・scmp.com
このような自然の突然変異は可能なんだろうか
記事を見てみれば、もう1ヶ月ほど前にもなるのですが、インド工科大学の科学者たちが遺伝子解析の中で、
「新型コロナウイルスに HIV (エイズウイルス)のタンパク質が挿入している」
ということを見出したことに関しての論文について、以下の記事で取りあげたことがありました。
いろいろと非難や反論が殺到する中、その後、インドの科学者たちは、理由を明らかにしないまま、「論文を撤回」しました。
しかし、「 HIV のタンパク質のようなものが挿入している」ことは事実であるわけで、何も論文を取り下げることもないのになあ…とは思っていたのですが、今日、香港の大手メディア「サウスチャイナ・モーニングポスト」が、
「中国人科学者たちが、新型コロナウイルスに HIV の要素があることを発見」
したことを報じ、続けて、フランスのマルセイユ大学の科学者たちも、新型コロナウイルスに HIV の要素が存在していることを見出しています。
発見した中国の科学者は「突然変異だ」と述べていて、サウスチャイナ・モーニングポストも、「あくまで自然での突然変異」と解説していますが、それはともかく、このウイルスが HIV の性質を持ったために獲得した「力」は何かというと、
「並外れた感染力」
なのでした。
研究者たちによると、HIV の性質を獲得したために、新型コロナウイルスには「 SAR の 100倍から 1000倍の感染力がある可能性」があることがわかったと記されています。
まずは、その記事をご紹介します。
コロナウイルスは、HIV のような突然変異のためにヒト細胞に結合する可能性が SARS よりはるかに高いと科学者たちは述べた
Coronavirus far more likely than Sars to bond to human cells due to HIV-like mutation, scientists say
South China Morning Post 2020/02/27
中国・南海大学のチームによる研究で、新型コロナウイルスが HIV とエボラで見られるものに類似した遺伝子に変異させたことが示されている。この発見は、感染がどのように広がり、どこから来たのかを理解するのに役立つはずだ。
中国とヨーロッパの科学者による新型コロナウイルスの新しい研究によると、新型コロナウイルスは、ヒト細胞と結合する能力が、同じコロナウイルスである SARS ウイルスの最大 1,000倍強力になる可能性があることを意味する HIV のような突然変異を持っていることがわかった。
この発見は、感染がどのように広がったのかということだけではなく、どこから来たのか、どのように戦うことができるのかを説明するのに役立つ。
科学者たちは、SARS(重症急性呼吸器症候群)が、ヒトの細胞膜上の ACE2 と呼ばれる受容体タンパク質と結合することによって人体に入ったことを示した。
また、いくつかの初期の研究では、新型コロナウイルスは、SARS の遺伝構造と約 80%を共有する同様の経路をたどることが示唆された。
しかし、受容体 ACE2 タンパク質は健康な人の細胞には大量に存在しない、このことは SARS が 2002年から 2003年にかけて世界中で約 8,000人に感染したものの、それ以上の感染拡大が起きなかったことを説明することができるものだ。
HIV やエボラを含む他の感染力の高いウイルスは、人体のタンパク質活性化因子として機能する「フーリン」と呼ばれる酵素を標的とする。多くのタンパク質は、生産されると不活性または休止状態になり、さまざまな機能を活性化するために特定のポイントで「切断」する必要がある。
中国・天津にある南海大学のルアン・ジショウ教授(Professor Ruan Jishou)と彼のチームは、新型コロナウイルスのゲノム配列に、SARS ウイルスには存在しないが、 HIV とエボラウイルスでは見られるものと類似した変異遺伝子のセクションを見つけた。
ルアン教授は以下のように述べる。
「この発見は、新型コロナウイルス 2019-nCoV は、その感染経路において SARS コロナウイルスとは大きく異なる可能性があることを示唆しています。この新型コロナウイルスは、HIV などの他のウイルスの感染メカニズムを使用する可能性があるのです」
研究によれば、この突然変異は、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の切断部位として知られる構造を生成している可能性がある。
ウイルスは、到達するスパイクタンパク質を使用して宿主細胞に侵入するが、通常、このタンパク質は不活性だ。ウイルスのタンパク質の切断部位の構造の仕事は、ヒトの細胞のフーリンタンパク質をだますことだ。
そのため、スパイクタンパク質を切断して活性化し、ウイルス膜と細胞膜の「直接結合」を引き起こす。これによりウイルスに感染する。
そして、この研究の調査によると、このような構造を持つ新型コロナウイルスの結合方法は、SARS の細胞との結合方法と比較して、「 100倍から 1,000倍」効率的なのだという。
論文は査読前だが、発表からわずか 2週間で、この論文は Chinarxiv で最も多く読まれている。その後の調査で、湖北省の武漢にある華中科技大学の李華教授が率いる研究チームが、ルアン教授のこの調査結果を確認した。
SARS、MERS、または Bat-CoVRaTG13 (コウモリのコロナウイルス)では、突然変異は発見されていない。コウモリのコロナウイルスは、新型コロナウイルスの遺伝子と 96%の類似性を持つため、これが新型コロナウイルスの発生源だと考えられている。
一方、2月10日の科学雑誌 Antiviral Research に掲載された、フランス・マルセイユ大学の科学者エティッネ・デクロイ(Etienne Decroly)氏の研究でも、新型コロナウイルスから、他のコロナウイルスには存在しない「フーリンのような切断部位」が見つかっている。
新型コロナウイルスに対する科学者たちの理解は、過去数か月で劇的に変化してきている。
当初、このウイルスは人類への大きな脅威とは見なされていなかった。
中国疾病管理予防センターは、新型コロナウイルスのヒトからヒトへの感染の証拠はないと述べた。しかし、中国疾病管理予防センターのその仮定はすぐに無効となった。
現時点(2月26日)で、世界中で 81,000人以上の感染が確認されている。
中国の研究者たちは、フーリン酵素を標的とする薬によって、人体でのウイルスの複製を妨げることができる可能性があると述べた。フーリン酵素を標的とする薬には、インディナビル、テノフォビルアラフェナミド、テノフォビルジソプロキシル、ドルテグラビルなどの一連の HIV-1 治療薬、およびボセプレビルやテラプレビルなどの C 型肝炎治療薬が含まれる。
ただし、これらの薬が新型コロナウイルスの治療に効果があるという理論を裏付ける臨床的証拠はまだない。
ルアン教授のチームが「予期せぬ挿入」と論文で説明した突然変異は、ラットや鳥インフルエンザの種に見られるコロナウイルスなど、多くの可能性のある原因に由来する可能性がある。
ここまでです。
新型コロナウイルスが、SARS など他のコロナウイルスと比較して、爆発的な感染力を持つ理由がようやくわかりました。
ちなみに、SARS は 2002年11月から約 8ヵ月で 8237人が感染しました(死者 774人)。
それに比べますと、新型コロナウイルスは、WHOにより、このウイルスが国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態に指定された 1月30日からの約1ヶ月だけでも感染者数が 8万人を超えています(死者 2800人)。
新型コロナウイルスは、致死率は SARS よりはるかに低いですが、感染力が並外れているために、あっという間に感染数も死者数も SARS とは比較にならない数に膨れあがっています。
その原因は HIV にあったようです。
HIV の要素がコロナウイルスに取り込まれたことで、細胞の受容体とウイルスの「結合」がより強くなったということのようです。
コロナウイルスがヒトの細胞に入る仕組みについては、以下の記事でも説明させていただいています。
下の図にあるヒトの細胞の表面にある ACE2 という受容体と、新型コロナウイルスのタンパク質の表面の部分が「結合」すると、ヒトは感染するようですが、 HIV によって、それが強化されているということですね。
・cosmobio.co.jp
このような「突然変異」がどうして起きたのかはわかりようがないですが、多くの科学者たちが、以前から、「新型コロナウイルスには人為的に手が加えられてる証拠は見つからない」と述べていますので、自然界でそうなったのでしょう。そんな可能性があるのかどうかはわからないですが、大自然はなんでもできるという感じでしょうか。
それにしても、上の記事の、
> しかし、受容体 ACE2 タンパク質は健康な人の細胞には大量に存在しない
の記述ではじめて知りましたけれど、 ACE2 というのは、健康な人にはあまりないものなのですね。つまり、「本来ならコロナウイルスというのはヒトに感染しにくい病気」であるようで、確かに、同じコロナウイルスの SARS も MERS も、感染力は強くはなかったですが、新型は「 HIV の特性を獲得できて、大変にヒトに感染しやすいウイルスに変身を遂げた」ようです。
いずれにしても、
「新型コロナウイルスは感染性がずば抜けて高いことが科学的にも認められた」
ことになります。
ふと、1ヶ月ほど前の感染状況の数を目にしました。 1月25日の新型コロナウイルスの感染状況は以下のようなものでした。
・Coronavirus 2020/01/25
そして、1ヶ月でこうですからね。
・Coronavirus 2020/02/27
さらに変異して「感染力が弱る」のを待つしかないのかもしれないですが、現時点での各国の感染状況を見ますと、今のところ感染力が弱くなったとは言えないです。
なお、社会と経済への影響は、将来的にどれほどのものになるかわからないほど拡大していまして、プロ野球オープン戦や中央競馬は「無観客」で開催を行うとしていて、もしかすると大相撲もそうなるかもしれないと報じられています。
・JRA、レース無観客に 場外馬券売り場の営業取りやめ (朝日新聞デジタル 2020/02/27)
・無観客でプロ野球オープン戦 新型肺炎対策 (中日新聞 2020/02/27)
・大相撲春場所は中止か無観客開催か? (Yahoo! ニュース 2020/02/27)
ここまでやるべきなのかどうかはわからないですが、競馬なんて、レースを無観客にして場外馬券売り場を閉めたら、かなり響くのではと思います。みんながみんなネットで買っているわけでもないでしょうしね。中央競馬は、農林水産省の管轄ですから、売上の変化は国庫に影響するはずです。Wikipedia を見ましたら、農林水産省の主要な収入は競馬で、2019年度の歳入は、
> 日本中央競馬会からの納付金が 3140億9735万8千円
と、かなりの金額が納められています。
イベントやコンサートも各地で中止や延期となっている他、実施されたイベントでもガラガラのものも多いようです。
大流行が起きている韓国では、先週末に、すでに「映画館が、ガラガラ」と報じられていましたが、その後に感染者が急激に拡大しましたので、今はさらに閑散としている可能性があります。
こういうことが世界中で起きているはずで、イベントやコンサートから、祭りやカーニバルなども中止となっていまして、そして、「いつ再開できるのかがよくわからない」というのが困ったところでもあります。
ちなみに、中国では、2月2週までの車両販売が、前年比 92%の減少だと発表されています。
・zerohedge.com
前年比 -90%なんてことは、中国建国以来あったのでしょうか。おそらく初めてのことだと思われます。しかも、このグラフを見ますと、過去1年ほど、中国の車両の販売数は少しずつ減少し続けていたのですね。そこで今回の打撃ですから、影響は大きそうです。
中国での自動車販売の国別のシェアは、こちらのページによりますと、以下のようになっています。
国別の乗用車販売シェア
・中国メーカー 41.8%
・日本メーカー 18.7%
・ドイツメーカー 23.3%
・アメリカメーカー 7.2%
・韓国メーカー 6.4%
・フランスメーカー 0.7%
これも各国で相当なダメージを受けることになりそうです。
そして、仮にこの先、中国以外の国でも地域の隔離・封鎖などが始まれば、このような影響が世界的なものになっていくのかもしれません。
世界の様子が変わっていく渦中に私たちはいます。