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中国経済、新型コロナウイルス感染拡大の影響は想像を上回る
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/02/post-92307.php
2020年2月4日(火)16時40分 キース・ジョンソン、ジェームズ・パーマー ニューズウィーク
春節明け最初の中国株取引の行方を見つめる投資家(2月3日、浙江省杭州の証券会社) Jason Lee- REUTERS
<世界が注目した春節明けの中国市場で、株価は大きく下落した。新型コロナウイルスの感染拡大の経済への影響は、思ったよりはるかに大きそうだ>
春節(旧正月)が明けた2月3日の中国本土市場は、新型コロナウイルスの感染拡大をめぐる不安から急落。取引再開から数分でストップ安銘柄が続出し、一時は連休前と比べて8.7%下落した。
さまざまな規制がある中国の株式市場は、中国経済においてさほど重要な役割を果たしている訳ではない。だが感染者数が2万人を超えた新型コロナウイルスへの懸念が広がるなか、30年ぶりの低成長やアメリカとの長引く貿易戦争にあえぐ中国経済は、少なくとも今後数カ月は手痛いダメージを受けることになりそうだ。
ほぼ世界中が日々、同ウイルスの影響を痛感している。航空便の運航は停止され、サプライチェーンは混乱。需要の減退と物価の下落は、東南アジアや南米などの新興市場の経済成長の押し下げ圧力になると予想される。
春節の連休は通常1週間だが、今年は帰省ラッシュによる感染拡大を回避するために3日間延長されて2日までとなっていた。そのため名目上は各企業とも3日から営業を再開する予定だったが、新彊ウイグル自治区を除くほぼ全ての地域では少なくとも9日まで休暇が延長されており、学校や大学の再開はさらに遅くなる見通しだ。アップルストアや人気の火鍋レストランなど多くの有名チェーンも当面の間、営業を見合わせている。北京など名目上は企業活動を再開している都市も、街頭や地下鉄は依然として不気味なほど閑散としている。
■移動制限で工場は人員不足
エコノミストやアナリストは、ウイルスが中国経済に及ぼす打撃は、中国がいかに首尾よく感染拡大を封じ込められるか、とりわけ製造業の労働力の大部分を占める出稼ぎ労働者が速やかに仕事に復帰できるかどうかにかかっていると警告している。2020年のGDP成長率が最終的に2019年(前年比6%増)とさほど変わらなかったとしても、第1四半期の成長率は大幅に下落するだろうというのが大方の見方だ。
中国国内では既に各種サービスや小売り、航空、保険、製造など多くの業種が、感染の拡大と政府の対応(ウイルスの発生源である湖北省の数千万人の住民を実質的に隔離している)の影響を受けている。多くの自治体が同様の対策を講じており、湖北省以外で最も感染者が多く、中国の海洋貿易の要衝である浙江省恩州市は、事実上の都市封鎖となる厳しい措置を取っている。
出稼ぎ労働者が受けた打撃も大きい。「ウイルスの運び屋」と忌み嫌われた上、職場復帰もままならない。だが一方で、人手不足のため賃金は上昇しているのだ。「今は通常の1.5倍の給料を払っている」と、ウイルスの発生源である武漢からは遠く離れた河北省の工業都市、唐山の工場主であるリーは言う。「人材の確保がとても難しい」
<参考記事>アップル、中国すべての店舗とオフィス一時閉鎖へ 新型コロナウイルス感染拡大で
<参考記事>新型コロナウイルス不安で世界的なマスク不足、文化的認識の違いから衝突も
感染の拡大が世界2位の経済大国である中国にとってどれほどの打撃になるのかについて、多くのアナリストが引き合いに出すのが2003年に大流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)だ。SARSが中国経済の成長率に及ぼした打撃は推定1%以上だった。だが新型コロナウイルスが経済に及ぼす影響はそれよりもっと大きいだろうと予想されている。
その理由は幾つかある。まず、中国経済の規模は当時よりもはるかに大きい。また金融危機以降、エネルギーを大量に消費する製造業や輸出からサービス業や内需へと重心を移したために、中国経済は以前よりも突発的な混乱に弱くなっている。手っ取り早く輸出主導の景気回復を目指すことが以前より難しくなっているのだ。
さらに2019年の中国経済はGDP成長率が前年比約6%増と1990年以降で最も低い水準に終わり、アメリカとの貿易戦争が続いたことで景況感も悪化した。景況感を示すPMI(製造業購買担当者景気指数)は、ウイルスの影響が織り込まれる前の段階で、既に下落の兆候を見せていた。
「つまり中国経済は、SARSの時より弱った状態にある」と、仏銀行ナティクシスのアジア太平洋担当主任エコノミストであるアリシア・ガルシアエレーロは言う。「経済成長のペースは2020年の第1四半期に大幅に落ち込み、その後は徐々に安定していくだろう」
■「休業でも給料は払え」?
各地で交通の遮断が長引いていることで、中国では人の移動や職場の人員確保、小規模企業の営業まで様々な混乱が生じている。人員不足に加えて、感染の流行がいつまで続くのか見通しが立たないため、キャッシュフローが滞る企業も出てくる。それでも中国政府は各企業に対し、新型コロナウイルスの影響で休暇が延長となった従業員や、移動制限のために仕事に戻れない従業員については、休んでいる間も給与を支払うようにと通達を出している。
「多くの中小企業にとって、営業の停止や事業所の閉鎖は大きな痛手で」、その影響は第3四半期まで続く可能性があると、英リスク分析会社ベリスク・メープルクロフトの中国専門家である余嘉豪は言う。「ウイルスの流行の影響で、中国の産業の生産サイクルが遅れることになるだろう」
各種工場の閉鎖は海外企業にも混乱をもたらしており、アップルのような巨大企業までもが中国国内での生産を一時的に停止し、オフィスや店舗を閉鎖している。中国のサプライヤーに依存している多くの米企業が、生産や部品調達の困難に直面しており、これによって米企業の中国離れと米中経済の「切り離し」がますます加速することになる可能性もある。
中国へのフライトを停止した航空会社は数限りない。なかには4月まで再開の予定がない会社もある。アジア諸国は中国人の入国を厳しく制限しており、アジアの観光産業も深刻な打撃を受けるだろう。タイのように、中国人を入れるなと要求する国民と、中国の中間所得層が来なければ干上がってしまう観光業界との狭間で悩ましい対応を迫られている国もある。中国人の入国禁止によるタイの観光業の損失は15憶ドルに上ると推定される。
商品市場もウイルスの影響を痛感している。中国を大口顧客とする原油の価格は、ニューヨークでもロンドンでもウイルス発生以降の1カ月で15%下落した。原油収入に依存する中東ロシア、そしてシェールオイルで稼ぐアメリカにとってさえ、悪いニュースだ。エネルギーコンサルタントのウッド・マッケンジーは、今年の前半は中国の需要が激減し、OPECは原油価格の下落に歯止めをかけるために再び生産量を減らさなければならなくなる可能性もあるという。OPEC最大の産油国サウジアラビアも、大幅な生産調整を検討中と言われている。
■米中「第一段階の合意」もおあずけ
影響は新興国や途上国に限らない。オーストラリアとカナダは銅に対する需要減少で苦しむことになる。米中貿易交渉「第一段階の通商合意」に輸出増の期待を懸けていたアメリカの農家も製造業も、おあずけを食らったまま。いつ取引が再開するかのメドすら立たない。
ほとんどのエコノミストは、中国政府は景気減速を回避するため一段の景気刺激策と金融緩和を打ち出すだろうとみている。経営不振の企業には補助金を出し、人民元を安くして輸出を助ける。なかでもトランプ政権が忌み嫌っているのが人民元安だ。第一段階の合意でも、中国に為替操作をやめると約束させた成果を強調したばかり。だが中国に、アメリカと歩調を合わせようとする気配はない。それどころか、ウイルス感染を恐れて中国を締め出そうとする国際社会の動きをアメリカのせいにし始めている。
(翻訳:森美歩)
From Foreign Policy Magazine
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