http://www.asyura2.com/19/kokusai28/msg/246.html
Tweet |
中国が新型ウイルスに敗北する恐怖
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/01/post-92234.php
2020年1月27日(月)19時25分 ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌シニアエディター)
新型コロナウイルスは武漢がある湖北省以外のほとんどすべての省に広がった(江西省瑞昌市で消毒作業をする公衆衛生当局者) cnsphoto via REUTERS
<武漢で発生した新型コロナウイルスは、ほぼ中国全土に広がった。阿鼻叫喚の患者であふれ、廊下に遺体が転がる「現地映像」は本物なのか。中国ではいったい何が起こっているのか>
中国では春節(旧正月)を派手に祝うのが慣例だ。だが今年に限って人々は花火を上げに街に繰り出そうともせず、家にこもって過ごしている。肺炎を起こす新型コロナウイルスに感染するのを恐れてのことだ。
ウイルスの「震源地」である湖北省武漢市への出入りが制限されたのを皮切りに、感染拡大を防止するために封鎖される地域は日々拡大、対象者の数は5000万人近くに及んでいる。1月27日には海外への団体旅行も禁止された。
確認された患者数は27日現在で2800人近くに達し、急速に増え続けている。死者は主に年配者で80人を超えた。春節の休暇を利用して旅行に出かける人々が感染をさらに広げてしまったのではとの懸念もあるなか、中国政府は2003年のSARS以来最悪の感染症危機を抑え込もうと必死だ。
中国国内ではチベット(地理的にも政治的にも孤立している)を除くすべての省で患者が発生している。アメリカは武漢に住む1000人近い自国民と領事館員を避難させるため、チャーター機を手配した。
<参考記事>安倍首相、新型肺炎で武漢在留邦人の希望者全員を帰国させる方針
■封鎖は効果を上げているのか?
答えを出すのは時期尚早だが、あまり期待できそうにない。新型コロナウイルスによる肺炎だと診断されていない人もいれば、症状が出ていない人もたくさんおり、公式発表の数字は氷山の一角かも知れない。
だが最大の問題は、潜伏期間が長いことだ。このために、このウイルスの脅威が認識されるよりずっと前に──特に中国で帰省ラッシュが起こる春節を前に──多数の住民が武漢を出てしまった。彼らの行き先がどこだったかで話は大きく変わってくる。
封鎖の範囲はどんどん拡大しており、今では湖北省のかなりの部分が対象となっている。これは武漢周辺で感染が急激に広がっていることを示しているのかも知れない。外国の専門家の推計では、武漢では25万人以上が感染しているほか、大規模な流行があちこちで起きており、流行を抑え込むには感染の60%以上を食い止めなければならないという(その後、感染率の推計値が見直されて当初より低くなったが、まだ新たな数値を弾き出すには至っていない)。
封鎖そのものにも問題がある。通常の物流が断たれた状態で、住民に食料や日用品を供給するのは不可能でないにしても大変な作業だ。封鎖域内の品不足を防ぐには、軍とともに、アリババのような物流企業も動員されるかもしれない。武漢ではすでに物価は急騰、物資の不足が始まっており、対応が急がれる。
<参考記事>武漢封鎖パニック、中国株が大幅下落
■人類存続の危機なのか?
その心配はたぶんない。問題のコロナウイルスは怖いウイルスではあるが、現在のところインフルエンザのように世界的流行を引き起こすような性質は持っていない。専門家によれば致死率も比較的低い。
死者はこれまでのところ、全員ではないにしてもほとんどが高齢者で、ほとんどが持病を持っていた。中国以外での発症数が比較的少ないことから世界保健機関(WHO)は「国際的な緊急事態」にはあたらないとの立場を取った。だが、この先は分からない。
重体の患者も多いし、ウイルスはすでに人から人へ感染するような変異を遂げており、今後もさらに進化する可能性がある。「スーパースプレッダー」(通常とは比べものにならないほど多くの人に感染を広げてしまう人)も少なくとも1人、武漢の病院で確認されている。
また、外国でも多くの感染例が見つかっているのは、患者の多くが比較的裕福で医療を受ける余裕があるという要因も大きい。
新型コロナウイルスの肺炎患者はワシントンからマレーシアまで世界のあらゆるところで確認されている。潜伏期間はだいたい7〜12日間と比較的長いため、感染者は症状が出ないままウイルスをまき散らす。ウイルスが地球上のどこまで広がってしまったのかもはや分からないくらいだ。
その上、症状はさまざまで、発熱といった最も特徴的な症状さえない人もいる。今後、世界では繰り返し流行が起きることになるかも知れない。特に貧しく弱い国々にウイルスが広がった場合にはそうなるだろうと、ジャーナリストのローリー・ギャレットは指摘している。これまでのところ、発生は韓国やフランス、アメリカと言った先進国に限られているが、気づかれていないだけで他の場所に広がっている可能性は大いにある。
■中国政府の公表数字は信じられる?
ノーだ。理由はいくつかある。1つ目は、中国は政治的な理由から、災害等の被害に関する数字を隠ぺいしてきた過去があるからだ。SARS発生当初もそうだったし、洪水や地滑り、工場の爆発といった比較的しょっちゅう起こるタイプの災害でも、犠牲者の数を少なく発表するのはいつものことだ。
今回のケースで言えば、人から人に感染するウイルスへの変異が大いに考えられるわけだが、急に患者数が増えたのは、地元経済への悪影響や、1月中旬に各地で行われた地方レベルの「両会」(人民代表大会と政治協商会議)に水を差すことを恐れた地元当局が隠ぺいしていたからだ。患者数は何週間も41人とされていたが、外国での感染例が明らかになるや隠しきれないと思ったのか200人以上にふくれ上がった。ところが封鎖されるまで、武漢の当局者は多くの人が集まるイベントを予定していた。
中央の顔色を窺う地方当局に比べれば、中央政府には数字操作をする動機は弱い。そして公称の患者数が41人から2000人近くまで急増したのは、中央政府が突然、この病気に関心を示すようになった結果かも知れない。
しかし、政府関係者の動きは通常どおりでもある。一般からの情報、特に悪い情報を隠蔽するという悪習を抜け出すのは難しい。中国では膨大な資源が情報の統制と隠蔽に費やされており、今回の大流行について自主的に情報を発信した医師や記者、一般の人々は脅迫されたり、逮捕されたりしている。インターネットには突如、政府を称賛し、無許可の情報を投稿した人々を非難する大量の投稿があふれだした。
中国メディアは比較的自由な状態を享受しており、財新やいくつかのメディアは優れた重要な報道を行っている。だが、それは中国で災害が発生した直後によく起きる現象だ。事件発生直後は、情報を統制する当局が方向を決定し、実行するまでの数日間に比較的な自由な期間が生まれる(四川大地震の後、そして天津の大爆発事故の後もそういう状態になった)。
だがすでに、当局の発表と矛盾する記事を掲載した新聞は謝罪を強いられている。2009年に新疆ウイグル地区で起きた暴動の後のように、ある時点でインターネットの接続が切断される可能性もある。
たとえ政府が情報の歪曲を望んでいないとしても、情報収集の能力は限られている。診断のための検査キットは不足しており、感染可能性のある人口は膨大で、最も影響が大きい多くの貧しい層に、政府の手は届かない。
中国の科学界はこの状態を真剣に憂慮しており、可能な限り迅速にすべての情報を外国機関と共有しようとている。だがそれも、科学的研究を含めあらゆるものが政治の影響を受ける環境のなかで、の話だ。たとえば習近平国家主席の独裁的な力が強化されて以来、多くの科学論文は習近平思想をほめたたえる言葉から始まるようになった。
■病院の廊下に放置された遺体は何?
病院の廊下に遺体が放置されている状態など、武漢の病院内の様子を示す不穏な映像がいくつもインターネット上にあがっている。
だが、こうした映像は直接的にウイルスによる被害を表しているとは限らない。武漢は人口1100万人の大都市だ。中国の平均死亡率からすると、一日約213人が死亡している。
さらに今はインフルエンザが蔓延する冬とあって、通常よりも死亡率が上がっている。一部にはタイトルが間違っている動画や作り物の映像も存在する。
現在、武漢の医療保険機関は、完全に収容能力を上回る患者であふれていることを思い出してほしい。風邪をひいた人がみな病院で検査を受けようとするので、医療スタッフは疲れ果て、途方に暮れている。軍の医療スタッフ450人が支援に派遣され、プレハブの救急野戦病院2棟が建設中だが、それだけではとても間に合わないだろう。
廊下の遺体は、通常の原因で死亡した患者で、いつもの通り手が回っていないだけだったのではないかと思われる。中国の医療を知る人にとっては常識だが、中国の病院はもともと混沌とした空間で、患者が廊下、ときには駐車場の床に座って点滴を受けることも少なくない。そこに流行病の発生と隔離が加われば、すべてが崩壊する。医療用の救急ダイヤル120に電話をかけても、ほとんどの場合応答はない。
そこに、もう一つの恐ろしい可能性がある。病院自体がウイルスの感染源になる、ということだ。すでに少なくとも14人の医療従事者が感染しているという(1月25日には、武漢で患者を診ていた医師が新型肺炎で死亡した)。また、マスクと手袋を使い果たした医療スタッフの間で感染が広がっているという報告もある。助けを求めてやってくる患者に加えて、症状の原因がウイルスではなく通常の風邪である患者でさえ、結局は感染してしまうことになるのだ。
■中国ではパニックが起きているのか?
封鎖された地域内ではおそらく、パニックが起きている。ソーシャルメディアを介して得られる断片的な画像からは、たいへんな恐怖が伝わってくる。しかし、暴動や騒乱、警察との衝突、または隔離地区からの脱出といった話はない。それがいい兆候であることを望みたい。>
武漢の外の人々は不安にかられながらも平静を保っているようだ。労働者やコミュニティセンターの広範なネットワークなど、中国特有の制度がパニックを防ぎつつ情報を提供するのに役立っている。予想通り、マスクの着用や手の消毒が実施されている。最も気になるのは、一部の市町村が独自の封鎖措置をとり、旅行者を締め出していることかもしれない。夜遅くに村の門を通ったことがある人ならわかると思うが、地元の人が非公式の料金所を設置し、通行料を強要することがあるので、厄介なことになりかねない。
情報統制は重要な事実を隠すことになるかもしれない反面、恐らくパニックが起きる可能性や根拠のない噂を減らす役に立つだろう。
情報統制が届かないアメリカの中国語チャットグループとフォーラムは、中国本土よりはるかにパニックに陥っているようだ。たとえば、武漢の学校から訪米する学生グループのことをひどく怖がったり、医薬品の買い占めを呼びかけたりしている
また、新疆ウイグル西部地区在住で中国政府に迫害されて亡命したトルコ系少数民族ウイグル人の間にも、噂が広がっている。コロナウイルスは中国がウイグル人を使って人体実験した生物兵器の副産物ではないかという噂もあれば、百万人以上のウイグル人が閉じ込められている収容所でウイルスの感染が起きれば、壊滅的な悲劇が起きるのではないかという懸念も囁かれている。
(翻訳:村井裕美、栗原紀子)
From Foreign Policy Magazine
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。