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香港デモのウラで、中国・習近平の「孤立化」がいよいよヤバくなる 「中国共産党の支配」なんかごめんだ
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66996
2019.09.09 橋爪 大三郎 社会学者 現代ビジネス
「ばらける世界」で今、何が起きている?
ジグソーパズルのピースがばらけるように、世界がばらけている。ソ連がばらけ、中東がばらけ、EUがばらけた。今度は、東アジアの番だ。
香港を毎週埋め尽くすデモは、終息の気配がない。日韓の衝突も、終わりが見えない。米中の衝突は、ますます本格化している。いったい何が起きているのか。
ばらける世界を前に、これまでの社会科学は無力だ。経済学も政治学も、社会学も…、自然科学の真似をして、世界にはたったひとつの法則が成立する、と思い込んできたからだ。
世界は実は、多様である。世界がばらけるのは、人びとが違ったように考え、違ったように行動するから。歴史や伝統が違い、文明が違えば、社会法則が違うので、一緒に行動できない。だから、ばらけるのである。
「4行モデル」で解ける世界
このことを踏まえた学者は、いないのか。一人いた。マックス・ウェーバー。ドイツの社会学者だ。
ウェーバーの『経済と社会』は、西欧/イスラム/インド/中国/…、の多様な世界を考察した、偉大な書物である。
「西欧のプロテスタンティズムが、資本主義をうみだした」という、画期的な発見に結びついた。ウェーバーのアプローチを真似して、世界に立ち向かわなければならない。
ウェーバーの仕事は素晴らしい。でも、立派すぎて使いにくい。そこで、誰でも使える超簡単モデルを考えた。4行なので、4行モデルという。こんな具合だ。たとえば、
キリスト教文明の4行モデル (1)まず自己主張する。 (2)相手も自己主張している。 (3)このままだと紛争になる。 (4)法律があるので、大丈夫。 |
人びとはみな、自己主張する。生き残るための戦略だ。でも、相手も自己主張する。このままだと衝突する。腕力は、勝ったとしてもコストがかかる。そこで、どちらも法律に従うことにしておくと、紛争が解決する。−−こう考えるのが、西欧キリスト教圏の人びとなのだ。
社会契約を明文化したのが憲法
でもなぜ、(4)法律があるので、大丈夫、になるのか。それは、見えない1行目に、(0)みんなで昔、法律に従う、と合意した。と書いてあるからだ。これを「社会契約」という。
社会契約を、目にみえるかたちに書いたのが、憲法ある。いまはどの国も、憲法を掲げている。ちなみに、イスラム文明の場合は、
イスラム文明の4行モデル (1)まず自己主張する。 (2)相手も自己主張している。 (3)このままだと紛争になる。 (4)イスラム法があるので、大丈夫。 |
である。
4行目が違うだけだ。
イスラム法は、世界共通なので、各国ごとの憲法は要らない。コーランに、(0)アッラーが昔、イスラム法を定めた。と、書いてあるのだ。
中国共産党はなぜ「政府より上」なのか
では、中国文明の4行モデルは、どうなっている?
中国の人びとの、考え方と行動様式の基本は、儒教である。そのエッセンスをまとめると、つぎのようだ。
中国儒教文明の4行モデル (1)まず自己主張する。 (2)相手も自己主張している。 (3)このままだと紛争になる。 (4)順番があるので、大丈夫。 |
順番は、誰が偉いか、その次は誰か、…の順番がついていること。それがあらかじめ決まっているのが、儒教の仕組みである。
儒教は、中国の人びとのあいだに順番を配給する。中央の官僚組織では、上級/下級の偉い順番。末端の親族では、長幼の順番。
官僚組織で、順番を配当するのは、上級なので、上のまた上…、中国全体での「1番」が必要になる。これが皇帝。いまは、習近平だ。
さて、中国共産党は、任意団体である。任意団体なのになぜ、政府より上なのか。
『三国志』を思い出そう。劉備、関羽、張飛(三人とも姓が違うのに注意)が、義兄弟の契りを交わして任意団体(幇)をつくった。そして、天下を目指した。中国では、農民の英雄が幇をつくり、政府を乗っ取る。中国共産党は、幇(党員の団体)なのだ。
伝統中国では、革命が成功すると、幇は解散して、皇帝が立つ。中国共産党は政府を乗っ取ったあとも、なぜか解散しないで居すわっている。
中国で皇帝は、法律に従わなくていい
さて、香港の人びとは必死になって、中国に反対している。なぜだろう。それは香港が、一世紀にわたり、イギリスに統治されてきたことと関係がある。
イギリスの統治は、「法の支配」だ。中国の人びとは、「人治」を手加減すると「法治」になると思っているふしがあるが、そんなものではない。
「法の支配」をおさらいしよう。「法の支配」では、人びとはもちろん、政府も法に従う。
なぜなのか。神が人間を創造した。政府は、人間の集まりだから、やはり被造物。神の支配下にある。キリスト教文明の4行モデルの4行目、「法律があるから、大丈夫」の法律には、政府も従うのである。
人びとも政府も、法律に従う。だから、政府を相手に裁判を起こすことができる。
中国では、皇帝を相手に裁判を起こすなんて、できない。中国では、法律は、皇帝の命令である。だから、皇帝は、法律に従わなくていい。
中国の憲法には、中国共産党が政府を指導する、と書いてある。誰も、中国共産党を指導できない。こういうものを、「法の支配」とは言わない。
香港の人々が中国に反対するワケ
中国は「一国二制度」を言い出した。香港や台湾に、高度な自治を保証するものだ。この約束で、香港は中国に返還された。20年経って、だいぶ話が違うとわかったきた。
「犯人引き渡し条例」が問題になっている。中国政府が香港の人びとを、勝手に逮捕するのではないか。自由がなくなる。「法の支配」がなくなる。香港が香港でなくなる。だから必死で反対しているのだ。
港の人びとも、中国人である。大陸から移って来たひともいる。彼らは、香港の「法の支配」はよいものだ、と思う。逆に言えば、「中国共産党の支配」なんかごめんだ、である。これを放置すると、中国国内の人びとも、自由を認めろ、と言い出すかもしれない。
香港の周辺には、いつでも武力弾圧ができるよう、装甲車などが集まっている。もしも天安門事件のような流血が起これば、米中の衝突はずっと深刻なものになるだろう。世界も黙ってはいない。
国際社会は中国をどう見ているか
国際社会は、「法律があるから、大丈夫」は大事である、「中国共産党があるから、大丈夫」はやめてくれ、と思っている。
インドは、香港と似ていて、イギリスの統治が長く、「法の支配」を理解している。
イスラムは、「イスラム法があるから、大丈夫」。でも、 どんな政府があればよいかでまとまらず、政治が混乱している。それでも、「中国共産党があるから、大丈夫」には反対だ。新疆ウィグルをみればわかる。中国と同じ考え方をする国は、世界にみつからない。
中国は、だから、香港の問題の解決を誤ると、西欧〜イスラム〜インド〜日本〜アメリカ、の包囲網ができるのを、覚悟しなければならない。中国が世界一の経済大国になり、覇権を握るなんてとんでもない。世界中がそう思う。いまはトランプが、行き当たりばったりでやっている対中制裁を、つぎの政権はずっと組織的に進めるはずだ。
世界は多様だ。予想もつかない方向に、急速に変化している。その動きを見極めるためにぜひ、4行モデルを手に入れ、使いこなして、世界を読み解いてほしい。
キリスト教文明は法律、中国儒教文明は順番……この「4行モデル」が理解できるだけで、米中貿易戦争の深層からテロリズムが終わらない理由まで、国際情勢の本質が驚くほどに見通せる!
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