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なお続くインドネシア「スカルノ一族支配」の構図/JBpress・msnニュース
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投稿者 仁王像 日時 2019 年 8 月 19 日 19:47:24: jdZgmZ21Prm8E kG2JpJGc
 

Japan Business Press Co., Ltd. 提供 8月17日、ジャカルタにあるムルデカ宮殿で開かれた独立記念日の式典で、旗手に国旗を手渡すジョコ・ウィドド大統領。(写真:AP/アフロ)

なお続くインドネシア「スカルノ一族支配」の構図/JBpress・msnニュース
大塚 智彦
2019/08/19 06:10
http://www.msn.com/ja-jp/news/world/%e4%bb%8a%e3%81%aa%e3%81%8a%e7%b6%9a%e3%81%8f%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%83%89%e3%83%8d%e3%82%b7%e3%82%a2%e3%80%8c%e3%82%b9%e3%82%ab%e3%83%ab%e3%83%8e%e4%b8%80%e6%97%8f%e6%94%af%e9%85%8d%e3%80%8d%e3%81%ae%e6%a7%8b%e5%9b%b3/ar-AAFYS5T?ocid=iehp

インドネシアは1998年、32年間に渡るスハルト長期独裁政権が民主化のうねりの中と折からのアジア通貨危機の余波で崩壊し、民主化を実現した。以後大統領、国会議員のいずれも国民の直接選挙で選ぶという民主主義を国民は謳歌している。

 8月17日に74回目の独立記念日を迎え、全国津々浦々で独立を寿ぐ中、誰もが心に抱くのが独立の父であり、初代大統領でもあるスカルノ氏の偉大な存在である。

衆人環視の下、大統領に閣僚人事で「注文」

 毎年独立記念日に大統領官邸で厳粛な雰囲気で挙行される記念式典では、全国から選抜された青少年に大統領から紅白の国旗が手渡され、それが国歌とともに中央の掲揚台に高く掲げられ、式典は最高潮となる。

 その晴れ舞台の正面壇上、ジョコ・ウィドド大統領の斜め後ろに並ぶ歴代大統領、副大統領の列に緑色の民族衣装クバヤを着た女性がいた。メガワティ・スカルノプトリ第5代大統領でスカルノ大統領の長女である。

 メガワティ元大統領は4月の総選挙で最大議席を獲得し、ジョコ・ウィドド大統領が所属する政党でもある「闘争民主党(PDIP)」の党首でもあり、現在のインドネシア政治の舞台裏で政権運営のカギとなる人物といえる存在である。

 8月8日、バリ島サヌールのあるグランド・イナ・バリ・ビーチホテルの会議場は熱気に包まれていた。PDIPが5年に一度開催している党全国大会の初日、開会式で最前列にはメガワティ党首、ジョコ・ウィドド大統領、ユスフ・カラ副大統領、マアルフ・アミン次期副大統領、スハルト元大統領の女婿で大統領選を戦った野党グリンドラ党のプラボウォ・スビアント党首、PDIP所属の閣僚、イスラム教、ヒンズー教、キリスト教など各宗教の関係者などが一堂に顔を揃えていた。

 開会のあいさつに立ったメガワティ党首は演説の中で「PDIPは総選挙で最大議席を獲得した。次期内閣では当然のことながら最大数の閣僚が選ばれることと思う」と述べ、次期大統領として組閣するジョコ・ウィドド大統領に「プレッシャー」をかけた。

その後、演壇に上がったジョコ・ウィドド大統領は演説草稿を読み終えた最後にアドリブで「(PDIPからの入閣は)当然沢山になる」と応えて会場から拍手喝采を浴びた。

 このやり取りを翌日の地元紙は「党の指導者が誰であるかを明確に示した」「党のメガワティ体制がさらに強固になった」「大統領に堂々と注文をつけた」などと一斉に伝えた。

メガワティ党首と父スカルノの2ショット看板

 組閣の人選は大統領の専権事項ではあるが、続投して次期政権を担うジョコ・ウィドド大統領には与党各政党から自薦他薦の候補者から秋波が送られており、連日マスコミを賑わせている。

 PDIPも例外ではなく、一応ジョコ・ウィドド大統領の所属政党であることから、その党首であるメガワティ党首が「閣僚人選ではどうするかわかっているわね」と公の場で釘を刺した形となった。

 いくら自党所属の大統領とはいえ、閣僚の人選にまで堂々と「介入」するところに現在のインドネシア政治におけるメガワティ党首の役割がみてとれるといえる。この政治の黒子のような(別に隠れて暗躍している訳ではないので黒子とも言えないが)役回りはメガワティ党首が大統領経験者であると同時にインドネシア人の誰もが尊敬するスカルノ大統領の長女であることに依るところが大きい。

 党大会が開かれたバリ島はPDIPの牙城とされる選挙区で、街中にあふれた党大会の看板にはメガワティ党首と並ぶスカルノ大統領の写真が印刷され、スカルノ精神ともいうべき「スカルノイズム」の正統的継承者であることを印象付ける構図になっている。

「スカルノ氏を語る時メガワティさんが語られ、メガワティさんが喝采を浴びる時スカルノ氏も喝采を浴びる」という実の父娘という関係以上にこの二人はインドネシアの歴史の中で不可分の関係となっている。

それが「スカルノ一族」を一種の「神聖にして侵し難い」存在にして、政治の世界で暗黙の力を発揮するパラダイムとして作用し、機能しているのが今のインドネシアであるといえる。

次期党首、次期大統領を視野の党人選

 大統領は2期までという規定で2024年の大統領選にジョコ・ウィドド大統領は出馬できない。そのため、これからの5年間は次期大統領の座を誰が射止めるかという「ポスト・ジョコ・ウィドド」の政争になるということは誰もが予想していることである。

そうした潮流の中でPDIP党大会では2024年までの党首はメガワティ党首続投で衆議一致し、党事務局幹部にプアン・マハラニ調整相(人材開発・文化担当)とプラナンダ・プラボウォ氏の2人が就任した。2人はメガワティ党首の長女と次男であり同時にスカルノ大統領の孫に当たる「スカルノ一族の直系血族」である。

 メガワティ党首は以前から長女プアンさんを後継党首そしていずれ大統領にとスカルノ一族の権力継承の構図を描いていたといわれている。しかし党内では次男プラナンダ氏の方が実務家としての評価は高く、後継党首に次男を担ごうとするグループ、さらに「一族支配」を脱してジョコ・ウィドド大統領を次期党首にと画策する一派と実は党内は「ポスト・メガワティ」では一枚岩ではないという複雑な事情を抱えている。

 党大会で当初予想された次期党首に最短距離の「副党首」の新設が見送られた背景にはこうした党内の次期党首を巡る微妙な空気があったといわれている。

 とはいえ、スカルノ一族の「3代目」が次期党首そしてPDIPとしての次期大統領候補レースの本命に名乗りを上げたことには変わりなく、同時にそれはPDIPが「スカルノ一族の政党」であることを内外に改めて示したともいえるだろう。PDIPにはメガワティ党首の実の弟、つまりスカルノ大統領の子供でもあるグル・スカルノプトラ氏も名前を連ねている。芸術家として知られ政治的野心はないとされるグル氏だが、党内ではスカルノ大統領血族の一人として敬意を持たれている。

各党による次期大統領巡る駆け引き

 今後5年間で激しくなることが予想される次期大統領候補に関しては各政党間の調整が焦点となる。与党連合を組む「ゴルカル党」や「ナスデム党」、さらに野党連合から与党に鞍替えを模索している「民主党」「グリンドラ党」などは「次の大統領こそ我が党から」との思いを募らせている。ゴルカル党はスハルト長期独裁政権時代を支えた伝統的政党であり、民主党は第6代のスシロ・バンバン・ユドノヨ大統領の政党である。グリンドラ党は大統領選を戦ったプラボウォ氏の党である。

 こうした各政党の様々な思惑が交錯しながら合従連衡の渦の中での「ポスト・ジョコ・ウィドド」争いだが、その軸となるのはPDIPであり、メガワティ元大統領であることは変わりないとみられている。

 メガワティ元大統領には父親の後光、父親譲りのカリスマ性、血統、そして国軍内部に脈々と生き続けるスカルノ崇拝者の系譜という支持基盤がある。

 国を分断したといわれた大統領選でジョコ・ウィドド大統領と対立位候補のプラボウォ氏による「和解」のための直接会談をメガワティ元大統領の指示により裏で画策したといわれているのが国家情報庁(BIN)のブディ・グナワン長官である。ブディ長官は副大統領、大統領時代のメガワティ党首を副官として支えた警察のエリートで、現在BIN長官としてテロを含めた内外の情報を一手に握り、それを「武器」に政界工作を仕掛けているといわれている。当然メガワティ元大統領の意向を受けてのことだ。

 最近こうしたブディ長官の「陰での活躍」が表に出始めたことで「ブディ長官の次期内閣での入閣」などの観測記事まで出るようになった。ブディ長官がメガワティ元大統領の側近中の側近であるということは、政治経済社会そして治安のあらゆる分野の公然、非公然の情報が元大統領に届き、「武器」となっているということである。

「キングメーカー」メガワティ党首

 8月15日付けの英字紙「ジャカルタ・ポスト」(ネット版)はこのメガワティ元大統領を「キングメーカー」と形容してインドネシア政治の裏舞台で策動する最近の様子を報じた。

 また同紙のベテラン記者で日本の大手新聞の助手も長く務めた経験のあるコルネリウス・プルバ上級編集長はスハルト独裁政権を崩壊に追い込む過程でメガワティさんが民主化運動の旗手として果たした当時の役割を実際に身近に取材した記者である。その経験からの思いとして「当時、国民の民主化を求める声を背景にした政治」がメガワティさん自身の人気・支持拡大とスカルノ大統領への尊敬が相乗して第1党、そして大統領になったと指摘。

 そして現在、ジョコ・ウィドド大統領の後ろであれやこれやと動いていることに対し「国のために権力志向に陥らず、スカルノ大統領の娘として国のあり方を何より優先し、スカルノ時代の過酷な政治を否定してきた市井の人々の心に寄り添うことに全力を注いでくれることを願う」と警鐘ともエールとも思える署名記事を掲載した。

 ジョコ・ウィドド大統領のこれまでの5年間の政権運営には、所属政党であるPDIPの意向、特にメガワティ党首の意向や思惑がある程度反映されたものだった。

 そして2024年までのこれからの5年間は、さらにメガワティ党首からの「プレッシャー」や「注文」が強まることが予想されている。

 その理由は2つあるといわれている。まず、「もう次はない」ことから所属政党の選挙での支持が不要になり、党の意向を反映することなく自分の思うままに政権運営が可能になるので、それへの抑止力あるいはブレーキを政党として発揮するため。

 そして「ポスト・ジョコ・ウィドド」の動きの中で最大与党としてPDIPが後継大統領候補を強力に押し込みたいという「野望」のためだ。

 PDIPとしてはメガワティ党首が党員に過ぎないジョコ・ウィドド大統領を指導し、同時にメガワティ元大統領が大統領経験者として、さらに国民の尊敬を一身に集める独立の父の娘としてインドネシアの現在の指導者に、と大統領を取り巻く3重のしがらみの中でどこまで自己流を貫くことができるのかがジョコ・ウィドド大統領のこれからの5年間の見どころの一つとなるだろう。

 下手をすれば執政に不慣れな幼い皇帝に対し、本来なら背後の簾の後ろにいるべき皇后や皇太后などの女性があれこれ指図する「簾政」あるいは「垂簾聴政」になりかねないのが今のインドネシア政治ともいえる。地方の知事経験はあるものの国政経験はわずか5年しかない大統領の後ろの簾には政治経験豊かで正統派の血統を引き継ぐ女性が控えているのだから。  

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