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「生きるか死ぬか」香港デモ参加者、背水の陣
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/08/post-12892.php
2019年8月31日(土)18時34分 ニューズウィーク
香港政府の市民への対応に憤慨したジェーソン・ツェーさん(写真)は、オーストラリアでの仕事を辞めて飛行機に飛び乗り、香港に戻って抗議活動に参加した。香港のレノン・ウォールと呼ばれる地下トンネルで10日撮影(2019年 ロイター/Thomas Peter)
香港政府の市民への対応に憤慨したジェーソン・ツェーさん(32)は、オーストラリアでの仕事を辞めて飛行機に飛び乗り、香港に戻って抗議活動に参加した。今回の活動は香港の将来のための生きるか死ぬかの闘いだと確信しているという。
香港は今、中国政府の圧力で高度な自治を失いかねないとの強い危機感を抱いた市民たちによる抗議活動に揺れている。
香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は27日、警察の暴力を調べる独立調査委員会の設置を求めるデモ隊の要求は受け入れられないと改めて表明した。中国政府は香港に隣接する深センに武装警察部隊を駐留させている。
「今しかない。だから香港に帰ってきた」
ツェーさんはこう話し、先月に抗議活動に合流して以来デモには平和的に参加してきたと強調した。「今回成功しなければ香港は言論の自由、人権、全てを失う。抵抗しなくちゃいけない」
2014年に民主化デモが当局に強制排除された後、中国政府に対する抗議行動は退潮していた。
「闘い続ける必要がある。一番恐ろしいのは中国政府だ」と、ある教師(40)は匿名を条件に訴えた。「われわれにとっては生きるか死ぬかの状況だ」
■死なばもろとも
中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案への抗議として始まった市民の活動は、幅広い民主化要求に発展している。
「14年(の「雨傘運動」)は、手ひどい敗北だった。今回、暴力的手段の行使をも主張する参加者がいなければ、改正案はもう議会を通過していただろう」と、マイクとだけ名乗る30歳の抗議参加者は話した。
メディアで働き両親と住んでいるというこの男性は、おおむね平和的な抗議行動だった雨傘運動が結局、活動家リーダーらの投獄につながったことに言及。「ある程度の暴力的行動は有効だということの証明だ」と話した。
逮捕者は既に900人近くに達している。禁錮刑を受ければ長期収監される見通しにもかかわらず、民主化を要求する活動家にひるむ様子は見られない。
参加者の多くはアパートの狭い部屋で家族と暮らす生活だ。抗議活動現場の1つでは、近くに「家も監獄みたいなものだ。収監など怖いものか」との落書きがあった。香港では賃貸アパートをシェアした場合のごく狭い部屋の家賃が月7000香港ドル(約9万4000円)ということもある。
抗議デモは習近平国家主席を直撃しており、中国政府は暴力を伴う抗議デモを鎮圧するため武力をもって介入することはあり得ると明確なメッセージを送っている。
デモでは参加者らが「今しかない」と叫んでいる。しかし、中国政府が弾圧に動けば、中国本土では夢でしかない香港の自由など終わってしまうかもしれないと、疑問を投げ掛ける向きもある。
抗議活動は、参加者たちの香港の将来に対する不安感の表れでもある。香港返還時に多くはよちよち歩きの子どもだった参加者たちは、自分たちにはいかなる政治的な表現手段も認められていないと感じており、普通選挙を求めるほかに手はないと考えている。
サービス業で働くチェンさん(28)は「立ち上がって政府を倒すか、政府のいいようにされるかだ。選択の余地はない」と話す。
「今回失敗することを想像してみてほしい。共産党の独裁が強まることしか考えられないだろう。死なばもろともだ」とし、香港の「高度の自治」を認めた中英の合意が返還から50年後の2047年に失効することを念頭に、「時間はなくなりつつある」と付け加えた。
■香港は中国ではない
中国政府は香港を中国本土に取り込もうとしているが、住民の間では反発が強まっている。
香港大学が1015人を対象にした6月の調査によると、自分は香港人との回答は53%に上った。中国人と回答した比率は11%と、香港返還の1997年以来で最低だった。
世界で最も物価が高い都市の1つである香港では持ち家は夢でしかなく、中国政府が締め付けを強める中、不満を募らせる若者の多くは将来への期待などほとんどないと訴える。
「実際のところ、私たちには失うものが何もない」と、翻訳家のスカーレットさん(23)は話した。
街中至るところの落書きは、抗議活動の参加者たちの反抗心を示している。「香港は中国ではない」、「平和を望むなら戦いに備えよ」といったメッセージも見かける。
前出のツェーさんは、香港政府が平和的な抗議活動にほとんど耳を貸さない以上、暴力的行動は致し方ないのではと考えている。
「戦術的には、暴力のエスカレートもありだと思う。軍事的組織がどうしても必要になるなら、自分は加わると妻には伝えてある」と話した。
(Marius Zaharia記者、Anne Marie Roantree記者)
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