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写真は2012年に新党「国民の生活が第一」の小沢一郎代表(左)をあいさつに訪れ、握手する日本維新の会の橋下徹代表
あまりに危険な橋下、小沢、前原の共闘。「野党分断工作」から目を離すな
2018.12.21
適菜収
https://hbol.jp/181763
前原誠司の謀略
先日、橋下徹と小沢一郎が東京都内のフランス料理店で一緒に飯を食ったそうな(参照:橋下徹氏、小沢一郎代表と会食 前原誠司氏がつなぐ? 朝日新聞2018年11月7日)。
これは何を意味するのか?
会食を仲介したのが国民民主党の前原誠司だから、わかりやすすぎる。前回の衆院選(2017年10月)に引き続き、2019年の参院選に向けて野党分断工作が始まったということだ。報道によると、非自民勢力の結集について意見交換が行われたというが、与党を利する謀略である可能性が高い。
別に私が穿った見方をしているわけではない。実際、前原には立派な「実績」がある。
先の衆院選前に前原は「いかなる手段を使っても安倍政権を倒す」「『第二の自民党にはならず、政権交代を目指す』と言っている部分では同じ方向を向いている」などと述べ、小池百合子率いる希望の党へ接近。準備が進んでいた野党共闘を見事にぶち壊した。
さらには合流を表明し、民進党で立候補を予定していた人は希望、立憲民主党、無所属に三分裂した。野党共闘どころか野党第一党まで破壊したわけだ。
安倍政権としては前原に感謝してもしきれないだろう。自民党幹部は「最大の功労者」「足を向けて寝られない」「最大野党の民進党を解体して野党連合を破壊し、再び自民党長期政権の道筋をつけてくれた」と前原を絶賛している(『週刊ポスト』2017年11月3日号)。
小池・前原と「棲み分けの密約」(橋下徹公式メールマガジン)を交わそうとしていた橋下も「小池さん、前原さんは棲み分けどころか、民進党解体って、やり過ぎーー!!(笑)」「いやー、これは凄かった。ここまで小池さんと前原さんがやるとは全く思っていなかった」と大興奮。
このとき野党四党共闘をきちんとやっていれば、安倍の暴走をある程度抑えることができたのだ。
日経新聞は2014年の衆院選で野党が候補者を一本化した場合、60選挙区で逆転勝利していたと指摘(2016年12月2日)。
実際、2016年7月の参院選では、32の1人区で野党統一候補が11勝と成果を上げている。
2017年の衆院選後には朝日新聞が「野党一本化なら63選挙区で勝敗逆転」と報道。
「複数の野党候補(野党系無所属を含む)が競合した『野党分裂型』226選挙区のうち、約8割の183選挙区で与党候補が勝利をおさめた。一方、朝日新聞が各野党候補の得票を単純合算して試算したところ、このうち3割超の63選挙区で勝敗が逆転する結果となり、野党の分散が与党側に有利に働いたことがうかがえる」(2017年10月23日)
前原は仲間を裏切ったばかりではなく、日本国民に大きな損害を与えたのだ。
前原の狙いは、「非自民・非共産」勢力の構築とのことだが、その実態は平成の30年間にわたり日本を壊してきたポンコツ議員の再結集である。
橋下-小沢ラインという悪夢
次の参院選はわが国の将来に対して大きな意味を持つ。
すでにわが国は常識が通用しない三流国になっている。森友事件における財務省の公文書改竄、南スーダンPKOにおける防衛省の日報隠蔽、裁量労働制における厚生労働省のデータ捏造、先日は入管法改定に関して法務省がデータをごまかしていたことが明らかになった。安倍政権はTPPを推進し、種子法を廃止。水道事業の民営化や放送局の外資規制の撤廃も目論んできた。北方領土問題や移民の受け入れ問題で安倍が大チョンボをやらかすと、情弱のネトウヨや自称「保守」もなにか変だと気づき始めたようだが、自分たちの判断ミスを認めたくないので、欺瞞に欺瞞を重ねていくのだろう。
次の参院選で自民党が勝てば、日本にとってはトドメになる。
こうした大事なときに、小沢一郎の見識のなさはネックになる。報道によると、橋下の動向に小沢が関心を示していることを耳にした前原が、橋下と定期的に開いている会食の場に小沢を招待したという。
ここのところ橋下は訴訟を連発し、メディアの露出も増やしている。最近出版した『政権奪取論』では、「かつて自民党の中枢で権力闘争に揉まれ続けてきた人であり、権力の本質について一番理解されている」と小沢を持ち上げた。
橋下は「大阪都構想」をめぐる住民投票で敗れたことを理由に政界を引退。政治家に戻る可能性は「ない」と公言しているが、そもそも「2万パーセント府知事選には出ない」と言いながら、出馬の準備を進めていた人物である。政界復帰が「絶対ない」ということは絶対復帰するつもりなのだろう。
ご存じのように官邸と橋下維新は密接につながっている。小沢-前原-橋下ラインが大きな流れをつくれば、タチの悪い第2自民党が生まれるだけだ。
ウソも100回つけば真実になる
世の中を急速におかしくしたのも橋下の実績である。
橋下出現以降、確信犯的に嘘をつく連中が政治を汚染するようになった。
橋下の著書には、悪徳弁護士の手法が並べたてられている。
「ウソをつかないやつは人間じゃねえよ」(『真っ当勝負』)
「交渉において非常に重要なのが、こちらが一度はオーケーした内容をノーへとひっくり返していく過程ではないだろうか。まさに、詭弁を弄してでも黒いものを白いと言わせる技術である」(『図説 心理戦で絶対負けない交渉術』)
「交渉では“脅し”という要素も非常に重要なものだ」(同前)
「私は、交渉の過程で“うそ”も含めた言い訳が必要になる場合もあると考えている。自身のミスから窮地に陥ってしまった状況では特にそうだ。正直に自分の過ちを認めたところで、何のプラスにもならない」(同前)
「絶対に自分の意見を通したいときに、ありえない比喩を使うことがある」(同前)
「たとえ話で論理をすり替え相手を錯覚させる!」(同前)
「どんなに不当なことでも、矛盾していることでも、自分に不利益になることは知らないふりを決め込むことだ」(『最後に思わずYESと言わせる最強の交渉術』)
橋下はこうした卑劣な手法をそのまま政治に応用したわけだ。
ひたすら、嘘、デマ、プロパガンダを流し、都合の悪いメディアや学者を恫喝する。2015年5月の「大阪都構想」を巡る住民投票で、二重行政の解消でカネが出てくるという話も嘘だった。維新の会は、当初、年間4000億円の財源を生み出すのは「最低ライン」と言っていた。ところが、大阪府と大阪市が試算した結果は976億円。さらにその数字も橋下の指示による粉飾だった。最終的に大阪市議会が出した「効果」はわずか1億円。制度移行のための初期投資680億円、年間コスト15億円を引けば、明らかにマイナスだ。にもかかわらず、橋下は大阪市のタウンミーティングなどで、二重行政の解消による財政効果は「無限」と言い出した。
テレビCMでは「教育費を5倍にした」とデマを流し(実際には108億4700万円も教育予算を削っている)、住民投票前になると「都構想の住民投票は一回しかやらない」「賛成多数にならなかった場合には都構想を断念する」と断言したが、否決後三ヶ月もしないうちに、再び「都構想」をやると言い出した。
確信犯的に細工を加えた詐欺パネルも使い放題だった。問題は、市民団体や学者により数値のごまかしを指摘された後も使い続けたことだ。
ここが橋下の最大の特徴である。政治家は嘘を暴かれるのを嫌がる。信用を失うのだから当然だ。しかし、橋下は嘘を暴かれてもびくともしない。「ウソも100回つけば真実になる」とヒトラーは言ったが、ナチスの手法と同じである。ウソをつくのは簡単だが、ウソを修正するのには手間がかかる。特にネットでデマが拡散すると、完全に修復するのは不可能だ。だから、ひたすらデマを流す。嘘を指摘されても反論せずに、ひたすら同じウソをつき続ける。
安倍はこのやり方を橋下から学んだのだろう。
橋下は著書で「嘘つきは政治家と弁護士のはじまりなのっ!」と述べているが、嘘つきは橋下のはじまりである。
「橋下×羽鳥の番組」(2016年9月19日放送)で、橋下は外国人政治家の招聘を提案。「国籍関係ないでしょ」「有権者の意思で、有能な外国人を選んでもいいじゃないか」「政治家は、最後は有権者が『選ぶ』か『落とす』か決められるから、もう極端なことを言えば外国籍でもいい」と述べている。
橋下は「日本的」という言葉をマイナスの意味で使う。「竹島は(韓国と)共同管理すべき」「日本国民と握手できるか分からない」「日本をグレート・リセットする」「能や狂言が好きな人は変質者」……。こうした発言からもわかるように、橋下は日本を深く憎んでいる。橋下はかつて大統領制の導入を唱えていたが、皇室を潰したいのだろう。
これは私だけの意見ではない。『新潮45』(2013年1月号)には佐伯啓思京都大学教授が、「『維新の会』の志向は天皇制否定である」を寄稿。反皇室、共和主義という点において石原慎太郎と橋下がつながっていることを指摘していた。
私の見立ても同じである。橋下は日本に復讐したいのだ。だから、文楽や狂言などの伝統芸能に攻撃を仕掛けたり、政令指定都市の大阪市を解体しようとしたり、地域を守るコミュニティバスを廃止したりする。
小沢や前原が、橋下がなにをやってきたか知らないはずはない。
諸悪の根源は小沢
希望の党との合流について前原にアドバイスしたのも小沢だった。
前原は言う。
「下野してから、ある方を通じて小沢先生とお会いするようになり、何回も何回も食事をしたり、色んな話をさせていただく中で、自民党の権力者であったことも踏まえて素晴らしいアドバイスを多々いただいたし、この間も(希望の党との合流について)中身は別にして色んなアドバイスをいただいてきたのは事実だ」(参照:「産経ニュース」2017年9月28日)
2014年6月7日、前原は橋下との将来的な合流について「(確率は)100パーセント」と述べている。「大阪都構想」については「我々の考えとほぼ同じ方向性だ」と評価。
その選球眼の悪さはもはや芸の域に達している。
橋下は読売新聞のインタビューでポピュリズムとマーケティング選挙を礼賛(2018年1月12日)していたが、考えてみれば、民間PR会社や広告会社を利用して露骨なメディア戦略を始めたのが小沢だった。
1994年には、細川護熙を担ぎ上げて小選挙区比例代表並立制の導入と政治資金規正法の改正を断行。これで、日本の運命はおおかた決まってしまった。小選挙区制度は、二大政党制に近づく。死票は増え、小さな政党には不利に働く。政治家個人の資質より党のイメージ戦略が重要になるので、ポピュリズムが政界を汚染するようになった。また、政治資金規制法改正により、党中央にカネと権限が集中するようになった。こうして、ひたすら党にこびへつらう思考停止した議員が増えていく。下手に歯向かえば、次の選挙で公認をもらえないどころか、刺客を送られる。
これを露骨にやったのが小泉政権だったが、民主党政権も橋下劇場も小池劇場も手口は同じである。マーケティングによりバカの動向を探り、ルサンチマン(恨みつらみ)や欲求不満に火をつけることで世の中を動かすわけだ。「官僚や公務員はけしからん」「あらゆる規制を撤廃して、既得権益を持っている連中を懲らしめろ」と騒ぎ立て、一部の人間が別の形の利権を手にしてきた。いわゆる構造改革利権である。
小沢は「守旧派」を仕立て上げ、小泉は「抵抗勢力」を党から追い出し、民主党は官僚を悪玉にした。橋下劇場も小池劇場も、どこかに悪い奴がいて、正義の味方である自分たちがそれを倒すという紙芝居だ。自分たちの足場を破壊していることに気付かない大衆はこうした公開リンチに喝采を送る。こんなことを30年も続けていれば、国が傾くのは当然だろう。
『日本改造計画』は小沢の考えをベースに、竹中平蔵ら複数の学者が書いたものだが、そこでは、新自由主義的な経済改革、貿易自由化の推進、首相官邸機能の強化、軍事も含めた積極的な国際貢献、政権交代のある二大政党制を可能とする政治改革(小選挙区制の導入)などが提唱されている。そして現在も日本の政治はこの延長線上にある。熟議や合意形成を重視した保守政治をぶち壊し、権力を集中させ、一気に世の中を変えてしまおうという発想だ。
なにしろ、タイトルからして「日本改造計画」なのだから。ロベスピエール、スターリン、毛沢東、ポルポト……。理念による社会設計は極左の発想である。「日本をリセットするために党を立ちあげる」(小池)、「一からリセットして日本を作り直す」(橋下)、「(構造改革で)社会はあたかもリセットボタンを押したかのように」「新しい国をつくる」(安倍)。要するに、同類のファミコン脳である。
対案は示すな!
民主党と民進党をぶち壊した前原、議会政治を破壊した小沢、政治に対する信頼を破壊した橋下。野党共闘においては、こうした連中の監視を怠らないことだ。安倍は憲法改正による参院の解体を唱えていたが、首相公選制や道州制を唱える維新と組んで改憲したら取返しのつかないことになる。
前原は国民民主党について「憲法についても単に『安倍晋三政権の下での改正には反対』ではいけません。党の案を掲げ、堂々と論点を示していくべきです」(「産経ニュース」2018年12月17日)などと述べていた。世の中に蔓延する「対案を示せ」「野党は反対ばかりだ」というテンプレートを利用した工作なのだろうが、騙されてはいけない。万引きしたやつに「万引きするな」と言うのに、対案を示す必要はない。安倍の改憲は内容的にも論外である。野党は保守層や改憲派とも共闘し、「安倍晋三政権の下での改正には反対」でまとまるべきだ。
減税、反グローバリズム、反移民政策など野党が訴えるべき論点は山ほどある。改憲は日本の政治が「正常化」した後の話だ。(敬称略)
<文/適菜収>
てきなおさむ●1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。大衆社会論から政治論まで幅広く執筆活動を展開。近著に『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか』(講談社+α新書)他、『日本をダメにしたB層の研究』『日本を救うC層の研究』(ともに講談社)『バカを治す』(フォレスト出版)など多数。山崎行太郎氏との対談本に『エセ保守が日本を滅ぼす』(K&Kプレス)も好評発売中
適菜収
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