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外国人留学生の闇(2)
政府に売られた、「幸せの国」ブータンの若者たち
2019/11/05
出井康博 (ジャーナリスト)
ブータンの首都ティンプーにあるレストラン(REUTERS/AFLO)
今、日本への留学をめぐって、政府高官を巻き込んだ大スキャンダルが巻き起きている国がある。「幸せの国」として知られ、今年8月の秋篠宮家の訪問先としても注目を集めたブータンがそうだ。
ブータンは2017年から18年にかけ、政府主導で日本への留学制度を推進した。その結果、700人以上の若者が日本の日本語学校へと留学することになった。80万弱という同国の人口を考えると、その数は決して小さくない。
政府主導の制度とはいえ、留学生は費用を借金に頼っていた。その額は日本円で100万円以上に上る。20代のエリート公務員の月収でも3万円程度というブータンでは、かなりの大金である。
ブータン人留学生たちには母国からの仕送りが望めない。借金を返済しつつ、日本での生活費や学費も自ら稼いでいかなければならなかった。借金漬けで来日し、アルバイトに追われる生活を送る点で、ベトナムなどの“偽装留学生”と同じ境遇だ。
ただし、ブータン人たちは“偽装留学生”とは異なり、勉強を目的に来日していた。また、日本で待ち受ける生活についての予備知識もなかった。結果、彼らは日本で不幸のどん底を味わうことになる。
慣れない夜勤の肉体労働に明け暮れ、病を発症した者も少なくない。将来を悲観し、自ら命を絶った青年までいる。本来、留学ビザの発給対象にはならないはずの彼らに対し、日本政府が入国を認めてきた末に起きた悲劇である。
公務員以外には就職先がほとんどない
ブータン人留学生問題が起きた経緯を振り返ってみよう。
ブータンでは若者の失業が社会問題となっている。とりわけホワイトカラーの仕事が足りない。民間の産業が育っておらず、公務員以外には就職先がほとんどないからだ。そんななか、ブータン政府は2017年、失業対策の一環として日本への留学制度「学び・稼ぐプログラム」(The Learn and Earn Program)を始めた。
留学生集めからビザ取得までの実務は、「ブータン ・エンプロイメント・オーバーシーズ」(BEO)という斡旋業者が独占的に担った。BEOはこんな言葉で留学希望者を募っていた。
「日本に留学すれば、日本語学校への在籍中でもアルバイトで1年に110万ニュルタム(当時の為替レートで約178万円)が稼げる。大卒者には日本語学校の卒業後に就職が斡旋され、最高で年300万ニュルタム(同約480万円)の年収が見込める。希望すれば大学院への進学だってできる」
こうした甘い誘い文句を信じ、職にあぶれた若者がプログラムに殺到した。
BEOに騙された
しかし、来日した留学生を待っていたのは厳しい現実だった。日本語の不自由な彼らができるアルバイトは、夜勤の肉体労働ばかりである。母国では見たこともない弁当の製造工場や宅配便の仕分け現場などで、夜通し働く日々を強いられた。しかも留学生に許される「週28時間以内」という就労制限を守っていれば、借金の返済や翌年分の学費を貯めることもできない。彼らには、法律違反を承知で働くしか選択肢はなかった。
筆者は昨年3月からブータン人留学生の取材を続けている。彼らの生活は、来日当初から悲惨だった。日本語学校が「寮」として用意した3DKの一軒家に、20人以上の留学生が押し込んでいたケースもあった。夜勤バイトを続けているため、顔色が悪かったり、体調に異変が起きている留学生も当時から多かった。
「BEOに騙されたんです」
留学生たちは口を揃えてそう話した。ただし、実名を明かして取材に応じる者は皆無だった。
「学び・稼ぐプログラム」は詐欺に等しい制度である。とはいえ、プログラムへの不満を口にすることは、政府への批判を意味する。
ブータンは2008年に絶対君主制から立憲君主制へと移行したが、民主主義が根づいているとは言い難い。言論の自由も保障されておらず、政府批判はタブーに近い。たとえ日本にいても、筆者のようなジャーナリストに情報を漏らしているとなれば、帰国後にいかなる仕打ちがあるか知れなかった。そのためプログラムが始まって1年以上が経っても、留学生が日本で直面していた苦境は全く明らかになっていなかった。
そうした状況を一変させたのが、2018年12月に留学先の福岡で起きたブータン人青年の自殺だった。同年10月のブータン総選挙で、「学び・稼ぐプログラム」を進めた与党が敗北し、政権交代が起きていた。その影響もあって、ブータン国内の報道でも、次第に同プログラムの問題が取り上げられていく。
BEO経営者らが現地警察当局に逮捕
留学生の親たちは被害者の会を結成し、同プログラムの責任追求に乗り出した。そして今年7月、BEO経営者らが現地警察当局に逮捕されることになった。さらに翌8月には、プログラムを中心になって進めたブータン労働人材省の高官に加え、同省の前大臣までも起訴された。前大臣については直接の起訴理由は別件だが、プログラムの影響も少なからずあったに違いない。ちなみに労働人材省高官と前大臣の起訴は、ちょうど秋篠宮家の現地訪問中の出来事である。
ブータン人留学生たちの大半は今年3月、日本語学校を卒業した。その多くは「簡単にできる」と説明されていた就職や進学を果たせず、ブータンへと帰国していった。留学費用として背負った借金を抱えてのことである。
「学び・稼ぐプログラム」では、留学費用の70万ニュルタム(同約120万円)を年利8パーセントでブータン政府系の金融機関が貸しつけていた。毎月2万円以上の返済が5年間にわたって続くスキームだ。
ブータンへと戻った留学生たちには、半分以上の借金が残っている。だが、帰国後に仕事が見つかった者はほとんどいない。当然、借金返済の目処も全くない。日本への留学によって、彼らの人生は台無しになってしまった。
一方、今も日本に残るブータン人留学生たちがいる。プログラム最後のグループとして2018年4月に来日し、日本語学校に在籍中の留学生たちと、日本語学校を卒業して専門学校や大学に進学したブータン人たちだ。彼らもまた、別の意味での苦しみを味わい続けている。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/17754
外国人留学生の闇(1)
日本人が目を向けない「消えた留学生」の深層
2019/11/01
出井康博 (ジャーナリスト)
(B_Lucava/gettyimages)
今年3月、東京福祉大学で過去1年間に約700人もの留学生が所在不明となっていることが発覚し、テレビや新聞で大きく報じられた。同大には出稼ぎ目的の留学生が多数入学していた。そんな留学生が学校から相次いで姿をくらました。学費の支払いを逃れて不法就労するためである。
同大の問題は国会でも取り上げられ、政府は対応を迫られた。そして留学生の受け入れ先となっている学校に対し、監督を強化する方針が打ち出された。
まず、法務省出入国在留管理庁が6月、文科省と共同で『留学生の在籍管理の徹底に関する新たな対応指針』を発表した。除籍や退学となる留学生を多く出し続けた大学や専門学校には、留学生の受け入れを停止するのだという。
8月には、日本語学校の運営も厳しく監視されることが決まった。日本語学校は留学生の日本での入り口だ。各学校には今後、留学生の授業への出席率やアルバイトの時間など、これまで以上に管理することが求められる。
こうした方針に関し、大手メディアは「日本語学校を厳格化 9月から新基準 悪質校を排除」(2019年8月1日『日本経済新聞』電子版)といった具合に報じている。だが、新たな政策によって、本当に「悪質校」は排除されるのだろうか。
留学生の数は2018年末時点で33万7000人に達し、12年末からの6年間で16万人近く増えた。安倍政権が「成長戦略」に掲げる「留学生30万人計画」も、2020年の目標を待たずに達成された。
その過程で急増したのが、アジア新興国出身の留学生だった。ベトナムからの留学生は12年から約9倍に増え、8万人を超えるまでになった。また、ネパール人留学生も約6倍の2.9万人程度まで増えている。こうした新興国出身者には、勉強よりも出稼ぎが目的の“偽装留学生”が数多く含まれる。
“偽装留学生”は日本語学校に支払う初年度の学費など、留学費用を借金に頼っている。こうした留学費用を自腹でまかなえない外国人に対し、政府は本来、留学ビザの発給を認めていない。しかし、原則を守っていれば、「留学生30万人計画」は達成できなかった。だからルールを無視して、経済力のない外国人にまでビザを発給し続けてきた。
不法残留者は5年連続で増加中
“偽装留学生”は、日本にとっては都合のよい存在だ。学費を支払ってくれるばかりか、安価な労働力としても利用できる。留学生には「週28時間以内」のアルバイトが認められるからだ。
日本語が不自由な留学生でも、アルバイトを見つけるのは難しくない。ただし、日本人に嫌がられ、働き手が不足する低賃金の重労働ばかりである。企業にとって留学生は実にありがたい。そのため「30万人計画」は、底辺労働者を日本に呼び込むためのツールとなっている。
そんな同計画の歪みが露呈したのが、東京福祉大の「消えた留学生」問題だった。
独立行政法人「日本学生支援機構」によれば、東京福祉大は早稲田大に次ぎ、全国2位の5133人(2018年5月1日現在)の留学生を受け入れている。うち約2700人が、「学部研究生」と呼ばれる非正規の1年コースに在籍する。同大で所在不明となった留学生も、約7割は学部研究生だった。
学部研究生コースは、大学などへ進学するための準備期間という建前だ。日本語能力を実質問われず入学でき、学費も年62万8000円と、一般の大学や専門学校と比べて数十万円は安い。そして大学側は、自らの裁量で定員を設けず留学生を受け入れられる。そのため日本語学校を卒業した“偽装留学生”が続々と押し寄せていた。
留学生が学校を除籍もしくは退学になった後も、アルバイトを続けていれば違法とみなされる。また、留学ビザの在留期限が切れて日本に留まっていれば、不法残留にも問われる。
不法残留者の数は今年1月1日時点で7万4167人に上り、5年連続で増加中だ。留学生から不法残留となった外国人も4708人と、過去1年間で約15パーセント増加した。不法残留者の増加は、法務省が最も気にかける問題の1つである。東京福祉大の問題は、同省といても見過ぎせない。
“特殊な”学校で起きた不祥事なのか?
とはいえ、学校側に「管理の徹底」を求めるだけで、問題は解決するのだろうか。過去5年間、留学生に関する取材を続けている筆者にはそうは思えない。学校への監視の強化は、あくまで対処療法に過ぎない。根本的な解決には、“偽装留学生”の受け入れ自体を止めることが重要だ。しかし、そこには手がつけられていない。
「消えた留学生」問題はメディアで大きく取り上げられたが、しばらく経つと関連の報道は止んだ。世の中には、東京福祉大という“特殊な”学校で起きた不祥事との印象が残った。だが実際には、同大の問題は、氷山のごく一角が露呈したに過ぎない。
留学生の受け入れ現場では、貧しい国からやってきた外国人が「留学生ビジネス」の餌食になり続けている。その実態は、政府が「消えた留学生」問題への対策を打ち出した以降、むしろ悪化すらしている。象徴的な例が、「幸せの国」と呼ばれるブータンから来日した留学生たちの苦境である。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/17753
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