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新型コロナウイルスの都市封鎖で経済悪化 インドネシア、最悪520万人が失業の危機
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/04/520.php
2020年4月18日(土)21時30分 大塚智彦(PanAsiaNews) ニューズウィーク
東南アジアで新型コロナウイルスの感染者・死者とも最大になったインドネシア。新生児はおくるみの上からフェイスシールドを装着。Antara Foto/Rivan Awal Lingga - REUTERS
<感染拡大防止のため経済活動停止を打ち出したインドネシアだが、それは失業・倒産というもう一つの危機を生み出した>
世界に蔓延する新型コロナウイルスの感染拡大が続く東南アジアのインドネシアでは、4月17日に感染者数5923人、死者520人となった。死者数では以前から域内最大だったが、感染者数でもフィリピンを抜いてASEAN加盟10カ国で最大の感染国だ。
そんななか、スリ・ムルヤニ財務相は17日までに「新型コロナウイルスの影響でこれまでに約120万人が失業する事態になっており、今後最大で失業者は520万人に上る可能性もある」との悲観的な見方を示し、失業者や生活困窮者への救済策をさらに強化する姿勢を明らかにした。インドネシアでは新型コロナウイルスの感染拡大に従い、失業者を含めた労働問題が大きなそして喫緊の経済対策として浮上している。
インドネシア政府や地方自治体は首都ジャカルタをはじめとして主要都市やジャワ島内各州で実質的な都市封鎖にあたる「大規模社会制限(PSBB)」を発令。人やモノの移動制限や特定分野以外の企業活動の一時停止、外出自粛、マスク着用、公共交通機関の運行制限・乗車制限などを実施している。
特に感染者、死者ともに最も多い人口約3000万人を擁するジャカルタの事態は深刻だ。移動制限にも関わらず、地方の実家や親戚を頼って「疎開」する人々で長距離バスのターミナルや鉄道始発駅が混雑している。このため逮捕や処罰といった強制力をほとんど伴わないPSBBの効果を疑問視する声もでている。
「密閉空間」であり「密集場所」でもあるバスや列車の客車に長時間乗車することは新型コロナウイルス感染の懸念や帰省先での感染拡大の可能性もあり、政府や州政府は「現在いる場所での自宅待機」を必死に呼びかけている。
■新型コロナ影響の影響でマイナス成長に
主要都市がPSBBを発令し、食料、エネルギー、流通部門などを除いた各業種が営業自粛や営業時間短縮をしたことで、多くの失業者が街に溢れる結果を招いている。
4月17日にはスリ・ムルヤニ財務相がテレビ会議で「新型コロナウイルスの影響によるフォーマルセクターでの失業者はこれまでのところだけで120万に上る。新たな経済対策で失業、企業倒産対策をさらに強化する必要がある」と述べた。
労働省の発表によると、これまでに新型コロナウイルスの感染拡大が原因で新たに解雇あるいは無給での自宅待機などの措置を講じた企業は7万4430社に上り、その結果としての失業者は119万9452人に達している。
現状のままで事態が推移した場合は新型コロナウイルスの影響による失業者は最大で520万人に拡大すると財務省や労働省は試算して大きな懸念を表明している。
しかしこれはあくまでフォーマルセクターの数字で、行商人や屋台などの露天商、日雇い労働者、個人のバイクタクシーや自転車タクシーの運転手などのいわゆるインフォーマルセクターでの失業者は含まれていない。
こうしたインフォーマルセクターや新型コロナウイルスの影響がでる以前の失業者を含めたインドネシア全体の完全失業者は最大で約1600万人に上るという試算もある。こうした状況に伴いインドネシアの経済成長は2019年の5,0%プラスから2020年は0.5%マイナスに転ずると予想されている。
■あの手この手の政府の救済策
こうした厳しい経済状況にジョコ・ウィドド大統領は経済閣僚と度々テレビ会議を開催して手厚い救済策の実施を指示、これを受けて関係各省庁はあの手この手の対応策をこれまで打ち出している。
まず財務省税務局はPSBBの営業自粛対象外である食料、流通、通信、貿易などの11分野の指定産業に対する法的優遇措置を発表。内容は所得税の一時停止、法人税の減税、輸入関税の一時停止などとなっている。
また医療関係者の所得税、医療品・医療サービスの付加価値税を9月まで免除することによって全国各地で新型コロナ感染者の治療や検査などに従事する人々への支援を手厚くするという。
さらに増大する失業者対策として失業者カードによる登録を進め、約550万人を上限に毎月255万ルピア(約1万8000円)を4カ月間支給することなどを含む「希望の家族プログラム」を進めている。
一般向けの経済対策は所得水準で区別され、現金支給のほかに約2000万世帯を対象にした対策では「スンバコ」と呼ばれる米、食用油、砂糖、塩、卵などの食料品(約60万ルピア相当)を配布するほか、所得に応じて電気料金の全額あるいは半額免除を実施する方針を明らかにしている。
新型コロナウイルス対策で休業あるいは操業短縮となった企業でローンを抱えている場合は、申請に基づき「ローン返済期限の最大1年延期」「金利軽減措置」などを内容とするローン再編措置を金融庁が各銀行に要請。すでに約1万5000件の申請が企業から届き、金融機関で適用企業の審査が現在続いているという。
■社会不安の増大への懸念
インドネシアでは政府が新型コロナウイルス対策に手一杯の状況の中で、スラウェシ島やジャワ島などでイスラム教テロ組織「「ジェマ・アンシャルット・ダウラ(JAD)」や「東部インドネシアのムジャヒディン(MIT)」のメンバーの逮捕、射殺、武器押収がこのところ増えている。さらにPSBBで閑散とした都市部で夜間の強盗や窃盗などの犯罪も報告されているという。
こうした不安定な社会情勢の中で急増する失業者や生活困窮者が生活不安、食料不足などを理由にデモや集会、さらにそれが略奪や騒乱に拡大することをジョコ・ウィドド大統領や治安当局は極端に警戒している。
首都ジャカルタの主要道路や鉄道駅、バスターミナルなどに設けられている検問所には行政当局、交通当局関係者や警察官に交じって陸軍兵士も配置され、テロリストとともに犯罪者や社会不安を煽る扇動者などの首都圏流入に警戒監視の目を光らせる状況となっている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
■営業禁止に従わない店舗は強制閉店へ
PSBB Jakarta, Petugas Menutup Paksa Tempat Usaha yang Masih Beroperasi
ジャカルタの営業禁止命令に従わない店舗は強制に閉店させられている。 KOMPASTV / YouTube
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