自分の弾劾騒動を起こして軍産を潰すトランプ 2019年10月10日 田中 宇この記事は「トランプを強化する弾劾騒ぎ」の続きです。 2016年以来、米政界の基本的なシナリオは、それまで米中枢を支配し続けてきた軍産複合体(諜報界、マスコミなど)が、大統領になったトランプに殴り込みをかけられ、軍産とトランプの暗闘の中でしだいにトランプが優勢になっていく流れだ。軍産は第2次大戦後、冷戦構造とともに米中枢に諜報界として巣食い、ニクソンやレーガンが冷戦を終わらせた後も、911後のテロ戦争などいろんな策略を使って軍産が米中枢の権力を握ってきた。軍産より前から米中枢を仕切っていた勢力(私の命名だと「隠れ多極化主義者」「資本側」)は、世界の覇権構造が米英支配の単極型より多極型や覇権の機関化(国連P5体制など)の方が安定と発展につながるため、この70年間、軍産支配を崩そうとして、軍産との長い暗闘を続けてきた。トランプは、彼らが政権に送り込んだエージェントの一人だ。 (軍産の世界支配を壊すトランプ) (トランプ政権の本質) トランプは、意外に強い。軍産の一部であるマスコミや権威ある専門家たちは、トランプを単なる強欲な気まぐれ屋のように描いているが大間違いだ。マスコミや権威ある専門家の中に、軍産のふりをした資本側の勢力が入り込み、トランプを過度に弱く、馬鹿っぽく描く目くらましのプロパガンダを展開していると疑われる。私が見るところ、トランプは大胆な策士で、負けそうなふりをして勝つ策略をやっている。その最新のものが、ウクライナ疑惑によって民主党がトランプを弾劾する騒動だ。私から見ると今回の騒動は、諜報界のトランプ配下のエージェントたちが民主党をたぶらかして濡れ衣だとすぐにばれる自滅的な弾劾騒動をやらせ、トランプ自身でなく、本当にウクライナ側から不正な政治献金をもらっていた民主党のバイデン元副大統領(次期大統領候補)の汚職捜査へと発展させようとしている。 (トランプと米民主党) (軍産に勝てないが粘り腰のトランプ) 今回の弾劾騒動は、トランプの「悪事(実は濡れ衣)」を暴こうとする側の「内部告発者」がCIAの高官で、CIAなど米諜報界が組織をあげて民主党と組んでトランプを弾劾しようとしていることから「軍産vsトランプ」の暗闘の一部である感じだ。ふつうに見ると「軍産がトランプを辞任に追い込もうとしている」という読みになる。だが、今回の内部告発の内容は「濡れ衣」もしくは「微罪」であり、これでトランプを弾劾するのは不可能だ。民主党側はトランプを弾劾すると宣言した後で「ババ」をつかまされたことに気づいている。やはり本件は、軍産と、その一部である民主党の主流の中道エリート派を潰す目的でトランプ側から仕掛けたものと考えるのが妥当だ。トランプは軍産側に弱いカードを持たせて自分に喧嘩を売らせた。今後、トランプ側からの反撃によって軍産が弱体化させられていく。こうした構図は、すでに前作にも書いた。前作の配信後、軍産民主党側に不利な状態が加速しており、ウクライナ疑惑がトランプの仕掛けたものだった観が強まっている。 (トランプを強化する弾劾騒ぎ) (CIA Whistleblower 'Professionally Tied' To 2020 Candidate; 2nd 'Whistleblower' Was First One's Source) ウクライナ疑惑の始まりは9月24日、米議会下院を率いる民主党のペロシ議長が、トランプを弾劾する手続きに入ると宣言した時だ。民主党は当初、できるだけ早くトランプの弾劾手続きを進めたいという意向だった。弾劾手続きを全速力で進めることで、焦点がトランプに絞られ、民主党側のバイデンがウクライナ側から不正に資金をもらっていたことに焦点を当てない策略と考えられた。だがその後、10月4日にペロシは、弾劾のための議会の審議を開始する決議を議会に提起しないと表明した。決議をせずに弾劾手続きを進めることは法的に不可能でないが現実的でない。これは、民主党の中枢がトランプ弾劾が困難であると悟ったことを示している。トランプ政権と共和党はペロシに「なぜ弾劾手続きの開始を決議しないのか」とせっつく書簡を送っている。「早く喧嘩しようぜ。打ちのめしてやるよ」という意味だ。 (Trump Dares Pelosi To Hold Impeachment Inquiry Vote After She Says It Is "Not Required") その一方で、トランプよりも民主党のバイデン候補の汚職疑惑に発展しそうな感じも強まっている。ウクライナ疑惑は、バイデンがウクライナ側に有利な政策を米政府に採らせる見返りに、息子のハンター・バイデンをウクライナのガス会社の役員に就かせて報酬を受け取っていた事実上の贈収賄容疑が根幹にある。この贈収賄容疑について捜査しろと、トランプがウクライナ新政権に不当に強要し、来年の選挙でバイデンを落とそうとしたのでないか、というトランプに対する疑いの部分だけを「ウクライナ疑惑」と呼ぶ歪曲報道をマスコミは展開してきた。だが、10月に入り、バイデン親子が似たような手口で中国の金融会社(BHR Equity Investment Fund Management)からも報酬を受け取っていたことが発覚した。トランプは、中国政府がこの件について捜査するよう求めている。マスコミはこの件についても、バイデンの容疑について問題視しない一方で、トランプが中国という「敵国」に対して自分を有利にして政敵のバイデンをおとしめる捜査を求めたことを不正だと報じている。だが、表面的なプロパガンダを超えた政治的・法的に見ると、バイデンの疑惑の違法性の方が問題になっていきそうだ。 (Joe Biden’s son listed as director at China-backed equity firm, government filings show) (CIA Officer: Trump Impeachment 'Hoax' "Very Similar To A KGB Operation") 10月9日には、ウクライナの国会議員(Andriy Derkach)が、バイデンを不利にする証言を発した。それによると、ウクライナのガス会社ブリスマは、バイデンの息子を取締役にして役員報酬の形でバイデン側に資金を流していただけでなく、副大統領だったバイデンがオバマ政権を動かしてウクライナ側に有利な政策(ブリスマの創設者に対する米当局の捜査をやめさせることなど)をやるロビー活動の報酬として90万ドルを支払ったという。これが事実なら、バイデンの収賄疑惑が一段と強まる。(これも、米国や日本のマスコミがきちんと報じるか疑問だが) (Burisma paid Joe Biden $900,000 for lobbying – Ukrainian MP) (Biden 'Personally Paid $900,000 By Burisma' According To Ukrainian MP In Bombshell Admission) 「内部告発者」をめぐる怪しい話も追加で出てきた。今回のウクライナ疑惑は、トランプの不正に気づいた諜報界の要因が、正義感から監察官に内部告発を申し出て事件化したことになっている。だが事件開始後、この内部告発者が民主党の登録済みの支持者であり、監察官への申し出の前に、議会下院の諜報委員会のアダム・シフ委員長ら民主党の議員たちと会合を持ち、この件でトランプを弾劾することについて話し合っていたことが発覚している。内部告発者が、正義感からでなく、トランプを弾劾して辞任に追い込む目的で今回の事件を起こした疑いが高まっている。トランプ政権や共和党から追及された監察官は、内部告発者が民主党支持者だったことは後からわかった事実であり、内部告発者は申し出時の申請書の中で、先に議員たちに本件を相談していませんとウソの表明をしていた、と言い始めた。シフ議員もテレビの取材に対し、事前に内部告発者と会っていないとウソを言っていた。諜報界と民主党が結託してトランプを倒すために内部告発の制度を悪用した疑いが強まっている。 (Anti-Trump CIA Whistleblower Concealed Huddle With Schiff Committee) ("Flat-Out False": WaPo Calls Out Adam Schiff For Lying About Whistleblower) 今回の内部告発は内容的に弱く、トランプを弾劾できないが、その理由の一つは、内部告発が伝聞ばかり構成され、直接に見聞きした話がないからだ。諜報界は、この点を補強するため、トランプの「不正」を直接に見聞きした第2、第3の内部告発者を用意する準備を進めていると報じられている。この話はふつうに流布しているが、考えてみると、この話自体が諜報界による不正を露呈している。内部告発とは、正義感に駆られた内部告発者の自発的な行為に基づくものであり、諜報界が組織的に内部告発者を集めて主張を補強するのは本末転倒の「不正」である。諜報界は、組織をあげてトランプを打倒するために「内部告発者」を集めている。第2の内部告発者は、安保担当補佐官をトランプに解任されたので復讐したがっているジョン・ボルトンだというまことしやかな話まで出ている。 (There Is A Lot Of Speculation That John Bolton Is The "Second Whistleblower") 第2、第3の内部告発者が出てきても、本件(トランプが7月25日の電話でウクライナ大統領に不正に加圧した疑惑)でトランプを弾劾することはできない。なぜなら、その日の電話の速記録がすでに公開され、そこに不正な加圧がなかったことが確定しているからだ。第2、第3の内部告発者の話は、本件を起こした諜報界の「反トランプのふりをした親トランプ勢力」による追加の茶番劇くさい。 (Attorney for Impeachment ‘Whistleblowers’ Actively Sought Trump Admin Informants) (Attorneys for CIA Officer Behind Trump Complaint Say They Now Represent ‘Multiple Whistleblowers’) もともとCIAなど諜報界や民主党エスタブ派は、内部告発者たちを許さず、徹底的に弾圧してきた。本物の内部告発者であるスノーデンもマニングも、米国での生活や資産を奪われ、亡命生活や獄中生活を余儀なくされている。諜報界も民主党も、本物の内部告発者をいじめ続ける一方で、今回の「ニセの内部告発者」のことは積極的に持ち上げ、主張の補強までしている。本件はどうみてもインチキである。まあ、諜報界も民主党も本件では、トランプにしてやられている「被害者」の側なのだが。 (The ‘Whistleblower’ Probably Isn’t) (What was this CIA Officer Thinking?) 本件の展開が進むと、バイデンは立候補を取り下げざるを得なくなる。バイデンが出なくなると、来年の米大統領選で民主党の中道エスタブ派を代表する候補がいなくなり、民主党の左傾化が進む。民主党の左翼の中にはAOC(オカシオコルテス下院議員)など、トランプ革命の隠れた別働隊が多い。米政界は、2大政党の両方から軍産エスタブが追放されてしまう。 (A Failed Schiff/CIA Led Coup Against Trump Will Bring Hillary Into the Presidential Race with Dire Consequences) バイデンが出なくなりそうなので、ヒラリー・クリントンを立候補させようとする動きが出ている。本人は否定しているが、ウクライナ疑惑の開始後、クリントンは自分の新刊本を売り込む名目でテレビに出ており、ひそかに立候補の可能性を探っている感じもする。トランプは、クリントンに立候補してほしい。なぜならトランプは、2016年の大統領選で総得票数でクリントンに負けており(選挙区制度のおかげで勝利)、来年の選挙で再びクリントンと戦って快勝し「トランプは選挙区制度のおかげで勝てたインチキ野郎だ」と言わせないようにしたい。 (スパイゲートで軍産を潰すトランプ) (Hillary Clinton Cackles as Anti-Trump Colbert Audience Chants, “Lock Him Up!”) トランプは最近のツイートで、現時点の民主党の最有力候補であるエリザベス・ウォーレンを嫌うとともに、来年の選挙はクリントンと対戦したいと表明している。クリントンが対抗馬だと、トランプは「ロシアゲート」の仕返しの「スパイゲート」(クリントンが英MI6と結託してロシアゲートをでっち上げた疑惑)を思い切り捜査し、再び支持者たちに「ロックハーアップ(ヒラリーを投獄せよ)!」と叫ばせて溜飲を下げられる。トランプの忠臣であるバー司法長官は、すでにスパイゲートの捜査をかなり進めている。 (Will Trump Persuade Hillary Clinton to Run Again?) (Bill Barr Zeroing in on Deep State Professor Joseph Mifsud in Spygate Probe) 今回のウクライナ疑惑は、民主党だけでなく、共和党内に残存する反トランプ派の一掃をも可能にする。ウクライナ疑惑が始まった直後、共和党内の反トランプ派の筆頭であるミット・ロムニー上院議員が、トランプ弾劾への賛成を表明した。共和党の軍産エスタブ中道派の一人であるコリン・パウエル元国防長官も、トランプにしっぽを振るのはやめよう、という趣旨のメッセージを党内向けに発している。これらは今後、ウクライナ疑惑で民主党や軍産が自滅させられていくと、トランプに報復される材料にされるだろう。共和党議員の多くは、すでにトランプに逆らうのをやめている。ロムニーの力はさらに縮小する。 (Mitt Romney's Revenge: Working to Impeach Donald Trump?) (Republicans are ‘terrified’ but the party must ‘get a grip on itself’) 今回のウクライナ疑惑でトランプは、ロシアや中国といった非米・多極化勢力の諜報機関や捜査当局に頼んで、バイデンの昔の違法な動きや、米英諜報界・軍産による反トランプ的な動きに関する情報をもらっている。多極主義・覇権放棄屋のトランプは、多極側の大国であるロシアや中国と組んで、米英覇権主義の軍産・諜報界を潰しにかかっている。それが今回のウクライナ疑惑の本質である。 (Trump: “As President I have an obligation to end CORRUPTION, even if that means requesting the help of a foreign country or countries.”) トランプは米政府内で、安保担当者たち(=諜報界・軍産)の勢力を削ぐため、大統領側近のNSC(国家安全保障委員会)の人員削減を進めている。ウクライナ疑惑という「クーデター」を画策した軍産諜報界への仕返しである。 (Swamp Draining Begins: Trump Orders Cuts To Security Council Amid CIA Whistleblower "Coup") (Ron Paul Asks: "Impeachment... Or CIA Coup?") トランプはウクライナ疑惑を使って軍産潰しを画策すると同時に、軍産がこれまで維持してきた中東覇権の放棄を進め、サウジアラビアがイランと仲直りせざるを得ない状況を作ったり、シリアからの最終的な米軍撤退を挙行し、あとのことを露イランやトルコに任せる新事態を出現させたりしている。アフガニスタンや北朝鮮も、米国覇権の縮小につながる動きが起きている。 http://tanakanews.com/191010trump.htm
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