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大都市になった上海から「お払い箱」になった人たち
経済成長を足元で支えるも、政策一転で立ち退きに
2019.1.8(火) 姫田 小夏
強制的に立ち退かされ、壁でふさがれた路面の店舗。上海市内にて(筆者撮影、以下同)
上海の地下鉄車内での飲食を見なくなった。以前は、お菓子やドリンクは当たり前、ファストフードのチキンの臭いが車内に充満することも珍しくなかった。しかし、最近は地下鉄の中で飲み食いする人を、めっきり見かけなくなった。
それにはいくつかの理由が考えられる。1つ目はスマホの普及だ。飲み食いする以上に乗客はスマホに夢中になっているということだ。
2つ目は、中国政府によるマナー教育の効果である。
上海の街の目まぐるしい変化には慣れてはいるものの、最近「上海ってこんな街だったっけ?」と首をかしげることが増えた。街のいたるところで共産党のスローガンを目にするようになったのだ。
工事現場を囲う臨時の壁には必ずと言っていいほど「富強」「民主」「自由」「平等」「公正」「法治」といった、社会主義の核心的価値観といわれる漢字が並ぶ。地下鉄駅の通路の壁面に貼られているのも共産党のスローガンだ。以前なら商業広告で埋め尽くされていたが、今は違う。
こうした大量のスローガンは、少しずつ中国人の意識や行動を変えているようだ。例えば「文明」(道徳的で礼節がある)という教育的スローガンがある。筆者が地下鉄に乗ったときの話だ。駅に到着して降りようとすると、筆者の前に立つ熟年の男性が「さあ、お先にどうぞ」と降りる順番を譲ってくれた。以前の中国では考えられない出来事だが、これも「文明」教育のおかげなのかもしれない。地下鉄の中で飲み食いする市民の姿が減ったのも、大量の教育スローガンの効果と無縁ではなさそうだ。
「ゴミはゴミ箱に」を指導する文明教育
「焼き芋売り」がいなくなった
上海の地下鉄車内で飲み食いする人が減ったのには、3つ目の理由も考えられる。それは、上海に居住する「外地人」が減少したことだ。
上海では、もともとの居住者を「本地人」(上海人)、外省出身者を「外地人」と呼んで区別する習慣がある。もちろん高学歴、高所得の外地人も少なくない。だが、外地人の中には、上海人がやりたがらない仕事を低賃金で引き受けてきた「低段人口」(ローエンド人口)と呼ばれる存在がある(注:農民の戸籍を持ちつつ、都会の企業で働く「農民工」とは微妙に定義が異なる)。
上海人たちは、廉価な居住地に群れを成して住み小商いを営むローエンド人口が上海の秩序を乱し、マナーを劣化させていると眉をひそめていた。その考え方に則れば、地下鉄内の飲み食いを見なくなったのは、ローエンド人口が減ったからなのかもしれない。実際、統計(上海市国民経済和社会発展統計公報)をみると、2016年末の上海総人口は2419万人で、そのうち外地から来た常住人口は980万人。それが2017年末には972万人に減っている。2015年末と比べるとさらにその数は減っていることがわかる。
2018年の冬、筆者は地下鉄10号線の西の終点駅で、ローエンド人口の減少を実感した。「小区」といわれる居住区を歩いたところ、実に小奇麗な地区に変貌していたのである。
以前との明らかな違いは、冬の風物詩だった「焼き芋売り」の姿がなくなっていたことだ。焼き芋売りだけでなく、数多くあった屋台もなくなっていた。地元の居住者によれば、「外地から来た人が路上で物を売る行為が規制の対象になった」のだという。以前は、小区と小区を挟む歩道に朝夕屋台が繰り出し、通勤者や通学者の小腹を満たしてきた。しかし、そうした屋台はきれいさっぱりなくなっていた。
「今、上海の中心街には焼き芋売りなんていませんよ。小区の管理者が外地人の物売りを入れないように指導しているからです。でも、そのおかげで街はすっかりきれいになりました」(地元居住者)
確かに、歩道には食べ散らかしたゴミもなければ、以前はいたるところに見られた食用油の染みもない。筆者が訪れた時期の上海は、ちょうど中国国際輸入博覧会の開催を目前に控えていた。“卓越した都市環境”を世界の客人に披露すべく、2万5000人の清掃員を動員して街を徹底的に清掃した効果も大きいのだろう。
2018年秋、上海市では2万5000人を動員して街をきれいにした
まるで40年前に逆戻り?
中国政府は北京や上海などの大都市をきれいにしようと躍起になっている。外からの人口流入は「生活コストを上昇させ、街の汚染を生んでいる」と解釈されており、上海では「街を整理整頓してきれいにする」という名目でローエンド人口の排除を始めた。生活が不安定なローエンド人口は、景気の悪化に耐えられず犯罪に走る懸念があるからだ、とも言われている。
「昨年からこうした人々の生活空間が奪われる事態が起こっています」と、現在は年金生活を送る元企業経営者が教えてくれた。
上海では、庶民に愛された食堂や果物屋がなくなった。金物屋や雑貨商も消えてなくなった。マンションの1階にあったコンビニもなくなってしまった。いずれも経営していたのは外地人だった。
「手のひら返し」は中国共産党の得意技である。元企業経営者は、政府の政策の変化を次のように語る。「改革開放政策で自由経済の機運が高まった当時、中国では店舗を増やす『破墙開店』という政策が進められ、多くの人が住居の壁を壊して店舗を開きました。学校や病院、軍隊なども積極的に店舗誘致を行ったものです。ところが昨年、そうした店が一斉に取締りの対象になりました。店舗は壁でふさがれ、そこに共産党のスローガンが張り出される――まるで私の若かりし頃に戻ってしまったかのようです」。
外地人は、共産党の政策に沿って上海で店を開いた。だが、ある日突然規制の対象となり、店を閉じなければならなくなった。そして、あっという間に上海から叩き出されてしまった。彼らは上海郊外の松江区、青浦区などで身を寄せ合って暮らしているとも聞く。上海がアジアを代表する経済都市になった今、お払い箱になってしまったというわけだ。
中国政府は、改革開放政策の開始以来、直接投資によって中国の経済成長を牽引してくれた外資系企業も、中国が技術を吸収した今、お払い箱にしようとしている。次に何が起こるのか。ローエンド人口の排除から、私たちは何を読み取るべきだろうか。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55135
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55141
- 「スジ」にこだわる日本人、「量」で考える中国人 中国人の精神の深いところを掘り起こす『スッキリ中国論』 うまき 2019/1/09 00:51:57
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