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中国によるアジア植民地構想、ほぼ頓挫へ
1MDB事件への中国の関与が濃厚になり、反発強めるアジア各国
2019.2.13(水) 末永 恵
世界約70か国で進む中国の一帯一路プロジェクト。空港など各国の国の要所に、大きくプロパガンダを張る中国政府(マレーシアのクアラルンプール国際空港、筆者撮影。2019年2月)
「(私の右肩が)いつでも風や雨からあなたを守り、(私の左肩も)あなたの支えになり続けるから、困難な山々を手を携えて乗り越えましょう!」
2月5日の春節を目前に、中国政府がこう歌った友好国ソングを公表した。
その友好相手国とはマレーシア。
この歌は、今年が両国の国交45周年記念にあたり、中国政府が永遠の友好関係を切望して作ったという。
言い換えれば、こんな陳腐なラブソングを作らざる得ないほど、両国関係において中国は切羽詰まった状況に置かれているといえるだろう。
5年前の5月31日、中国・北京の天安門広場に面した人民大会堂では、「マレーシア・中国国交樹立40周年記念式典」が行われた。両国を代表して、マレーシアは親中のナジブ首相(当時)、中国は李克強首相が出席、両国は蜜月だった。
それを象徴するかのように、式典にはマレーシア華人商工会などの経済団体代表約300人の大経済ミッションがナジブ首相に随行。
さらに、生ドリアン輸入は禁止されているが、ナジブ首相からの大量のドリアン土産を中国政府はあっさりと「特例許可」、ドリアン外交が炸裂した。
(参考記事:http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52186「中国がドリアン爆買い マレーシア属国化への序章」)
しかし、あれから5年。事態は急変した。
不正や腐敗政治の一掃とその関連で中国主導の一帯一路の大型プロジェクト見直しを掲げたマハティール政権が昨年5月に誕生。「新植民地主義は受け入れない」と習近平国家主席や李首相に大型プロジェクトの延期や中止を次々に表明してきた。
これまで小国から屈辱的な扱いを受けたことのない中国は、動揺を隠し、静観を標ぼうしてきた一方で、「内心は怒り心頭だった」(中国政治学者)らしい。
しかし、マハティール・ショックは止まることはなかった。
ナジブ政権の汚職体質にもメスを入れ、昨年、米国やシンガポール、スイスなどでも捜査が続くマレーシアの政府系投資会社「1MDB」の巨額不正横領事件に関連し、ロスマ夫人ら家族や関係者ともども、ナジブ氏をマネーロンダリングや背任罪など、実に42の罪で起訴したのだ。
参考記事:
(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53479「アジアを腐敗まみれにして属国化する中国の罠」)
(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54307「天国から地獄へ マレーシア・ロスマ前首相夫人に司直の手」)
同事件では、ナジブ氏が首相在任中に同投資会社から約7億ドルを不正に受領していた疑惑だけでなく、家族や関係者を含め約45億ドルにも上る公的資金を横領したと見られてきた。
本コラムでは、2015年3月、日本のメディアとして第1報を報じて以来、同事件の真相や背景について追及してきたが、ようやく、ナジブ氏の初公判が近く開かれることになっている(当初は、2月12日だったが、延期となった)。
この時期に中国政府が面子そっちのけでマレーシアにラブソングを捧げるもう一つの理由が、実はこの裁判にある。
公判での証拠、証言(約50人が証言台に立つ予定)いかんでは、ナジブ政権を支え、1MDBに深く関わってきたと疑惑のある中国にとって国際的に大きな信用を失墜させる事態に陥るからだ。
「米国史上最大の泥棒政治による横領事件」(セッション米前司法長官)と称された世界を舞台に大胆に、かつ、複雑な手法で実行された国際的公金不正横領事件。
今年の春節の中国人の海外渡航先一番人気のタイのプーケットには、相変わらず、お騒がせ中国人観光客が大挙して、地元の不評を買っている(タイのプーケット島、筆者撮影。2019年2月)
しかし、同事件の投資案件を扱った世界最大級の米投資銀行「ゴールドマン・サックス」(GS)の元社員が米司法省から起訴され、有罪判決を言い渡された一方、同事件の首謀者とされる華人系マレーシア人のジョー・ロー氏は、「中国の保護の下、中国に潜伏している」(マレーシア捜査関係者)とされる。
(参考記事:http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43277「マレーシア首相一家と蜜月 大富豪ジョー・ローの謎」)
というのも、マレーシア当局が、「1MDB」を巡る世界最大級の汚職捜査の一環で、中国が支援する一帯一路関連の大型プロジェクトの資金が、ナジブ前政権が抱えた1MDBの債務返済に流用された疑いが濃いと捜査中だからだ。
裁判を通じ、中国政府が1MDBの不正疑惑に関与し、資金提供や資金洗浄によりナジブ政権を裏から支え、そのチャイナマネーが発端で巨額の公金不正が実行され、中国がその見返りに国家最大のプロジェクトの一帯一路のプロジェクトを進めていたとすれば・・・。
こうした実態が暴かれれば、中国政府の違法行為は国際的に裁かれるだけでなく、習政権の生命線でもある一帯一路が頓挫する国家的リスクを背負うことになる。
このため、米司法省やマレーシア政府から起訴は受けている首謀者のロー氏を中国が庇護しているとみられる。
米国やマレーシアで有罪判決を受けたとしても、事実を知りすぎたロー氏を中国国内で匿っている限り、中国は面子を保てるとともに、違法行為を国際舞台で追及されることがなくなるというわけだ。
さらに、1月末、マレーシア政府は、昨年8月の訪中で、習国家主席に中止を表明していた一帯一路の東海岸鉄道計画(ECRL)の正式な廃止を決めたとされる。
参考記事:
(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53132「一帯一路のマレーシア東海岸鉄道計画 中止か」
(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53515「マレーシア東海岸鉄道中止 広がる反一帯一路」)
習国家主席肝いりの一帯一路の目玉プロジェクトであるECRLは、総工費550億リンギをかけ、南シナ海側のタイ国境近くからマラッカ海峡まで、マレー半島を東西横断する、すなわち「南シナ海とマラッカ海峡を結ぶ鉄道」だ。
クアラルンプール近郊と東西の重要港を結ぶ総距離約700キロになる一大プロジェクトで、2024年7月の完成を目指していた。
しかし、マレーシアの与党関係者によると「工事は約20%ほどでとん挫している状態だ」という。
しかし、中国は、自国の輸入原油の80%が通過するマラッカ海峡の安全保障を、米国が管理するという「マラッカ・ジレンマ」を抱えている。
南シナ海のシーレーンが脅かされた場合のバックアップとして、マレーシアとの協力関係を築き、マラッカ海峡のルートを確保したい考えだ。
ECRLは、(米海軍の環太平洋の拠点がある)シンガポールを封鎖された場合、中東、アフリカ地域からマレー半島東海岸側に抜ける戦略的な鉄道網で、地政学的に極めて重要拠点となるマレーシアを取り込む中国の「一帯一路」の生命線である。
しかし、マハティール首相は筆者との単独インタビューでも「ECRLは、マレーシアにとって国益にならない。凍結するのが望ましい」と発言している。
(参考記事: http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53065「マハティールの野党勝利 61年ぶりマレーシア政権交代」)
一方、1月末の計画廃止の発表後、「中国政府は、融資の利子や工事費などを半額にするなど、計画の廃止を再考させるようあの手この手でマレーシア政府と交渉している」(マレーシア政府関係者)とされる。
このこと自体、中国の劣勢状況を反映しているといえる。
また先月には、米メディアなどが、中国がこの件に深く関与していたとされる2016年の会議の議事録を暴露している。
それによると、中国が1MDB関連の巨額流用汚職疑惑の渦中にあったナジブ政権に対し、一帯一路への協力と引き換えに1MDBの救済を申し出たとされる。
さらに、不正事件の捜査を中止させるよう、中国政府が米国政府に対して影響力を行使できると提案していたことも明らかにした。
これに対しナジブ氏は、数カ月以内に中国の銀行がその資金を融資し中国人労働者が建設作業に従事することを条件に、中国国有企業との約350億ドルの鉄道・パイプライン建設契約に署名したという。
そのプロジェクトには、マハティール政権が廃止を先月いったん決定したとされる「東海岸鉄道計画」や、ボルネオ島・サバ州に建設予定のパイプライン事業が含まれていたという。
また、同会議では中国の軍艦をマレーシアの2つの港に停泊させるための極秘協議もされたと議事録に記されているという。
中国が一帯一路を通じ、過剰債務に陥っている新興国や発展途上諸国への影響力や支配を強め、融資の罠をはびこらせ、軍事的目的を果たそうとする思惑が浮き彫りになった。
折しも、マレーシアと中国の国交樹立は、今から45年前の5月31日。
ナジブ首相の父親、ラザク首相(マレーシア第2代首相)と周恩来首相(当時)の間で、同じく中国の人民大会堂で調印されたものだ。
実は、ASEAN(東南アジア諸国連合)と中国との国交樹立は、マレーシアが先陣を切る形で始まり、その後、各国が続く形となった。
しかし、マレーシアのマハティール首相が中国へ反旗を翻したいま、ほかのアジア諸国も追随する勢いを見せている。
中国は“新植民地時代”を友好国ラブソングに期待を込めたのかもしれないが、あまりに前途は多難である。
(取材・文・撮影 末永 恵)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55458
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