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米国がテロ組織指定した「世界最凶」国家軍事組織
ISよりも危険な存在、イラン「革命防衛隊」とは(前編)
2019.4.16(火) 黒井 文太郎
米、イラン革命防衛隊をテロ組織指定 外国政府機関で初
ワシントンの国務省で、米国によるイスラム革命防衛隊のテロ組織指定を発表するマイク・ポンペオ国務長官(2019年4月8日撮影)。(c)SAUL LOEB / AFP〔AFPBB News〕
(黒井 文太郎:軍事ジャーナリスト)
4月9日、外務省での河野太郎外相の記者会見で、次のようなやりとりがあった。
(記者)「アメリカ政府がイランの革命防衛隊をテロ組織に指定するということを発表しましたけれども、不必要に緊張を高めているのではないかという指摘もあると思いますが、大臣の受け止めをお願いします」
(河野外相)「(略)日本として、そうした動きに追随するつもりはございません。イランがミサイルあるいは地域における様々な活動について、しっかりと自制をしてもらうということが、この地域の安定に必要なことだと思いますので、我々としても少しイランと意見交換をしていきたいと思っております」
つまり、日本政府は革命防衛隊(イスラム革命防衛隊:IRGC)をテロ組織とは認識しておらず、彼らが自制することを期待しているというのである。
この河野外相発言には、さっそくイラン側が反応した。4月10日、イラン国営のPress TVが以下のように報じたのだ。
「日本は、革命防衛隊にテロ組織のレッテルを貼る米国に従わないと述べた。河野外相は、東京はイランと緊密な関係を保っており、今後も対話を通じて問題解決に努めると述べている。日本は米国の動きに対する非難の合唱に加わった最新の国である」
イランの報道では、日本は米国よりイラン側の国だ、というわけだ。
米、イラン革命防衛隊をテロ組織指定 外国政府機関で初
イランの首都テヘランで行われた軍事パレードに参加したイスラム革命防衛隊の隊員ら(2018年9月22日撮影、資料写真)。(c)STRINGER / AFP〔AFPBB News〕
ISに代わって危険な存在として浮上
イランの革命防衛隊をテロ組織に指定しないほうがいいという考えのもとには、河野外相が語ったように、イランの自制に対する期待がある。しかし、それは甘い考えだ。現実に、イラン革命防衛隊はイラクやシリアで、自制とは真逆の凄まじい破壊活動を行っており、中東の平和を大きく阻害している。彼らの行っていることは、テロそのものであり、多くの現地の人々を苦しめている。革命防衛隊に圧力をかけなければ、彼らはイラクとシリアを足場として、中東全域に脅威を及ぼしていくだろう。
イランの脅威は核問題だけではない。彼らは同じシーア派のネットワークを中心に、イラク、シリア、そしてレバノンまで至る支配地域を確立しようとしている。イスラム革命以来の「革命の輸出」ともいえるが、実際にはイランを盟主とするシーア派の帝国を作ろうとしているのだ。そうなれば、サウジアラビアなど他のスンニ派系アラブ諸国との緊張も高まるが、なによりレバノンとシリアがイランの勢力圏になることで、イスラエルとの軍事的対決が不可避となる。
現在、イランは核爆弾完成の一歩手前で凍結する核合意を守っているが、イスラエルとの対決となれば、彼らは自分たちを守るために、合意を破棄して核武装する可能性もある。イランの核合意は、核廃棄ではない。その危険な意味を無視するべきではない。
そして、こうした危険なイランの工作を担っているのが、革命防衛隊だ。彼らの活動を放置すれば、イランはこのまま勢力拡大に邁進し、上記のような破滅的事態になりかねない。
イラクやシリアでは、一時期は猛威を振るったIS(イスラム国)の脅威はほぼ消滅したが、その代わりに危険な存在として浮上したのが、革命防衛隊である。革命防衛隊に圧力をかけ、その国外での工作にブレーキをかけることは、中東地域の安全・安定のためにはきわめて重要である。
イランの位置。イランは他国と比べて突出した頻度で国家テロを続けてきた(Googleマップ)
中東の安全・安定の脅威になっているイラン
今回の事態は、トランプ政権が4月8日、イランの国家権力の中枢ともいうべき革命防衛隊を、米国務省がリストアップしている「外国テロ組織」に指定したことに端を発する(措置の発効は4月15日)。
米国政府は従来、テロ活動を支援する国家を「テロ支援国家」、国際的なテロ活動を行う在野の各組織を「外国テロ組織」に指定している。イラン革命防衛隊については、すでに米財務省が2017年10月にテロ関与で制裁対象にしているが、国務省の「外国テロ組織」に国家の軍事組織を指定するのは、今回が初の事例になる。
外国テロ組織に指定することにより、今後、米政府はこれまで以上に、革命防衛隊関係者の活動を阻害し、革命防衛隊関連の経済活動に強い圧力をかけていくことになる。革命防衛隊は傘下に多くの企業を抱えており、軍事物資の調達や外貨獲得などさまざまな目的で、欧州などで商取引を行っている。こうした取引が阻害されることになれば、革命防衛隊にとっては、大きな不利益が見込まれる。イラン側からの反発は必至で、米=イラン関係はますます緊迫していくことになる。
トランプ政権のイラン敵視政策は、トランプ大統領自身の考えが基本にある。トランプ大統領の国内での中心的支持母体の1つはキリスト教右派であり、さらにトランプ大統領は娘婿のクシュナー上級顧問を通じてイスラエルのネタニヤフ首相とも非常に近い。そのため、2016年の大統領選中からイランに対しては厳しい立場をとっている。その姿勢は、2017年1月に政権に就いてからも変わらない。2018年4月にはイランに厳しい立場のボルトン元国連大使を国家安全保障担当大統領補佐官に抜擢。同年の翌5月には、イランとの核合意からも離脱した。今回の外国テロ組織への指定は、その流れにある。
イランとの核合意では核武装完成を一歩手前で阻止しており、トランプ政権の合意離脱声明を経ても、現時点ではいまだ合意は崩壊には至っていない。ただ、今回の外国テロ組織への指定がどういう作用を及ぼすかは不明だ。冒頭に紹介した河野外相記者会見での記者質問にあったように、単にイランとの緊張を招くだけとの批判もある。
しかし、イランは近年、特にイラクとシリアにおいて、自分たちの影響力拡大を狙って軍事介入を急速に拡大しており、明確に中東地域の安全・安定の脅威になってきていることは事実である。その担い手こそ、革命防衛隊の特殊部隊「クドス部隊」(クッズ部隊との表記もある)であり、彼らの行動を黙認することは、きわめて危険である。
トランプ大統領は今回の外国テロ組織指定について、「イランがテロ支援国家だというだけでなく、革命防衛隊が国政の手段として積極的に資金調達し、テロを助長していることを認識してのことだ」と言及している。トランプ大統領の対外政策は全般的に緻密な戦略に立脚していない場当たり的なものが多いのも事実だが、このコメントに関するかぎりにおいては、トランプ大統領の認識は正しい。
実際、イランは1979年のイスラム革命以来、「革命の輸出」を掲げて紛争の種を拡散し続けており、きわめて危険な国家であり続けている。
革命防衛隊が1軍、国軍が2軍
イランは選挙で大統領が選ばれる国だが、そんな政府の上位に、保守派のイスラム聖職者が絶対的な権力を握って君臨している。その頂点がアリ・ハメネイ最高指導者だ。ロウハニ大統領もハメネイ最高指導者に逆らうことはできない。
ハメネイ最高指導者の権力の源泉はいくつかあるが、最高指導者直属の革命防衛隊は、その最大のものだ。革命防衛隊がイラン国内で最大の戦力を持っているからである。革命防衛隊はもはやイラン社会に浸透しており、とくに非難の声が日常的に国内で聞こえるわけではないが、政治家やメディアも含め、すべての国民にとって批判は許されない恐ろしい存在となっている。イランでは国内政治に関して比較的活発な論争が行われているが、革命防衛隊の活動はその枠外にある。
革命防衛隊の重要な任務は、1つは国内でのハメネイ体制の維持であり、もう1つが国外でのイランの勢力圏の拡大である。前者においては、たとえば国内で民主化運動が発生した際には、革命防衛隊傘下の民兵組織「バシージ」(動員隊)が弾圧に投入されている。後者においては、クドス部隊が盛んに秘密工作を行っている。イスラム革命が起きてからこの40年間、イランは他国と比べても突出して国家テロを続けてきているが、革命防衛隊はそのテロ活動のまさに中枢の存在だ。
世界のほとんどの国に軍隊は存在する。外敵からの侵略から国民を守る軍隊であれば問題はないのだが、この「自国での専制的独裁体制の守護者」と「対外的な勢力拡大のための不正な謀略活動の常習者」という2点が際立っている。
革命防衛隊は、イラン国軍とはまったく独立した別個の軍事組織である。革命防衛隊はもともとはイスラム革命の最高指導者だった故ルホラ・ホメイニの親衛隊的存在だった。それが、ホメイニ周辺でイスラム革命政権の実権を握る保守系イスラム法学者勢力に直結する「軍隊」としてイラン国内で別格的なポジションに位置づけられるようになり、イラン・イラク戦争を通じて優先的に戦力が強化された。結果、イラン国軍より強力な軍隊に成長した。
もっとも、国軍は政府の指揮下にあるとはいえ、前述したようにイランでは最高指導者に権力の絶対性があるため、政府は外交・安全保障政策もすべて最高指導者の意に従う。したがって、実際のところは、イランには最高指導者の下に軍隊が2つあり、いわば革命防衛隊が1軍、国軍が2軍の二重構造になっている。国外での軍事介入・秘密工作なども、イラン外務省とは別個に、革命防衛隊が独自の判断で行っている。
なお、前述したように革命防衛隊は傘下に多くの企業を抱えているが、とくに軍需産業、貿易、金融、通信、建設などでイラン国内でも大きな支配力がある。
テロを行っているのは「クドス部隊」
現在、革命防衛隊のトップは、ムハンマドアリー・ジャアファリ総司令官である。革命防衛隊は、テロ組織と呼ぶには組織がかなり大きい。陸軍、海軍、空軍、特殊部隊(クドス部隊)を持ち、総兵力は12万5000人に達する。その他、国内の弾圧に動員される傘下の民兵組織「バシージ」の兵力が約9万人である。
ただし、革命防衛隊の中で、国外でのテロ活動に従事しているのは、ほぼ前述の「クドス部隊」に限られる。クドス(クッズ)とは、聖地エルサレムのことだ。クドス部隊は特殊部隊という位置づけだが、実際に行っていることは、武器輸出および対外的な謀略・破壊工作である。したがって、今回、米国は革命防衛隊を外国テロ組織指定したが、実際にはテロを行っているのはこのクドス部隊となる。
クドス部隊が創設されたのは革命防衛隊創設翌年の1980年。現在に至るまで、その陣容は不明で、欧米の研究機関や報道機関でも数百人説から数千人説まで幅広い。海外でのテロ工作・破壊工作の計画・進行に関わるコアなメンバーが数百人いて、そのバックアップや作戦実行時のマンパワーとして投入される要員が数千人といったところではないかと、筆者は推測している。
前述したように、イランは一貫して海外でテロ工作を行ってきている。中東諸国では、カショギ記者暗殺で注目されたサウジアラビアの「総合情報庁」(GIP)や、パレスチナ武装組織メンバー暗殺の数々で知られるイスラエルの「モサド」など、テロを実行している国家情報機関は多いが、イランはそれらと比べても、海外で殺害した人数でいえば、突出して多い。
革命防衛隊はその誕生から現在に至るまで、世界の平和を阻害する札付きのテロ組織だったことは確かである。国内では独裁政権の暴力装置となり、国外ではテロを拡散する。まるでISのような凶悪な軍事組織だが、地域大国イランの国家機関であり、組織的にはきわめて強力だ。むしろISよりも危険な存在とさえ言えるだろう。
(後編に続く)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56103
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