http://www.asyura2.com/19/kokusai25/msg/358.html
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困窮するヴェネズエラ国民、髪を売る女性も
2019/01/30
BBC News
経済危機と政情不安で揺れる南米ヴェネズエラでは、ハイパーインフレと生活必需品の不足で人道危機が続いている。
こうした中、金銭も持たずに国外へ脱出する人の中には、髪を売って資金を作る女性もいる。
コロンビアに逃亡したヴェネズエラ人のルイス・フェルナンドさんは、女性の髪を約18万ペソ(約6500円)で買い取っている。
動画:アンヘリカ・M・カサス
提供元:https://www.bbc.com/japanese/video-47038281
メキシコは天国から余りにも遠く、アメリカに余りにも近い
国境を越えるということ、私的一考察
2019/01/29
足立倫行 (ノンフィクションライター)
メキシコ・ティファナ側からの国境。家族が壁越しに面会している(shakzu/Gettyimages)
メキシコ人の好きな自虐ネタにこんなのがある。
「メキシコは天国から余りにも遠く、アメリカに余りにも近い」
自国の貧しさを世界一の富裕国に隣接する悲・喜劇性と絡め、嗤っているのだ。
私がそのことを思い知ったのは、カリフォルニアから徒歩で国境検問所を越えてメキシコに入った当日。ほぼ半世紀前のことだ。
国境の町ティファナは、すぐに物乞いの群れに付きまとわれて煩わしく、加えて異様に猥雑なので、私はメキシコ中部の太平洋岸まで一気に下ろうと、鉄道の始発駅メヒカリに向かうバスに跳び乗った。
ティファナからメヒカリまでは2時間ほどだが、1時間近く走った頃、バスは奇妙な場所で停車した。人家もバス停もなく、左手はアメリカへと続く砂漠地帯である。
7〜8人の男たちがゾロゾロ降りた。彼らは荷物を持ち、砂漠へと歩き始めた。
私は片言のスペイン語で隣の男に尋ねた。
「ア・ドンデ(どこへ?)」
男は答えてくれたが、「ア・ロス・エスタドス・ウニドス(合衆国へ)」と「ノチェ(夜)」しか理解できなかった。
けれど、彼らが密出国の集団であり、案内の業者と共に夜中にアメリカ・メキシコ国境を越える予定、ということはわかった。
運転手は平然とスタートし、乗客からの不審がる言動もない。ということは、こうした「途中下車」は日常茶飯事なのだ。
私はその数日前まで、集団一行が目的地とするカリフォルニアの隣のアリゾナにいた。
砂漠の中の土地開発会社の臨時雇いだったが、時折南から徒歩でやってくる密入国者のニュースを聞いた。国境警備隊が何人逮捕したとか、どこそこで遺体が発見されたとか。
正直、サボテンに囲まれたプールの傍らでそんな話を聞いてもピンとこなかったが、メキシコで日常化した密出国者送り出しを見ると納得が行く。アメリカ西海岸の農業が不法移民の労働力を不可欠としている以上、圧倒的経済格差に誘引された彼らの危険な国境越えには、「合理的」蛮行の側面がある、と。
現在、世界の耳目を集めているメキシコ国内の「移民キャラバン」は、以上とは多少性格が異なる。中核となっているのが、国内での治安悪化を逃れて北上してきた中米諸国(特にホンジュラス)からの避難民だからだ。
最近の報道によると、昨年11月以降ティファナには1万人近くが到着した。だがトランプ政権は彼らに厳しく対処しており、違法入国を試みた約2600人がアメリカ側に拘束され、難民申請した約2500人も却下。キャラバン参加者の約3割は止むなく帰国したと推察される。ただし、メキシコ南方には新たな「移民キャラバン」が次々集結、一部はすでに入国した(1月20日付朝日新聞)。
ホンジュラスで何が起きているのか?
その内情をレポートしたのが工藤律子さんの『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、2016年)だった。
メキシコで長年ストリートチルドレンの支援活動をしてきた工藤さんは、近年ホンジュラスから凶暴なマラス(ギャング団)に追われ逃げてくる若者の増加に気付いていた。
「親や兄弟を殺されたり、自分も殺人を強要されたりした末の命がけの逃亡です」
私の著者インタビューでそう語った。
著作は、殺人発生率世界一のホンジュラスに乗り込み、ギャング団の元リーダーや抜け出した若者たちから体験談を聞き、彼らの更生に取り組む現地のNGOや教会関係者の活動をも記録した稀少な実地調査だ。
ギャング団は昔もいたが、麻薬や縄張りを巡って抗争が激化し殺人が急増したのは、中米(メキシコも)ではこの10数年のこと。なぜか?
「私は契機は1994年のNAFTA(北米自由貿易協定)じゃないかと思います。アメリカ流の経済最優先の新自由主義的な考えが流れ込み、それまでラテン・アメリカの社会にあった“貧しくても助けあって幸せに”という仲間意識が急速に失われたのでは」
工藤さんの取材では、ホンジュラスの凶暴なギャング団は、一度アメリカに不法入国しその後戻ってきた不良やその子弟が、故郷でパワーアップして再結成したもの、らしい。
半世紀以上前から、アメリカへの密入国者にはメキシコ人以外にグァテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル人が一定数いた。「アメリカがクシャミすると風邪を引く」歪(いびつ)な力関係は、中米でも歴史的なものなのだ。
私はホンジュラスは知らないが、グァテマラにはビザの更新で行ったことがある。
グァテマラ・シティで2泊し、メキシコ大使館で6ヵ月滞在再延長の手続きをして、メキシコ側に帰ってくるとドッと疲れた。それほどメキシコとグァテマラの空気は違った。
まず国境の出入国事務所である。窓口に立ったとたん、有無を言わさず2人の係官にトイレに連れ込まれ、髪を鋏(はさみ)でバサバサと切られた。「やや長め」にすぎなかったが、彼らは「ヒッピー・ヘア厳禁!」と言い張る。
バスに乗ると、両脇のジャングルに何台もの車が仰向けになって転がっていた。
そして首都。夜中にあちこちで銃声が響く。翌日ホテルのフロントで聞くと、「まだ反政府ゲリラが活動しているから」……。
日本で暮らしていると、政治・経済・歴史・文化の違う国が地続きであることや、国境を越えると習慣・人情が一変することは、なかなか理解しにくい。しかし世界的には、海に囲まれ国境が見えない方が特殊なのだ。
前述の新聞報道によると、新たな「移民キャラバン」のうち、私が半世紀前に渡ったグァテマラ・メキシコ国境のスチアテ川の橋をすでに越えたのは約2000人だという。
メキシコで受け止めきれるのか?
昨年末誕生した左派のメキシコ大統領ロペスオブラドールが、人道的見地から避難民受け入れに前向きなのは朗報だが、それを上回りそうな懸念もある。
1つは、メキシコではなくあくまでアメリカを目指すキャラバンの多数派に対して、トランプ政権が拒否姿勢を崩さず、警備強化と国境の壁建設に固執していること。
もう1つは、南米ベネズエラの反米独裁左派のマドゥロ政権が崩壊寸前であり、もしも崩壊すれば、今年中にも人口の2割近い530万人が移民や難民として国外流出する見通しがあることだ(国連予測)。
ベネズエラ難民の5%がアメリカを目指したとしても約26万5000人。シリアやイラク難民がイギリスやEUに深刻な亀裂を与えたように、ホンジュラスやベネズエラの難民も、世界一の富裕国の分断をさらに深めるのだろうか?
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/15196
マラス 暴力に支配される少年たち 単行本 – 2016/11/25
工藤 律子 (著)
殺人事件発生率世界一の中米ホンジュラスには、凶悪な若者ギャング団「マラス」がはびこる。
マラスの一員になる条件は、誰か人を殺すこと。そして、組織から抜けるときは、死を覚悟しなければならない。
なぜ少年たちは、死と隣り合わせの「悪」の道に進むのか。
元マラスや現役マラス、軍警察、そして若者ギャングの人生を変えようと奮闘する人々を取材し、暴力と貧困のなかに生きる少年たちの驚くべき現実が明らかになる。
殺人命令から逃れるためにメキシコへの決死の逃避行を果たした少年。マラスから抜けてギャング以外の道を若者に訴えるラッパー。そして、刑務所で囚人たちに救いの道を語りかける元ギャング・リーダーの牧師補佐。
今まで語られることのなかったマラスの姿を追った、衝撃のルポルタージュ!
第14回開高健ノンフィクション賞受賞作。
【目次】
○プロローグ
○第一章 マラスの輪郭
マラスというレッテル/国内最大の刑務所
○第二章 カリスマ
ギャング・リーダーの誕生/武装する少年たち/死への恐怖/塀の中のドン/奇跡の変身/神に導かれた男
○第三章 マラスという敵
マラスを追い詰める/マラスを抜けた青年
○第四章 冒険少年
世界一危険な町から来た少年/決死の逃避行/一筋の光/新天地
○第五章 マラスの悲しみ
ギャングと歩むシングルマザー/リベラ・エルナンデスの牧師/穏やかになったギャング/異なる選択肢
○第六章 変革
神のラッパー/刑務所の伝道師/強まる使命感/変革への連携プレー
○エピローグ
【著者プロフィール】
工藤律子(くどう りつこ)
1963年大阪生まれ。ジャーナリスト。東京外国語大学大学院地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究し、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。主なフィールドはスペイン語圏、フィリピン。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『ルポ 雇用なしで生きる』(岩波書店)などがある。
内容(「BOOK」データベースより)
殺人事件発生率世界一の中米ホンジュラスにはびこる凶悪な若者ギャング団、「マラス」を取材した衝撃のルポルタージュ!2016年第14回開高健ノンフィクション賞受賞。
ち5.0中米ホンジュラスの生の姿を伝える貴重な一冊
2017年2月26日
形式: 単行本Amazonで購入
中米ホンジュラスで暗躍する青少年凶悪犯罪集団「マラス」を取材したルポルタージュです。私自身2003年以来14年間に渡り毎年ホンジュラスに赴き現地で支援活動に携わっていますが、現在日本語で読める資料の中で、これほどホンジュラスの生の姿を虚飾なしに描き出しているものは他に存在しないと言って過言ではありません。
ホンジュラスにおける「マラス」の存在は、この国の深刻な貧困と向き合う際に不可避の要素であるにもかかわらず、そのあまりの暴力性と反社会性故にこれまで如何なる支援関係者も近づくことの出来なかった言わば「禁域」です。しかしラテンアメリカに精通したジャーナリストである筆者は恐らく日本人として初めてこの「禁域」に立ち入り、更にその深奥にまで迫ることで、覆い隠されていた彼らの姿に光を当てています。そこに照らし出されたものは、この国の貧しい青少年たちに容赦なく突きつけられる非情な現実と著しい不正義、そしてそれらがもたらす社会への深い失望と人間性の喪失です。それはホンジュラスを世界最悪の殺人帝国に貶めている悪名高き「マラス」の、その凶悪な出で立ちの後ろに隠された赤裸々な真実に他なりません。
さらに筆者は組織を抜けて更生を目指す元マラス構成員と、彼らを支える有志のホンジュラス人たちの姿を通して、これらの不条理と対峙して行くために必要なものが何であるかも描き出しています。
この本はホンジュラスに関係するすべての者にとって必読の書であるばかりでなく、広く青少年支援活動に携わる人々に対してもその在り方の根本を問う、極めて貴重なドキュメンタリーです。
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umuumu
5つ星のうち5.0死が隣り合わせの凶悪な若者ギャング達。その根底にある関係性の欠如・社会構造への理解、解決への模索には学び、感じ入るものがあります。
2017年3月20日
形式: 単行本
300頁ほどだが、かなり読み応えがある。
当然過剰な演出を狙って書かれたわけではないが、死が日常である激しい暴力や殺人シーンが多く出てきて、想像するとやるせないような胸の痛みと疲労感が募り挫折しそうになる。
救いは、この著者、工藤さんがただ状況を問題視し、書き立てるのではなく、ギャングに入らなくてはならなかった側、弱きものに絶対的に肩入れしており、問題を自分事として捉え、ひととして教育の視点から解決を希求しているだと思う。
さて、残虐行為を平然とやってのける「マラス」という集団に惹かれる普通の少年達。どうしてそこにいることを選んだのか?著者は様々なインタビューから、その背景を貧しさとラテンのマッチョ文化の掛け算だと説く。
誰にでも、親に愛され、人に敬われたい欲求がある。充たされることのないその欲求の向かう先。それはその土地に用意されたポケットに収まっていく。(p147「日本でも子どもや若者を巡り、いじめや不登校、自殺などに加えて、JKビジネスや麻薬売買といった問題まで出てきている中、マラスの問題も「外見」こそ大きく異なるが、同じグローバル化のもとで、日本の子どもや若者の問題ともつながっているのではないか。(中略)おとなが経済状況にばかり気を取られ、子どもの心に寄り添えないまま、子どもは成長していき、結局は余裕のないおとなたちと同じような考えでしか生きられなくなる。」)(p240 「子どもや若者はいま、様々な場所と機会を奪われています。家庭崩壊が進んでいるため、ギャング団がよりどころになっている。ギャング団が、人のぬくもりや庇護、衣食住、そしてひとつの合い遺伝ティティを、彼らに与えているのです。現代社会が、金持ちにだけ存在価値を与えて、貧乏人からはすべてを奪った結果です。」(若者ギャングの更正に尽くすエミリアーニ司教の言葉))
途中更正者の話を追う回想シーンの中で、何か既視感らしきが出てきた。そう、昔見た映画「闇の列車 光の旅」だ。主人公が逃亡する際、鉄道の屋根上に隠れている。そこにギャングが来て、周囲の乗客が殺される。(一部「そして一粒の光」とごっちゃになっているかもしれない。。。)極端に残酷で不条理な環境で生まれ育つということ。(p174「野獣」などという恐ろしげなニックネームが付けられているのは、その旅が想像以上に過酷であることを示している。(中略)それでもなお、人々はささやかな希望を胸に、野獣の背に乗る。それは貧困から抜け出せない日常を変えるための賭けであり、冒険への憧れであり、暴力からの逃亡であり、動機はそれぞれだ。共通しているのは、それに乗る時、誰もが旅の本当の結末を知らないということだろう。」
このルポタージュの中では、更正した青年たちに共通するのは神(キリスト教)に立ち帰ったところだ。「赦し」があったから、人と殺し合うのではなく「肯定的に在る」生き方を選ぶことができた。力の方向性を変え、生き直すことができた。日本人である私の周囲には信仰者は全くいなかったとはいえないが、人生の節々に絶対的な存在として「共に在る」神を想像することは難しい。
大学生に入る前に過食症を患った際に出逢った友人が「私には神が在るから」と首に提げた十字架のネックレスを私に見せはにかんだ時。私は嫉妬に近い何かを憶えたのを憶えている。
バックパッカーでヨーロッパを回っている際に出逢ったグアテマラ人のジャーナリストフロレンシオは私に神を信じている?と聞いて「ううん、でも八百万のような神は漠と信じている」と答えた際に、「神なしで生きる?すごいな」という驚愕の眼差しで私を見たことを想い出した。
そういった宗教的な土壌は日本とは異なるかも知れない。
この本を読むことを薦めれば、なぜ今ホンジュラス?なぜ今マラス?と思う人も居るだろう。しかし、どこにでも埋まっている「不条理」の土壌を読み解き、根底に在る飢えや社会構造を理解しようとする試み、解決への視座は全世界に共通し有用だろう。
私自身、国家的な歴史や、ギャング抗争の変遷は複雑で十分に把握できたとは言えないが、ホンジュラスという自らにとって全く縁のなかった国をほんのほんの少し近く感じられた。生まれてくる子ども達は希望で在る、社会で守ろう、育てたいという意志は世界共通のそれでありたいと願う。
著者(とパートナーの方)のジャーナリスト魂、そして温かい人間性を強く感じる良著だと感じた。
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大寺萌音
5つ星のうち4.0悲惨な状況なのは確かだが、決して光が見えていないわけではない
2017年1月22日
形式: 単行本
例えば2014年、中米の国ホンジュラスにおける殺人発生率は10万人あたり74.55に対し、日本では0.31。ストリートチルドレンの問題に長年携わってきた著者による、そのホンジュラスにはびこる凶悪な若者ギャング団「マラス」に関わる人々のルポルタージュ。
元マラスでギャングリーダーだったものの、現在では聖職者となり、囚人となった者たちに神の道を説き続けるアンジェロ、ギャングたちの更生を支援するシングルマザーのジェニファーなどの言葉を読むと、若者の多くが、10歳前後からギャングに取り込まれてしまう理由が理解できる。中東やアフリカなどで少年の兵士が多いことと同じとも言えよう。極端な貧困ゆえに、愛情を注がれることがない子どもたちの、感情の向かう先に“ギャング”という組織があるのだ。想像以上の危険がわが身に降りかかったため、故郷や家族を捨てて決死の逃避行に挑んだ少年の証言にも心が動かされる。
環境によっては、「自己責任」だとか「努力不足」といった言葉がいかに愚かしいものか理解できよう。
エピローグを読むと著者が書くように、「マラス」に取り込まれていった少年たちと、日本の子どもたちの間に、本質的な部分で大きな差を感じることはできない。ということは、日本でも相対的貧困率の上昇が続いたりすれば、同じようなことが起きてもおかしくないということだろう。
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三田静香
5つ星のうち4.0貴方が信じるものは
2017年3月19日
形式: 単行本
神はいない、と考え始めたのはいつ頃からだろう。幼い頃は、朝起きて神に祈り、聖句を読む。昼は奉仕に出かけ、夜は教会へいく。生まれてから何百回、何千回と繰り返してきた。しかし、自我と共にこの習慣への不満と大人への懐疑が募り、いつしか神の言葉とされる聖句が私を縛り始めた。しかし、その言葉が日本の裏側、ホンジュラスのギャングたちを救っているという。
スペイン人による征服以来、キリスト教が根付くラテンアメリカでは、日常のなかで聖書の言葉に触れることは多い。だが、間近のギャングに怯えて暮らす人々が多く、その彼らにならい、暴力を行使する若者が後を絶たない。著者が取材した、教会牧師補佐をするアンジェロも強盗・殺人未遂を繰り返してきた一人だ。ギャング人生を楽しんでいたアンジェロも、頻繁にさらされる死への恐怖に怯え、その不安を武装することで消し去っていた。しかし自動車強盗の際に発せられた聖書の一説に衝撃を受け、回心した彼は今では囚人たちに聖書を説く伝道師なった。アンジェロは自信に満ちこう説く。「罪を犯した者でも、生まれ変わることは可能だ」と。その彼を慕い、聖書の教えに救われたギャングの若者が何人いるだろう。
神を信じないのか。その質問は、私には愚問だ。ただ私にわかるのは、その存在を信じ救われる者がいること。そして信じるものを持つ者は強いということだ。筆者もアンジェロ牧師の刑務所での説教を通し、「暴力ではなく、信仰を深めることで、罪を犯してしまう弱さを乗り越え、真に強くなろうとする者たち」がいることを実感している。
この日本では特定の信仰を持つ者は少ない。信じるものがいない人間の精神は不安定で、脆い。若者に限らず、大人も人間関係や仕事で鬱になり、死を選ぶ者が後を絶たない。その中で心の拠り所となる存在は特定の信仰ではなく、両親や配偶者であったり、恋人や師であったりするのではないか。それは二十年以上もメキシコの研究をしてきた筆者にもいえよう。どんな取材先にも寄り添っているフォトジャーナリストの篠田。なにか一つでも信じるものが見つけることができたら、それはどんな逆境にも打ち勝つ力へと変わる。そして、それは「生」への執着にもなろう。その存在を神という名や自分の思う名で呼べばいい。
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yukkie_cerveza
殿堂入りNO1レビュアーベスト100レビュアー
5つ星のうち4.0私にとっては思い入れのあるホンジュラスに関する書籍と聞いて迷わず購入した
2017年1月30日
形式: 単行本
著者は1963年生まれのジャーナリスト。東京外国語大学大学院在学中からメキシコの貧困層の生活改善運動を研究していた人物で、スペイン語圏とフィリピンをフィールドに取材活動を続けてきました。
これは中米および北米でラテン系ギャング団を形成している若者たちの実態をホンジュラスに取材したルポルタージュです。『世界』(岩波書店)や『週刊金曜日』(金曜日)に執筆した記事などをもとに加筆修正した書で、2016年に開高健賞を受賞しています。
私自身の個人的な経験から記すと、私は2002年に2度、そして2005年に1度、ホンジュラスを旅したことがあります。首都テグシガルパと第2の都市サン・ペドロ・スーラも訪れました。当時、現地に住む日本人、あるいはかつてホンジュラスに暮らしたことがある東京の知人は皆、「町なかを一人で歩くなんて危険ではないか」、「バスに乗るなんて危なくないか」と訊いてきたものです。私自身は、日本以外の国はどこも<同じように危険>だという認識しかありませんでした。むしろホンジュラス人は中南米で最も穏やかな性格を持った国民であると聞かされていましたし、事実私が巡り会った現地の人々はとても親切で温和な人が多いというのが偽らざる印象だったのです。ですがやがて、現地では若者たちのギャングが日々抗争を続けていて、死者が出続けているという現地メディアの報道をネットで目にするようになります。この書『マラス』によれば、2010年以来5年連続で人口10万人当たりの殺人事件発生率が世界一という国になってしまっていました。
この書によってホンジュラスに若者ギャング団の暴力が渦巻くことになった経緯が理解できました。
90年代の前半にカリフォルニアの州知事が犯罪歴のある中南米出身者を母国へ送還する政策を導入。ホンジュラスにも3000人ほどのギャングたちが戻ってきます。彼らが帰国後に地元の若者たちを組織してギャング団が林立することになります。当初はギャング同士に諍いはなかったのですが、カリフォルニアに残った上部組織の幹部が組織を強化する命令を下した結果、抗争が激化していったというのです。
さらにホンジュラスのリカルド・マドゥーロ政権(2002〜2006年)がギャング犯罪の厳罰化を進めます。この政策に対抗するためにギャング側も暴力を敵対勢力以外の一般市民にも向けはじめたのです。政府が若者たちに「対応」するのではなく「壊滅」を目指したために、青少年の支援問題であるべきものが治安問題へと変質してしまったと著者は指摘します。私が旅したころのホンジュラスはまさにこの転換期にあったというわけで、ギャング団の暴力が私のような一般人にも広がりつつある頃だったのです。
著者が日本人であることが現地の取材には有利に働いたようです。政府機関やNGOが日本の援助を受けいれているホンジュラスでは日本人は親切に扱われるからです。
著者は元ギャング団リーダーだった牧師や現地NGO職員などの話を聞きながら、ホンジュラスの若者ギャングたちの現状をつぶさに記していきます。
この本を読んで強く印象に残ったのは、若者たちをギャングへと駆り立てるのはどうしようもない貧困だということと、その一方で若者たちをギャングから引き離すのは強権的な法執行機関ではなく、キリスト教の信仰だということです。
絶望的な生活を送る若者たちにとっては暴力と信仰のどちらもが<セイフティ・ネット>の役割を果たしているということです。所属する場所を彼らに与えて心の安寧をもたらすという意味では、どちらも社会的機能が同じといえるかもしれません。それは行政が機能していない/機能するつもりのない取り組みを、暴力と信仰が肩代わりしている/させられている、と言い換えることもできるでしょう。
新自由主義的経済政策の中で零れ落ちてしまう若者をいかに掬い上げるか、という観点でいえば、マラスの問題は日本人にとっても、遠い中南米の問題では終わりません。全世界で若者たちを同様の閉塞感が覆っているのですから。著者もその点を強調しています。
3度も旅したいと私に思わせたホンジュラスの次の世代の若者たちが希望をもって明日を歩む時代を迎えるには何ができるのか。そのことに思いが至りました。
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以下の書籍と映画を紹介しておきます。
◆Sonia Nazario『Enrique's Journey: The Story of a Boy's Dangerous Odyssey to Reunite with His Mother』(2007年)
:LAタイムズの記者が03年に発表してピュリッツァー賞を獲得した連載記事に加筆してまとめた書です。中米ホンジュラスの貧しいシングルマザーのルルデスはアメリカで働くために、幼いエンリケとベルキーを残して国を後にします。数年後、寂しい生活に耐えられなくなったエンリケは母を追って一人密入国の旅に出ます。その道のりをたどったルポルタージュです。貨物列車の屋根に乗ってメキシコ国内を渡るエンリケたちを腐敗警官やギャング団による激しい暴力が待ち受けています。
◆映画『闇の列車、光の旅』(2009年)
:中米ホンジュラスの首都テグシガルパに暮らす少女サイラは、父と叔父との3人で米国に渡る決心をします。メキシコに入ってからは列車の屋根によじ登っての危険な無銭移動を続けます。メキシコのギャング団メンバーのカスペルは頭目のリルマゴとともに、サイラたち不法移民から金銭を巻き上げていましたが、犯罪行為に嫌気がさしたカスペルはリルマゴを殺してサイラたちとアメリカへ逃亡する道を選んでしまう…という物語です。サンダンス映画祭監督賞受賞作品です。
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凱晴
5つ星のうち4.0開高健ノンフィクション賞
2016年12月16日
形式: 単行本
殺人事件発生率世界一の中米ホンジュラスの若者ギャング団のルポルタージュ。
貧困や家庭崩壊といった暴力、薬といった負のスパイラルは想定はしていたが、いくつか驚いたことがある。
まず、負のスパイラルの程度。どこの国でも程度の差こそあれ起こりうる話じゃないかと思っていたが、貧困の程度、職のなさの程度も暴力の程度も常軌を逸している。学校が敵のギャングの縄張りにあるから通えないなんて、考えられない。
そして、信仰の深さ。意外にも信仰によってギャングを脱退する少年も少なくなく、宗教関連の仕事に就くとギャングに追われることなく脱退できるらしい。ただ、裏を返せば、宗教意外に頼るものが多くないのかもしれないし、就学、就職のチャンスがもっと多くなければ救われない。
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Amazon Customer
5つ星のうち1.0マラスの現状というよりは牧師の話中心
2018年7月26日
形式: 単行本
マラスというタイトルだが、元ギャングの牧師の話中心で期待外れでした。
著者のコミュニティからして期待しすぎたのがいけないのですが、
何も得るものがないノンフィクションです。
https://www.amazon.co.jp/%E3%83%9E%E3%83%A9%E3%82%B9-%E6%9A%B4%E5%8A%9B%E3%81%AB%E6%94%AF%E9%85%8D%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E5%B0%91%E5%B9%B4%E3%81%9F%E3%81%A1-%E5%B7%A5%E8%97%A4-%E5%BE%8B%E5%AD%90/dp/4087816214/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1548538375&sr=8-1&keywords=%E3%83%9E%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%80%80%E6%9A%B4%E5%8A%9B%E3%81%AB%E6%94%AF%E9%85%8D%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E5%B0%91%E5%B9%B4%E3%81%9F%E3%81%A1
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