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6月13日、ホルムズ海峡近くのオマーン湾で日本と台湾の石油タンカー2隻が攻撃を受けた。実は一ヶ月前の5月12日にも、ペルシャ湾ホルムズ海峡沖で、サウジアラビアとノルウェーの石油タンカー3隻とUAEのバンカー船(給油船)1隻が、何者かによる攻撃を受け損傷していたのだ。今回と同じく、船体の一部に大きな穴が開いたものの、死傷者や油漏れなど大きな被害はなかった。
事件のちょうど1週間前、対イラン強硬派のジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は、空母打撃群エイブラハム・リンカーンとB52爆撃機をペルシャ湾に派遣すると発表し、イランに対し強いプレッシャーをかけていた。しかも、「中東を航行する船舶に対してイランとその代理組織が攻撃を計画している明らかな証拠がある」と“米政府筋”からの警告が報道されていた。
そして5月14日、今度はサウジアラビア国内の石油パイプライン・ポンプステーション2カ所が、イエメン・フーシ派による複数のドローン(無人航空機、UAV)の攻撃を受けたので。被害があった場所は、イエメン国境からおよそ800キロの距離にあり、射程1500キロと言われるフーシ派最新式の攻撃用ドローン「UAV−X」が使われたと目されている。この攻撃により、サウジアラビアのほぼ全域がフーシ派のドローンの射程に入ったことになる。
フーシ派はイランから支援を受けていると言われ、またこれまで使用してきた攻撃用ドローンの多くはイラン製だった。そのため、二つの事件の背景にはイランの関与が疑われるということが強く印象づけられることとなった。
タンカーへの攻撃に関し、ボルトン補佐官は「ほぼ確実にイランの機雷」と糾弾している。また、米国政府高官が5月29日付のウォールストリート・ジャーナルに語ったところによると、米軍は、イラン革命防衛隊の船がフジャイラ港に向かい、潜水士が停泊中のタンカーに磁石吸着式の機雷(リムペットマイン)を取り付け、53分後に爆発させたと結論づけたという。
しかし、明確な証拠は出されていない。6月6日に国連安保理に提出された国際調査団のブリーフィングでも、「国家」の関与を結論づけたものの、それがイランである証拠は提示されなかった。
イラン政府はタンカー攻撃に関し、一貫して関与を否定している。実はこのタンカー攻撃に関しては、タイミングが良すぎる、実害が小さすぎる、などの理由により、根強い「偽旗(ヤラセ)作戦」疑惑がある。国連人権委員会のハイタム・アブ・サイード氏は、イランを煽動するため米国と一体となったイスラエルによる工作であると(こちらも証拠なしに)主張している。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領もイランが実行した証拠はないと、米国側の結論を批判している。
パイプラインへのドローン攻撃に関しても、米国やサウジはイランの仕業だと決めつけて批判している。一方、フーシ派は自ら犯行声明を出し、イランの関与を否定した上で、独立した意志として行った攻撃であると主張している。
15年から始まっているイエメン内戦において、フーシ派は介入するサウジに対し既に140回以上ものドローン攻撃を行っている。これらの攻撃は、イエメンの安全保障の専門家の間では、イランというよりフーシ派が独自の目的や報復のために行っているという分析がなされている。
また、かつてフーシ派が使っていた攻撃用ドローンは確かにイラン製モデルだったが、今回使われたと考えられているUAV?Xはフーシ派によって独自に開発されたもので、イランの関与は薄いとされている。
つまり、二つの事件に関してイランによる攻撃という明確な証拠がまだあるわけではないにもかかわらず、米国はそれを明確にイラン政府によるものと事実上断定しているのだ。しかも米国政府は最近になって「中東の混乱の責任をイランに取らせる」とまで言うようになっている。
今後はイランの関与が疑われるものでありさえすれば、これまでもあったようなどんな偶発的事象であっても、軍事衝突につながりかねないという、ある意味で恐ろしい事態に突入している。
そもそも、米国がイラン封じ込めの明確な態度を表したのは、昨年5月に包括的共同作業計画(JCPOA)と呼ばれる2015年の「核合意」を一部停止し、イラン産原油禁輸の経済制裁を再び発動すると宣言したことに始まる。そして、今年5月に日本などイラン原油輸入国に設けられた半年間の経過措置期間が終了、完全禁輸となった。既に経過措置期間中から輸入の自粛は始まっており、イラン産原油の輸出量はほぼゼロに近づいている。
輸出の減少に伴い、イランの原油生産量は、核合意前の経済制裁時の水準を下回るほど下がっている。まさに、米国がイランの「生殺与奪権」を持っていると言わんばかりの影響の大きさだ。
イランに対し経済的・軍事的に圧力をかけ、最終的に政権を崩壊に追い込もうとするのが、現在のトランプ政権の戦略であるように思える。その戦略は、現在進行中の米中貿易戦争や、対ベネズエラの経済制裁にも共通している。さらにいえば、かつてソビエトの石油産業を原油安と設備機器禁輸により封じ込め、やがて国家崩壊に追い込んだレーガン政権の手法をも思い起こさせる。
米国がイランに対しここまで強硬な姿勢を続け、原油輸出禁止という最強の制裁カードを切ることができるのは、やはり米国は自国内でシェールオイル生産が急増しているという安心感があるからだろう。
偶然だが、トランプ大統領が制裁を宣言した昨年5月を基準にすると、米国のシェールオイルの生産の増加分と、イランの原油生産の減少分はほぼ一致している。低硫黄超軽質油であるシェールオイルと、高硫黄中質油であるイラン産原油とでは性状が異なるので、単純に比較することはできないが、全体としてシェールオイルの生産増がイラン制裁の影響を緩和するだけの規模があるとは言える。
シェールオイルのおかげで米国の原油輸入量は歴史的低水準にあり、それゆえに中東に対して強く出られるのである。しかし、シェールオイルに死角はないのだろうか。実は、安いと言われてきたシェールオイルだが、水平に長く掘るなどの技術革新の効果は限界に達しつつあり、最近ではむしろ生産量増加に伴う機材や人件費の高騰が目立つようになっている。
採算分岐価格は1バレル40〜50ドルと、既に在来型原油とほぼ変わらない。そして、昨年末から原油価格は上昇傾向にあったにもかかわらず、シェールオイル企業は開発投資を大幅に削減し、掘削活動の水準を示すリグカウントは横ばい状態だ。
15年以降の原油価格下落で170社以上のシェール企業が破産を宣言した。かつて「シェール・バブル」に沸いた投資ファンドやジャンク債などのリスクマネーは、バブルが弾けたあとはかなり慎重になっている。
エネルギー調査会社Rystad Energyが米国のシェール会社を調査した結果、19年に入り経営が悪化する企業が多く、第1四半期にキャッシュフローがプラスになったのは40社中4社のみで、状況は2017年第4四半期以降最悪だという。
シェールオイルの生産においては、未生産掘削井(DUC)と呼ばれる掘削後に生産開始をせず温存してある井戸が8千カ所以上在庫のように積み上がっているため、掘削活動が停滞しても即生産量の低下にはならず、今後しばらくは増産が続くものと考えられている。しかし、開発投資停滞の影響は1〜2年のスパンで出てくるだろう。
筆者の見立てでは、中長期的に原油価格が高騰する可能性は低いと考えている。最近の原油市況は地政学的リスクに鈍感で、よほどの物理的途絶がない限り、ちょっとした緊張の高まりやテロや紛争が起きたくらいでは原油価格は反応しないからだ。
むしろ、米中貿易戦争による世界経済の先行き不安から、原油価格が下落するリスクの方が大きい。そうなれば、シェール企業の持続的発展は難しく、今後も石油供給を支え続けてくれるか怪しくなる。その意味において、今がイランに圧力をかけるチャンスということもできる。
むろん、中東で米国とイランによる大規模な紛争が勃発し、長期的な石油供給の途絶が起きるとするならば話は別で、原油価格は高騰するだろう。しかし、今の米国にとって直接の痛手は小さい。そのシナリオの可能性は小さいとしても、最悪の事態を懸念すべきなのは、中東の石油に依存する日本などのアジア諸国だ。
8割中東依存の日本の脆弱性
安倍首相は、米国とイランの緊張緩和のため12日イランを訪問し、対話路線を深めようとしている。確かに、両国と良好な関係を結んでいる日本は、その役割を担うことのできる数少ない国であるが、既に米国の制裁に従いイラン産原油の輸入自粛をしている日本にどこまでの説得力があるのかは不明だ。軍事衝突は望まないとしても、日本からどのような和解を提示できるというのだろうか。
しかも、ロシアのプーチン大統領は、イランの立場を支持する一方で、日米関係こそが日ロ平和条約締結の障害であると苦言を呈してきている。日本は、イランに手を差し伸べることで、ますます苦しい立場に追い込まれる。
しかし、日本は石油消費の8割以上をホルムズ海峡を通る石油タンカーに依存しており、この問題から目を背けることはできない。実は、中東原油に8割以上依存している主要国は、日本、韓国、そして台湾くらいしかない。
冷戦時代に米国の前線基地だった場所で、「中東からのシーレーン」という首輪が、対米従属という冷戦の残滓として今もなお残り続けているのである。冷戦終結からおよそ30年。米国とイランの対立を通し、日本はあらためて自らが拠って立つところの弱さを見せつけられているのだ。
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