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(1) 現在35〜44歳の約1700万人のうち、非正規で働く人が317万人、フリーターは52万人、職探しをしていない人も40万人
(2) 全労働人口に占める非正規雇用は38・3%(2017年)
(3) 非正規労働者の男性の89・6%が未婚 少子化問題を加速
(4) 40〜64歳の中高年のひきこもりが全国に約61万人
(5) 雇用の調整弁として使い捨て
(6) 人口はますます減少し、税収も落ち込み、社会全体が後退・衰退
(以上、本文より)
長周新聞 2019年6月4日
「就職氷河期世代」「ロスト・ジェネレーション(失われた世代)」と呼ばれる世代がクローズアップされている。バブル崩壊後、就職難に陥った30代後半から40代後半の世代の人たちのことを指している。これまでの常識で考えれば、社会の中軸として働き、大多数の人が結婚して子どもを育てている……そんな風に描かれる世代でもある。ところがこの世代の4人に1人が高校、大学を卒業しても就職できず、今もって非正規の職を転転として結婚や出産もできない、あるいは無職の状態に陥っている。このロスジェネ問題は10年以上前から抜本的な対策を求める声が専門家などから上がっていたにもかかわらず、政府は「若者の自己責任」という言葉で放置してきた。その結果、深刻な少子化をもたらしただけでなく、今後はロスジェネ世代の高齢化が進むことによって生活保護受給といった社会保障などが大きな社会問題となっている。安倍政府は4月、この世代を「就職氷河期世代」から「人生再設計第一世代」と呼び方を変え対策に乗り出すとしている。ロスジェネ世代の実態について統計などをもとに描いてみた。
厚生労働省は、「就職氷河期世代」をバブル崩壊後の新規学卒採用が特に厳しかった1993年〜2004年頃に学校卒業期を迎えた世代と定義している。浪人や留年がない場合、今年4月時点で大卒の場合は37〜48歳、高卒では33〜44歳の人たちが該当する。バブル崩壊後の経済低迷期に就職のタイミングがぶち当たり、新卒で非正規社員に採用される不安定雇用に晒された。その結果、現在35〜44歳の約1700万人のうち、非正規で働く人が317万人、フリーターは52万人、職探しをしていない人も40万人という深刻な状況がある。
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グラフ@ 正規雇用と非正規雇用労働者の推移
当時、「ニート」「フリーター」といった言葉が、まるで若者たちが悪いことでもしているような意味合いを持って氾濫した。若者に対して「就職できないのはやる気がないからだ」という自己責任論が煽られた。将棋の駒のように安い労働力として使い続けられ、今もってそこから抜け出せず放置されてきた世代でもある。ロスジェネ世代は、大学を卒業して就職し、結婚して子どもを育て、退職後は年金をもらって……というこれまで描かれてきた人生のシナリオが通用しなくなった初めての世代ともいわれている。
■バブル崩壊のしわ寄せ
大卒就職率はバブル崩壊直後までは80%前後の水準を維持していた。ところが1992年からはバブル崩壊の影響で新卒採用が絞りこまれ、下降の一途をたどった【グラフA参照】。95年には65・9%まで落ち込んだが、これは氷河期の序章に過ぎず、大手証券の山一証券が97年に廃業に追い込まれた頃、就職率はさらに落ち込み、2000年に統計上初めて6割を下回る55・8%をつけた。
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グラフA 大卒就職率(全卒業者に占める就職者の割合)の推移
2000年の大卒者の実態をより具体的に見てみる。この年、大学を卒業したのは53万8683人だったが、このうち就職したのは30万687人(55・8%)だ。このなかには、「1年以上の雇用契約」である派遣や契約社員などの非正規雇用での就職も含まれている。一方、就職者以外の人数をみると、フリーターと考えられる「一時的な仕事に就いた者」が2万2633人。進学も就職もしなかったのが12万1083人となり、その多くはアルバイトをしながら生活するフリーター、あるいはアルバイトもしていない無職者と考えられる。この他に「不詳の者」が3万688人いるが、大部分が大学に進路先を届け出なかったもので実質はアルバイトなどで生計を立てるフリーターなどと考えられる。就職者以外のフリーターや無業者をひとまとめにすれば、その人数は17万4404人で、その年の大学卒業者の3割以上という深刻な状況があった。
その後も大卒就職率は低下し、2003年に55・1%と過去最低となった。大学の新卒者だけではない。高校新卒者の就職内定率も、2003年には74・4%と最低となった。2003年の20〜24歳の完全失業率は9・8%で、新卒時期の10人に1人に職がない事態に陥っていた。
新卒で就職を逃せば採用条件は一段と厳しさを増す。この世代は社会人としての出発点で、パートや派遣、契約社員といった非正規雇用の道を選ばざるを得なかった人が、他の世代と比べて格段に多い。労働政策研究・研修機構の「壮年非正規雇用労働者の仕事と生活に関する調査」(2015年)では、男性で25歳時に非正規雇用の場合、5年後の30歳時に正規雇用になっているのは41・7%、10年後の35歳時で49・1%と約半数にとどまる。最初に非正規雇用として働き始めれば、そこから抜け出すことが容易ではないことを示している。
バブル崩壊とその後の就職難という困難に直面した世代が、その後もずっと不安定雇用を強いられているのは、政府が派遣法の改悪など雇用の規制緩和をおし進めたことにある。1990年代末、政府はアメリカや大企業からの要求を反映して、契約社員や派遣社員の規制緩和を進め、大企業は楽に安上がりな非正規社員を増やせるようになった。1994年に雇用者の5人に1人だった非正規社員は、2004年には3人に1人になった。そして小泉構造改革による2004年の製造現場への派遣労働解禁によって一気に拍車がかかった。従来は学生アルバイト、パート主婦、定年後の嘱託など、人生の一時期に限定されることの多かった非正規雇用が、新卒の若者たちに広がった。若い男性の正社員就職の受け皿だった製造業でも派遣が解禁され、派遣社員として就職していく若者が目立つようになった。2002〜2007年まで日本は「いざなぎ景気の再来」と呼ばれるほど景気が拡大したといわれ、役員報酬も株主配当も内部留保も増えていた。一方で労働者の非正規化が進み、従業員の給与は減少しつづけた。
総務省の労働力調査によると、雇用者に占める非正規社員の比率は2008年当時の25〜34歳で25・6%だったが、同世代の10年後にあたる18年の35〜44歳は28・8%と悪化している。35〜39歳の男性の平均年収はこの20年で77万円減った。そして全労働人口に占める非正規雇用は38・3%(2017年)となり、現在も増え続けている【グラフ@参照】。それによって大企業の内部留保は6年連続で過去最高を更新し、2017年には446兆4844億円にのぼるなどボロもうけしているのだ。
■非正規雇用の9割未婚 加速した少子化
就職氷河期世代が「中堅」と呼ばれる年代になり、将来への不安から結婚・出産に踏み切れない人も多い。それは深刻な少子化問題を加速させている。就職氷河期に大学を出た世代は2016年では35〜40歳。数字でいうと993万人だ。しかし、その子ども世代は少なく、25歳下(10〜15歳)と仮定すると669万人しかいない。ロスジェネからロスジェネジュニアの人口再生産率は67・4%にとどまっている。ロスジェネは団塊ジュニアや第二次ベビーブームといわれる大きな人口の膨らみを含む。この世代を不安定雇用に追い込み、結婚や出産に踏み切れない人が増えたことで、第三次ベビーブームは起きなかった。これが異常事態であることは人口ピラミッドを見るとよくわかる【グラフB参照】。
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グラフB こなかった第3次ベビーブーム(日本の人口ピラミッド2016年)
国内の婚姻件数は、ほぼロスジェネの親に当たる団塊の世代が25歳前後だった1970〜74年にかけ、年間100万組をこえていた。それが右肩下がりとなり、2017年には半分近い60万組に減った。働きながら結婚して子どもを産み育て、未来の担い手を再生産していくことができず社会に展望がない。国の無策によって、少子化という負のスパイラルがつくり出され、日本社会の将来に大きな損失をもたらした。
非正規労働者の男性の89・6%が未婚で、年収が低いほど未婚率が高いことがわかっている。正社員になりたい、結婚したいという意欲はあっても、「どうせ無理だろう」という無気力や諦めの感情が、新しいことに挑戦するエネルギーを削ぐ結果にもなっている。
■単身世帯が増加し孤立
少子化と同時に進むのが単身世帯の増加だ。非正規雇用者は正社員に比べて貯蓄が少なく、社会保険の加入率も低い【グラフC参照】。そのまま年金を受給する世代になると、月7万円に満たない国民年金しか受けとれない。
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グラフC 男性の正規雇用と非正規の平均賃金(2017年)
懸念されるのが、仕事や社会参加せずに孤立する「ひきこもり」だ。中高年の「ひきこもり」は、家族も周囲には隠すため非常に見えにくい問題だ。今年3月末、40〜64歳の中高年のひきこもりが全国に約61万人いるという推計を内閣府が公表した。中高年のひきこもりが社会問題として注目される背景には、人口規模の大きいロスジェネ世代が30代後半から40代後半にさしかかっていることがある。長くひきこもる40〜50代の子どもを、70〜80代の親が年金で養っている場合が多く、親世代が高齢化し生活が立ちゆかなくなっていけば貧困に陥る可能性が高い。そうした状況が目前に迫っているということだ。
安倍政府は今年3月、就職氷河期世代にあたる30代半ばから40代の支援策を決めると発表した。その内容は、人材不足となっている運輸や建設、農業などの業界団体等に委託する形で資格習得などをおこなうことや、人手不足業種との職場見学会つき面接会などによって正社員就職を促進するという。また正社員に採用した企業に1年限り最大60万円を支給している制度を拡充させるとしている。だが、厚生労働省が2017年度から「就職氷河期世代の人たちを正社員として雇った企業に対する助成制度」に約5億3000万円の予算を付けたが、利用されたのは約765万円。翌18年には10億7000万円と倍増させるも1億2800万円という結果に終わっている。
「就職氷河期世代」は社員と同じ仕事をしても賃金を抑えられ、同等の社会保障も受けられず、雇用の調整弁として使い捨てられ、少なくない人人が生活の不安から結婚したくてもできない、子どもをつくりたくてもつくれないという人生を余儀なくされた。これは個人の努力云々で起こったことではなく、社会構造や労働法の変化によってもたらされた結果にほかならない。そして人口はますます減少し、税収も落ち込み、社会全体が後退・衰退する局面を迎えているのである。この問題にメスを入れるには労働者の正規社員化を促進するため大企業の使い捨て労働を規制し、正社員と非正規の給与格差の是正・処遇改善といった抜本的な問題に着手する以外にない。
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/11874
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