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NZ・白人至上主義者の元凶はトランプ大統領か
アカデミー賞『グリーンブック』の人種差別は今も生きている
2019.3.26(火) 高濱 賛
日本でも現在上映中の映画『グリーンブック』
黒人天才ピアニストと黒人嫌いな白人運転手
ピーター・ファレリー監督の『グリーンブック』が、本年度アカデミー賞の最優秀作品賞、脚本賞、助演俳優賞を受賞した。
この映画は、全米を風靡した黒人天才ピアニスト、ドン・シャリー氏が黒人嫌いの白人運転手、トニー・リップ氏(本名トニー・バレロンガ)とともにディープ・サウス(南部深部)をコンサートツアーした2か月間の体験を描いたコメディ伝記(実は見方によっては社会風刺ものともいえる)だ。
脚本を共同で手がけたのはリップ氏の息子。父親やシャリー氏から聞き取ったエピソードや手紙を基に執筆、映画化した。「死んだら映画化してくれ」というシェリー氏の遺言だった。
場所は人種差別の色濃く残っていたルイジアナ、アラバマ、ミシシッピ各州とそこにたどり着くまで通過するペンシルベニア、イリノイ、インディアナなど東部、中西部の州だ。
南部の州には 日没後、黒人の外出を禁止する「サンダウン・タウン」が点在していた。
時は、黒人が法的にも市民としての権利を認められた公民権法成立の「前夜」である。
確かに超高級車キャデラックの後部座席には、いかにも値の張りそうな背広姿の黒人。運転席には粗野なイタリア系ニューヨークっ子が座っている。
The Negro Motorist Green-Book by Victor H. Green Victor H. Green - Publisher, 1940 Snowball Publishing. 2017
異様な雰囲気だ。それだけで白人と黒人との接触を極度に嫌う南部人の好奇心を誘う。しかもご主人様は黒人でお仕えするものが白人なのだから、なおさらだ。
コンサートツアーというが、何も大劇場で演奏するわけではない。
行く先々で待っているのは、天才ピアニストのポップジャズを聴きたい地方の白人名士たちだけ。演奏するのは超一流ホテルやクラブ。
それでいて演奏するホテルのレストランでシャリー氏は食事もとれない。
「黒人客お断り」は創業以来の社是だ。シャリー氏がちゃやほやされるのは演奏している時だけなのだ。
むろん高級ホテルには泊まれない。モーテルでも黒人専用モーテルだ。
そこで白人の運転手には黒人ドライバーのためのガイドブック『グリーンブック』が必需品となってくる。
映画のタイトルは、そこからきたわけだ。
「カーター大統領の郷里」で体験した人種偏見
ところでこの映画をどう観るか。
非白人である筆者には、1960年代の白人の黒人に対する根深い人種的偏見がこれでもかこれでもかと迫ってくる。
偏見は何も黒人にだけ向けられているのではない。彼らとは異質のユダヤ系、イスラム教徒、アジア系の中国人や日本人にも向けられている。
非白人として米国に長年住んでいる筆者には、他人事ではなくなってくる。
これは東京の映画館で同胞と一緒に、よその国のよその人種同士の話としてエンジョイするのとは勝手が違う。
筆者は、この映画の舞台を1970年代、取材旅行したことがある。あの時、実感した、あの非白人に注がれていた「ある種の冷ややかな目」を今でも覚えている。
アラバマ州のジョージ・ウォレス知事(当時)とインタビューするために州都モンゴメリーでは知事室のある州議会に行く途中、12、13人の子供たちが筆者の後をつけてきて「チャイナマン、チャイナマン」(中国人に対する蔑称)とはしゃぎ立てた。
「オレはチャイナマンじゃないぞ」と怒鳴りつけると、「お前はチャイナマンだ」と怒鳴り返した。そしてげらげら笑った。とんだ歓迎ぶりだった。
1977年に第39代大統領になったジミー・カーター氏の生まれ故郷、ジョージア州プレインズ(人口770人)を取材したときは、プレインズに宿泊施設がないため隣町アメリカス(人口1万7000人)のモーテルに宿泊した。
このとき宿泊したモーテルには、地元の警官2人が現れ、私の滞在中ロビーに常時待機していた。
モーテルの主人は「よそ者のあんたを見張っているんだよ。何せ、ジャップは珍しいからね」と耳元で囁いた。まさに“VIP待遇”だった。
「40年前の話だろ」と笑われるかもしれない。しかし、今も大きく変わっていない。
昨年からジョージア州アトランタ支局勤務になったインド系記者は筆者にこう漏らした。「アトランタ都市圏は問題ないがやはり田舎での取材はしづらいね。やはり電話取材が多くなる」。
黒人運転者にとって『グリーンブック』は命綱だった
話を映画に戻す。
物語はあくまでも白人運転手の見た当時の南部での出来事だった。シャリー氏の見た南部ですらトニー・リップ氏の目を通してのものだった。
ちなみに『グリーンブック』とは、1936年にニューヨーク・ハーレムに住むビクター・グリーンという黒人の郵便配達人が書いた黒人旅行者用のガイドブックだ。本の表紙は緑。そこからグリーン・ブックと名づけられた。
映画にとって最も重要な小道具は『グリーンブック』だ。
公民権法成立前は白人が黒人を差別し、分離することは法的に何の問題もなかった。1962年と言えば、黒人奴隷が解放されてからまだ97年しか経っていない。
それ以後も南部州では無実の黒人が罪を着せられてリンチに遭ったり、黒人教会が焼き討ちに遭ったりしていた。
黒人が国内を移動したり旅行したりするにも様々な制限があった。
車で旅行する黒人には、宿泊するホテルやモーテル、飲食するレストラン、バー、居酒屋、ガソリンスタンド、車の修理、床屋に至るまで制約があった。それは東部や中西部でも同じだった。
そこで、グリーン氏が考えついたのがこの黒人用の旅行ガイドブック。
当初はニューヨーク市内のみを対象にした10ページ足らずの小冊子だった。1部25セントだった。
その後、毎年改訂版が出るようになった。ガイド対象地域は全米はおろか、カナダ、メキシコにまで広がった。広告も入り、価格は1部1ドル25セントになった。
グリーン氏はその後バケーション予約サービスなどにも手を広げ、第2次大戦後の旅行ブームの波に乗って大成功したという。
『グリーンブック』は公民権運動が最高潮に達する1966年まで続いた。
(その後、歴史的観点から注目され、1941年版オリジナルはオークションで2万2500万ドルで落札している)
黒人の大半は黒人経営の「民宿」に泊まっていた
『グリーンブック』にはいったい何が書いてあるのか。取り寄せた1940年度版(ファクシミリ版=48ページ)を読んでみる。
序文にはこう書かれている。
「本書の狙いは、黒人自動車運転者(Negro motorist)が全米各地を快適に旅行できるよう、便宜を図ることにある。この本はただ宿泊できるホテルや民宿を紹介するだけでなく、旅先で必要になったあらゆることを解決するために役立つ」
「本書は毎年書き換えられている。黒人自動車運転者が利用できる宿泊施設やサービスが毎年増えているからだ」
「さらに一つ読者の方にお願いしたい。皆さんが旅をしていてここは利用できる、ここには宿泊できるといった体験談を編集部にぜひお寄せいただきたい。それによって私たちが便利な情報を共用できるからだ」
本書は全米各州ごとに泊まれるホテルやモーテルの名前と住所が書かれているが、ホテルは少ない。
代わりに目立つのは「Tourist Homes」と呼ばれる民宿だ。黒人が自分の家の一室を旅行者に賃貸しているのだ。特に南部州にはこの民宿が圧倒的に多い。
そのほか、ナイトクラブやガソリンスタンド、車の修理、ドラッグストア、美容院や床屋がリストアップされている。
裏を返すと、通常のホテルやガソリンスタンドがいかの黒人を差別していたかが浮き彫りになってくる。
リップ氏は「黒人を救済した立派な人間」か?
シャリー氏とリップ氏は、こうした状況下の南部深部を旅行していたのだ。
映画は結論として、人種差別主義者で無教養なリップ氏が旅行を通じて、南部の人種差別の実態に気づき、その現実からシャリー氏を守り(カネをもらってボディガードを買って出たのだから当然だが)無事コンサートツアーを成功させたことを讃えている。
この点に噛みついたのが著名な黒人映画監督のスパイク・リー氏ら黒人映画関係者だ。
つまり白人の目線で人種差別を描き、リップ氏を「黒人(シャリー氏)を人種差別から救済した立派な人間」として祭り上げているというのだ。そこが鼻持ちならないのだろう。
知人の黒人ジャーナリストの一人は、筆者にこう語った。
「もしシャリー氏が著名なピアニストではなく、ただの無教養な黒人だったらどうだったか。誰も相手にしなかっただろう」
「そのことは現在でも言える。黒人が大リーガーだったり、有名な映画俳優ならちやほやするだろう。でも彼ら普通の黒人だったら、どうか」
「だからこんな映画をいくつ作っても白人目線では人種差別問題の本質をえぐることはできないんだ。それは中南米系やアジア系にしてもイスラム教徒に対しても同じだ」
ニュージーランドで起こったオーストラリア国籍の白人至上主義者によるイスラム教徒虐殺事件が世界を震撼させている。
こうした事件が世界中に伝播していることと、ドナルド・トランプ米大統領の白人至上主義的発言との関連性が取り沙汰されている。
トランプ大統領は、ニュージーランド銃乱射事件について、記者団に「白人至上主義が広まっていると思うか」と聞かれて、「(白人至上主義者は)ごく少数だ。脅威ではない」と答えた。
米メディアはこの発言をとらえて批判している。
2017年8月、南部バージニア州シャーロックビルで南部軍のリー将軍像を巡って白人至上主義団体と反対派とが衝突した事件で反対派の女性が死亡したことがある。
この時にも「(女性の死の責任は)双方にある。白人至上主義者にも素晴らしい人たちが含まれている」と白人至上主義者批判を避けている。
元共和党下院議員で現在コラムニストのジョー・スカ―ボロ―氏は、トランプ大統領の「人種差別主義」を激しく批判してこう論じている。
「トランプ氏は、大統領になる前からイスラム教徒の入国禁止を主張し、KKK(Ku Klux Klan=クー・クラックス・クラン)指導者のディビッド・デューク氏をかばい、ヒスパニック系判事を誹謗、戦死したイスラム教米兵の家族を馬鹿にし、反ユダヤのツイートを繰り返してきた」
「これらはトランプ氏が行ってきた数多くの反人種主義的発言のほんの一部にすぎない」
「トランプ政権になってから米国内での極右によるテロ行為は4倍に増え、ヘイトクライムは17%増加した。欧州での極右による攻撃は2016年以降、43%も増えている」
NZ銃乱射犯は「トランプはシンボル」と尊敬していた
ニュージーランド乱射事件の犯人、ブレントン・タラント容疑者は犯行予告で「トランプ氏は新たな白人アイデンティティ(白人が白人であることの主体)のシンボルだ」と讃えていた。
映画『グリーンブック』は1960年代の南部の人種差別社会を「過去」のものとしてビビッドに描いた。
根底には「白人は優秀な人種だ」という何ら根拠のない優越感に浸る哀れな白人たちの姿があった。「白人至上主義」を当たり前のものとして受け入れる無知さがあった。
前述の黒人ジャーナリストは筆者にこうも言い切った。
「トランプ大統領が白人至上主義者を声を張り上げてはっきりと非難できない理由は何か。それは彼自身が同じ穴のムジナだからだ」
「映画はあくまでの『過去の出来事』としてとらえ、アカデミー賞選考委員会は評価し、最優秀作品賞を与えた」
「だがあの映画は今も姿形を変えて生き続けている『現在の出来事』だ。それがまさに南部ではなく、海の向こうのニュージーランドで起こったのだ」
米共和党のストラテジストで政治評論家のアリス・スチュワート氏は、テレビで次のようにまくし立てていた。
「事件はトランプ大統領が白人至上主義者を勢いづけたという人がいるが、筋違いだ。何か起こると何でもかんでもトランプ大統領のせいにする。まさに魔女狩りだ」
映画『グリーンブック』は目下日本でも一般公開中。皆さんはこの映画を観てどんな感想を持たれるだろうか。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55854
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