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2019年2月18日 橘玲
レーダー照射問題や徴用工問題などで浮かび上がる「日本人」と「韓国人」のやっかいなアイデンティティ
[橘玲の日々刻々]
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2021年9月末の任期を見据え、安倍首相は2つの「レガシー」を目指しています。憲法改正と北方領土交渉で、いずれかひとつでも実現すれば日本の現代史に名を残すのは間違いありませんが、どちらも状況はかんばしくありません。
それでも「モリカケ」で足を引っ張られた憲法改正より目がありそうだと、「うまの合う」プーチン大統領との会談を繰り返していますが、クリミア半島併合などでナショナリズムが沸騰するロシアがやすやすと領土の割譲に応じるとは思えません。案の定、ラブロフ外相は日本に対し、「第二次世界大戦の結果を認めよ」と言いたい放題です。
戦争末期、ソ連は日ソ中立条約を一方的に破棄して満州と南樺太に侵攻し、日本軍の捕虜約57万5000人を抑留、劣悪な環境で約5万5000人が死亡する悲劇を引き起こしましたが、いまだに謝罪も賠償もしていません。そのうえ「悪いのはぜんぶお前たちだ」という暴言ですから、「愛国者」は激怒してもおかしくありませんが、不思議なことに大きなニュースになることもなく、ほとんど誰も気にも留めていないようです。
さらに奇妙なのは、その「愛国者」が、海上自衛隊の哨戒機が韓国海軍の駆逐艦から火器管制レーダーを照射されたとして大騒ぎしていることです。これも確かに隣国とのやっかいな問題ですが、別の隣国が不法に占拠した領土を返還する気がないと公言したことと、どちらが重大でしょうか。
こうした事情は、じつは韓国も同じです。
2017年、在韓米軍へのTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)配備を決めた韓国に中国が激怒し、軍用地を提供したロッテは中国国内の店舗を一時営業停止に追い込まれ、中国の旅行業者は韓国観光の取り扱いをやめました。ところが、こんないやがらせをされたにもかかわらず韓国内で「反中国」の大規模デモが起きるようなことはなく、「逆らったってしょうがない」というあきらめムードが広がりました。
その影響を比較すれば、北方領土返還や中国からの執拗な制裁に比べ、日本の哨戒機にレーダーを当てたとか当てないとかはどうでもいい話です。当事者同士で話し合って、「これから気をつけよう」で済ませればいいだけのことではないでしょうか。
しかし、日本にも韓国にもこれを「ささいな出来事」にできない事情があります。
日本では「嫌韓本」が次々とベストセラーになったことからもわかるように、「韓国ぎらい」が「日本人のアイデンティティ」と結びついています。慰安婦や徴用工問題でさんざん「理不尽」なことをされた「日本人」にとって、レーダー照射問題は留飲を下げる格好の機会なのです。
韓国では、植民地時代を全否定することが「正義」とされており、どんなことであれ日本に頭を下げることは「民主韓国」の否定だと見なされます。韓国側の反論が二転三転しつつもぜったいに非を認めないのはこれが理由でしょう。
日本と韓国は合わせ鏡のような関係で、お互いを否定し合うことで「日本人」「韓国人」のアイデンティティがつくられています。この不幸な状況はとうぶん変わりそうもないので、お互い、それに慣れるしかないのでしょう。
『週刊プレイボーイ』2019年2月12日発売号に掲載
橘 玲(たちばな あきら)
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作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない?残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)、『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は、『もっと言ってはいけない』(新潮新書) 。
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https://diamond.jp/articles/-/194450[橘玲の日々刻々]
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2021年9月末の任期を見据え、安倍首相は2つの「レガシー」を目指しています。憲法改正と北方領土交渉で、いずれかひとつでも実現すれば日本の現代史に名を残すのは間違いありませんが、どちらも状況はかんばしくありません。
それでも「モリカケ」で足を引っ張られた憲法改正より目がありそうだと、「うまの合う」プーチン大統領との会談を繰り返していますが、クリミア半島併合などでナショナリズムが沸騰するロシアがやすやすと領土の割譲に応じるとは思えません。案の定、ラブロフ外相は日本に対し、「第二次世界大戦の結果を認めよ」と言いたい放題です。
戦争末期、ソ連は日ソ中立条約を一方的に破棄して満州と南樺太に侵攻し、日本軍の捕虜約57万5000人を抑留、劣悪な環境で約5万5000人が死亡する悲劇を引き起こしましたが、いまだに謝罪も賠償もしていません。そのうえ「悪いのはぜんぶお前たちだ」という暴言ですから、「愛国者」は激怒してもおかしくありませんが、不思議なことに大きなニュースになることもなく、ほとんど誰も気にも留めていないようです。
さらに奇妙なのは、その「愛国者」が、海上自衛隊の哨戒機が韓国海軍の駆逐艦から火器管制レーダーを照射されたとして大騒ぎしていることです。これも確かに隣国とのやっかいな問題ですが、別の隣国が不法に占拠した領土を返還する気がないと公言したことと、どちらが重大でしょうか。
こうした事情は、じつは韓国も同じです。
2017年、在韓米軍へのTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)配備を決めた韓国に中国が激怒し、軍用地を提供したロッテは中国国内の店舗を一時営業停止に追い込まれ、中国の旅行業者は韓国観光の取り扱いをやめました。ところが、こんないやがらせをされたにもかかわらず韓国内で「反中国」の大規模デモが起きるようなことはなく、「逆らったってしょうがない」というあきらめムードが広がりました。
その影響を比較すれば、北方領土返還や中国からの執拗な制裁に比べ、日本の哨戒機にレーダーを当てたとか当てないとかはどうでもいい話です。当事者同士で話し合って、「これから気をつけよう」で済ませればいいだけのことではないでしょうか。
しかし、日本にも韓国にもこれを「ささいな出来事」にできない事情があります。
日本では「嫌韓本」が次々とベストセラーになったことからもわかるように、「韓国ぎらい」が「日本人のアイデンティティ」と結びついています。慰安婦や徴用工問題でさんざん「理不尽」なことをされた「日本人」にとって、レーダー照射問題は留飲を下げる格好の機会なのです。
韓国では、植民地時代を全否定することが「正義」とされており、どんなことであれ日本に頭を下げることは「民主韓国」の否定だと見なされます。韓国側の反論が二転三転しつつもぜったいに非を認めないのはこれが理由でしょう。
日本と韓国は合わせ鏡のような関係で、お互いを否定し合うことで「日本人」「韓国人」のアイデンティティがつくられています。この不幸な状況はとうぶん変わりそうもないので、お互い、それに慣れるしかないのでしょう。
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作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない?残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)、『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は、『もっと言ってはいけない』(新潮新書) 。
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