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チャイナ・ウォッチャーの視点 年表でわかる米中の貿易摩擦の本質 改革開放の「魔」に取り憑かれた男の破滅『迫り来る嵐』 
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投稿者 うまき 日時 2019 年 1 月 08 日 12:16:47: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

チャイナ・ウォッチャーの視点

年表でわかる米中の貿易摩擦の本質

2019/01/08

高田勝巳 (株式会社アクアビジネスコンサルティング代表)

 昨年12月に上海で日本の地方銀行数行が主催するセミナーで中国経済の現状と日本企業のあるべきポジショニングについて話しをしてきた。その際に、米中貿易戦争について論点を整理したいと思い、日米中の経済関係年表を作成してみた。コンサルタントの癖として、顧客の問題を解決する際に、まずは、これまでの経緯をねちっこくヒアリングして十二分に現状認識をしないと気が済まないということもあるが、何事もファクトファインディングは問題解決のベースであろうということでまずこの作業を行った。

 そうすると、これまで自分なりに漠然と認識してきた日米中に総合関係並びに米中貿易戦争の本質がより明確に見えてきたようなので、みなさんと共有したいと思い、整理してみた。米中貿易摩擦の先行きは、誰も予想しにくい問題とはいえ、本質をしっかり認識しておけば、今後何らかのシグナルが見えてきた時に、次の展開を予想することができるので、ビジネスマンにとってもしっかり認識しておきたいところではないかと思う次第。

 まず、自分なりに戦後において日米中の経済関係に大きな影響を及ぼしたと思われる事象を書き下ろしてみた。


(NicoElNino/Gettyimages)
米日中の経済関係年表
1945年 日本敗戦。東西冷戦の開始。
1946年—51年 米国の対日占領地救済政府基金。「GARIOA:Government Appropriation for Relief in Occupied Area Fund。13億ドルの無償援助(贈与)。現在の価値で約12兆円(無償は9.5兆円)」
1949年 中国建国。
1950年ー53年 朝鮮戦争。
1951年 サンフランシスコ講和条約。
1955年—61年 米国の生産生向上対日援助。
1955年—73年 日本の高度経済成長期。
1968年 日本GNP世界第2位に。
1969年 中ソ国境紛争。
1972年2月 ニクソン訪中。
1972年9月 日中国交回復。
1973年 第一次石油ショック。
1978年 三中全会。改革開放が始まる。
1979年1月 米中国交樹立。
1979年2月—3月 中越戦争。
1979-2018年 対中ODA「有償資金協力(円借款)約3兆3165億円。無償資金協力を1576億円、技術協力を1845億円。総額約3兆円」
1985年 プラザ合意。それ以降日本企業の対中進出加速。
1986年—1990年 バブル経済。
1989年 冷戦終結。
1992年 南巡講話。
1997年— 平成不況。
2001年 アメリカ同時多発テロ。
2003年 イラク戦争。
2005年—人民元切り上げ「米国の要請を受け1997年から8.277で実質固定」
2008年 リーマンショックと中国への期待感。
2010年 中国GDP世界2位に。
2012年 アベノミクス「第二次安倍政権」
2014年 南沙諸島問題顕在化。
2015年 中国製造2025。
2018年 米中貿易戦争。

年表から見て取れるこれまでの経緯
 次に、年表を見て率直に感じた感想は以下の通り。

日本と中国の経済成長のきっかけは、共に冷戦構造下における対ソ牽制のための米国支援にあるのではないか。それは主に、資金提供、技術ノウハウ提供と米国市場の開放にあることが見てとれる。
そして、その支援の結果、日本と中国の経済が順調に発展し、米国の覇権を脅かすようになると、米国は牽制を入れはじめるようだ。
日本に対しては、プラザ合意であり、中国にとっては、2005年からの人民元切り上げ要請もしくは、今回の米中貿易戦争と言える。
日本は、米国の核の傘に守られた同盟国ということもあり、プラザ合理後の展開は、おそらく米国の許容範囲内と思われる範囲内で推移し、それまでの勢はバブル崩壊とともに失われ、失われた20年と言われる状況が続いている。
この間、日本企業は、円高対応のために、生産拠点を中国など発展途上国に移転することにより国際的なサプライチェインを構築して、生き残りを果してきたが、同時に日本の産業の空洞化と技術の流出ももたらした。
2012年からのアベノミクスによる円安傾向にも助けられ、日本経済は一息をついている状態で、海外市場に寛容できる大手企業がそのメリットを享受しているが、そもそも、アベノミクスが米国に許容される背景には中国の台頭もあるのではないかと思えてくる。
一方、中国は、米国からの支援を受け入れるきっかけとなったニクソン訪中の前段階では、中ソ国境紛争があり、ここから米国が中国を取り込み、対ソ牽制を行う戦略であったと言われている。
その結果、1972年に日中国交回復が先行する形で1979年に米中国交が樹立され、日本の対中ODAが実施されたもの、1979年以降となっている。日本のODAは、日本にとっては戦時賠償の一部の意味合いがあったにせよ、実施できたのは、1979年以降というのは、米国との兼ね合いもあったのではないか。いずれにせよ、米国の中国取り込み戦略があっての日中国交回復があると見ていいのではないか。
中国にとって幸いだったのは、1985年のプラザ合意後の円高により日本企業が海外の生産拠点を求めたいたことにあり、日本企業は、その頃まだまだ良好であった国民感情にも後押しされ、中国の安い労働力と外資導入熱にほだされて中国への進出を加速したことにある。
1989年は、冷戦が終結。同じくこの年の6月に天安門事件が起こり、西側諸国が経済制裁に走ったが、米国は同年から緩和の動きを見せ、西側諸国も徐々緩和を行った。
中国は、一旦改革開放の雰囲気が減速し保守化の傾向を見せたが、1992年ケ小平の南巡講話が行われ、改革開放の推進を再確認し、経済成長へのアクセルを吹かした。この後、日本企業の対中進出は円高の再加速も相まって再加速し、中国は、世界の輸出基地としての基礎を築き始めた。※米国の対中貿易赤字の推移
2005年対中貿易赤字の増加に対し、米国は1997年から8.277で実質固定されていた人民元切り上げを求めたが、プラザ合意後の円相場のような急激な切り上げは実現せず、直近のレートでも6.8782と17%程度の切り上げにとどまっている。※米ドル/人民元推移。この時点から、米国の中国経済の台頭に対する警戒感が表面化してきているものと思われるが、米国は2001年の同時多発テロ以降に対イスラムテロ対策に没頭されており、これがその後の中国の経済並びに安全保証面での台頭を許したと中国でも多くの識者が指摘しているところ。
2008年リーマンショックで国債の大量増発を迫られた米国は、中国に一部の引き受けを頼んだとされ、それと同時に、世界経済の牽引エンジンとしての、中国経済に対する期待感が高まった。中国は4兆元に及ぶ大型の経済対策を行うなどを行ったが、地方政府の債務の増加や不動産バブルの膨張など後遺症はまだ続いているとされる。
2010年、中国は日本を抜き世界第2位の経済大国になったが、その後安全保障面などでの攻勢から、米国の警戒感が高まり、今日に至っている。
米中貿易戦争をどう見るか
 上記経緯から見ると米中貿易戦争の背景は自ずと明らかであると思われるが、自分なりに整理すると以下の通り。

中国のここまでの経済的な成功の要因

 冷戦の構造的メリット(主に米日の経済的支援と市場開放)を1978年より40年享受し、自国の産業基盤の構築と資本の蓄積を果たし、世界第2位のGDPを獲得した。
経済的な実力をつけるまでは韜光養晦として、米国の警戒感を過度に刺激しなかった。
2005年からの米国の人民元切り上げの要求に対して今日まで17%の切り上げにとどめていること。 
米国の誤算

想定外の中国の持続的成長と技術力の増長。
WTO加盟後も中国市場の開放は限定的に止まっており、対中貿易赤字が増える一方であること。人民元切り上げ要求をしているものの、糠に釘で長期安定を許している。
同時多発テロ後、中東、アフガニスタンなどに気をとられているうちに安全保障面で中国の拡張を許し、自国の覇権の脅威となってしまった。
豊かになれば共産党一党独裁は維持できないと見ていたが、そうはならなかった。
中国の誤算

リーマンショック後の中国の国際的な影響力向上により、韜光養晦の戦略を変化させることができるかもしれないと考えてしまった。
その後の安保面での攻勢に対して、ここまで米国の警戒感を刺激するとは思わなかった。
輸出振興よりもより内需拡大に注力することによっても中国の収益モデルを維持拡大できると考えてしまった。
中国製造2025は、安価な労働力だけに頼れなくなった中国が、自国の産業構造を高度化するためのある意味自然な成り行きであったが、それが米国の覇権に挑戦するものと警戒されるものとは想像もしなかった。
トランプはビジネスマンなので、米国に経済的なメリットすればディールしやすいと思っていた。まさか、反トランプ陣営とも対中政策について足踏みを揃えるとは思わなかった。
米中貿易摩擦は、米国に文句を言われたら、その都度爆買いをすればなんとかなると思っていた。中国の制度にも及ぶ構造的な問題まで踏み込まれるとは思わなかった。
中国は、プラザ合意後の日本対応をよく研究しているようであるが、日本のそれと本質的に違うところは、経済面だけではなく、中国の場合は、安保面でも米国との対立構造を示していまい、問題をより複雑にしてしまったこと。
米中貿易摩擦の本質と解決の条件

両国の誤算が生んだ複雑な絡み合いと言えるのでは。
貿易摩擦の交渉は、圧倒的に買い手である米国が有利なポジションにある。
中国は、米国の市場を失いたくないのであれば、爆買いするだけでなく、米国の警戒感を解く政治的な努力が必要。輸出産業の牽引なしに中国経済の成長を維持できるとは考えにくい。
ただ、中国が米国の警戒感を解くには、中国の経済権益の再調整と安保面における妥協が必要で、外交よりも国内問題の様相が強い。中国製造2025、一帯一路、そして安保面で攻勢を強める背景は、中国国内の人民の現政権に対する支持獲得の一環であり中国共産党の正統性を補完するためという見方もある。
米国にとっては、中国を追い詰めることのメリットとデメリットを比較しながら今後の落とし所を探ることになるはず。一部メディアでは米国は中国を崩壊まで追い詰めるであろうという極端な分析も見られるが、そこまでやって米国が得るメリットは何なのであろうか。
ケ小平が1978年に始め40年間続いた改革開放政策は、ケ小平をはじめとした先人たちの遺産ともいえ、ここにきて大きなポジショニング調整の時期を迎えている。それは、中国にとって新しい収益モデル、ゲームのルールを構築することに他ならない。ここをうまく乗り越えて、新しいルールを構築することに成功したら、習近平は真にケ小平に比肩する中国のリーダと言えるのでは。今回の米中貿易戦争は、中国にとってそのくらいエポックメイキングな出来事であるといえよう。
日本企業はどうするべきか
 中国が経済的に自信を深めてからは、どちらかというと中国から、つれなくされていた日本企業であるが、久々に日本企業に対する期待感が高まっており、日本企業にとってチャンスであるのは確か。しかしながら、現状以下の問題点が存在する。

中国が欲しいのは日本の最先端技術であるが、日本が出したいのは二番手三番手のより成熟した技術。
今後、外資に対して新たな市場が解放されることが期待されるが、それにしても、日本企業の中国市場、中国企業に対する警戒感はまだまだ根強い。
企業文化、ビジネスマナーにおいても、日中両国企業間のギャップが存在する。
日本企業にとっては中国経済そのものの先行きも不安。
国際政治的にも日本が対立する米中とのそれぞれのバランスをどのように取れるのか不安が残る。
 ということで、日本企業にとっても、新たな収益モデル、ゲームのルールを構築するべき時代に我々は立っているようだ。今年は、上記諸問題をどう考え日本企業がビジネスチャンスを捉えて行くか情報発信して行きたいと考えている。 

 現時点でできることは、日中間における知的財産権の保護を前提とした技術交流、共同R&Dの成功事例を1つ1つ積み上げて行くことではないかと考えている。もし中国企業がまだまだ活用したい日本の技術があると思うのであれば、日本企業にとっての成功事例を積み上げさせる事が一番の早道と思うので、今後中国企業にもアピールして行きたい。日本企業も中国企業に騙されると言って心配ばかりしていないで、せっかくのチャンスを是非活用してもらいたい。  
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14982

 
改革開放の「魔」に取り憑かれた男の破滅を描く中国映画『迫り来る嵐』

2019/01/08

野嶋 剛 (ジャーナリスト)


『迫り来る嵐』© 2017 Century Fortune Pictures Corporation Limited
 中国人にとって、香港返還があった1997年は、日本人が想像する以上に、特別な意味を持っている。大きな時代のカーブ、ということなのだろう。1997年、そして香港を一つのキーワードにした映画は中国で多い。そうした映画のどれもが、改革開放による急成長から取り残された人々の喪失感をテーマにしている。

「中国人の喪失感」を描き出した物語
 1月5日から全国上映が始まった中国映画『迫り来る嵐』もまた、「失われた90年代と香港」を背景に用いながら、中国人の喪失感を描き出し、同時に、スリリングな社会派クライムサスペンス映画でもあるという特別な一作だ。

 中国は、経済成長で豊かさを手に入れた。しかし、成長に追いつけない人々には、満たされない欲望の空洞が生まれた。映画人たちは、その空洞を、あの手この手で描きだす。本作でも、欲望の空洞に侵された男の破滅が描かれる。時代の変化に乗り遅れる者とそうでない者の違いはどこにあるのか。結末は限りなく切ないもので、鑑賞後はやるせなさに包まれる。


 本作は、一人の男が「魔」に取り憑かれてしまう物語である。その「魔」とは功名心だ。だが、主人公のユイ・グオウェイは鉄工所で働く素人探偵だ。鉄工所では保安担当であり、不正を見つけ出して模範労働者として表彰もされ、警察からも一目置かれる存在だった。そんななか、猟奇的な女性の連続殺人事件が起きる。警察から捜査情報を聞き出し、聞き込みまで行って、怪しい人物の存在に近づきつつあった。だが、ユイはそこから暴走し、仲間や恋人を巻き込みながら、悲劇へと進んでいく。

取り残された人々はどこに行ったのか
 本作のタイトル『迫り来る嵐』は、『暴雪將至』というオリジナルタイトルをかなり直訳的に用いている。全編、雨のシーンがやたらに多い。だが、本当の嵐はこれからだ。その嵐の隠喩は、改革開放による中国の大変化である。改革開放が中国社会の「人間」にいかなる変化を起こしたかの検証はまだ十分に行われていない。中国では社会学的調査は非常に難しいからだ。


© 2017 Century Fortune Pictures Corporation Limited
 考えてみてほしい。1970年代を界に、中国は文化大革命のイデオロギー万歳の社会から、金儲け至上主義の社会へと、一気に方向転換を遂げた。その変革を主導したケ小平の果断な舵取りは見事であり、その新しい社会に適応した人々は今日の成功者となったが、取り残された人々はどこに行ったのだろうか?総中流社会に親しみ、わずかの格差で「下流」だと慌てる日本人には想像もつかない「暴雪」が、中国の1990年代には吹き荒れたのである。

 ユイの恋人がつぶやく。「(1997年がきたら)香港には簡単に行けるようになるのかしら」。それは、改革開放の流れに乗れない者のつぶやきだ。それまでの香港は中国人にとって憧れの地だった。今の香港は反中感情が吹き荒れ、中国人も「香港には何もない」と吐き捨てる時代。すでに90年代の香港と中国の関係は完全に失われたことも思い起こさせる。


© 2017 Century Fortune Pictures Corporation Limited
新しい中国映画の流れ
 本作をみて思い起こすのが数年前に日本でも公開された『薄氷の殺人』という中国映画だ。共通点は多い。事件もののサスペンスであること。そして、1990年代の喪失感をテーマにしていること。そして、中国の地方都市の不気味さを底流に物語を描き出していること。脚本も手がけた董越監督も、本作は自分が大学生であった時代に見過ごしてしまった「あの90年代」の意味を問いかける作品であることをインタビューで認めている。

 中国では格差というのは、何層もの重なる意味を持っている。貧富の格差はいうまでもない。さらに、都市間の差、都市と農村の差、勝ち組と負け組は天と地ほどかけ離れている。地方都市は勝ち組にも負け組にもどちらにもなれる場所だ。だからこそ、むき出しの欲望がなおのことさらけ出される。

『薄氷の殺人』はベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した。本作も東京国際映画祭で最優秀男優賞と最優秀芸術貢献賞を同時受賞するなど、海外でも高い評価を受けている。その内容は上質のクライムサスペンスでありながら、実は、現代中国の深い矛盾を透かし絵のように浮かび上がらせる仕掛け。そして、ノワールの暗さ。新人とは思えない手腕を発揮した若手の董越監督は過去の中国の映画監督のように個性的なタイプではなく、あくまでも冷静なプロとしてエンターテイメントの一線を守りながら、隙のない秀作に仕上げた。


『迫り来る嵐』の董越監督(筆者撮影)
 中国では、あまりにも直接的な社会批評の作品は上映が難しい。だが、社会矛盾を突くものでなければエッジの効いた内容にはならない。その間隙を縫うような難しい作業になるが、本作のようなクライムサスペンス型の社会派映画は、新しい中国映画の流れとして、今後も新作の登場を期待していきたい。

*『迫り来る嵐』は現在、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町で上映中。公式HPはこちら。
http://wedge.ismedia.jp/articles/print/14986  

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