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中東を読み解く
マティス辞任は何だったのか?トランプ、迷走のシリア政策
2019/01/10
佐々木伸 (星槎大学大学院教授)
トランプ大統領が昨年末、強引に決断した「米軍のシリア撤退」が迷走している。大統領は当初、即時撤退を命じたが、議会や同盟国などの反対に遭って、「慎重に時間を掛けた撤退」へと前言を撤回した。撤退には数年かかる可能性も指摘されており、大統領の決定に抗議して政権を去ったマティス前国防長官の辞任は何だったのか、あらためて疑問の声が上がっている。
(AP/AFLO)
“酔っ払った水夫”のよう
それにしてもトランプ政権のシリア政策はまさに「迷走」という言葉がぴったりだ。大統領は選挙期間中から、当時のオバマ政権のアサド・シリア大統領の追放という方針を批判、シリアへの関与をやめる考えを明らかにしていたものの、大統領就任後、イランの脅威を食い止めるために必要、との側近らの進言を入れ、長期駐留を追認していた。
しかし、大統領は12月19日のツイッターで、過激派組織「イスラム国」(IS)に歴史的な勝利を収めたと宣言。「若者たちを国に返す時だ。全員が今戻りつつある」とシリア駐留部隊の即時撤退を唐突に発表し、「30日」以内に撤退するよう命じた。これにマティス国防長官が翻意を迫ったが失敗、抗議して辞任する騒ぎにまで発展した。
大統領のこの突然の決定には、議会の与党共和党からも批判が相次ぎ、側近も懸念を深めた。こうした大統領の態度が急変したのは12月23日、トルコのエルドアン大統領と会談してからだ。トランプ大統領は「関係国と調整しながら慎重に撤退を進める」と修正を始め、年末にイラク・シリア米駐留軍司令官と会談した後、撤退期間を「4カ月」に変更した。
こうした混乱ぶりをニューヨーク・タイムズなどメディアから批判された大統領は1月7日「適切なペースで慎重に撤退を進めている。最初に発表した計画と何ら変わりはない」と強弁し、まるで即時撤退など言ったことがないように主張。“落ち目の”ニューヨーク・タイムズなどが自分の発言をいい加減に報道している、と怒りの矛先をメディアにぶつけた。
下院で多数派となった民主党のアダム・スミス新軍事委員長は大統領のシリア政策を「酔っ払った水夫のようにコロコロと進路を変える。彼は何をやっているか分かっていない」と痛烈に批判した。軍事アナリストは「4カ月でシリアから完全に撤収するのは不可能。数年かかる可能性もある」と指摘している。
米大統領補佐官を拒絶
軍事アナリストの指摘のように、シリア政策の迷走がさらに深まる出来事が8日に起きた。米部隊が撤退した後に、その空白を埋める意向を表明していたトルコのエルドアン大統領がボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)の発言に激怒し、再び軍をシリアに侵攻させると恫喝する事態となったからだ。
ボルトン補佐官はトランプ大統領が即時撤退を言い出した後、米国益に打撃を与えないような撤退を大統領に進言。米紙によると、昨年12月24日の閣議の席上、同補佐官が米国のシリアにおける達成目標を記した極秘メモを回した。目標としてはISの完全壊滅、イランの軍事勢力の駆逐、シリアの政治決着などが記されていた。
補佐官は撤退をめぐる調整を行うためエルドアン大統領らと会談するべくトルコに向かい、その途中にイスラエルに立ち寄ったが、その際の発言に同大統領が反発した。補佐官は記者団に対し、米軍撤退の条件として、IS残党の完全掃討に加え、米国と連携してきた「シリアのクルド人勢力をトルコが攻撃しないと保証する」ことを挙げた。
しかし、トルコにとってシリアのクルド人軍事組織「人民防衛隊」(YPG)はテロ組織として壊滅作戦を展開中の自国のクルド労働者党(PKK)の分派組織で、安全保障上の重大な脅威。一方、米国にとってはIS掃討作戦の主力を担わせてきた同盟組織だ。このYPGに対する姿勢の違いがトルコと米国との基本的な対立点である。
エルドアン大統領は「(ボルトン補佐官の)メッセージを受け入れることはできない。彼は重大な過ちを犯した」となじり、いつでもシリアに侵攻してYPGを叩く用意のあることを表明し、8日に予定されていた補佐官との会談をキャンセルした。
トルコのメディアによると、エルドアン大統領はその一方で、数日中にロシアのプーチン大統領と会談する見通しだ。米国との関係悪化に備えてロシアと接近して見せるという「エルドアン一流のしたたかさを示すもの」(ベイルートの消息筋)と捉えるべきだろう。
安全保障地帯の設置が目標
同筋によると、エルドアン大統領の戦略的な目標は米部隊の撤退により、YPGへの米支援をやめさせ、トルコ軍がシリア北東部に進駐してYPGを排除、トルコ国境から幅20キロ、長さ数百キロの安全保障地帯を設置することだ。
エルドアン大統領は最近のニューヨーク・タイムズへの寄稿で、米部隊に代ってISを壊滅させることができるのは北大西洋条約機構(NATO)の一員であるトルコしかいないことを強調。シリア北東部からYPGを排除した後、全土から集めた戦士による「シリア安定化部隊」を創設する考えを提唱した。
しかし、こうしたエルドアン大統領の構想は「全くムシのいい思惑であり、非現実的だ」(同)。大統領にとってISの壊滅は二の次であり、トルコ軍をシリア領内深く侵攻させて、IS掃討作戦を展開するつもりはない、との見方がもっぱらだ。大統領は米部隊が撤退した後も、米国から空爆と補給支援を要求しており、トルコ単独でどこまでやる気があるのか、懐疑論が渦巻いている。
さらに言えば、エルドアン大統領がシリア侵攻の先兵として考えているは、「自由シリア軍」など配下に置くシリアのアラブ人民兵軍団だ。先のシリア西部アフリン地域へのトルコ軍侵攻の際も、これら民兵軍団を先鋒として利用した。トルコ軍兵士の死傷者を最小限にとどめようとする狙いだ。
大統領の新たなシリア侵攻の恫喝が本物か、ブラフなのかは不明だが、侵攻すれば、間違いなくクルド人勢力との衝突が起きるのは必至だろう。それだけ米軍の駐留が抑止力になっていたということだ。
ボルトン補佐官の提案がエルドアン大統領に一蹴されたことで、米国は根本的にシリア撤退に伴う環境整備を再検討しなければならなくなった。つまりは「さらにシリア政策が混迷する恐れがある」(同)ことに他ならない。トランプ政権のシリア撤退をめぐる迷走はまだまだ続きそうだ。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/15019
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