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財務省に隠蔽の恩返しか?安倍首相が消費増税を延期できない理由
https://www.mag2.com/p/news/403791
2019.06.28 新恭(あらたきょう)『国家権力&メディア一刀両断』 まぐまぐニュース 野党議員の口からはもちろんのこと、与党自民党議員からも公然と「反対」の声が上がる消費税の10%への増税。個人消費の落ち込みによる景気の悪化も必至と言われますが、それでも安倍首相の「10月敢行」の意思は固いようです。なぜ首相はここまで増税にこだわりを見せるのでしょうか。元全国紙社会部記者の新 恭さんが自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、その理由を探っています。 安倍首相が消費増税を延期できない理由 最近のテレビCMで目につくのが、経産省と独立行政法人「中小機構」による軽減税率対応レジ補助金のお知らせである。 自民党は参院選の公約に消費税の増税を明記した。6月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2019」も下記のように増税を前提とした内容となっている。
どうやら安倍首相は10%への消費税増税を延期する気がないようだ。日本経済にとって大変なことになる。 安倍首相は「もはや日本はデフレではない」といつも強調するが、実質賃金が下がり、個人消費がふるわず、異次元金融緩和の効き目がない現状を客観的に見れば、やはりデフレに違いない。 そこに、消費税を増税して、国民がますますモノやサービスを買わなくなったら、デフレの深刻化は火を見るより明らかである。 「老後2,000万円不足」問題で社会不安が広がっているさなか、消費増税の公約を掲げて選挙を戦うことになった自民党参院の改選組は危機感を募らせる。 改選組の一人、西田昌司氏は与党議員らしからぬ率直な消費増税批判を毎日新聞に寄稿した。以下はその一部だ。
経済成長期なら増税分が税収のプラスになるかもしれないが、デフレのもとで強行してさらに景気を冷え込ませてはかえって税収減となる。1989年のバブル絶頂期に3%の消費税徴収を始めたが、翌年は約5兆円のプラスにとどまり、1997年に3%から5%に上げると、約4兆円も翌年の税収が減った。 第二次安倍政権はデフレ脱出を掲げたにもかかわらず2014年に8%へ消費税を引き上げたため、景気に急ブレーキがかかり、2人以上世帯の実質家計消費支出は2013年の平均が363.6万円だったのに対し、18年の平均は338.7万円に落ち込んだ。 西田議員が「日本がデフレ下にある」という、安倍内閣が認めてこなかった真実を、明確に言い切った意味は大きい。増税が選挙に不利という動機から、ふだんは偏向気味の“自民党爆弾男”が一時的にせよ正直な批判者に変身したといえる。 むろん、安倍首相とて、できることなら消費税を上げたくはないに違いない。景気悪化が目に見えているのだ。アベノミクスの失敗を認めたくないから、もはやデフレではないと強弁して消費増税を強行するとしても、その先にはさらなるアベノミクス危機が待ち受けているのだ。 自民党の萩生田光一幹事長代行が語ったように、三度目の消費増税延期をぶち上げて、解散総選挙で信を問う選択肢を安倍首相も真剣に検討したことだろう。 だが、財務省主導で野田内閣時代の2012年に成立した「社会保障と税の一体改革」に関する民自公三党合意と、それに基づいて成立した法律を無視し、三たび10%への消費増税スケジュールを壊すとなれば、財務省の反発は必至だ。 思い出してみたい。安倍首相がどれだけ財務省の隠ぺい工作に救われたかを。もちろん森友学園問題である。佐川元理財局長は、安倍首相夫妻と森友学園の小学校設立計画に関連する一切の文書を隠ぺい、改ざんし、国会で不誠実な答弁を繰り返して世間の顰蹙を買った。佐川氏個人の行動というより、財務省の総意として安倍首相を守ったといえる。 佐川氏は論功行賞でいったん国税庁長官のポストを授かったが、ついには決裁文書の改ざんなどの責任を問われて更迭された。文書改ざんを押しつけられ苦悩した近畿財務局の職員は自殺した。 その一連の財務省の不祥事と悲劇は、もとをただせば、安倍首相夫妻が、教育勅語を幼稚園児に暗誦させる森友学園の教育方針にほれ込み、“小学校バージョン”の新設に協力しようとしたことに起因する。 その痛いところを国会で突かれた安倍首相が「私や妻がかかわっていたのであれば総理大臣をやめる」と言い放ったことから財務省の忖度によるウソの答弁がはじまり、文書改ざんや情報の隠滅につながっていった。 安倍首相が森友問題で麻生財務大臣を切れなかった理由は、衆参で57人の議員をかかえる麻生派の力を頼むところが大きいこともあるが、財務省内における安倍首相への反発を麻生大臣が抑え込んだことへの恩義もあったに違いない。 その財務省に対し、二度目の消費増税延期を発表した2016年6月1日の記者会見における次の発言を覆すことはできなかったのではないだろうか。 「私は、財政再建の旗を降ろしません。…そして社会保障を次世代に引き渡していく責任を果たす。…2020年度の財政健全化目標はしっかりと堅持します。そのため、ぎりぎりのタイミングである2019年10月には消費税率を10%へ引き上げることとし、30か月延期することとします」 安倍首相は、財政健全化とデフレ脱却を同時に進めるという、いわば矛盾した政策を打ち出してきた。どちらも思うようにいかないのを、都合のいいデータとレトリックでごまかしているのが実態だ。 財政健全化では、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2020年度までに黒字化する目標を掲げていたが、2018年6月作成の「骨太の方針」でこれまでの目標より5年遅い2025年度に黒字化すると変更した。 プライマリーバランスという概念を財政の世界に持ち込んだのは2004年当時の経済財政政策担当大臣、竹中平蔵氏といわれている。「プライマリーバランスが赤字のままだと、財政破綻する懸念が高まる」という竹中氏の言説が財務省や内閣に受け継がれていった。 その結果はデフレの深刻化だ。安倍政権で介護報酬や診療報酬を減らしたのは、大きな誤りだった。需要の増えている分野に適切な「政府消費支出」をしないということであり、デフレギャップ拡大の要因となった。 財務省、とくに主計局は予算作成の実務を担当するがゆえに、時の政権中枢に強い影響力を及ぼしてきた。とりわけ民主党政権で首相を務めた菅直人、野田佳彦両氏は財務省の思想にいち早く染まってしまった。 菅氏は財務大臣時代、カナダのイカルイットで行われたG7に出席し、ギリシャをはじめとする欧州ソブリン危機の深刻さを実感した。首相就任後、財政再建は不可避だと財務官僚レクを受け、消費増税を打ち出したため、参院選に敗北し、政権の弱体化を招いた。 財務大臣、副大臣の経験者である野田佳彦氏は首相になるや、消費増税の3党合意に突き進んだ。民主党政権が誕生した2009年衆院選のマニフェストに反すると憤慨した小沢一郎氏らのグループは法案に反対票を投じて離党した。 財務省が菅、野田両氏に消費増税の必要性を説くのに使ったギリシャなどの債務不履行危機は、自国通貨建ての国債を発行できない国ゆえに起きたことだ。日本国債にデフォルトの可能性がほとんどないことは、財務省がいちばん知っている。 2002年に、ムーディーズ、スタンダード&プアーズ、フィッチ・レーティングスといった格付け会社が日本国債の格付けを引き下げたさい、財務省は各社に以下のような文面の抗議文を送りつけた。
(財務省ホームページより) これが財務省の本当の認識である。日本、アメリカなどの自国通貨建て国債については、利払い、償還が不可能となることなどありえない。円や米ドルを中央銀行が発行すればいいだけのことだ。 平成30年12月末における国債保有者の内訳をみると、日銀が46.0%と半数近くを 占め、国内の銀行等が16.9%、生損保等が20.4%、あとは年金や年金基金、家計と続く。海外の保有はわずか6.4%だ。 政府が55%を出資しているいわば子会社の日銀が国の借金の半分近い債権を握っているのだから、返済の心配をすることはないという考え方もある。 一方、財務省は、相手がどこであろうと借りたものは返すべき、財政規律を守るのが自分たちの使命と信じているようだが、時勢に合った柔軟な考え方も必要ではないか。 筆者の個人的意見としては、消費税増税の中止か減税による個人消費の活発化を望みたい。消費が伸びてGDPが成長し、結果として、税収も増えるのが理想的だ。 だが安倍首相も結局のところ、財務省的なくびきから逃れることのできない一人らしく、自民党内の反対論に耳を貸さず、粛々と消費増税を実行するようだ。 衆参同日選は見送られ、7月21日投開票の参院選だけが行なわれることになった。「不安だけを煽る」と野党を批判し、「新しい時代への改革」を安倍首相は声高に訴えるが、デフレ下に、消費を冷やす増税策を打つことで、新しい未来が開けるはずがない。参院選で有権者はどう審判を下すだろうか。 image by: 首相官邸 新恭(あらたきょう) この著者の記事一覧 記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。
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