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ウクライナ疑惑を乗り切ってもトランプ再選には黄信号?
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/10/post-13135.php
2019年10月8日(火)19時00分 ビル・パウエル(本誌シニアライター) ニューズウィーク
弾劾のピンチなどどこ吹く風。批判には全力で反撃するのがトランプ流だ PHOTO ILLUSTRATION BY C.J. BURTON FOR NEWSWEEK
<ウクライナ疑惑で弾劾の可能性が再浮上。本人は強気だが、選対スタッフには懸念の声が>
民主党のナンシー・ペロシ下院議長がドナルド・トランプ米大統領弾劾に向けた調査開始を表明した翌9月25日、トランプ本人は「上機嫌で戦う気満々」だったと、2人の側近は言う。
問題になったウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との電話協議の内容を公開するとトランプは言った。同日の国連での記者会見で語ったように「圧力はなく」、交換条件の話も出なかった。政治的ライバルで民主党のジョー・バイデン前副大統領に関する醜聞が欲しかったが、見返りに何かを提供すると話したことはない――。
ウクライナ問題が弾劾調査の中心テーマになることがはっきりすると、上機嫌は怒りに変わったと、側近は言う。トランプをもっとよく知る面々はピンときた。反撃が始まるぞ。
長年の政治的助言者で現在ロバート・ムラー特別検察官(当時)の捜査に絡んで起訴されているロジャー・ストーンは、2016年の大統領選中にこう語っている。「彼は究極のカウンターパンチャーだ。攻撃されれば、必ず反撃する。それも徹底的に」
トランプの「ファイター」としての顔は、2016年に熱心な支持者のハートをつかんだ要素の1つだ。ほとんどの場合、このイメージは政治的にプラスだった。中国との貿易面での戦い、ワシントンの特権層や既得権益を突き崩すための戦い、不法移民を制限する戦い......。
ビジネスの世界にいたときから、けんかっ早いスタイルはトランプのトレードマークだった。「私は敵がいる状況が好きだ。敵と戦い、徹底的にやっつけるのが好きだ」と語ったこともある。大統領就任後もスティーブ・バノン首席戦略官(当時)やスティーブン・ミラー上級顧問のような側近の一部は、この闘争本能をあおり立ててきた。
「(トランプは)最初の日から、政敵に対して『戦時体制』を取っていた」と、あるホワイトハウスのスタッフはオフレコを条件に言った。「何のためらいもなくウクライナ大統領にバイデンと息子の醜聞を尋ねたように見える理由の1つはそれだろう。この好戦的姿勢は今では日常になっている」
■穏健派が逃げ出す恐れ
「民主党は輝かしい実績を上げたトランプ大統領に太刀打ちできない」と、トランプ陣営の選対責任者を務めるブラッド・パースケールは言った。「だから、バイデンのスキャンダルをトランプの問題に見せようとしている。そんなことをしてもトランプ大統領の支持者を勢いづけ、(2020年の大統領選で)大統領を圧勝させるだけだ」
だがトランプの側近グループは必ずしも楽観的ではない。複数のホワイトハウス情報筋によると、ミック・マルベイニー大統領首席補佐官代行、長女のイバンカ・トランプとその夫ジャレッド・クシュナーなどは、ムラー報告書の提出後は「平穏な時間」が続いてほしいと希望していた。強い経済の波に乗り、そのままの勢いで大統領選に突入したい考えだったと、側近の1人は言う。
疑惑やスキャンダルが次から次にメディアで取り上げられる現状には、選対スタッフの一部からも懸念の声が出ている。ロシアとの「共謀」、大統領の地位をビジネスに利用した疑惑、そしてウクライナ問題......。このままでは無党派層と共和党穏健派が逃げ出しかねない。
側近たちは、有権者が「トランプ疲れ」から「民主党良識派」(あるトランプ選対幹部の言葉)にくら替えする事態を懸念している。もっと具体的に言えば、ずばりバイデンだ。
実際、ほとんどの世論調査では、大統領選の本選挙がトランプ対バイデンになった場合はバイデンが勝つという結果が出ている。2016年の大統領選でトランプ勝利の決め手になった中西部でもバイデンの人気は侮れない。
少なくとも、いまウクライナ疑惑が浮上したことで、トランプ陣営が「平穏な時間」を享受できなくなったことは確かだ。
トランプがウクライナのゼレンスキーに電話したのは、7月のムラーの議会証言により、ロシア疑惑での弾劾の可能性が事実上なくなった次の日だった。「大統領選の年に向けて状況が好転しそうだと思ったのに」と、ある幹部は落胆を口にしている。
トランプは、ウクライナ疑惑を全面否定で切り抜けるつもりらしい。つまり、ゼレンスキーに電話した際、軍事援助などの支援をちらつかせバイデンと息子の不利になる捜査を求めた事実はないと主張している。電話会談の記録を見れば、自らの潔白は明らかだという。
むしろ、自分こそ、そうしたやり口の犠牲者だとトランプは言いたいらしい。オバマ前政権が外国政府に働き掛けて自分を追い落とそうとした、というのである。
ロシア疑惑の捜査はFBIにより2016年7月に始まったとされているが、トランプ周辺はそれを信じていない。2015年の時点で既に、イギリス、オーストラリア、チェコなどの情報機関がCIAに情報提供していたと考えている。そして、それはオバマ前政権の情報機関トップの要請によるものだったというのだ。
オバマ前政権のジョン・ブレナンCIA長官とジェームズ・クラッパー国家情報長官は、疑惑を否定している。司法省は現在、ジョン・ダーラム連邦検事(コネティカット州)率いるチームにこの点を捜査させている。
この捜査の結果、トランプ周辺が考えているような証拠が出てくるという保証はない。仮に十分な証拠が見つかるとしても、かなりの時間を要するだろう。
■世論の空気が変わるとき
差し当たりは、トランプの弾劾をめぐる戦いが始まる。大統領選の選挙戦が本格的にスタートした後まで、それが決着しない可能性が高い。
トランプ周辺には、楽観的な見方をする人たちもいる。1998年のビル・クリントン大統領(当時)の弾劾騒動と同じ結果になると予想しているのだ。
当時、野党だった共和党はクリントンを失脚させるために弾劾手続きを推し進めたが、弾劾は成功せず、それどころか有権者の不興を買う結果になった。結局、次の選挙で共和党は下院で議席を失い、クリントンの人気が盛り返した。トランプ自身も、弾劾プロセスは自分に有利に働くと述べている。
もっとも、歴史がそっくりそのまま繰り返されることはめったにない。確かに、トランプもクリントンと同様に、弾劾プロセスを乗り切る可能性が高い。共和党が過半数を占める上院で、3分の2以上の議員が弾劾に賛成することは考えにくいからだ。
しかし、ワシントンが党派間の政治闘争一色になれば、一部のトランプ側近たちの懸念が現実になりかねない。約1年後、大統領選投票日を迎える頃には、多くの有権者が政治ドラマと対立と停滞にうんざりしているかもしれない。
そうした有権者がトランプを引退生活に追い込む選択をする可能性は十分にある。
<本誌2019年10月15日号掲載>
【参考記事】トランプ弾劾調査の引き金になった「ウクライナ疑惑」のすべて
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