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この10年で1000万部減…日本の新聞に再生の芽はあるか 鍵をにぎるのはエンジニアだ!
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59536
2019.02.09 下山 進 メディア研究者 現代ビジネス
「1999年の刊行当時、日本人にかくも壮大かつ重厚なノンフィクションが書けるのかと驚嘆したものだ」と若田部昌澄(現日銀副総裁)が、2017年9月に評したノンフィクション『勝負の分かれ目』の電子版が出る(文庫も2月20日に重版出来)。
技術と市場経済の変化がメディアを否応なく変えていく様を重層的に描いた同書は、インターネットの到来以降、臨界点に達している新聞・出版の紙メディアの現在の危機的状況とあいまって、20年ぶりの評価をうけている。著者の下山進氏が、この20年のメディアの大変化について記した電子版特別付録を公開する。
「破壊的縮小」が進行中
1999年末に発表した『勝負の分かれ目』という本のエピローグにこんなことを私は書いていた。
〈日本のマスコミ全体に目を移せば、新聞や放送はそれぞれ再販制度、放送法などの規制に守られて業界内での格差はあるにせよ、とりあえず安泰であるかに見える。しかし、この変化の波(すでに70年代に日本の製造業は経験し、90年代に日本の金融業は経験している)は、やがてこうした太平の惰眠を貪り、旧来の方法を墨守している新聞や放送界にもやってくるだろう〉
2017年7月、日本新聞協会のデータを調べてみて驚いた。その変化の波はすでに日本の新聞を直撃していたのである。
2006年には5231万部あった新聞の総部数はこの10年で約1000万部失われ、売り上げベースで、5648億円の減収となっていた。
これは破壊的縮小と言っていい。
さらにNHK放送文化研究所の5年ごとの国民生活時間調査を1975年から追っていくと、この変化は将来も加速度的に進むことがわかった。
新聞は現在60代、70代の世代が20代、30代のころからもっとも購読率が高く、それが、ずっと続いてきた。2015年の最新調査では、10代男性で新聞を1日15分以上読む人の割合はわずか4%、20代でも8%、30代でようやく10%というありさまだ。
現在の60代、70代が健康寿命に達する時に新聞の宅配は入院止め、介護止めという状態になる。「あと5年で、さらに1000万部の紙の部数が失われ、10年では半減するだろう」とは、ある大手紙の先進的な幹部の予測だ。
ヤフー・ジャパンからの示唆
こうした変化は、もちろんインターネットという技術革新の結果やってきた。新聞や出版・放送は、言語の障壁があるので金融業や製造業のような競争にさらされないと1990年代までは考えられていたが、それを楽々と超えてやってきたことになる。
たとえばヤフー・ジャパンが創業されたのはたかだか96年4月のことだった。ロイタージャパンからの配信をうけてヤフーニュースを始めたのは96年7月である。
井上雅博代表取締役社長(2012年6月まで)の「うちは独自コンテンツを作って流すということはしない。どことも等分につきあって、ポータルに徹する」という経営方針のもと、日経を除くほとんどの新聞社からニュース配信をうけプラットフォームとして成長した。
06年には1737億円だった売り上げは、通販会社等の買収があるとはいえ、16年には8537億円にまでなった。この10年で新聞業界全体が失った売り上げを上回る額の増収をたった1社であげたことになる。
新聞各社が業界組合方式でポータルをつくりヤフーへの対抗軸となろうとした「あらたにす」も失敗に終わり、新聞各社は今、打つ手がないように見える。
生き残るためのヒント、成長するためのヒントはどこにあるのだろうか?
「ニューヨーク・タイムズが紙からデジタルへの体質転換をこの5年で見事に行なった。それを研究すればよいのではないか?」とはヤフー執行役員の片岡裕さんのアドバイスだった。
必読のタイムズ社内調査
「Newspaper is dead!」
『CIA秘録』で全米図書賞を受賞したニューヨーク・タイムズの調査報道記者ティム・ワイナーを、担当編集者として2008年11月に日本に招聘したときに、ワイナーが吐き捨てるようにして言った言葉だ。
リーマンショックの後、ニューヨーク・タイムズの広告収入は激減、資金ショートをおこしかかり倒産寸前。カルロス・スリムというメキシコの大富豪に、6.4%の株を買ってもらい、さらに2億5000万ドルの融資をうけて急場をしのいだ。そうした状況の中ワイナーはタイムズの将来を悲観していた。
しかしタイムズは、血の滲むような努力の末に、体質転換をなしとげたのである。そのポイントは、「紙の新聞を発行していた会社」から「紙の新聞も発行している会社」への移行だ。
11年に有料電子版を始めたニューヨーク・タイムズは、しかし14年の時点でも電子版の伸びはゆっくりとしたペースだった。
それを変えたのが、14年の「Times Innovation Report」だ。社内の有志が、社主の息子であるアーサー・グレッグ・サルツバーガーの許可を得て8人による調査チームをたちあげ、半年にわたって社内外500人以上に取材し書き上げた97ページにわたる社内文書だ。
メディア史上の最重要文書
日本の新聞人は必読。
文書は、いまだにタイムズが、紙の新聞を毎朝出すことを前提として全ての社内組織がまわっていることを具体的にあげてゆき、それを「ウェブにタイムズのニュースを出すこと」を中心に組み換える必要性を訴えるものだった。
〈タイムズでは、記事が紙の新聞に掲載された時仕事が終わると考える。ハフィントンポストでは、記事がウェブにアップした時に始まると考える〉
当時、タイムズは、電子版を始めているにもかかわらず、エンジニアが次々にバズフィードなど新興メディアに抜けていっていたが、その原因についても追及していた。
・技術部門の人事が、エンジニアリングやウェブがわからない編集局から来た人間によって行なわれていること ・編集局の人間が「業務部門とは一線を画す」という意識のもと、エンジニアと相談をする社内的な空気になっていなかったこと ・技術の部署の仕事が、ウェブでの創造的なニュースの表現方法を共につくりあげるというところになく、ウェブニュースの不具合の「解決役」として出入りの業者のような扱われ方をしていること |
等々が細かく具体的に指摘されている。
紙からデジタルへ、社内機構や採用にいたるまで変えていかなくては、タイムズは生き残れない、とする社内文書は外部にリークされ、バズフィードが「メディア史上もっとも重要な文書」として報じた。
このレポートが出るとほぼ同時に、女性の編集局長だったジル・アブラムソンは更迭(解雇)され、デジタルを社の中心にする機構改革が社内で始まった。
デジタル有料読者を第一に
そして3年後、今度は経営陣公認のもとで再調査が行なわれ、その結果は「ニューヨーク・タイムズ2020」(17年1月)としてまとまった。
ここでは、3年前と比べてさらにはっきりと問題意識が整理されている。
3年前には、バズフィードやハフィントンポストなど無料広告モデルのメディアを競争相手として分析していたが、この17年のレポートでは、その骨子を、「我々は、有料講読第一(Subscription First)のビジネスの上になりたっている」としたのだ。
〈クリックの数を稼ぎ、低いマージンの広告料金をとるのではない。ページビューレースにも参加はしない。強いジャーナリズムを提供することで数百万人の世界中の人が、お金を払おうとすること、そのことにこそ、ニューヨーク・タイムズの合理的なビジネス戦略はあるのだ〉
デジタル有料版にいかに読者を囲い込んでいくか、そのためにどんな工夫が考えられるかがそこには綴られていた。
タイムズが、1970年代に、ニューヨーカーなどの雑誌のフィーチャーストーリーの成功を見て、それまでの「記録の新聞」から新聞でも魅力的なフィーチャーストーリーをとりいれていったことは「イノベーションレポート」であげられていたが、ウェブ上で動画やチャートなどを使ったまったく新しいニュースの伝え方がある、としてその社内教育を提案するなどしている。
このレポートが出た2017年、タイムズはこれまでタイムズがやらなかったような攻撃的な調査報道を、セクハラの分野で連打する。
ひとつはフォックスニュースのアンカー、ビル・オライリーのセクハラ。1300万ドルが口止めのために女性たちに支払われたことを暴露。オライリーはタイムズの報道で職を追われる(調査期間8ヵ月)。
次がシリコンバレーの複数のベンチャーキャピタリストのセクハラ。
そして10月5日に最初の記事が出たハリウッドの実力派プロデューサー、ウェインスタインの30年以上にわたるセクハラとそのもみけしの告発だ(2人の女性記者が4ヵ月かけた)。
しかもこれらの報道をたんに電子有料版で流すだけでなく、SNS等を使って積極的に拡散させ、読者にペイウォールを超えさせた。そして初報だけでなくオピニオン面で被害をうけた女性が原稿を寄せるなど、さまざまな形で進展していく形をとったのである。
17年の第3四半期のタイムズの投資家向けの発表によれば、その結果、タイムズの有料電子版オンリーの契約者数は、248万7000部にまで伸びた。16年の第3四半期の終った時点では、156万3000の契約者数だったから、実に1年で100万人の読者を上乗せしたことになる。最新の2018年第3四半期の数字では309万5000部を記録している。
タイムズは紙の部数は、平日で57万1500部、日曜版が108万5700部だから、有料電子版で読む人のほうがはるかに多いことになる。
「欧米の新聞が次々に倒産しているのは、収入源の7、8割が広告収入で、不況時には企業出稿が大幅に減るからだ」と言う日本の新聞人がいるが、タイムズは、有料電子版の始まった12年には、購読料収入が広告料収入を上回り、現在の収益構造では、購読料収入が61%を占めるまでになっている。
ニューヨーク・タイムズの09年以降の売り上げをみていくと、ほぼ横ばいで推移している。紙の広告料収入は下がりつづけているので、電子に置き換える努力をしなければ、ワイナーが悲観したような将来がタイムズには待っていたことになる。
生き残りの解を学生と探る
日本の全国紙には津々浦々にまではりめぐらされた販売店網がある。この販売店網に支えられた宅配制度によって世界一の部数をほこる新聞が可能になった。
しかし、現在は逆にこのイノベーションが、デジタル化にブレーキをかける「イノベーションのジレンマ」となっている。
紙を中心として新聞業を成り立たせていくのは将来的には難しいことだけは、はっきりしていると思う。
ではどうしたらよいのか?
私は、2018年4月から慶應義塾大学環境情報学部、総合政策学部に講座を持ち、学生と一緒に、「今後生き残っていくメディアの条件」を、調査し考えていくことにした。
慶應のこのふたつの学部(慶應SFC)は、教授陣の半数が工学系で、学生はエンジニアリングと文科系科目の両方を学ぶという非常にユニークな学部だ。
「エンジニアと編集の有機的な融合なくしては、新たな道は開けない」
これは、グーグルがなぜ旧メディアを一掃するような破壊力をもったかを描いた『グーグル秘録』の著者で「ニューヨーク」誌のメディア専門記者ケン・オーレッタが来日の際に繰り返し私に言っていた言葉だった。
ならば、これからのメディアを担うであろう世代でエンジニアリングを学ぶ若者たちにその解を探してもらうのも面白いのではないか。
「2050年のメディア」と題するそのプロジェクトが、「イノベーションレポート」がニューヨーク・タイムズの体質転換に果たしたような役割を、日本の新聞社に対して担ってくれればよい、と考えている。
日本の新聞各社の協力を願うや切。
「日本人にかくも壮大かつ重厚なノンフィクションが書けるのか」若田部昌澄氏激賞!
(初出:『新聞研究』2018年3月号)
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— 現代ビジネス (@gendai_biz) 2019年2月8日
「99年の刊行当時、日本人にかくも壮大かつ重厚なノンフィクションが書けるのかと驚嘆したものだ」と若田部昌澄(現日銀副総裁)が、2017年9月に評したノンフィクション『勝負の分かれ目』の電子版が出る――というリードで現代ビジネスが電子版特別付録を公開してます! https://t.co/Gi6Qq2pqPg
— 下山進 (@twnomics) 2019年2月9日
今のままじゃ再生なんてないに決まってる / この10年で1000万部減…日本の新聞に再生の芽はあるか (現代ビジネス[講談社] | 最新記事) #NewsPicks https://t.co/mb1Es4OgVs
— 光輝 (@sonoda0529) 2019年2月9日
広告を沢山入れて
— 黒ひげ (@youcannotseeme1) 2019年2月9日
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もう 文屋の時代ではない ということ。テクノロジーを知ること。 / この10年で1000万部減…日本の新聞に再生の芽はあるか (現代ビジネス[講談社] | 最新記事) #NewsPicks https://t.co/3VNkiTPiiA
— GanBaro_T8K10X (@Laplus_Box) 2019年2月9日
正直媒体の問題というよりは内容の問題な気はする。
— anti_stylish (@anti_stylish) 2019年2月8日
どこででも載せている記事ではなくて、その記者の考え方を前面に出して見たり、会社が報道すべきというものを特集するなど独自性が... #NewsPicks https://t.co/Q1RpUllEfr
NY紙の社内有志による調査チームの報告。紙の新聞を毎朝出すことを前提として全ての社内組織がまわっていることから、「ウェブにタイムズのニュースを出すこと」を中心に組み換える必要性を訴えた。さんのコラム。https://t.co/JFgbL6t0bf 社内機構や採用にいたるまで変える。
— 石川一敏 (@ik108) 2019年2月8日
一つ、官邸お気に入りの記者クラブを解散させる。二つ、特権のような休刊日を廃止する。三つ、社説に力を入れる。それが出来るなら発行部数はV字回復。国民は馬鹿じゃないよ。
— myline1919 (@myline1919) 2019年2月9日
この10年で1000万部減…日本の新聞に再生の芽はあるか https://t.co/8Nxf74kcfi #現代ビジネス
消費者には全くささらない大上段からのジャーナリズムどうこうではなく、優遇された土地を活用した不動産ビジネスしっかりとやっていけば、会社としては存続できる / この10年で1000万部減…日本の新聞に再生の芽はあるか (現代ビジネス[講談社] | 最新記事) #NewsPicks https://t.co/sKg0qOq96A
— 岡村 聡 (@satoshi_okamura) 2019年2月9日
これだけ無料で情報を集められる近代において、月数千円を払う方が個人的には理解できないし、1つの媒体に絞るとその媒体記者のバイアスが入って正しい情報がキャッチできなくなる。ましてや紙とか手が黒くなるだけ。 #NewsPicks https://t.co/9tKbVpVEP1
— Takehide.W|渡邉 高之 (@takehide_w) 2019年2月9日
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