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「ゴーン前会長保釈の背景と影響」(時論公論)/nhk
2019年03月06日 (水)
岸 正浩 解説委員
清永 聡 解説委員
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/315691.html
日産自動車のカルロス・ゴーン前会長が保釈されました。
最初の逮捕から108日間にわたって身柄の拘束が続き、前会長は自らが築き上げた日産、ルノー、三菱自動車の3社連合の経営トップを退くことになりました。
前会長の保釈の背景と影響について経済担当の岸委員と司法担当の清永で考えます。
【保釈時の様子は】
日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン被告(64)は、午後、東京拘置所から保釈されました。深く帽子をかぶり、マスクをして紺色の作業着姿でした。
その後、午後7時過ぎ、弁護士事務所の窓越しに前会長の姿が見えました。弁護士の後ろを歩きながら落ち着いた表情で話しかけているようにも見えました。
【保釈はなぜ認められた】
(岸)
保釈の申請は今回3回目ですが。どうして今回は認められたのか。
(清永)
一番の違いは、新たな弁護団の戦術が巧みだったということだと思います。裁判所が保釈でポイントにするのは、「逃亡や証拠隠滅の恐れがないかどうか」です。
1回目の保釈申請でゴーン前会長は、「フランスに出国する」ことを希望していました。しかし、これでは海外で関係者と接触しても目が届かないと判断されたとみられ、却下されました。2回目は日本に留まるなどと述べたのですが、なお証拠隠滅の恐れがあると判断されたとみられ、認められませんでした。
これに対し今回、新しい弁護団は、抽象的な条件ではなく、住居に監視カメラをつける、携帯電話はネットに接続しない、さらに録画内容や通話先の記録は裁判所に提出することなど、証拠を隠す恐れがないことを、いくつも極めて具体的に示しました。
こうした具体的な条件をいくつも提示したことが、東京地裁の令状部の裁判官を説得したのだと思います。
【「人質司法」の批判】
(岸)
今回は特に海外から、否認した場合に身柄の拘束が続く「人質司法」への批判が強まりました。これについてはどうでしょうか。
(清永)
この表は起訴までの被疑者段階での身柄拘束の期間です。これだけ見ると、日本が目立って長いようには見えません。また、このうちフランスは原則24時間ですが、「予審」という手続きに入れば、最長4年8か月の拘束が認められるということです。ただ、これだけで比較することはできません。
例えば、アメリカは最大30日となっていますが、実際にはテロやDVのように市民に危害を与える事件を除けば、起訴の前に保釈する運用が広く認められています。
これに対し、日本は起訴前の保釈が認められていません。
さらに、今回の事件はどうだったのか。「容疑者の段階」と「すべて起訴された後」に分けてみてみます。
前会長は逮捕された後、起訴の直後に再逮捕、さらにその後、もう1回再逮捕され、ここまでで半分の50日が経過します。この間は保釈できない状態が続きました。
さらに、すべて起訴された後も、保釈の申請は2度退けられ、勾留はさらに50日あまり続きました。
結局、この2つの期間で合わせて108日。つまり、運用によって、長期間の拘束を続けてきたのです。
再逮捕は捜査の必要性もあります。また、東京地検は「必要性もないのに長期間の拘束をしようという意図はない」としています。
一方で、この再逮捕の繰り返しなどが「海外ではアンフェアな手法に映る」と指摘する専門家もいます。
過去には鈴木宗男元衆議院議員が逮捕から保釈まで437日、籠池泰典前理事長が299日、無罪が確定した当時の厚生労働省の村木厚子さんも164日です。
今回のゴーン前会長は事前に争点を絞り込む手続きが始まる前の保釈です。このため弁護士からはこれでも「異例の早さだ」という声が聞かれました。
ただし、ゴーン前会長を特別扱いはできません。今回の決定によって、今後裁判所はほかの被告でも同じような保釈の判断が求められることになります。今後の刑事司法に与える影響は、大きいとみられます。
もう1つ、「取り調べに弁護士の立ち合い」が認められていないことにも強い批判の声があります。これはアメリカ、ドイツ、フランスではいずれも制度があります。日本では、自白を得にくくなるという捜査側の意見もあって実現していません。
しかし、「長期間の勾留」と「密室の取り調べ」が過去に繰り返し冤罪を招いてきたことから、この点も今後議論が予想されます。
【日産への影響はあるのか】
(清永)
今回の保釈の条件では、裁判所の許可が得られれば、日産の取締役会には出席が可能です。ゴーン前会長の保釈が日産に与える影響はあるのでしょうか。
(岸)
日産の内部からは「過去の人という印象」という声も出ていて、淡々とした受け止めです。今のところ直接的な影響はないと見られます。
背景には「ポストゴーン体制」が動き出していることがあります。ゴーン前会長はまだ、日産の取締役を務めていますが、来月開かれる臨時の株主総会で解任される予定です。さらにゴーン前会長の後任のルノー会長もスナール氏が就任し、影響力はなくなりつつあります。
ただ、ゴーン前会長は無罪を主張していて、今後、自身の名誉回復のために情報を発信することも考えられます。日産としてはその内容が日産の経営体制、ルノーとの関係に影響するのか、注視している状況です。
【3社連合に与える影響は】
(清永)
では、日産、ルノー、三菱自動車の3社連合に与える影響はどうでしょうか。
(岸)
3社の販売台数は1000万台を超え、世界第二位の自動車グループ、事件の後も3社の間で提携関係を維持していくことでは一致しています。
ゴーン前会長の後任のルノーのスナール会長が先月、来日した際に、日産の西川社長と会談し、友好ムードを演出しました。
しかし、日産のゴーン前会長の後任の選任では、日産が第三者を交えた委員会の提言を踏まえて取締役会で選任したいとしています。一方で、ルノーの大株主のフランス政府は、スナール会長を日産の会長にも就かせたい意向です。それぞれ立場が分かれているのが実情です。
3社連合を機能させるためにもスピード感を持って新たな体制作りが求められます。
(清永)
この長期間の勾留は、日本企業にも影響を与えたのではないでしょうか。
(岸)
ゴーン前会長は外国人のプロ経営者として辣腕をふるいました。コストカッターといわれ大規模なリストラを行いましたが、日産を「V字」回復させ、一定の実績も残しました。その後、日本企業が有能とされる外国人の経営者を招き入れることも増えました。
しかし、今回のような事件で長期間の勾留があると、グローバルで活躍している人材があえて日本企業の経営を引き受けることには、慎重になるのではないという懸念も聞かれます。
その意味で、たとえ成果を上げた経営者でも、法律に違反する恐れがあればキチンと指摘するなど、経営者の行き過ぎを未然にチェックする仕組みづくりが求められていると言えるでしょう。
【日本の司法が問われる事件】
(清永)
今回の事件は、日本の司法制度が海外の目にさらされる機会となりました。その影響や波紋は今も続いています。
ゴーン前会長の裁判に向けた手続きは、これから本格的に進められます。
海外の注目を集める中で、この事件は今後も引き続き、日本の司法が公正であるかどうかが問われ続けることを、関係者は十分認識してほしいと思います。
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