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元厚労相も愕然、「毎月勤労統計」不適切調査の大罪 処理誤れば「消えた年金問題」の再来に
2019.1.26(土) 舛添 要一
(舛添要一・国際政治学者)
2019年の年明け早々、厚労省の「毎月勤労統計(毎勤)」の不適切な調査が明るみになった。私は、2007〜2009年に厚生労働大臣として、年金記録問題の解決に心血を注いだが、その「悪夢」の日々を思い出す。
調査を進めれば進めるほど、社会保険庁がいかに無責任なデータ処理をしていたかが分かり、怒り心頭に発したものである。社会保険庁は解体し、日本年金機構という新組織にして、年金定期便を国民に送るなどの改革を断行した。その結果、5000万件あった「消えた年金」も少しずつ解消していったのである。
元大臣として忸怩たる思い
今回の「毎勤」の法令違反調査は、従業員500人以上の事業所には全数調査が義務づけられているのに、東京都については約3分の1の抽出調査で済ませたものである。東京には大規模事業所が多くあり、賃金水準も高いため、約1500件のうち500件しか調査しなければ、賃金の平均値が下がってしまう。
「毎勤」は、56ある国の基幹統計の一つであり、これを基にして国の政策のベースとなる基準数字を確定していくのである。今回の不適切調査によって、雇用保険や労災保険の給付が少なくなったケースが2000万件あるという。その補正をすると、約600億円の追加給付、またそのための経費が約200億円かかるという。役人による不適切な処理が招いた大損失と言える。
このような不適切な処理が2004年から続いていた。2004年作業要領に「500人以上の事業所が東京都に集中し、全数調査しなくても精度が確保できる」とある。特別監察委員会の報告書によると、その後、課長級を含む職員が、不適切だと知りながら「是正の方策を検討することもなく、漫然と以前からのやり方を踏襲」し、「統計法違反を含む不適切な取扱いが長年にわたり継続」していたと指摘している。職員のその場しのぎの手抜きが山積すると大問題となり、結局は後で行う問題処理が大変になるのである。
2015年以降、厚労省内部で不適切な手法で調査されている実態を把握している者が表れてきてからの対応は隠蔽そのもので、年金記録問題の教訓が全く活かされていないのではないかと思わざるをえない。さらに、データ補正のために必要な基礎資料の2004〜11年分が紛失していたり、廃棄されていたりしている。総務省統計委員会の西村清彦・委員長(政策研究大学院大学特別教授)は、「これでは統計として成立しない」と批判しているが、政府の基幹統計が整わないことになってしまう。
2004年からということになると、私の大臣時代も含まれており、内心忸怩たる思いである。この件については、役人からの報告は一切なく、このような問題があることなど想定すらしなかった。今回の報道に接し、大臣当時の私の部下にも確認してみたが、秘書官にもこの件は上がっていなかった。それも当然で、毎月調査する統計などの報告は、せいぜい担当課長止まりであり、大臣に報告する案件ではないのだ。
この問題を受けて、厚労省は特別監察委員会を設置し、22日には先ほど触れた調査結果を公表した。しかし、この調査は、早期の幕引きを図るため急いで行われたようで、不十分なものだった。亥年は選挙の年であり、自民党には不利だというジンクスがある。12年前は「宙に浮いた年金」問題が2月以降に出てきて、5月頃には世論が沸騰し、夏に行われた参院選で自民党は大敗した。その二の舞は避けたい安倍政権は、原因の究明よりも、早めの幕引きを狙ったのだろう。厚労相の役人に対する聞き取り調査の一部は、外部の人間ではなく、内部の職員があたっていたことが判明。これが野党から猛反発を受ける。結局、根本匠厚労相は、特別監察委員会による再調査を発表せざるを得なくなった。与野党の駆け引きがにわかに激しくなってきた。
統計法改正の趣旨は徹底されていたのか
さて、前回の年金記録は原因が複雑だったが、今回は、全調査すべきところを抽出調査で済ませたという「単純な手抜き」なのである。人員不足がそうさせたのか、その点については、国のみならず都道府県の統計職員数の詳細なデータが必要である。しかし、特別監察委員会の調査報告書にはこのデータがない。
実際に調査をするのは、都道府県の職員であり、とくに東京都、神奈川県、愛知県、大阪府など、大企業の集中する都道府県の負担が重くなる。また、調査を受ける事業所のほうも事務負担が増えるので、苦情の一つも言いたくなる。しかも、調査に応じない場合の罰則規定もあるのである。
特別監察委員会の報告でも、そのような事業者からの苦情や都道府県職員からの要望を受けて、2003年に厚労省側が抽出調査を容認し、2004年から実行に移したという。もちろん、それは法令違反を認めたことになるので、厚労省側の責任は極めて重い。
どういう経緯で事業所や都道府県の言い分を容れたのか、その経緯の解明はなされていない。抽出調査に転換した決定を行ったのは係長だというが、その決定を組織として認めたのか否かも明らかではない。
今回の事件の背景に何があったのかを考察してみると、いくつかの問題点が浮かび上がってきた。第一は、この中央政府と地方政府との連携である。これが上手く行っていた(あるいは行き過ぎたのか)のか、それとも何らかの問題があったのかについても検討してみる必要がある。東京都は国の命令通りにやったと小池都知事は説明しているが、その一言で済まされる問題ではあるまい。
第二の問題は、統計法の改正の趣旨が周知徹底されていたかどうかである。1947年に制定された統計法は何度かの改正を経て、2007年に大幅な改正を行い、一部は同年10月から、主要部分は2009年4月から施行された。この改正で、統計についての技術的側面のみならず、第1条「目的」に、「公的統計が国民にとって合理的な意思決定を行うための基盤となる重要な情報」という位置づけがなされたのである。つまり、「公的統計が国民生活にとって有用なものである」ということが強調されている。
この2007〜2009年というのは、私が厚労相だった時代であるが、統計法改正の意義が広く霞が関の官僚たちに認識されたとは言いがたい。「毎勤」の不適切調査が始まったのは、改正前の2003〜2004年であり、公的統計の重要性への認識がそもそも欠如していたのではあるまいか。
第三の問題点は、厚労省官僚、とくにキャリア(総合職)の問題点である。彼らは、大所高所、そしてその名の通り「総合」的に判断して、ノンキャリア(一般職)を指導する立場にある。ノンキャリは専門的分野をコツコツとこなしていく職人であり、自分の専門分野に閉じこもるため、どうしても視野が狭くなる。そのマイナスを是正するために、キャリアが各部署のトップとして君臨するのである。
キャリアには、自分が所管する部署の職務内容について一定の専門知識が必要である。それがないと、部下を統率できないからである。そして部下のノンキャリとの関係を深め、彼らに職務を適切に遂行させなければならない。
統計に関わる仕事は地味であり、脚光を浴びる部署ではないので、キャリアが「一日も早く光の当たる場所に移りたい」と思うのも分からないではないが、その結果、十分な専門知識を身につけず、部下との連携も円滑でない状態が生じたのではあるまいか。厚労省のみならず、霞が関のキャリア官僚の能力低下を嘆きたくなる。
統計委員会を「統計検査院」に
第四の問題点は国民の側にある。それは公文書や統計に対する認識である。政治家や役人のみならず国民全体に、統計の重要性に関する認識が欠けているようである。不適切な調査方法について、菅官房長官は「統計法の規定に則していなかった」と述べたが、違法性以前に、正確な統計が近代国家の基礎であることを国民が認識していないことが問題なのである。統計の重要性にふさわしい予算や人員が必要なのではないか。
それは、公文書についても全く同様で、森友・加計問題の事例で痛感したものである。政府の統計を監督する統計委員会は、総務省に置かれているが、これを会計検査院と同様に、政府から独立した統計検査院に格上げしたほうがよい。
第五の問題点は特別会計である。不適切調査の結果、雇用保険などの追加支給が必要で、来年度予算案の変更を閣議決した。総経費は追加支給分600億円に処理経費200億円の合計800億円である。しかし、一般会計からの支出は6億5千万円のみで、これは国債発行で賄う。残りのほとんどは労働保険特別会計内で処理する。その分雇用保険などの積立金が無駄になることになる。特別会計が役人の隠し金庫に、そして甘えの温床になっている状態を是正すべきである。
厚労省の不適切調査の背後には、以上のような日本の行政についての多くの問題があることを忘れてはならない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55317
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