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「私が国家」の安倍首相が主導「令和」選考過程も異常
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/251064
2019/04/03 日刊ゲンダイ 文字起こし 「歴史に名を残したい」安倍首相(C)JMPA 新元号が「令和」に決まった2日から、新聞・テレビが選考過程の舞台裏を詳報している。知れば知るほど、「歴史に名を残したい」安倍首相による安倍首相のための一大セレモニーだったことがよく分かり、その異様かつ異常さには戦慄すら覚える。 新元号の政府原案は6案あったという。「令和」の他、「英弘」「久化」「広至」「万和」「万保」で、3案は漢籍、3案は国書が出典だ。A4判1枚の紙にそれぞれ縦書きで記されたものが全閣僚会議で示され、杉田官房副長官が冒頭で「有識者会議では『令和』を評価する意見が多かった」と報告。「令和」は日本の古典である万葉集が由来であることも伝えられた。ちなみに「令和」の考案者は万葉集研究で知られる中西進・大阪女子大名誉教授だとみられる。 こうした説明を受け、河野外相が「私も日本のものから取るのがいいと思います」と口火を切ると、次々と他の閣僚からも賛同する意見が出されたという。 驚いたのは安倍の国書への強いこだわりだ。朝日新聞によれば、2006〜07年の第1次政権時にすでに「元号の典拠は国書の方がいいよね」と周囲に語っていたというし、今年2月下旬には財界人との会合で新元号が話題になった際、自ら「国書」という言葉を2回繰り返したという。 日経新聞も、安倍が昨年冬ごろ「漢籍にこだわる必要はないよね」と周囲に話していたと報じている。 「令和」の「令」は、元号では初めて使われる文字。「和」は、かつて「和」と墨書された額の前を選んで記者団の取材に応じたこともあるほど安倍が好む文字。そして、国書典拠の元号は史上初。さすが「私が国家」と国会で答弁するような人物である。何から何まで安倍サマ主導。元号発表の菅官房長官含め、ヒラメ閣僚は、ただただ首領様の引き立て役に過ぎなかったのである。 元号のありがたみで権威を高める 新元号が漏れないための情報統制も異常だった。閣僚や有識者は会議が始まる前に携帯電話を封筒に入れて預けさせられ、発表まで首相官邸に足止め。なんとトイレにも職員が付き添ったらしい。 衆参両院の正副議長も同様に携帯電話没収を求められたが、赤松衆院副議長が激怒。大島衆院議長が仲裁に入り、結局、発表まで議長公邸で食事を取って情報漏れを防ぐ形が取られた。 こうした過剰なまでの秘密主義について安倍は、1日夕方に出演したテレビ朝日系の報道番組で、「みんなが一同に、発表で(新元号を)知るというのは大切。そのためには情報管理しなければいけない」と正当化していたが、詭弁だ。本質にあるのは「由らしむべし、知らしむべからず」の独裁者の発想。日本国憲法下で今上天皇が象徴であることに努めたのに対し、安倍は、「天皇が時を支配する」という独裁的な戦前の元号に立ち戻っているかのようである。 「過剰な情報統制は、元号のありがたみを極限まで高めるもくろみがあるのでしょう。秘密にされれば誰もが知りたくなる。安倍首相は『知っているのは自分だけ』という優越感に浸るとともに、元号のありがたみを自身の権威に結びつけようとしている。国民主権なのですから、元号だって国民全体で広く議論して決めるような戦後憲法の精神にのっとってしかるべきでした。『天皇が時を支配する』という考えの下、かつては天皇が元号を決めていたわけですが、今回は安倍首相が決めた。首相が時代と時間を支配する力を手に入れたことを見せつけたようなものです」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学) 代替わりの時にたまたま首相という立場にあっただけ。政治色を極力排除する。安倍にそうした慎みは皆無である。 万葉集でも漢籍の孫引き(C)共同通信社
新元号は万葉集が典拠の「令和」と発表されたことに、保守系の閣僚経験者が「支持層にも喜ばれる」と歓迎したという。 元号は中国の古典からというこれまでの慣例を破り、「歴史上初めて国書を典拠」とした。記者会見でもことさら強調していたが、安倍の執拗なまでの国書へのこだわりには“嫌中”の保守層への配慮もある。政権幹部は「日本の漢字文化は中国より下だと見る必要はない。首相は国書採用が時流だと考えていた」と言っていた。 だが、出典となった万葉集の<梅花の歌三十二首>の序文にある「初春令月、気淑風和」という文言は、中国の詩文集「文選」に収録されている後漢の学者・張衡の「帰田賦」の一節「仲春令月 時和氣清」を踏まえているとされる。つまり、漢籍の孫引きなのだ。 そうした中国文化の影響の上で日本文化は築かれ、発展してきていたわけで、「初の国書だ」「漢籍じゃない」と表面的なことばかりアピールすればするほど、安倍の了見の狭さや薄っぺらさが浮き彫りになるというものである。 憲法学者で慶大名誉教授の小林節氏が言う。 「元号自体が中国をマネしたものなのに、『漢籍ではない』とこだわっていることに笑ってしまいます。安倍首相のコアな支持者である日本会議のような国粋右翼の代表は、明治憲法体制の復活を望み、明治だけが日本の伝統だとはき違えている。正しい歴史認識に基づいていない人たちに支えられているので、安倍首相も本当の伝統なんて分かっていない。詰まるところ、自分しかないので、自分が好む歴史、自分が好む元号という“オレ様”基準になってしまうのです」 象徴天皇制憲法の破壊 もうひとつゾッとしたのは、官房副長官の杉田が閣僚に対し「令和」について説明した際、「出典の万葉集は幅広い階層の人が詠んだ歌が含まれ、安倍政権が進める1億総活躍社会とも親和性がある」と解説したことだ。 安倍の記者会見でも、「平成の次の時代の国づくり」を問われ、「次代を担う若者たちが頑張っていける1億総活躍社会をつくり上げることができれば、日本の未来は明るいと確信している」と答えている。何なんだ、これは。「1億総活躍社会」は安倍の看板政策のフレーズだ。所信表明じゃあるまいし、政治色を出すべきではない元号と政権の政策とを関連づけるなんておかしいだろう。 元参院議員の平野貞夫氏も怒り心頭だ。 「政治家たる安倍首相の記者会見は象徴天皇制憲法の破壊です。官房長官が実務的に説明するのならいいが、首相が自分の政策や理念を主張するのは、天皇の政治利用の何ものでもない。そのうえ『1億総活躍社会をつくり上げる』とは……。戦前生まれの私のような者には、国家総動員法の号令にしか聞こえません」 前回の「平成」の元号発表時、なぜ竹下首相が談話の代読を含め、全てを小渕官房長官に任せたのか。天皇を政治利用しないという当たり前の理解があったからだ。 「私が国家」の安倍サマは、そんなことお構いナシ。それどころか、記者会見する自分をより輝かせるため、通常は「青」を使っている背後のカーテンをわざわざ「赤」にして盛り上げた。 「新元号。新天皇即位。参院選。もしかしたら衆参同日選。安倍首相が今年2019年に何もかもを集中させたのは、その先にある悲願の憲法改正に向けた議席確保を目指して戦略を立てているからでしょう。本人が言わなくても『令和』が安倍首相の意中の元号だったことは、みな分かっている。でもメディアがそれをお祝いムードで報じるので、国民も好意的。安倍首相の術中にはまっています」(政治評論家・本澤二郎氏) 共同通信が新元号発表直後の1、2両日に実施した全国緊急電話世論調査で、安倍内閣の支持率は52.8%と3月の前回調査から9.5ポイントも大幅上昇した。今ごろ安倍は笑いが止まらないだろう。日本国民はもはや安倍サマの臣民だ。
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