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沖縄県民投票の選択肢「どちらでもない」に潜む、3つの落とし穴
https://www.mag2.com/p/news/386925
2019.02.19 高野孟『高野孟のTHE JOURNAL』 まぐまぐニュース
いよいよ2月24日に迫った、普天間飛行場の辺野古移設の是非を問う沖縄県民投票。当初予定されていた「賛成」「反対」に「どちらでもない」という選択肢が加えられたことが各所で議論となりましたが、「そこにはいくつもの落とし穴がある」とするのはジャーナリストの高野孟さん。高野さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』でその理由を詳述するとともに、県民投票を巡る官邸と自民党の姑息と言わざるを得ない「裏工作」等を記しています。 ※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2019年2月18日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。 プロフィール:高野孟(たかの・はじめ) 1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。 「どちらでもない」で日本はこうなった!──投票率に勝負がかかる沖縄県民投票 2月5日付朝日新聞の川柳欄の金賞は「『どちらでもない』で日本はこうなった」だった。五七五ならぬ七五五の変調ながら、何事によらず論理的に詰めて考えて自分なりの意見を持つことを避けたがる日本人の性癖を自嘲しつつ、沖縄県民にはこんな日本人の真似をしてくれるなよと暗に呼びかけた、なかなかの一句である。 「どちらでもない」は、本来、シングル・イシューでの政策選択を問う投票には相応しくない。しかし、当初5つの市で市長と市議会が投票そのものを拒否する態度に出ていた状況を打開して「全県実施」という実をとるには、玉城デニー知事と県議会与党にとってやむを得ない妥協だった。実際、この1項を加えて3択とすることをよしとして参加に転じた宜野湾市の松川正則市長は2月1日の会見で、「宜野湾は普天間飛行場を抱えている当事者で、市民にも葛藤がある。気持ちとして『どちらでもない』という選択肢があることで、投票しやすくなるのではないか」と語った。 宜野湾市民に限らず沖縄県民の中に、「世界一危険な軍事基地」とまで言われる普天間の存続を願う人がいるわけがない。と同時に、その危険を辺野古の新基地に移し替えただけでは何ら根本的解決には繋がらないということも、誰もが分かっている。とすると、そこで辺野古基地建設に「賛成」か「反対」かを2択させるのは過酷な話で、例えば辺野古には反対だが普天間の1日も早い閉鎖を願っているという人は、悩んだ末に、その悩ましさの表現として「どちらでもない」を選ぶかもしれないという訳である。 そこに潜む落とし穴 一見すると、3択化によって有権者の気持ちに一層寄り添った投票が可能になったかに映るけれども、そこにはいくつもの落とし穴がある。 まず第1に、自民党側からすれば「どちらでもない」を選択肢に加えたことは、辺野古建設「反対」票を増やさないための手段であり、迷った末に「反対」に行ってしまう票を食い止める防波堤となることに期待をかけている。 第2に、それが投票率を下げる手段となるかもしれない。「どちらでもない」の人は、上述のように真剣に悩み、投票所に行ってもまだ悩んで投票するのだろう。しかしそういう人ばかりとは限らず、「どう考えたらいいか分からない」「自分の意見がない」「どうでもいいので皆さんに任せます」という人も少なくないに違いない。ところがそのような人たちは、積極的に行動すべき動機を持たないので、わざわざ投票所に行くことがないのではあるまいか。「どちらでもない」という投げやり気分とも見える選択肢をちらつかせることで、投票への意欲を削ぐ訳である。投票率が50%に達しないようなことになると投票の意味は著しく損なわれる。 第3に、従って、結果的に「どちらでもない」は余り多くならないと予想されるが、仮にそれが増えて最多となり、しかも投票資格者数(約116万人)の4分の1(約29万人)を超えた場合は、条例の決まりで知事にその結果を尊重して行動する義務が生じる。「反対」が4分の1を超えて最多となれば知事の国に対する立場は強固になるが、「どちらでもない」が最多では尊重のしようもなく、県民投票そのものが戯言となってしまう。 そこで、辺野古建設に反対する「オール沖縄」側としては、まず何としても投票率を上げるようにしながら、「どちらでもない」に流れる票を出来るだけ少なくして「反対」票が圧倒するように仕向けなければならない。 昨年9月の県知事選の投票率は63.24%で、玉城票は39万6,600票だった。仮に県民投票が投票率50%=58万票で、知事選での玉城票がそのまま「反対」票に来れば70%近くとなって文句なしの圧勝となる。そこまで行かなくとも、29万票に達すれば4分の1クリアでまずまずの勝利である。 民主主義を貶める官邸と自民党 直接民主主義の手段を活かして間接民主主義の弱点を補うというのは、成熟国では当たり前の常識に属するけれども、日本ではそうではない。 そもそもこの県民投票は、元シールズ琉球の元山仁士郎氏が中心となって「辺野古県民投票の会」を立ち上げて署名運動を始めたことに端を発する。署名はたちまち9万2,848も集まり、その請願を受けて県議会が県民投票のための条例を制定した。 これに対して異常とも言える敵意を露わにしたのが安倍官邸で、まず第1に、自民党を通じて宜野湾市をはじめとするいくつかの市の市長と市議会に対して、この県民投票に不参加を表明するよう裏工作を行った。その結果、5つの市で不参加方針が打ち出され、そのため全県民が直接投票で民意を表明するというその趣旨は著しく毀損されることになった。 しかしこれは安倍政権にとっては実はまずい話で、もし国会が発議して改憲の国民投票が行われるということになって、どこか地方の県や市町村が「こういう形の改憲発議には疑問があるのでウチは参加しません」と言い出した場合にそれを咎めることが出来なくなる。ところが安倍首相は、直接民主主義と間接民主主義の関係についての原理的考察とは無縁の脳的生活をしているので、たぶんそこまで思い及ばなかったのだろう。目先の沖縄での困難を打開するために強行突破方針を採ったのだと推測される。 この自民党攻撃に対して元山氏は、宜野湾市役所前でハンガー・ストライキを敢行する。1月15日からドクター・ストップがかかった19日まで、水だけしか飲まずに座り続けるというその決死的な行動に対して、市民の間では「若者が命懸けで訴えているのだから」という賛同が広がった。その賛同の中には、辺野古反対・玉城支持の創価学会の2〜3割の勢力も含まれていたと言われている。そのため、自民党の第1堤防は決壊し、5市も県民投票に参加することになった。 そこで第2の防衛線が、既に触れたように「どちらでもない」という目眩ましのような選択肢を付け加えることだった。 さらに第3に、自民党として最後の手段は、事実上の投票ボイコットである。 支持者を投票に積極的に動員して「賛成」もしくは「どちらでもない」に入れさせようとしても、「反対」を上回る見通しはない。そうであれば投票に行かせないでむしろ投票率を50%以下になるようにして、「こんな投票は意味がなかった」と言えるようにしたい……。 安倍官邸がこのように、苦心惨憺、のたうち回るようにして沖縄の民主主義を押しつぶそうとしているのは、哀れとしか言いようがない。 なお、共同通信と沖縄地元2紙が16〜17日に行った電話調査では、県民投票に「行った」「必ず行く」「たぶん行く」と答えた人のうち辺野古移設に「反対」と答えたのは67.6%であったのに対し「賛成」は15.8%、「どちらでもない」は13.1%だった。大方の予想通りの数字で、「どちらでもない」がトップを占めることはないし、それと「賛成」を合わせても「反対」を上回ることはないだろう。問題は、この70%近い「反対」を投票率50%以上で堂々と表現できるかどうかである。 image by: Twitter(@沖縄県庁広報課)
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