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長周新聞 2019年5月23日
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モンサント社に抗議するスイスのデモ(18日、バーゼル)
毎年5月には「反モンサント・デー」(現在は「反バイエル・モンサントデー」)と称して、世界中の農民や労働者など広範な人人が一斉に抗議行動をおこなっている。今年も18日にフランスやスイス、ドイツ、アメリカ、カナダ、オーストラリアなど数百の都市で一斉にデモ行進をおこなった。行動の主眼はモンサントが開発したラウンドアップを含む除草剤への抗議だ。ラウンドアップの発がん性や遺伝子への影響が問題になり、2013年に始まった「反モンサント・デー」は今年で7回目を迎える。抗議行動の高まりのなかで世界各国ではラウンドアップの使用禁止や販売中止、輸入禁止が主な流れになっている。ところがそれに逆行して日本では内閣府食品安全委員会が「ラウンドアップは安全」と承認し、農協が使用を推奨し、ホームセンターなどでも販売合戦に拍車がかかっている。世界中で規制が強化され販売先を失ったラウンドアップが日本市場になだれ込んでいるといえる。ラウンドアップとはどういう除草剤で、なぜ世界各国で使用禁止になっているのかを見てみたい。
フランスでは18日、「反バイエル・モンサント」デモに世界中から数千人が参加した。この行動に参加したのち、「黄色いベスト」運動のデモにも合流している。フランスは世界第3位の農薬消費国で、ラウンドアップに対して関心が高い。世界中で200万人以上が参加した第1回目の2013年の行動以来、2015年のデモには世界40カ国以上、約400都市で行動がおこなわれるなど、年年規模が大きくなっている。
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フランスのロリアンでの抗議デモ(18日)
今年1月、フランス当局は安全性に問題があるとして、ラウンドアップ除草剤とその関連商品の販売を禁止した。ラウンドアップはベトナム戦争で使われた「枯葉剤」をつくったモンサントが1974年に発売した除草剤で、グリホサートを主成分としている。このグリホサートが猛毒を含んでおり、2015年に世界保健機関(WHO)の下部組織「国際がん研究機関」が「おそらく発がん性がある」と発表し、17年には米国政府の研究で急性骨髄性白血病との関連が発表された。発表したのは米国の国立がん研究所、国立環境健康科学研究所、環境保護庁、国立職業安全健康研究所の共同プロジェクト。急性骨髄性白血病は急速に発達するがんで、5年の生存確率は27%とした。
同年にはカリフォルニア州がラウンドアップを発がん性物質のリストに載せた。今年2月にはワシントン大学の研究チームが「グリホサートにさらされると発がんリスクが41%増大する」との研究結果を発表した。
グリホサートは発がん性はもちろん、植物を枯れ死させてしまうが、同様に土壌細菌や腸内細菌も損なう。腸内環境を破壊することでアレルギーなど自己免疫疾患などの原因になったり、神経毒として自閉症や認知症を誘発する可能性が指摘されている。また、生殖に与える影響も懸念されている。精子の数の激減、胎児の発育に影響を与える可能性だけでなく、世代をこえて影響する危険を指摘する研究結果も発表されている。ベトナム戦争で撒かれた枯れ葉剤によってつくられたダイオキシンは三代にわたって影響を与えるといわれるが、グリホサートにも同様に世代をこえた影響が出る可能性も指摘されている。
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ホームセンターで販売されているラウンドアップ
ラウンドアップの危険性が問題にされた歴史は古く、1996年にはモンサントが「食卓塩より安全」「飲んでも大丈夫」「動物にも鳥にも魚にも“事実上毒ではない”」と宣伝していたことに対し、ニューヨークの弁護士が訴訟を起こした。2001年にはフランスでも消費者の権利を守る運動をおこなっている活動家が訴訟を起こした。争点になったのはグリホサート使用による土壌の汚染問題で、EUは「環境に危険であり、水生動物にとって毒である」とした。2007年にモンサントは「嘘の広告」で有罪判決を受け、2009年に判決が認められた。
2003年にはデンマークがラウンドアップの散布を禁止した。グリホサートが土壌を通り抜けて地下水を汚染していることが明らかになったことによるものだ。
2008年の科学的研究では、ラウンドアップ製剤とその代謝産物が試験管の中でかなり低い濃度であっても、人間の胚、胎盤、へその緒の細胞に死をもたらすことが明らかになった。代謝産物とは、分解されて除草剤の役目をしなくなった状態のもので、分解されても動物には同じように死をもたらすことが明らかになった。
2009年のネズミの実験では、思春期の時期にラウンドアップにさらされると生殖の発達に障害を起こす「内分泌腺撹乱」の可能性が発見された。「内分泌腺の撹乱」とは、脳内ホルモンのバランスを崩すことで、体が思うように動かなくなったり、気分を自分でコントロールすることが難しくなることをいう。
カナダでは2012年末までに全州で芝生や庭での使用を禁止した。
アメリカでは、長年にわたるラウンドアップの使用によるがん発生が広く問題になり、昨年8月、今年3月と5月の3回にわたってラウンドアップを使用してがんになったとしてモンサント社を訴えていた原告が勝訴した。同様の訴訟は1万3000件以上も起こされている。
直近の5月13日には、カリフォルニア州の夫婦が「ラウンドアップが原因でがんを発症した」として賠償を求めた訴訟で、州裁判所の陪審はモンサントに対し約20億j(約2200億円)の支払いを命じた。原告1人につき10億jという懲罰的賠償額は、2017年にモンサントが農薬部門で得た利益8億9200万jにもとづくとしている。この評決を歓迎してアメリカの市民団体は、「何十年もの間、モンサントはグリホサートが無害であると農民、農場従事者、農薬散布者、住宅所有者に思わせていた。世論は明らかに変化している。発がん性のある農薬を市場から閉め出し、生態系を守る農業に移行しつつある農家を支援するときが来た」との声明を発表した。
なお昨年8月の裁判では2億j(後に約8000万jに減額)、今年3月にも8000万jの賠償をバイエル・モンサント側に命ずる判決が下されている。
こうしたなかで、アメリカではすべての州でラウンドアップの全面禁止を求める運動が開始されている。ニューヨーク州ではラウンドアップを「安全な農薬」と宣伝することが禁止されている。
■次々モンサントを告訴 判決は賠償命じる
フランスでも今年4月、控訴裁判所がモンサントのラウンドアップの一世代前の農薬ラッソーによって農民に神経損傷の被害を与えたとして、モンサントに有罪判決を下した。
ちなみにラッソーは1980年代にアメリカでもっとも多く売られていた農薬だったが、危険性が問題になり米国環境保護局が発がん性の可能性を認め、フランスを含むEUでは2007年に禁止した。だがアメリカと日本では使われ続けている。日本では日産化学が「日産ラッソー乳剤」として現在も販売している。
フランスはラウンドアップに対しても、今年1月に個人向けの販売を禁止した。政府は今後3年をめどに農家向けにも禁止すると公表している。フランスではまた、1700人の医師がつくる連合体がラウンドアップの市場からの一掃を求めて運動を展開している。
さらに養蜂農家の協同組合がラウンドアップに汚染されたとしてバイエル・モンサントを訴えている。ラウンドアップを多く使用してきたぶどう園などでは、農薬への依存を減らす動きが活発化しており、条件のいい所では100%使用を減らし、条件の厳しい所でも70%農薬の使用を減らす計画であり、ラウンドアップの命運はほぼつきている状況だ。
2014年にはスウェーデンやノルウェーがラウンドアップの使用を禁止した。オランダ議会は2015年末でグリホサートの使用禁止を決めた。ブラジルでも2015年連邦検察官が司法省にグリホサートを暫定的に使用禁止にするよう求めた。ドイツ、イタリア、オーストリアなど33カ国は2〜3年後には禁止すると表明している。
スリランカ政府は2014年、ラウンドアップの販売を禁止し、翌2015年にグリホサートの輸入を禁止した。これはカドミウムとヒ素を含む土壌でラウンドアップを使用した場合、飲料水やコメを通して重い慢性腎不全の原因となるとの研究報告を受けてのことだ。
ロシアも2014年4月、ラウンドアップ耐性遺伝子組み換え食品の輸入を禁止した。アラブ6カ国も使用禁止に踏み切っており、ベトナムなどアジア5カ国やマラウィはグリホサートの輸入禁止を決定している。エルサルバドルやチリ、南アフリカ共和国などもラウンドアップの販売を禁止するか禁止に向けて動いている。
流通業界では、昨年8月のアメリカでの判決を受けて、イギリスの流通大手がラウンドアップの販売禁止の検討を始めた。アメリカに本社を置くスーパー・コストコも今年4月、ラウンドアップの仕入れと販売をすべて中止することを発表した。コストコは世界に約768の大型店舗があり、日本にも26店舗ある。
■別名で店頭に並ぶ日本 政府が「安全」とお墨付き
このようにラウンドアップの危険性への認識は世界的に拡散されており、店頭でラウンドアップが簡単に手に入るのは先進国では日本ぐらいになっている。
世界中からはじき出され行き場を失ったラウンドアップが日本市場に一気になだれ込んできており、除草剤では売上トップの座を占めている。日本では日産化学工業が2002年5月にモンサントの日本での農薬除草剤事業を買収し、ラウンドアップの日本での販売権を引き継ぎ、「優れた効力と環境に優しい除草剤」などと宣伝してきた。
日本政府はすでに世界的に危険性が明確になっていた2016年に「グリホサートの安全性を確認した」との評価書を公表した。この評価書を前提に2017年12月には、グリホサートの残留農薬基準を大幅に緩和した。小麦で6倍、ソバで150倍、ゴマで200倍、ベニバナの種子で400倍というけた違いの大幅緩和だ。しかもこのことをマスコミは一切報道しなかった。これによってグリホサートの残留基準は中国の基準の150倍になった。中国からの輸入野菜が農薬まみれで危険だと問題にしていたが、その中国産野菜の方がまだましという殺人的な状況になっている。
また、ラウンドアップの主成分であるグリホサート剤はすでに成分特許が切れており、さまざまな名前で同剤が販売されている。そのなかには住友化学園芸の「草退治」などがある。
ラウンドアップは日本の店頭では「もっとも安全な除草剤」とか「驚異の除草力」とかいった宣伝文句で販売されている。農協の販売ルートにも乗っており、ホームセンターやドラッグストア、100均などでも大大的に扱っている。またテレビCMや新聞広告もされ、危険性についての説明は一切なく、警戒心なしに購入し使用しているのが現状だ。
モンサント社が遺伝子組み換え作物を開発したのは、ラウンドアップに耐性のある農作物をつくり、セットで販売するためだった。ラウンドアップの販売促進は遺伝子組み換え作物導入とセットでもある。日本は世界で最大級の遺伝子組み換え作物輸入国で、日本の遺伝子組み換え食品表示は世界の制度のなかでも緩いため、日本の消費者は知らないうちに大量の遺伝子組み換え食品を食べさせられている。
モンサントのホームページでは「日本は海外から大量のトウモロコシ、大豆など穀物を輸入しており、その数量は合計で年間約3100万dに及ぶ。その半分以上(1600万〜1700万d=日本のコメの生産量の約2倍)は遺伝子組み換え作物」で「日本の食生活安定に大きく貢献している」とし、ラウンドアップとともに「是非、遺伝子組み換え作物の効果やメリットを目で見て、肌で感じて」ほしいと豪語している。
こうしたモンサントの要求に応えて、日本政府はモンサントの遺伝子組み換え作物をアメリカ政府以上に承認していることも明らかになっている。TPP11の発効や今後の日米貿易協定などを通じて、今まで以上に遺伝子組み換え作物輸入の圧力がかかってくることは必至だ。
モンサント社(昨年ドイツのバイエル社が買収)はアメリカのミズーリ州に本社を構える多国籍バイオ化学メーカー。除草剤ラウンドアップが主力商品で、遺伝子組み換え種子の世界シェアは90%であり、世界の食料市場をほぼ独占している巨大なグローバル企業だ。同社は、人間の健康および環境の両方に脅威を与えているという理由から健康情報サイトでは2011年の世界最悪の企業にも選ばれている。
ラウンドアップが世界中で禁止され閉め出されるなかで、唯一日本政府がモンサントの救世主となって一手に引き受ける段取りをとり、日本市場になだれをうって持ち込まれている。国民の健康や生命を危険にさらし、子子孫孫の繁栄にもかかわる国益をモンサントという一私企業に売り飛ばしていることを暴露している。
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/11791
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