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文春オンライン 文春オンライン 防大卒業式にて、一斉に帽子を放り投げて退場する卒業生たち(防衛大学校ホームページ「防大タイムズNo.210」より)
防衛大学校「任官辞退者」を批判する人が知らない、より深刻な辞退者たち〜478人の卒業生のうち任官辞退者は49人/msnニュース
石動 竜仁
2019/05/24 11:00
http://www.msn.com/ja-jp/news/national/%e9%98%b2%e8%a1%9b%e5%a4%a7%e5%ad%a6%e6%a0%a1%e3%80%8c%e4%bb%bb%e5%ae%98%e8%be%9e%e9%80%80%e8%80%85%e3%80%8d%e3%82%92%e6%89%b9%e5%88%a4%e3%81%99%e3%82%8b%e4%ba%ba%e3%81%8c%e7%9f%a5%e3%82%89%e3%81%aa%e3%81%84%e3%80%81%e3%82%88%e3%82%8a%e6%b7%b1%e5%88%bb%e3%81%aa%e8%be%9e%e9%80%80%e8%80%85%e3%81%9f%e3%81%a1/ar-AABPr3i?ocid=iehp
3月下旬になるとメディアやネットを賑わせる恒例行事がある。防衛大学校卒業式がそれだ。と言っても、話題の焦点は卒業式自体ではない。防衛大学校卒業後に自衛官として任官しない、いわゆる「任官辞退者」の話だ。
特別職国家公務員としての身分を与えられる
今年3月17日に開かれた防衛大学校卒業式では、478人の卒業生のうち任官辞退者は49人と報じられている。彼ら彼女らは、自衛官として任官せず、卒業後は民間企業に就職するなど、別の道を歩むことになる。
なお、本稿では任官しなかった防大卒業者を「任官辞退者」と表記する。公的には防衛庁時代から「任官辞退者」の方が使われていたが、報道では「任官拒否者」と表記されることが多かった。しかし、近年は報道でも「任官辞退者」とする例が増えており、昨年度の防大卒業式を伝える主要紙のうち、「任官拒否」と表記したのは読売新聞のみであった。
防大卒業式にて、一斉に帽子を放り投げて退場する卒業生たち(防衛大学校ホームページ「防大タイムズNo.210」より)© 文春オンライン 防大卒業式にて、一斉に帽子を放り投げて退場する卒業生たち(防衛大学校ホームページ「防大タイムズNo.210」より)
防大生は特別職国家公務員としての身分を与えられており、入学金と学費は無償。また、学生手当、期末手当が支給され、全寮制で食事も出されている。4年間国費で暮らし教育を受けながら、自衛隊に入らないのは何事か。様々な批判の声が新聞の投書欄やネットで散見される。
だが、本稿の結論を先に言ってしまうと、防大卒業式時点で任官を辞退する防大生は、自身の能力や適性を早期に評価し、自衛隊側の損失を低いレベルに留めている誠実な人と言える。それは何故かをみていこう。
過去に見送られた授業料償還義務化
本論に入る前に、簡単に防衛大学校生の進路について触れたい。防衛大学校で4年間学んだ後、卒業と同時に陸海空自衛隊いずれかの曹長の階級が与えられる。その後1年間、陸海空それぞれの幹部候補生学校で幹部としての教育を受けた後、尉官級の幹部自衛官として各地に赴任する形になる。
前述したように、防大生は入学金・授業料は無償で、手当も出ている。大学授業料の高騰が問題になっている中、こうした待遇は破格と言えるかもしれない(ただし、学生としての自由は相当制限されるが……)。当然、不公平感は大きく、新聞の投書には昔から防大生の中退や任官辞退に厳しい声があった。
そして、民主党政権時に防衛大学校の経費について事業仕分けが行われた結果、任官辞退者の授業料について、仕分け人11人中10人が「償還を義務付けるべき」と判定している。このため、2012年に野田政権が任官辞退者に対し、240万円余りの授業料返還を義務付ける自衛隊法改正案を閣議決定した。
ところが、この動きに防大OBの自民党国会議員4人が反対意見を森本防衛大臣(当時)に提出している。これに名を連ねた尾辻秀久参院副議長(当時)は任官辞退者ではないものの、家庭の事情で防大を中退した経歴を持つ。防大OBの中には、任官辞退者に対する授業料償還に反対意見も多い。個々人でその理由は異なるだろうが、防大志望者減少を懸念する声も聞かれる。結局、法案は廃案になり、償還義務化は見送られている。しかし、授業料等の償還を求める声は、未だに燻り続けている。
任官1月以内に辞める「入校辞退者」はより深刻だ
防衛大が授業料償還で揉めている中、既に授業料の償還が義務付けられているのが、防衛医科大学校だ。しかし、教育に多額の費用がかかり、高給で需要も大きい医師という職業を考えれば、致し方ない部分も大きい。実際、僻地医療の充実を目的に設立された自治医科大学でも、入学金・授業料は免除で全寮制と、防衛医科大学校に近い制度を取っており、卒業後に知事が指定した公立病院等に所定期間勤務しなければ、償還金を求められる。
批判が多い防大卒業時点での任官辞退だが、前述したように、この時点での辞退は自衛隊にとって損失が小さく済む。
任官者は卒業と同時に一般幹部候補生任命・宣誓を行う。この時点で陸海空のどれに進むかが決まっており、各自衛隊の人事計画に組み込まれている。企業に例えると、内定式のようなものだ。これ以降に辞められると、計画に狂いが生じる。
ところが、防大を卒業して任官したにも関わらず、翌月に幹部候補生学校に入校しない任官者(仮に「入校辞退者」とする)は少なくない。筆者が防衛省から提供を受けた幹部候補生学校の入校者数データを元に集計したところ、近年の入校辞退者は次の通り推移していた。
これによれば、入校辞退者は毎年出ており、2013年度卒は27人も出ている。この年度の任官辞退者は10人で、その3倍近くの入校辞退者を出していることになる。防大卒業から1月も経たないうちに自衛隊を辞めているのだ。
直接的にカネが出たかを問題視
かつては、約20万円の退職金を受け取って入校辞退する任官者も多数おり、国会でも取り上げられた結果、1989年には入校辞退者や入校後半年未満で辞めた場合は退職金が出ないよう防衛庁給与法が改正されている。だがこれ以降、任官辞退者があれほど報じられている反面、より問題が深刻な入校辞退者はほとんど報じられていない。メディアも国民も、自衛隊への影響の大きさではなく、直接的にカネが出たかそうでないかを問題視しているということなのだろう。
幹部候補生学校入校前や在校中以外にも問題はある。幹部候補生学校卒業後、任地に配属されてすぐに辞表を提出する幹部の話も聞く。ここまでくると、当年度中の人事計画のフォローはまず無理だろう。翌年度にも影響が出るかもしれない。防衛大学校に在学しているうちに、身の振り方をハッキリしてくれる任官辞退者は、それ以降に辞められるよりずっといいのだ。
さて、任官辞退者に隠れて、任官辞退より自衛隊にダメージが大きい辞め方が多数あることがお分かりいただけただろうが、そうなると、できるだけ防衛大学校在学中に進路をハッキリ決めてもらった方が良いのは自明だろう。防大在学中に任官辞退を決めやすい環境にした方が良いことになる。
2014年以降、卒業式への任官辞退者の出席を認めず
だが、償還金義務付けの動きに見られるように、近年は任官辞退を申し出にくくする動きの方が強い。防衛大学校は2014年から、任官辞退者の卒業式への参加を認めないようになった。毎日新聞が入手した内部資料によれば、2013年に発覚した防大生複数人による保険金詐取を契機とした、綱紀粛正策の一環とされている(毎日新聞2017年3月17日夕刊)。
もともと、防大卒業式では任官辞退者の出席を認めていなかった。出席を認めるようになったのは、警視総監を退任後の1978年に防大校長に就いた土田国保校長時代からだ。『防衛大学校五十年史』は、次のように土田校長の意図を伝えている。
〈任官辞退者であろうと、本校で受けた教育を生かして国家社会のために働いてくれるはずだ、という確信が土田氏にはあった。同級生の絆を尊重し、青年の誇りと名誉を傷つけてはならない、との配慮もあった〉
土田校長は任官辞退者も同期生として送り出すことで、それが国家と個人にとって有益と考え、任官辞退者も卒業式に出席させることにした。少なくとも、卒業式に出席させることで、嫌な思いを任官辞退者にさせることはないだろう。
自衛隊に行かない防大生の事情とは
そもそも、なぜ自衛隊に行かない防大生が出るのか。ここから先は、防大生個人の事情も関わり、公的なデータも多いものではないため、周辺環境のデータや推測を交えていることをあらかじめご了承いただきたい。
まず、当の自衛隊が高校生に対して、防大に入っても自衛隊に入る必要はないと説明している点だろう。地域で自衛官募集業務を担う各地方協力本部にはノルマがあり、人数集めのために防大のメリットや入隊義務がないことを強調する傾向があるという。筆者も高校生の頃、自衛隊のリクルーターからそのようなことを言われた記憶がある。ところが、実際に入校すると話が違う、という例は昔から聞かれる。
また、家庭の経済的事情で防大に進学した学生も少なくないと思われる。防大1期生の中森鎮雄によれば、防大1桁台期は経済的事情による進学が多かったが、高度経済成長に入り減少していた。ところが、中森が現役の防大50期生(2002年入校)9人に話を聞くと、過半数が経済的事情により進学したと答えたという(中森鎮雄『防衛大学校の真実』より)。
厚労省の国民生活基礎調査を見ると、児童のいる世帯のうち、生活が「苦しい」と答えた割合は、50期生が受験した年である2001年は59.3%に対し、2018年58.7%と大差なく、子持ち家庭の経済事情は50期生と現在で違いは少ないだろう。とすると、現在も経済的事情により入校した防大生は多いのかもしれない。
これらの事情から、自衛隊入隊を前提としないで入校した防大生は少なくないのではないか。そして、防大生は自分に合わないと感じて退学を申し出ると、教官から何度も説得されるという。説得を受け、残りながらもモヤモヤを抱えていたものが、防大卒業、あるいは幹部候補生学校入校という機会に行動になって顕れるのではないだろうか。なにせ、人生の大半が決まる瞬間でもあるのだ。
任官辞退者の会社の役員になった自衛隊OBも
防大は難易度的にも容易に入れる学校ではないし、そこで4年間過ごして卒業できる学力・体力があるならば、自衛隊以外でも活躍できる目は大きいだろう。
任官辞退者が民間で活躍した実例を挙げると、最近の改元の際に頻繁に流された平成を振り返る番組の中で、平成初期の象徴として登場することの多かったジュリアナ東京の仕掛人だった折口雅博がいる。
独立した折口が率いたグッドウィル・グループは2000年代に急成長企業として知られたが、数々の不正行為が発覚して廃業することになる。しかし、グッドウィルには陸自OBの元防大教授が役員に就くなど、折口と防大の関係は卒業後も切れていなかったようだ。防大・自衛隊に仲間意識を持つ民間人が増えれば、自衛官の再雇用問題に悩む自衛隊にとっても悪いことではないだろう。
重要なことは任官辞退者を減らすことではない
結論を言えば、任官辞退者は他の辞退者と比べれば自衛隊への影響が小さいのに、割に合わない批判を世間から受けていると言っていいだろう。任官辞退者を締め付ける動きがますます強まれば、任官辞退者こそ減るものの、目に付きにくいがより深刻な入校辞退者や配属直後に辞職する幹部自衛官が増加することは目に見えている。
防大生は在学中にも多くが辞めていく。これは致し方ないことだ。先に述べた事情もあるだろうし、そもそも高校で進路を選んだ時点で、自分の能力や適性を自覚し、自分にあった進路を選択できる人は少数だ。高卒で就職しても就職後に転職をする人は少なくないだろうし、一般大卒者は卒業の少し前に進路を決める余裕がある。防大に進路を決めた時点で、その後の人生がほぼ決まってしまうのは酷だろう。
重要なのは、単に防大の任官辞退者を減らすことではなく、次代の自衛隊の中核となる優秀な人材を確保することだ。自衛隊へのミスマッチや違和感を抱えた防大生を、無理に自衛隊で勤務させることは単なる数合わせ以上の意味はないし、むしろ自衛隊に有害となる恐れがある。だったら、後腐れなく別の道に進んでもらった方が、自衛隊にも、なにより本人の未来のために望ましいだろう。
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