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平成の敗北日本
2019/02/07
イノベーションの風を読む
川手恭輔 (コンセプトデザイン・サイエンティスト)
世界の株式市場が不安定になってきています。これまでアメリカの株高を牽引してきたGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などが成長力を失ってしまったのではないかという不安が広まり、昨年の夏を過ぎてから主要なIT株が軒並み下落傾向にあります。
いわゆる「弱気相場入り」し、当面の間は株価上昇が期待できないのではという観測もあります。さらに、米中貿易摩擦による景気減速の懸念に加え、トランプ米大統領の政権運営の不安定さが投資家の動揺を招いています。一般的に株価は半年から一年先の景気の先行指標であると言われていますので、今後の景気の悪化を暗示しているように思います。
トランプ大統領が掲げるアメリカ第一主義の政策は、一時的に米国を豊かにするかもしれませんが、貿易の自由化に逆行する関税引き上げは米国の市場の魅力をそぎ、中国との報復関税合戦はお互いの輸出を制限することになります。これらは世界経済に深刻な影響を及ぼし、結果的には米国の景気も悪化するのではないでしょうか。当然、日本の景気も深刻な風邪をひくことは避けられません。
リーマンショックという誰も予測できなかった衝撃によって、世界的な景気の低迷や円高などが引き起こされ、グローバルな競争力を失ったパソコンやテレビ事業などの業績悪化によって経営不振に陥った日本のコンシューマエレクトロニクス産業は、事業の売却や撤退、そして大規模な人員削減などのリストラを繰り返した結果、ようやく回復の兆しが見え始めました。しかし、次の予測不能な衝撃への備えはできたのでしょうか。
(wenmei Zhou/Gettyimages)
敗北したのは財界と政治
「平成の30年間、日本は敗北の時代だった」。経済同友会代表幹事の小林喜光氏が、1月30日の朝日新聞朝刊のインタビューで、アベノミクスはそれ自体が成長の戦略だったわけではなく、なにか独創的な技術や産業を生み出すための時間稼ぎに過ぎなかったと話していました。そして、皆で楽しく生きていきましょうという空気で取り巻かれた日本の国民や政治家は敗北を自覚せずに、顕著な結果を生み出すことができないまま新陳代謝を怠った時代だったと平成を総括しました。
「しかし、アベノミクスに小林さんを含め財界も手をさしのべました。結果的に時間稼ぎに加担した責任は軽くないでしょう」と問われた小林氏は、「ネット社会のいまは、財界トップと言っても、持っている情報が一般の社員に比べて特段に優れているわけでもないから、社会的地位も特段に高いわけでもない。そうした状況で、官邸一体体制の中、経済財政諮問会議や未来投資会議など政府の意思決定過程に組み込まれてしまえば、できることもたかがしれている」と弁明しました。
日本の国民や政治家は敗北を自覚していなかったのでしょうか。もし自覚したとして、そこから何かが生まれたのでしょうか。小林氏の言うように、戦後の日本の経済発展の時代に、経営者として社会に強く関わって変革していこうという意思と矜持を持った財界人が数多くいたことは確かですが、独創的な製品や産業を生み出してきたのは(少なくともその時点では)財界人ではなかったと思います。
「カメラはピーク時から80%減少しましたが、まだ落ち込むでしょう。コンシューマやハイアマチュア向け市場の部分がどれほど残るかは、見えない。確実に残るプロ市場以外は、10年後などの将来には素人向けのカメラ市場は消滅し全部スマートフォンに置き換わる可能性も高いと思っています」
こちらは、週刊ダイヤモンド新年合併特大号に掲載された、キヤノンの会長兼CEO・御手洗冨士夫氏の言葉です。フィルム時代からカメラの盟主であったキヤノンのトップが、コンシューマ向けのデジタルカメラの市場がスマートフォンによって消滅するだろうと敗北を認めたのです。
キヤノンに限らず、これまでコンシューマ向けの製品をつくってきた日本の製造業は、独創的な製品や産業を生み出すためのチャレンジを諦めて、デバイス事業やBtoBのビジネスへのシフトを始めています。少なくとも、日本のコンシューマエレクトロニクス産業は敗北を自覚していなかったということはないでしょう。米国のソフトウェアとインターネットを基盤とした新しいビジネス、中国や台湾や韓国などのIT系の製造業に敗北したことを随分前から自覚しているはずです。自覚していても、なす術がなかったと観るべきではないでしょうか。
小林氏は、世の中を動かすために財界人だけで群れて固まらず、学会や知識人、若い人たちも含めた幅広い団体、いわば知的NPOを作って意見を交わし、社会に問いかけ、政治に注文することが必要だと解いています。財界人は政府の意思決定過程に組み込まれるのではなく、学会や知識人や若い人たちと一緒になって社会や政治を動かすべきだと言うのです。
私はこの意見に反対です。「若い人」がどのような人を指しているのかはわかりませんが、財界も学会も政府も、そして知識人もイノベーションの主役ではありません。それ以外の人たちがイノベーションを起こしてきました。財界や政府は余計なことをして、その邪魔をしなければ良いのです。敗北したのは国民ではなく、財界と政府なのではないでしょうか。
ソフトウェアの血
米国という明確な目標があって、その目標に追いつき追い越すことに成功した日本の製造業は、かなり保守的になっていて「モノづくり」という成功体験から離れることができないようです。すでにコンシューマ向けの製品の競争のパラダイムは、生産の力からソフトウェアの力にシフトしています。しかし、これまでハードウェアの価値の向上に集中してきた製造業は、ソフトウェアの重要性を理解できないまま投資を怠ってきました。
世界の企業の時価総額のランキングにモノづくりの企業はほとんどなく、日本企業ではトヨタ自動車が四十数位に入っているだけだと、小林氏も指摘しています。その自動車産業も、電動化という大きな変革期に差し掛かっています。
電動化によって、日本の自動車メーカーが競争優位を確立してきたエンジンの代わりにモーター、インバーター、バッテリーが駆動のプラットフォームになり、これまでの部品の多くが不要になって部品点数も大幅に少なくなります。自動車のバリューチェーンが短縮化され大きく変化することになります。トヨタにとって、それがジレンマであるだけでなく、テスラを見ればわかるように電気自動車はソフトウェアとの親和性が高く、その重要度が増すという驚異でもあります。
自動車産業の競争のパラダイムは、自動技術や、シェアリングなどのサービスのためのクラウドシステムやスマホアプリといった幅広いソフトウェアの力に移りつつあります。デジタルカメラは、非常に小さなカメラモジュールというハードウェアのスマートフォンに敗北しましたが、画像処理のAIやクラウドの写真共有サービスといったソフトウェアの力に屈したのです。
成功した企業はイノベーションのジレンマに陥り、自らを変革することができません。株主優先の古い米国式経営を手本とし、目先の利益と効率を追求してきた経営者は、無駄と一緒にイノベーションの芽を摘み取ってしまっただけでなく、その人材を潰してきました。組織の中で人材は熱意を失い、あるいは流出してしまっています。
「劣化は老いから始まったと思います。考えない。新しいものに果敢に挑み、切り開くエネルギーも枯渇してきました」という小林氏の言葉には、多くの人が賛同すると思います。老いた日本の製造業には、ソフトウェアの血を輸血する必要があります。しかし、その製品事業をソフトウェアの力でどのように変革するかという具体的な方向性を示すことができる人が企業の意思決定に参画していなければ、ソフトウェアエンジニアを大量に採用したり、ソフトウェアのベンチャー企業を買収したりしても、流血がさらに酷くなるだけです。
日本経済の新陳代謝
米国も中国も、経済は若い企業が牽引しています。米国では戦後の資本主義経済の浮き沈みのなかで、人材や資本の流動性が生まれ、経済の新陳代謝が可能になりました。新しい企業が生まれる中国の都市は、まるで戦後の日本のような熱気に満ちています。その時代の日本で生まれたソニー(1946年)もホンダ(1948年)も、すでに創業70年を超えています。ひとつの企業ではなく、日本経済全体の新陳代謝が必要な時期にきているのです。
平成の次の時代には、次の予測不能な衝撃をきっかけに、老いて陳腐化した企業が淘汰され、新卒一括の採用や終身雇用などの制度が崩壊して人材の流動性が高まり、混沌とした政治や経済のなかで様々な規制や障壁が撤廃され、独創的な製品や産業を生み出すためのエネルギーが復活する。日本経済の新陳代謝は、そんな筋書きによってしか進まないのかもしれません。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/15273
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