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世界潮流を読む 岡崎研究所論評集
米中「新冷戦」、中国の経済的孤立化策は「高くつく」
2019/04/05
岡崎研究所
最近の米中対立の激化は、米中「新冷戦」と呼ばれることが多くなってきている。この「新冷戦」について、米Claremont McKenna大学政治学教授で中国専門家のミンシン・ペイが、Project Syndicateのサイトに3月14日付けで掲載された論説で、米国が「新冷戦」で中国を経済的に孤立化させることは高くつく、と述べている。論説の要旨は以下の通り。
(Rasica/OtmarW/iStock)
米中の地政学的競争の拡大は「新冷戦」と呼ばれるが、米ソ間の「冷戦」とは大きく違う。20世紀の「冷戦」では二つの軍事同盟が対決していたが、米中間の競争は相互に、また世界と密接に統合された二つの経済の間の話である。
したがって今日の冷戦の最も決定的な戦いは、南シナ海や台湾海峡ではなく、経済前線(貿易、技術、投資)で行われる。
米中貿易戦争は高くついており、トランプは戦争の拡大を考え直している節がある。米国が強い地政学的動機から中国との経済的分離のコストの負担に苦慮している一方で、米国の同盟国は、そのほとんどが中国の安全保障上の脅威にさらされていないので、米国と同じことをしようとしない。
そのいい例がファーウェイである。トランプ政権は同盟国に対し、次世代の5G技術で世界のリーダーであるファーウェイを自国の無線通信ネットワークから締め出すよう要請した。しかし、今日まで豪州とNZが米国の要請に従っただけで、欧州諸国はトランプ政権の要請に応じていない。安全保障上の問題があるにせよ、ファーウェイの禁止はコストを上昇させ、著しい遅れをもたらす。しかし、米国は動揺する同盟国に、経済的見返りも補償も与えない。
これが、米国が新しい冷戦で直面する主要な課題である。米国は最終的には中国に勝ちそうだが、勝利は安上がりでは得られない。中国を経済的に孤立化させることが優位に立つカギであるが、そのためには米国は自身のコストを負うのみならず、同盟国の被る損失を補償する必要がある。
勝利が早期に得られることもない。特に米国が、米国の大豆やエネルギー製品を大量に購入するという中国の約束に見られる短期的勝利を確保しようとするあまり、長期的に考慮すれば米国と同盟国の利益となるような中国の制度的変革を促進しなければ、勝利は遠のく。そのようなご都合主義は、同盟国の間に、中国との経済的対決での米国の決意を疑わせるものであり、同盟国は短期的な高いコストを何の見返りもなしに負わされることを懸念する。
中国に対する新冷戦に勝つのは、イデオロギーや軍事ではなく、地政学的戦いを行う経済的インセンティブによってである。勝利の戦略は、米国の貪欲のみを満たすことではない。同盟国を些細なことで悩ますのは米国が自身を武装解除するのに等しい。
出典:Minxin Pei,‘The High Costs of the New Cold War’(Project Syndict, March 14, 2019)
https://www.project-syndicate.org/commentary/cold-war-us-china-trade-allies-by-minxin-pei-2019-03
この論説は「新冷戦」自体の分析というよりは、トランプ政権の「新冷戦」の進め方、特に同盟国に負担を強いていることを批判したものである。
論説は、「冷戦」が米ソを中心とする二つの軍事同盟の対決であったのに対し、「新冷戦」は米中間の経済の争いであると言っているが、これは、いささか単純化し過ぎである。昨年1月に米国防省が発表した「国家防衛戦略」では、中国はロシアと並んで、国際秩序に挑戦し、米国の価値観と利害に反する形で世界を変えようとしている、と述べている。また昨年10月の演説でペンス副大統領は、これまでの米国の中国関与策は失敗した、今後は中国と対決していくとの趣旨を述べた。「新冷戦」に安全保障の側面があることは明らかである。
トランプ政権は、中国との関係では貿易、経済を最優先させているが、ファーウェイへの対処では、5Gをめぐる争いが、通信を通じ安全保障にも関わってくることを強く意識しているものと思われる。
論説も言う通り、「新冷戦」では中国を経済的に孤立させることが優位に立つカギである。中国の経済的孤立化策は、サプライチェーンを分断することになり、高くつく。米国を見習う同盟国にも高くつくのであるが、トランプ政権は同盟国の被る被害の補償をする用意を見せない。つまりトランプ政権は同盟国に高いコストを強いるという構図が成り立っている。
「新冷戦」では、中国の経済的孤立化について、同盟国が米国と利害を共有しているとは言えない。それにもかかわらず、トランプ政権は同盟国に中国の経済的孤立化策に同調するよう強要するばかりで補償をしようとしない。その背景にはトランプの同盟観があると思われる。トランプは同盟を重視していない。NATOも批判している。トランプはあくまでも「アメリカ・ファースト」なのであり、補償をしないのは、同盟国に鉄鋼・アルミの関税を課すのと相通じるものがある。
米国が中国を安全保障および経済的脅威(2つの脅威は分かち難く結びついている)とみなすのは正しい。しかし、米国が「新冷戦」に勝つには、同盟国と足並みをそろえる必要がある。トランプがそういう方向転換するとは、なかなか見通し難い。
http://wedge.ismedia.jp/articles/print/15776
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