http://www.asyura2.com/19/senkyo262/msg/112.html
Tweet |
中島京子 作家
論座 2019年06月16日
https://image.chess443.net/S2010/upload/2019061000002_1.JPG
東日本大震災後、原発に反対するデモが各地で毎週のように開かれ、労組や団体の動員ではない個人や家族連れの参加が目立つようになった=2011年4月10日、東京・高円寺
■2011年の時点では、もう少し楽観的な希望があった
2011年の6月、朝日新聞に「初めてデモに行ってきた」というエッセイを寄稿した。3月に東日本大震災があり、福島第一原子力発電所の事故があって、それから約2カ月後の5月7日に、渋谷で行われた反原発デモに参加した経験を書いた。
読み直してみると、8年前の私は若干、腰が引けていて、「自分は社会派作家じゃないし、震災を機に作風が一変したりもしないだろう」などと書いている。「デモ」は「社会派」の人が行くものだという先入観があり、それに参加するのにちょっと気後れがあったらしい。でも、あれから何度もデモにも集会にも行ったし、機会があれば新聞や雑誌で自分の意見を述べるようにもしていて、それでもちっとも世の中はよくならないという危機感にまみれている昨今、自分が「社会派」かどうかなんて、もはやどうでもいいことである。それより、ほんとうに、この先、この国がどうなってしまうのかが、心配だ。
https://image.chess443.net/S2010/upload/2019061000002_5.jpg
2011年6月7日付、朝日新聞夕刊(東京本社版)への中島さんの寄稿
東日本大震災は、あきらかに私自身を変えた。ことに、原発事故の衝撃は、深い反省を呼び起こした。事故そのものもショックだったが、自分がいかに長い事、政府や官僚や電力会社の嘘、ごまかし、騙しに気づかずにいたかを思って情けなかった。日本の原発は安全でクリーンで対策も万全という嘘に、騙されたというよりも、騙されたかったというのに近いかもしれない。震災をきっかけに、世の中を見る目が変った。
それでも、2011年の時点では、もう少し楽観的な希望があった。
自分のようなぼんやりした人間も、おかしいと思って声を上げたし、そういう普通の人はもっと増えていくのだから、世の中はいい方向に変わるのではないかと思っていたのだ。「(デモ参加者の)人数が増えればマスコミも政府も無視できなくなるはず」と、エッセイにも書いている。テレビの報道番組に自分の参加したデモの映像が映ると「行ってよかった!」という気持ちになった。
https://image.chess443.net/S2010/upload/2019061000002_2.jpeg
安保関連法案に反対して国会周辺を埋め尽くした人たち=2015年8月30日
■デモの人数は増えたけれど
しかし8年経って、いまは無邪気に人数が多ければ報道されるとは思えなくなっている。今年5月3日の憲法集会は、昨年を上回り6万5千人が参加したと「東京新聞」は一面で報じているけれど、「NHKニュース7」は壇上の野党議員を映しただけで集まった人々を画面に映さず、人数も伝えなかったそうだ。
それからもう一つ気になるのは、デモのときに動員される警察官の増加だ。とくに官邸前や国会前は多い。デモ参加者より多いと感じる。しかし、実際どのくらい動員されているのか、私は把握していないので、もし、数が増えていないとすれば、警察官が醸し出す威圧感が増したのかもしれない。
https://image.chess443.net/S2010/upload/2019061000002_3.jpg
国会前に向かう人の動きを妨げるなど、警察の過剰な警備も見られた=2015年9月16日、国会正門前付近
デモ/集会参加者を限られたスペース(官邸前、国会前の場合は歩道のみ)に押し込めて、通せんぼするように青い特殊車両がずらっと並ぶ光景は異様だし、地下鉄の出口やら横断歩道やらを勝手に封鎖して、集会場所にたどり着きにくいようにするのも問題があると思う。毎回、人であふれかえる地下鉄出入り口付近を目撃するたびに、いま、このときに大震災が起こったら、私はこの地下鉄構内で命を落とすのではないかという想像で恐怖にかられる。デモや集会は平日の夕方や土日に開催されることが多いから、永田町にはほとんど車が走っていない。車道を通行止めにして、デモ参加者に開放すれば、ずっと安全な抗議行動が可能になるのに。
私が参加したデモでいちばん人数が多かったのは、2015年8月30日の安保法制反対のときで、主催者の発表によれば、国会前に12万人、全国各地で行われた同趣旨のデモに参加した人数を合わせると35万人の人出だったが、あのとき国会正面前を埋め尽くした参加者の映像/画像は鮮烈な印象を残した。あれ以来、そうした画像が残らないように、警備が厳戒になったと言う人もいる。
8年間に、いろいろなことがあった。まずは、2012年に自民党(+公明党)が与党となり、安倍さんが政権に返り咲いた。以来、ずっと、総理大臣は安倍晋三氏である。
2013年に秘密保護法が強行採決で成立した。2015年には安保法制がやはり強行採決された。2017年には同じように共謀罪が成立した。いずれもこの国の民主主義や平和主義を根幹から揺るがす法律で、デモにも集会にも何度も足を運んだけれど成立してしまった。沖縄の辺野古基地建設に反対するデモも行っているのだが、政府はどうして沖縄の民意を無視し続けるのか。
森友学園、加計学園の疑惑、財務省による文書の改ざん事件、自衛隊の日報が隠された問題、厚労省の統計不正、次から次へと国が国民を騙す事件があって、そのたびにやはり怒りを表明するのだが、どれひとつ、きちんと解決してはいない。鳴り物入りで成立した秘密保護法の効果なのか、何なのか、役所が出してくる資料は「のり弁」と呼ばれる、真っ黒に文字を塗りつぶした異様な紙であることが多い。
そんな中に、ひどいセクハラ事件とか、ヘイトスピーチとか、政治家による耳を疑うばかりの失言とか、そんなことも続く。これにも抗議する。
■街にデモのある風景は、当たり前になった
https://image.chess443.net/S2010/upload/2019061000002_6.jpg
中島さんが初めて参加したデモ。楽器やドラムを演奏しながら歩く人など、さまざまな表現が見られた=2011年5月7日、東京都渋谷区
何度か選挙もあった。参議院で議席の3分の2が改憲勢力となって、安倍首相の妄執的な改憲への情熱も高まっている。最近の世論調査では6割近い政権支持率と報道されていた。アベノミクスもぼろが見え、年金破たんが公的に宣言され、北朝鮮やロシアとの外交もうまく行かないというのに。
膨れ上がる東京オリンピックの費用、カジノをめぐるあれこれ等、ひどいことばかりだが、このあいだ知って非常に驚いたのは、防衛関係費だ。2011年度に4兆7752億円だったのが、2018年度に5兆1911億円に増大したことに驚いたのでは、ない。防衛省が毎年公開している「我が国の防衛と予算」によれば、この増大する防衛費の中で、自衛隊による災害援助関係予算が、震災前に組まれた2011年度の1051億円から、2019年は100億円ほどに縮小されていたことなのだ! 10分の1に! 東日本大震災の後もマグニチュード7レベルの地震は各地を襲い、各地の豪雨でたいへんな死者を出し、御嶽山は噴火し、熊本でも北海道でも大地震があったのに、なぜ9割削減なのか? どうしてこれはもっと大きく報道されないのだろう? 防衛省はせっせとそのお金で欠陥品のF35やオスプレイを買っているわけだ。
あれから8年。どう考えても、状況は悪くなっているようにしか思えない。
街にデモのある風景は、当たり前になったし、オンラインなども含めれば現状に異を唱えるための署名活動なども、以前と比べればずいぶん盛んになっている。それなのに、状況が悪くなりっぱなしというのは、どういうことなんだろう?
「報道の自由度ランキング」は、鳩山政権の2009年の11位を頂点に下がりっぱなしで、2012年には22位、2019年には67位まで転落した。「秘密保護法」や「共謀罪」など、国民の知る権利や表現の自由を縛る法律ができたことは、この「転落」に大きく寄与したはずだ。古舘伊知郎、岸井成格、国谷裕子という名物キャスターが、次々番組を降板したのは2016年のことだった。
テレビの政権への「忖度」は当たり前の光景になり、首相がテレビに出るのは、バラエティ番組に出演するときであって討論番組や報道番組に出るときではなく、その「素顔」がもっぱらトランプ大統領とのゴルフや居酒屋店での振る舞いとして情報番組に消費される。
国会の予算委員会の審議が、与党の審議拒否により100日以上ストップしているという異常事態も、つい最近までまったく報道されなかった。ひょっとしたら「トランプ大相撲観戦」や「令和初の国賓、天皇と会談」や芸能人の薬物スキャンダルのほうが「視聴率が取れる」からという「純粋」な理由かもしれないが、野党が舌鋒するどく安倍首相を追及する場面を見ることは一切なく、ゴルフや相撲を見せられている事態は、異常な「政権支持率」の数字に貢献していないだろうか。関係ないと思う方が難しい。
https://image.chess443.net/S2010/upload/2019061000002_7.jpeg
性暴力に対する無罪判決が相次いでいることに抗議する「フラワーデモ」が、いま全国各地に広がっている=2019年6月11日、東京駅前
■民主主義国の主権者であることは、けっこうしんどい
正直言って、日本はいま、ひどい状況にあると思う。
そして最近私は、安倍政権の支持率が高いのは、人々が騙されていたいからではないかと考えるに至った。私自身、この政権ならまだまだ恐ろしいことを隠しているんじゃないかという気がするし、アベノミクスの失敗も、手詰まりの外交も、破たんした年金も、いつのまにか海外で多国籍軍とともに行動している自衛隊も、真実を目の当りにしたら呼吸が止まるのではないかというほどの恐ろしさがある。政権交代はしなければならないと思うが、政権さえ変えれば薔薇色の未来が待っているなどとは、どうしたって考えられない。これまでに積み重ねてきた嘘、ごまかし。そのぼろぼろの土台の上に築かれている国を、どうやって立て直すのか考えるだけで眩暈がする。
恐ろしいものを見せないでメルヘンだけを見せてくれるのなら、もうそれでいい、真実は知りたくないというのが、意識的にせよ無意識にせよ、政権支持層の気持ちではなかろうか。しかし、それはもう、薬物依存のようなものだから、どんなにつらくても真実と向き合わなければならない。
ひとつだけ、8年の間に私が得たものは、この悲惨な状況をきちんと認識して、ましなものに変えようと考える人たちが少なくない数いる、という確信だ。
社会や政治にさほど関心がなかったころには知り合えなかった人たちが、いまの私の周りにはいる。その中には、この夏に国政選挙に出馬することにした人もいるし、政権中枢に鋭い質問をし続けているジャーナリストもいるし、マイノリティの権利を守るために戦っている弁護士もいる。それこそ、私より後におずおずデモデビューして、いまや常連という人もたくさんいる。
民主主義の国の主権者であるのは、けっこうしんどいのだなということも、遅まきながら学んだ。でも、騙された挙句にとんでもない未来に連れて行かれるのが嫌なら、まじめに悲惨な状況と向き合わなければならない。それを知っていて、ちゃんと怒っている人々がいるので、絶望には至らずに過ごしている。
https://webronza.asahi.com/national/articles/2019061000002.html
▲上へ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK262掲示板 次へ 前へ
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK262掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。