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香港でインドネシア人記者、警察の銃撃で失明 国内の大学生射殺は警官関与が濃厚
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/10/post-13103.php
2019年10月3日(木)20時49分 大塚智彦(PanAsiaNews) ニューズウィーク
至近距離で顔面にゴム弾の直撃を受けたベビー・メガ・インダさんが倒れ込んだ。The Star Online / YouTube
<自由と正義を求める若者たちの声を悲鳴に変えたのは、国民を守るべき警察の放った弾丸だった>
9月29日に香港の民主化要求デモを取材中、警察官が発射したゴム弾で顔面を負傷したインドネシア人女性記者が右目を失明することが明らかになり、インドネシア国内で大きく報道されている。
一方、インドネシア国内で続く学生デモでは、実弾により大学生2人が死亡。警察は当初は関与を完全否定していたが、調査を進めたところ6人の警察官が携行を禁止された拳銃を現場に持ち込んでいたことが判明し、インドネシアでも警察への批判が高まる事態になっている。
■至近距離で顔面にゴム弾直撃
香港からの報道や在香港インドネシア総領事館などからの情報によると、香港の灣仔(ワンチャイ)でデモを取材していた香港のインドネシア語新聞「スアラ(声)」の女性記者ベビー・メガ・インダさんは約12メートルの至近距離から警察が撃ったゴム弾を顔面に受けて負傷した。
その場で応急処置を受けた後、病院に搬送されて治療を受けていたが、弁護士が10月3日までに明らかにしたところによると、ベビーさんは右目を完全に失明する可能性が高くなったという。
ベビー記者は事件当時、はっきりと認識できる「プレス」と書かれたベストを着用し、ヘルメットを被り、両目は防護ゴーグルを着用していたが、ゴム弾はこのゴーグルを撃ち抜いて顔面を負傷させたという。
現地総領事館では直ちに館員を病院に派遣して可能な限りの支援を実施するとともにインドネシア外務省は同総領事館を通じて香港警察当局に対して「事実関係の詳細で早急な調査」などを強く求める事態になっている。
10月3日現在ベビーさんは意識を回復し、負傷後にインドネシアから駆けつけた家族が病床で見守っているという。
同総領事館は香港在住のインドネシア人に対して「デモの現場となっているワンチャイ、コーズウェイ、アドミラルティ、セントラルなどに絶対に近づかないように」と呼びかけている。
■インドネシアの大学生2人射殺は警察関与?
一方、インドネシア国内でも9月26日に南東スラウェシ州クンダリにある州議会建物付近で、全国規模のデモに参加していた地元大学の学生2人が死亡した。19歳の大学生は頭部を撃たれ、21歳の学生は胸部を撃たれていた。
インドネシアでは、国会による汚職撲滅委員会(KPK)の権力を弱体化する法律が可決されたことや「報道・言論の自由」「個人のプライバシー」などを制限する内容の刑法改正案の審議に反対する抗議デモが、大学生を中心に連日行われており、そのデモのさなかに2人は殺害された。
当初警察は「警察官はゴム弾以外所持していない」と関与を全面否定していたが、ジョコ・ウィドド大統領による「徹底的な捜査」指示を受けて内部調査を行い、その結果10月3日に国家警察が「内部規定に反して警察官6人が当時、拳銃を現場に持ち込んでいた」として6人の警察官のイニシャルを発表した。6人が所持していた拳銃には実弾が装填されていたという。
6人は中堅幹部5人と上級幹部1人で、情報課と刑事事件捜査課に所属しており、いずれも「安全確保のために持ち込んだ」と警察の内部調査に答えているという。しかし銃の現場への持ち込みは認めたものの、大学生に対する発砲に関する供述内容について警察はこれまでのところ明らかにしていない。
地元警察や国家警察が事件直後に発表した「実弾射撃に関する完全な関与否定」から一転して容疑者として警察官6人の取り調べに至った背景には、全国規模のデモが続く中、ジョコ・ウィドド大統領が学生2人の死亡に哀悼の意を示すとともに捜査の徹底を強く指示したことが影響しているといえる。
これを受けてティト・カルナファン国家警察長官も内部調査を厳しく命令したことが6人の容疑者浮上に繋がってとみられている。
■20日の大統領就任式控え沈静化狙う
インドネシアでは10月1日に新たな国会議員が召集され、20日にはジョコ・ウィドド大統領の2期目の大統領就任式が行われ、その前後には新内閣も組閣されるという重要な政治日程が控えている。
こうしたなか、全国規模で続く大学生を中心としたデモの激化とそれに伴う警察部隊との衝突が連日大きなニュースとなっている。
大学生2人の死亡も「過剰暴力を行使する警察批判」としてデモの拡大に影響を与えていることから、政府としても事実関係の解明を急ぐことで事件の余波拡大阻止と沈静化の狙いがあったことは確実とみられている。
一方では、デモ参加者が警察に殺害されたことが濃厚になったことによって、香港で起きたベビー記者の事件に関しても、ジョコ・ウィドド大統領が香港政庁あるいは香港警察に対して事実解明を求めるように働きかけることを求める国内世論の声が高まるものとみられる。
■女性記者が警察の銃撃を受けた瞬間
Indonesian reporter demands answers after police attack in HK
ベビー・メガ・インダ記者が取材中、顔面に警察のゴム弾を浴びた□ The Star Online / YouTube
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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