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“やっているふり”で解決するのか どんどん荒む令和の世相
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/255434
2019/06/05 日刊ゲンダイ 文字起こし すべてがつけ焼き刃のゴマカシでやる気ナシ!(安倍首相)/(C)共同通信社 神奈川県川崎市登戸の路上で発生した20人に及ぶ無差別殺傷事件や、元農水省事務次官の熊沢英昭容疑者(76)が長男(44)の胸などを包丁でメッタ刺しして殺害した事件など、新元号「令和」に入って早々、凄惨な事件が続いている。 安倍首相は新元号公表後の会見で、〈人々が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つという意味が込められております〉〈一人一人の日本人が明日への希望とともにそれぞれの花を大きく咲かせることができる、そうした日本でありたい〉などと語っていたが、〈心を寄せ合う〉や〈明日への希望〉といった耳当たりのいい首相談話の言葉とは全く異なり、令和の世相は荒む一方だ。 2つの事件の背景として指摘されているのは、容疑者や被害者が自宅に閉じこもりがちで、社会から孤立していたという点だ。川崎の事件で、直後に自殺した岩崎隆一容疑者(51)は長期間にわたって「引きこもり傾向」にあったとされ、元農水次官の事件でも、亡くなった長男が「引きこもりがちの状態」だったという。「引きこもり」の理由は、病気やいじめ、失業など千差万別であり、単純に「犯罪予備軍」などと決め付けるつもりは毛頭ないが、2つの事件が社会からの孤立を深める中高年層と、それを見守る家族の高齢化という深刻な問題を浮き彫りにしたのは間違いない。 内閣府によると、中高年層(40〜64歳)の引きこもりは全国で約61万人。引きこもり生活が7年以上続いている人は5割にも及ぶ。このままだと、安定収入のない50代の引きこもりの子が80代の親を介護したり、逆に80代の親に50代の子が生活依存したりする、いわゆる「8050問題」がますます社会問題化していくだろう。 過去の政策の“焼き直し”で事態は解決しない 中高年層の引きこもりは、若年層(15〜39歳、約54万人)よりも多く、若い頃から続いている人が少なくない。きっかけの多くは、何といってもバブル景気崩壊で企業が新卒採用の枠を大幅に絞ったことによる就職難があるだろう。 政府は5月31日の「経済財政諮問会議」で、これら30代半ば〜40代半ばの「就職氷河期世代」を対象にした3年間の「集中支援プログラム」を決定。支援を通じて正規雇用者数を30万人増やす数値目標を掲げ、ハローワークへの専門窓口の設置や、短期間で資格を取得できるプログラムの創設など〈切れ目のない支援〉を打ち出したが、ハッキリ言って実効性は全く期待できない。 小泉内閣の2003年にも、今と同様、社会問題化した氷河期世代の若者の高失業率・高離職率の解決に向けた「若者自立・挑戦プラン」が公表され、〈生涯にわたり、自立的な能力向上・発揮ができ、やり直しがきく社会の実現を目指す〉などとして、各地に「ジョブカフェ」が整備されたが、具体的な効果は何もなかったからだ。結局、就職支援の対象だった当時の「若者」がそのまま、今の「引きこもり世代」にスライドしただけ。“焼き直し”の支援策で事態が改善・解決するはずがないだろう。 埼玉大名誉教授の鎌倉孝夫氏(経済学)がこう言う。 「手を打つのがあまりに遅過ぎたと言わざるを得ず、どれだけの効果があるのか分かりません。そもそも、自民党政権は改憲草案で社会の最小単位を家族に求め、公助ではなく、自助・自立を掲げて社会保障費の削減を進めてきました。つまり、就職難も、引きこもりも『家族や自分個人で何とかしろ』ということ。政権与党が、こういう考え方なのですから、(引きこもり状態を)行政などに相談できる環境にない。(公助という)社会保障のケアなくして、状況の根本的な改善は見込めないと思います」 問題はずっと続いている(C)日刊ゲンダイ
厚労省は都道府県や政令市に設置している相談窓口「ひきこもり地域支援センター」の活用を呼びかけ、臨床心理士らの第三者が医療や就労、行政への橋渡し役を担う――としているが、これだって「集中支援プログラム」と同じ。問題解決に有効な手だてとは思えない。実際、川崎の事件でも、親族は市に岩崎のことを相談したものの具体的な支援策は講じられず、元農水次官の事件では、家族は役所に相談すらしなかった。 過去に問題化した例を見ても、引きこもり状態の親族を抱えた家族は、行政はもちろん、近隣住民にさえ相談しにくい環境にある。その議論をすっ飛ばし、相談窓口さえ作れば解決するだろう、というのはあまりに短絡的な考えに他ならない。 大体、氷河期世代の引きこもり中高年層を生み出した責任の一端は、歴代自民党政権にもある。 バブル景気崩壊後、企業は新卒採用を大幅抑制し、そのひずみから、昇給も賞与もない非正規労働者が大量に生み出された。低賃金、重労働、長時間勤務の「ブラック職場」は当たり前になり、非正規労働者は業績が悪くなれば「即クビ」という雇用調整弁の役割まで強いられてきたのだ。職を転々とすることも余儀なくされ、必要なスキルも身につかない。これでは将来設計は到底描けず、ある意味、社会と距離を置きたくなる気持ちになるのもムリはない。 本来であれば、政府がこうした企業の採用方法や雇用の在り方を問題視し、もっと早めに手を打つべきだったのに、大企業や経団連ベッタリの歴代自民党政権は献金目当てに見て見ぬフリ。安倍政権にいたっては裁量労働制や高度プロフェッショナル制度など、さらなる「労働者イジメ」「雇用破壊」の政策を進めているからムチャクチャだ。それでいて「集中支援プログラム」だ、「ひきこもり地域支援センター」だ、なんてどのツラ下げて言っているのか。 労働法制に詳しい法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。 「『8050問題』はずっと以前から指摘されていたことで、歴代自民党政権は対応をずっと先送りしてきたのです。それが積もり積もって、とうとう、殺傷事件という最悪の形になって噴出してきた。今さら慌てて寄せ集めの施策を講じ、『やってるふり』をしたところで効果は期待できない。今後も同様の事件が起こり得ることを覚悟した方がいいと思います」 人手不足解消のために氷河期世代というホンネ 〈かっこいい台詞はすべて官僚の作文。首相はそれを読んでいるだけだ。心にもない芝居。国民に「やってる感」を植え付ける見せ物。それが緊急閣僚会議なのである〉 2日付の東京新聞のコラム。元文科省次官の前川喜平・現代教育行政研究会代表は、川崎の事件直後、緊急閣僚会議を開いた安倍が「強い憤りを覚える」「政府一丸となって早急に取り組む」などと発言したことを取り上げ、〈政権は、このような事件も自らの支持拡大に利用する〉とバッサリ切り捨てていたが、その通り。要するに「やってるふり」を演出するために何でもかんでも利用するのが安倍政権であり、すべてが付け焼き刃のゴマカシなのだ。 氷河期世代の就労支援策として大々的にアピールする「短期間で資格を取得できるプログラム」だって、よくよく見ると、想定している業種は人手不足が目立つ「建設業」や「運輸業」だ。つまり、就労支援などと言っているが、中身は職業訓練や技能実習と称して外国人を劣悪な職場に就労させる手口と同じ。人手不足解消に氷河期世代を、という悪辣政権の薄汚いホンネが透けて見えるのだ。政治評論家の本澤二郎氏がこう言う。 「容疑者をかばうつもりはありませんが、なぜ、無差別殺傷事件を起こすまで追い詰められたのか。なぜ、元農水次官まで務めたエリートが息子の将来を悲観し、希望を失って殺人を犯したのか。社会に横たわる深い病巣に一切目を向けず、原因を究明しないで対症療法的に『あれやります』『これやります』とごまかしているのが安倍政権。内政も外交も一事が万事、この調子で、国民の目をはぐらかし、支持率さえ上がればいいと思っている。本気で引きこもり対策や就労支援を考えるなら、武器の爆買いをやめて予算を回すべきですが、口先だけで何もしない。やっているふり、だけなのです」 日本社会を蝕む「アベ政治」という病巣を一刻も早く取り除かないと、1億総共倒れになりかねない。
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