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映画『新聞記者』に込めた思い
「映画」こそ真の自由であることを願って
河村光庸 映画プロデューサー
論座 2019年06月23日
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©2019『新聞記者』フィルムパートナーズ
映画『新聞記者』
東京新聞の望月衣塑子記者の著書「新聞記者」を原案にした映画。
6/28(金)より全国公開。政府によるメディアへの介入など現実世界
と共振する設定の「権力とメディア」の裏側、「組織と個人」のせ
めぎ合いを真正面から描いたサスペンスエンタテインメント。
映画予告編はこちらhttps://www.youtube.com/watch?v=zdPSidwlJ_I
■メディアの「権力監視」が薄まる中で
2019年、新しい元号「令和」が始まり、参議院選挙、翌年に控える東京オリンピックの開催。かつて経験したことのないような時代の大きなうねりの中で、人々はどこからどのような情報を得ていかなければならないのでしょうか。
第二次安倍政権の発足以降、下がり続ける「世界の報道の自由度ランキング」(国境なき記者団)で日本は2016年、2017年には連続67位と、ついにG7各国の中で最下位となったことはすでにご承知かと思います。
フェイクニュース、メディアの自主規制は蔓延し、官邸権力は平然と「報道の自由」を侵す……。
この数年で起きている民主主義を踏みにじるような官邸の横暴、忖度に走る官僚たち、それを平然と見過ごす一部を除くテレビの報道メディア。最後の砦である新聞メディアでさえ、現政権の分断政策が功を奏し「権力の監視役」たる役目が薄まってきているという驚くべき異常事態が起きているのです。
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©2019『新聞記者』フィルムパートナーズ
それと共に、そしていつの間にか暗雲のように社会全体に立ち込める「同調圧力」は、人々を委縮させ「個」と「個」を分断し孤立化を煽っています。
そのような状況下、正に「個」が集団に立ち向かうが如く、官邸に不都合な質問を発し続ける東京新聞の望月衣塑子さんの著書『新聞記者』が私に映画の着想を与えてくれました。そしてこの数年日本で起きた現在進行形の政治事件をモデルにしたドラマがリアルに生々しく劇中で展開していくという映画史上初の試みとなる大胆不敵な政治サスペンス映画に着手しました。
そして、出来上がったのが映画「新聞記者」です。
本作は、報道メディアは政治権力にどう対峙するのかを問いかける作品です。
権力がひた隠す政権の闇に迫ろうとする一人の女性記者と、理想に燃え公務員の道を選んだある若手エリート官僚との対峙・葛藤を描いた政治サスペンス映画です。
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©2019『新聞記者』フィルムパートナーズ
■我々の前に立ちはだかる「官邸記者クラブ」
過去、政治権力とジャーナリズムを扱った洋画は多くの名作を生んでいますが、日本映画にはほとんどありません。しかもフィクションではありますが、この映画の最大の特徴である、ここ2、3年で起きた政治的大事件をモデルにしているところです。
これらの政治事件は本来であれば一つ一つが政権を覆すほどの大事件です。ところがあろうことか、年号が令和に変わろうが継続中であるべき大事件が一国のリーダーと6人の側近の“令”の元に官僚達はそれにひれ伏し、これら大事件を“うそ”と“だまし”で終りにしてしまったのは多くの国民は決して忘れはしないでしょう。
一方で日本の報道メディアについても多くの問題があります。記者クラブの中でなぜ望月記者に続く人間が現れないのか? それで権力の番犬の役割が果たせるのか?
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©2019『新聞記者』フィルムパートナーズ
既存メディア、特に「記者クラブ」の政治部の記者たちは望月記者を「目立ちたいだけ」と非難していますが、その前にジャーナリズムの本質的な姿勢に立ち返るべきは「官邸記者クラブ」です。
御用メディアとリベラルに二分化され、その視点ありきで報道する今の日本の新聞をはじめとした報道メディアの姿こそ異常だと思わざるをえません。我々からすると官邸の前に立ちはだかっているのが正に官邸記者クラブそのものなのです。
前提としてですが、私はどこかの野党や政治勢力に組するものではありませんし、この作品は一人の記者を礼賛するでもありません。むしろ報道メディア全体、記者一人一人に対するエールを送るつもりで作りました。
「これ、ヤバいですよ」「作ってはいけないんじゃないか」という同調圧力を感じつつ映画を制作し、宣伝でも多くの注目を浴びつつも記事にはしてもらえず、それでも何とか公開まで持っていこうというのが今の状況です。
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©2019『新聞記者』フィルムパートナーズ
■民主主義に立ち戻れ
私はこの映画を安倍首相は勿論ですが、それよりも何よりも多くの自民党員の方々に真っ先に観てもらいたい。歴史的に自由民主党の最大の特色は多様性にあったはずが、安倍首相は一元化をはかり、民主主義的政党政治とは言いがたく、官邸独裁政治であることは火を見るより明らかです。第二に政治嫌い、若い人々に観てもらいたい。政治から距離を遠ざける事は民主主義の義務や権利を放棄するのと同じ事であるからです。
でも私は僭越ながら、この映画で多くの人々に民主主義に立ち戻ってもらいたい。
民主主義というのは人類が血と涙で勝ち取った先人の恵みです。誰かが民主主義から国民を遠ざけようとしているとすれば、それは絶対許せない。それが私の想いです。
皆さま、この機会に是非この映画にお心を向けて下さい。「映画こそ自由な表現を」の旗を掲げ、ご覧頂いた皆さまのご意見ご感想を糧に、映画「新聞記者」は前人未踏の道を進んでまいります。
筆者
河村光庸(かわむら・みつのぶ) 映画プロデューサー
1949年生まれ。94年に青山出版社、98年にアーティストハウスを設立し数々のヒット書籍を手掛ける一方、映画出資にも参画し始め、映画配給会社アーティストフィルムを設立。08年にスターサンズを設立し、『牛の鈴音』、『息もできない』(08)などを配給。エグゼクティヴ・プロデューサーを務めた『かぞくのくに』(11)では藤本賞特別賞を受賞。ほか企画・製作作品に『あゝ、荒野』(16)、『愛しのアイリーン』(18)など。
https://youtu.be/b2v_qZyrIOI
論座「安倍政権を再考する」
長期化する安倍政権。疑惑は棚上げ、外交は空回り、年金不信は高まる。このまま今秋に首相在任が歴代最長となり、来夏に東京五輪を迎えるのか。
東京新聞の望月衣塑子記者と東工大の中島岳志教授が「安倍政権を再考する」というテーマで7月7日に討論します。「論座」が主催します。
この選挙イベントの申し込みはこちら→【イベント申し込み】https://peatix.com/event/710312
https://webronza.asahi.com/national/articles/2019061900010.html
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