのか」と思い巡らしながら暮らしている人がたくさんいるということだろう。
厚生労働省の調査によると、日本の貧困率は15.7%(2015年)。国民の7人に1人が貧困状態で暮らしている。ひとり親世帯に限れば、この数字は50%を超える。全世帯の15%、母子世帯に限れば38%が「貯蓄ゼロ」の状態だ。
選挙戦でも各党はこの現状から目を背けることはできない。
◇
今夏の参院選では「貧困・格差」が論点として浮上している。主要政党は格差是正でどんな政策を掲げているのか。
【自民党】
・幼児教育・保育の無償化
・雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
【公明党】
・最低賃金を時給1千円超に引き上げ
・非正規労働者の賃金を欧州並みに引き上げ
【立憲民主党】
・非正規雇用をできる限り正規雇用化
・最低賃金を時給1300円に引き上げ
【国民民主党】
・児童手当の支給対象を18歳まで延長
・低所得者向けの家賃補助制度を創設
【日本共産党】
・最低賃金を時給1500円に引き上げ
・少子高齢化に合わせて年金を減らす「マクロ経済スライド」の廃止
【日本維新の会】
・幼稚園や保育園をはじめ、すべての教育を無償化
・公的職業訓練の見直し
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