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コロナ禍の今、米中衝突の危機はそこまで迫っている
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/05/post-93404.php
2020年5月13日(水)18時20分 ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授) ニューズウィーク
コロナ禍に乗じた米中両国の動きが対立に拍車を描ける asiandelight/iStock.
<イデオロギー的な敵対心、貿易戦争の長期化、地政学的な対立──コロナ危機を経て米中関係はさらに悪化する>
数十万人の命を奪い、世界経済に大打撃を与えている新型コロナウイルスの蔓延は、地政学的な風景も変えようとしている。米中関係がますますこじれ、両国が互いをさらに敵対視することになりそうなのだ。
コロナ禍はただでさえ危機にあった米中関係にとって、とどめの一撃になったかもしれない。特に中国当局が流行の初期段階で情報を隠蔽していたことと、中国の国土封鎖が世界のサプライチェーンを寸断したことは、米中関係に潜む2つの「脆弱性」をアメリカ人に思い知らせた。
1つ目の脆弱性は、中国の抑圧的な政治体制だ。もちろんアメリカ人は、中国との間にイデオロギー上の隔たりがあることを知っていた。ただし中国による新疆ウイグル自治区やチベットなどへの弾圧は、遠い世界の出来事だった。コロナ危機で7万8000人以上の国民が死亡し、経済が停滞し、大量の失業者を生んだことにより、やっと「そこにある」危機になったのだ。
これは多くのアメリカ人の偽らざる実感だ。ハリス社の最近の世論調査によれば、中国がウイルス流行について不正確な情報を発信していたと考えるアメリカ人は70%以上、感染拡大の責任は中国政府にあると考える人が75%以上いた。米国内の流行について自国より中国政府に責任があると思う人も、実に55〜60%いる。
■事態を悪化させる両国政府のもくろみ
2つ目の脆弱性は両国の経済的な相互依存、特に中国のサプライチェーンに対するアメリカの依存だ。コロナ禍以前なら、アメリカ人はこの点を貿易不均衡と雇用の問題とみていた。だが今は、中国が医薬品原料などで世界に占めるシェアの圧倒的な高さが安全保障上の脅威と見なされている。ただし、それだけで互いの敵対心が高まるわけではない。事態を悪化させているのは、危機に乗じて国内での存在感を高めようという両国政府のもくろみだ。
感染の震源地である武漢で初動対応に失敗したと報じられると、中国はイメージ回復に向け積極的な外交と大々的なプロパガンダを展開した。国外ではイランなど被害の大きな国へ医療支援を提供し、国内では感染対応を自画自賛してナショナリズムを鼓舞しつつ欧米諸国の対応を批判した。
欧米は批判材料をたっぷり提供した。特にトランプ米大統領は、責任転嫁や虚偽の言動などで醜態をさらした。トランプの再選が危ぶまれる今、与党・共和党は中国に責任をなすりつけようとしている。多くのアメリカ人はそれに納得しているようだ。ハリスの世論調査では回答者の半数以上が、トランプが新型コロナを「中国ウイルス」と呼ぶことに同意している。
イデオロギー対立が生む敵対心、貿易戦争の長期化、地政学的な対立──これらが両国関係をさらに悪化させる要因になるだろう。米議会では安全保障関連製品の生産を中国から米国内に移すことを義務付ける法案が成立する見込みだ。トランプ政権は中国への新たな制裁を検討しているという。
こうした懲罰的外交は世論の支持を得やすい。だとすると焦点は政権がどれくらい厳しい制裁を打ち出すかだが、自らの政治生命の危うさを考えればトランプが手加減するとは考えにくい。秋の大統領選で、米中関係は最も重要な外交上の争点になる。
習近平(シー・チンピン)国家主席も引き下がるつもりはなさそうだ。4月初めの共産党中央政治局常務委員会で習は「最低ラインを守る考え」を堅持し、「外部環境の変化」に備えると語った。「最低ライン」が何を意味するかは定かでないが、アメリカには報復をもって臨むという意味だと考えていいだろう。
世界が共通の脅威にさらされている今、米中冷戦の悪化は最も避けたい事態だ。だが、衝突の危機はそこまで迫っている。
©Project Syndicate
<本誌2020年5月19日号掲載>
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