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アメリカついに利下げへ “最長” 景気に死角は?/nhk
2019年7月30日 17時03分国際特集
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190730/k10012013681000.html?utm_int=news-international_contents_list-items_004
利下げである。しかも、10年7か月ぶりという。アメリカのことだ。景気は「堅調」なのにだ。その詳しい背景は譲るが、アメリカ経済はリーマンショックの翌年から拡大を続け、「121か月(10年と1か月)」という“史上最長”を、今月、記録することになる。実際、ニューヨークで生活していると、景気はいいと感じる。“傍若無人”とも言える突然の値上げや、物価の高さなら世界一だろう。そんなアメリカ経済に、ほころびはないのか。死角はないのか。取材してみた。(アメリカ総局記者 野口修司)
※この内容は、31日の『ニュースウオッチ9』で詳しくお伝えする予定です。
絶好調の“消費”
今月13日、アメリカ西海岸のサンノゼで開かれた『スニーカー・コン』。スニーカーのリセール(2次流通)や個人間の取り引き(トレード)を行うイベントは、おびただしい数のスニーカーと、「スニーカーヘッズ」とも呼ばれる若者たちがあふれていた。
定価100〜200ドルでも、人気で数が少ないとなると、定価の2〜3倍では買えない。ふだんはあまり見ない100ドル札が、目の前で飛び交っていた。この熱狂ぶりは、ぜひ映像で見て感じてほしい…。
こうしたリセールマーケットも、重要な「消費」の1つだ。現在、アメリカのGDP(=国内総生産)は、2100兆円余り(日本は550兆円くらい)。その7割を消費が占めるというのだから、日本の経済規模の3倍くらいの「胃袋」が、アメリカ経済、いや世界経済を支えていると言っていい。
上昇する住宅価格が生み出すもの
アメリカでは、都市部の住宅の価値は「上がる」ものと決まっている(らしい)。
上昇する住宅価格が生み出すもの
ロサンゼルス・ハリウッド近くの戸建て住宅を訪ねた。リンダ・ニノさん。自身も不動産関連で働く彼女が家を買ったのは5年前。当時は、約100万ドル(1億円)。リノベーションしたばかりのキッチンを見せてくれた。落ち着いた色調で、隣のリビングも豪華だ。
「とても満足しているわ」と笑顔を見せる彼女。キッチンの改装費用は、500万円(!)ほどかかったと言う。「ずいぶんと金持ちだなぁ」ではなく、彼女が、この資金を捻出できたのは、「キャッシュアウト・リファイナンス」という住宅ローンの組み替えによってだ。
簡単に言うと、5000万円の家が何年かのち、6000万円に値上がりしたとする。その時点で、総額6000万円のローンに組み替えると、1000万円は「現金」で手にできるというものだ。それを家の改築に充て、さらに価値を上げていく…。中には、その金で車を買ったり…、という人もいるらしい(リンダさんは違ったが)。
ちょっと信じがたいのだが、消費を支える「金」は、いろんな形で生み出される。
FRBが気にしていることとは…
「何がアメリカ経済の拡大を止めるか」という問いがあるとすれば、それは間違いなく「米中貿易」摩擦が“筆頭候補”だろう。ただ、「その次」と聞かれれば、これかもしれない、というのが、「企業の債務(が多いこと)」だ。
FRBが気にしていることとは…
アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)も、懸念を表明している。総額は、ことし3月(第1四半期)の時点で15兆5792億ドル(1680兆円)。リーマンショック直前(10兆6798億ドル/08年)を大幅に上回る。
長く続く景気拡大と「低金利」のおかげだ。お金が借りやすくなっているわけだが、FRBは、「信用の低い企業まで借りまくっているのではないか」(5月の『金融安定報告書』より)と心配している。むちゃな融資が行われているのではないか、と。
何かに似てない!?
この企業債務(借金)を裏打ちにした証券化商品が、CLO(ローン担保証券)と呼ばれるものだ。丁寧に言うと、『主に「レバレッジドローン」と呼ばれる信用力の低い企業向けの融資を束ねて証券化したもの』である。
信用が低いところは返済の金利も高いわけだから、この商品も利回りがいい。うまみのある運用先とも言える訳で、残高はおよそ6000億ドル(64兆円)ほどに。銀行、資産運用会社、ヘッジファンド、年金基金、いろんなところが買っているのだが、このCLOに警鐘を鳴らす専門家も増え始めている。
その理由は明快で、この「信用力の低い企業」の“企業”を“個人”に置き換えれば、リーマンショックを引き起こした「サブプライムローン」と同じだ、と言うのだ。
アメリカ議会下院の公聴会で、この問題を指摘したコロラド大学のエリック・ガーディング教授のところに取材に行ってきた。
丁寧に教えてくださるというので、教室を使って「講義風」にインタビューをしてきたのだが、「金融危機を引き起こした金融商品とCLOは似通っている」と始めたガーディング氏は、こう指摘する。
「当時(11年前)も、投資家たちはリスクを被ると想定していなかった。今回も同じです。『リスクが何か』ということが理解されていない。借りている企業ごとの情報がはっきりわからず、買ったCLOの中にどんな企業が入っているか、わからない。ひとたび、どこかの企業がおかしいということになれば、投資家はこぞって売りたがり、パニックになる。そのメカニズムはリーマンショックの時と同じなのです」
金利が上がる局面に入れば、返済に支障を来す企業も増えてくるはず、と警告した。リーマンショック直前のサブプライムローンの残高は1兆3000億ドル(07年)あったとされ、CLOは、その半分ほど。
銀行への規制も格段に厳しくなっている現在、そんな心配は「しすぎ」という声が、まだ多い。ただ、これまでの「低金利」がこうしたバブルっぽい現象を引き起こしていることは間違いない。
“のりチキン”???
CLOの警鐘記事を多く書いている経済コンサルタントのマイラ・ロドリゲスさんは、「銀行以外に誰がCLOを買っているか、はっきりしない」と、その透明性の欠如を指摘したうえで、日本の金融機関についても言及した。
「“のりチキン”よ」
「???」ではない。農林中金だ。
“のりチキン”???
ことし3月期の決算発表で、農林中金はCLOの保有残高を初めて明らかにしている。その額、7兆4000億円。CLO全体で64兆円くらいなので、10%強を保有している計算だろうか。ちょっと大きい。
5月の決算発表の際、農林中金は、保有しているCLOはすべて格付けが「AAA(トリプルA、最も信頼性が高い)」だとしたうえで、「適切なリスク管理態勢のもとで投資をしているので、問題にはなっていない」と説明。有益な投資先という判断だ。
しかし、マイラさんは、こう言う。
「(農林中金は)『CLO市場のクジラ』と呼ばれているそうですが、この文脈でそう呼ばれるのは、あまりいいことではないかもしれませんね。CLOの価値が下がれば、農林中金も影響を受けるでしょう。アグレッシブな投資のために、普通の人々が被害を受けるかもしれません」
“死角” は見えたか
26日に発表されたアメリカの最新の成長率(第2四半期のGDP)は、年率2.1%にとどまった。米中貿易摩擦もあり、FRBは「予防的」と言ってもいい利下げに踏み切る構えだ。
ただ、今回取材してわかったのは、住宅ローンの借り換えも、企業債務の増大も、CLOに投資するのも、どれも「低金利」のため(せい)なのである。
ガーディング教授も、マイラ氏も、実は今回の利下げには肯定的ではない。なぜなら、金利が下がれば、さらに企業が安易に借金をし(銀行がさせ)、CLOが増え、バブル的な要素が大きくなりすぎるからだ、と。
金利が上がれば企業の返済能力に不安、下がればバブル…。史上最長の景気拡大の先に見えるアメリカ経済は、日本ほどではないにしろ、かなりの「ナロー・パス(細い道)」ではないかと、取材を終えて、感じたのである。
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