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安倍政権のロシア急接近は中国への牽制になるのか?
国際的な見方は「日本の対中ロシアカードは役に立たない」
2019.3.25(月) 古森 義久
日ロ首脳が会談、北方領土交渉の打開に至らず
モスクワで行われた日ロ首脳会談の後、共同記者会見を行い握手するロシアのウラジーミル・プーチン大統領(右)と安倍晋三首相(左、2019年1月22日撮影)。(c)Alexey DRUZHININ / SPUTNIK / AFP〔AFPBB News〕
(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)
安倍晋三首相がロシアへの急接近を図ろうとしている。だが、その接近の先になにがあるのか。北方領土は帰ってくるのか。
不透明な展望の中で、安倍首相周辺からは「ロシアへの接近は中国の動きを抑えるためだ」という対中牽制論も聞こえてくる。日本は中国に対抗するための「ロシアカード」を手に入れようとしている、というわけだ。
だが、日本のロシアへの接近が本当に中国の動向や政策に影響を及ぼせるのか、そこには大きな疑問がつきまとう。
米国でも、その効果を疑う声があがっている。ワシントンの大手シンクタンクがネット上で「日本はロシアへの接近によって中国の動きを抑制できるのか」という設問を公開し、各方面から意見が寄せられた。
「対中政策の武器としてロシアカードが使える」という日本側の主張を、ロシアと米国の専門家たちはどう受け止めたのか。結果は、「ノー」が「イエス」の3倍だった。「ロシアへ接近することで中国を操れるようになる」という考えは、残念ながら空疎な願望にすぎないという判定が下されたようである。
正反対に分かれた日ロの専門家の意見
安倍晋三首相のロシアへの急接近には、米国でも強い関心が向けられている。
ロシアのクリミア占拠などに対してトランプ政権は厳しい非難を浴びせてきた。そんな中での日本の「親ロ的」な動向は、米国の懸念をも生んでいる。米側からすれば「同盟国の立場を考慮しないのか」という当然の反応といってよい。
そんな状況の中でワシントンの大手研究機関、戦略国際問題研究所(CSIS)が3月中旬、「日本は中国に対してロシアカードを使えるか」というタイトルのネット上の論壇を開設し意見を求めた。
この論壇では、まず日本の防衛研究所のロシア専門家、兵頭慎治氏が、安倍政権の主張として以下の骨子の意見を載せていた。
「日本のロシアへの接近や日ロ平和条約の締結は、ロシアの最近の中国との連携を抑え、中ロが協力して反日に走るのを防ぐことができる」
「日本のロシアへの接近は、ロシアの中国への依存を抑え、中国のアジアでの膨張も抑制し、中国の日本に対する圧力や威嚇にロシアが同調しないようにすることができる」
一方、同論壇には、反対意見としてロシアの外交戦略専門家ドミートリー・トレーニン氏による以下の趣旨の意見も紹介されていた。
「日本がロシアの対中政策を変えさせることなど絶対にできない。ロシアにとって対日、対中の関係は、まったく次元と比重が異なるからだ」
「現在、中国は軍事面や経済面でロシアが依存すべき戦略パートナーだ。だが、日本は米国のジュニア的存在であり、中国とロシアの連携を離反させる戦略パワーはない」
このように日本の対中「ロシアカード」について、日本とロシアの専門家では見解が正反対に分かれることとなった。
第三者である米国の専門家たちは?
そこで第三者的な立場にある米国の専門家たちに意見を尋ねてみた。
まず、中国の軍事戦略に詳しい米中経済安保調査委員会の委員、ラリー・ウォーツエル氏は次の骨子を語った。
「私の考えはトレーニン氏の意見に近い。日本はロシアとの関係が薄く、中国を動かせる材料が少ない。ロシアとの石油ライン構想でも中国の同意が必要だろう」
「日本はロシアへの接近ではどうしても米国の立場を考慮することが必要となるだろう。米国がロシアをクリミア問題で糾弾し続ける限り、日本のロシアへの接近には限度があると思う」
また、中国の政治動向や海洋戦略を専門に研究する戦略予算評価センター(CSBA)の上級研究員、トシ・ヨシハラ氏は次の趣旨を語った。
「ロシアは対中関係を、対日関係とは切り離して計算している。たとえば中国の弾道ミサイルの増強は日本にとってもロシアにとっても脅威だが、ロシアは独自に対応する」
「日本は中国の対日姿勢に正面から対処すべきだ。ロシアへの対応に中国ファクターを含めると、対中、対ロの両政策ともに的を外す危険が生まれる」
こう語るヨシハラ氏も、どちらかといえばロシア側のトレーニン氏の主張に賛同すると付け加えた。
安倍政権の周辺から流される「中国を牽制するためにロシアに接近する」という主張は、国際的には説得力に欠けるとみられている。日本側がいくら「ロシアを利用して中国の反日志向を抑える」「日本がロシアに接近すれば、ロシアの中国接近を防げる」などと主張してみても、ロシア側の専門家にとっても米国の専門家にとっても、空疎な願望として響くと言わざるを得ないということのようだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55874
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