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移民反対を訴える ハンガリー オルバン首相(去年4月)
ヨーロッパは「ガラパゴス化」したのか? 正念場を迎えるEU/nhk
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190108/k10011770301000.html
「EU=ヨーロッパ連合は『ガラパゴス化』してしまった」
EUについて、そんな分析も見られるようになりました。
統合を維持できるのか?「正念場」を迎えるEUの2019年を展望します。(ヨーロッパ総局長 高尾潤)
ヨーロッパはガラパゴス化したのか?
「『欧州合衆国』という考えが、過去50年間で最も心に響かないものになった。EUの政治モデルは称賛に値するが、あまりにも深化しすぎて独特なものとなり、日本の携帯電話のように『ガラパゴス化』してしまった」
ブルガリアの政治学者イワン・クラステフ氏は、その著書「アフター・ヨーロッパ」で、ヨーロッパの現状についてこのように分析します。
かつての日本の携帯電話のように、みずからの「理想」を追求するあまり、EUは普遍性を失ってしまったというのです。
最後の砦、ヨーロッパ
2019年は、ベルリンの壁が崩壊し、冷戦が終わってから30年の節目です。この間、ヨーロッパは、EC・欧州共同体からEUとなり、加盟国も28か国まで拡大しました。
しかし、ことし3月、EUはその歴史上初めて、加盟国の減少を経験します。大国イギリスの離脱です。
トランプ大統領
一方、世界に目を転じれば、この間、中国が台頭、ロシアの復活、そしてアメリカでは、自国第一主義のトランプ政権が誕生しました。こうした中で、自由民主主義と自由貿易の「最後の砦」とも言われるEUもいま大きく揺らいでいます。
日本とEUが経済連携協定に署名(去年7月)
折しも日本とEUのEPA=経済連携協定が、ことし2月に発効します。世界貿易の37%を占める、巨大自由貿易圏の誕生です。
保護主義が吹き荒れる中で、日本とEUがどのように経済連携を強めていけるのか。共通の価値観を標ぼうしてきた日本も重大な影響を受けることになります。
激怒が支配する社
ジャック・アタリ氏「統合か分裂か。私たちはいま分岐点に立っている。市場がグローバル化する一方、政治はグローバル化しておらず、政治エリートは無力化しなすすべがない。国単位で事態をコントロールなどできないからだ。中産階級はますます貧しくなり、憤慨している。高まる怒りが暴力、政治的挑戦、政権交代をもたらし、革命へと近づきつつある。これは世界的な現象だ」
フランスの国際経済学者ジャック・アタリ氏はこのように述べ、世界の現状を「激怒が支配する社会」と表現します。
グローバル化する市場に対して、政治はローカルなままにとどまり、人々の不満に応えられない。貧困化する中産階級の怒りが爆発し、各地で反乱を起こしている。
事情や現象は異なるものの、私たちの世界がいまおしなべて抱える問題だと指摘します。
離脱を選んだイギリスの迷走
3年前の国民投票でEUからの離脱を決めたイギリスの選択は、世界を驚かせましたが、もともとイギリス人は『欧州合衆国』という統合の概念に、夢をかき立てられることはありませんでした。
2度の世界大戦でも独裁と占領の被害を免れたイギリスでは、主権の制限を求めるEUに、違和感を持つ人が少なくなかったのです。
イギリス メイ首相(去年11月)
ただ、そのイギリスはいまも、離脱後の国家像を描けず、「合意なき離脱」の危機が迫っています。
ヨーロッパの一員にとどまるべきだとする残留派と、EUから主権を回復し国家のアイデンティティーを取り戻すべきだとする離脱派。国家の在り方をめぐる双方の対立はむしろ深まり、出口の見えない状況に陥っています。
4年前、ヨーロッパを襲った難民危機は、アメリカにとっての911・同時多発テロ事件と同じように革命的な影響をヨーロッパに与えたという指摘があります。
人権尊重の立場から受け入れに寛容なEUの政治エリートと、異なる宗教や価値観を持つ大量の難民の流入に抵抗を感じた市民との間に深い亀裂が広がったのです。
こうして極右や大衆に迎合する勢力が反難民や反EUを主張し、勢力を拡大しています。
正念場を迎えるEU
ことし5月のヨーロッパ議会選挙で、統合を支持する勢力が多数を維持するのか、それともEUに懐疑的な勢力が躍進するのか。EUはその将来を決める正念場を迎えることになります。ヨーロッパ議会選挙に向けた情勢を展望します。
▽独仏の動揺
ヨーロッパ統合のけん引役となってきたドイツとフランス。グローバル化の中で、統合の強化こそヨーロッパの平和と繁栄を維持する唯一の道だと主張するメルケル首相とマクロン大統領ですが、去年ともに怒れる市民の不満の矢面に立たされました。
メルケル首相は18年間にわたって務めてきた中道右派「キリスト教民主同盟」の党首の辞任に追い込まれました。
「黄色いベスト」集団の抗議行動(パリ)
マクロン大統領も「黄色いベスト」集団の激しい抗議行動を受けて、みずから推進してきた改革の後退を余儀なくされました。5月の選挙では、この両首脳がどこまで勢力を巻き返せるか。ヨーロッパ統合に向けて最大の鍵となります。
▽台風の目 イタリア
イタリアでは、去年3月の議会選挙を受けて、新興政党「五つ星運動」と右派政党「同盟」が連立政権をつくりました。ともにEUに懐疑的な両党による政権の樹立は、EUにとって最悪のシナリオとして衝撃が走りました。
イタリア サルビーニ副首相兼内相
副首相兼内相に就任した「同盟」党首のサルビーニ氏は、地中海から船でイタリア南部にたどりついた難民や移民を追い返すなど、移民問題でEUの方針に反する強硬な姿勢をとり続けています。こうした政策が現状に不満を抱く国民からの支持を得て、今やイタリアの実質的な指導者と言われるようになっています。
5月のヨーロッパ議会選挙に向けて、周辺国のEU懐疑派との連携を強化し、台風の目になろうとしています。
▽中東欧の離反
15年前、中東欧諸国は、悲願のEU加盟を果たし、共産圏からヨーロッパへの「復帰」に歓喜しました。しかし、その後も西側の主要メンバーとの格差がいっこうに縮まらないことに人々の不満が広がっています。期待が大きかっただけに、厳しい現実がEUへの強い失望となって現れてきているのです。
移民反対を訴える ハンガリー オルバン首相(去年4月)
ハンガリーやポーランドの右派政権は、移民や難民の受け入れを迫るEUへの批判を強めることでナショナリズムをあおり、支持を拡大しています。報道の自由や司法権の独立を脅かしかねない強権的な政策に対して、EUはその基本理念を揺るがすものだとして危機感を強めています。
しかし5月の選挙でも、こうした右派勢力が躍進する勢いを見せています。
リベラルデモクラシーと自由貿易のいわば究極の形として、各国の主権を制限し統合を進めてきたEUの挑戦は、ポスト・モダンの壮大な実験と言われてきました。
平和と繁栄、そして人権尊重を掲げるEUは、世界の多くの人々の憧れの存在でした。だからこそ、多くの難民や移民が押し寄せてきたのです。
しかし、いま激怒が支配する社会で、EUは「ガラパゴス化」を避けられるか、正念場を迎えています。5月のヨーロッパ選挙の結果によっては、統合の速度を緩め、主権の一部を各国に返上するような軌道修正を迫られることになるかもしれません。
戦後74年、平和を維持してきたヨーロッパが危機を乗り切ることができるのか。日本にとっても重要な意味を持つことになります。
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