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楽天、出店者たちが怒りの反乱…息の根を止める“一方的な規約変更”連発で信頼関係崩壊
https://biz-journal.jp/2020/01/post_134758.html
2020.01.01 文=山口義正/ジャーナリスト Business Journal
楽天の三木谷浩史社長(撮影=編集部)
楽天と同社が運営する楽天市場の出店者との間で、規約をめぐる対立が深まっている。対立が表面化したきっかけは、楽天が送料無料になる購入額を一律に定めたことだが、出店者が不満を爆発させている原因は、楽天が何年にもわたって出店者に一方的な規約変更を繰り返し押し付けてきたことだ。
楽天と出店者の間で対立が表面化したのは、昨年に入ってすぐのことだった。きっかけは公正取引委員会が1月、楽天やアマゾン、ヤフーなどのITプラットフォーマーが出店者に対して一方的な規約変更を課していないかを調べるため、「デジタル・プラットフォーマ―の取引慣行等に関する実態調査」を開始したことだ。4月に中間報告を発表したのに次いで、10月31日には「優越的な立場にあるサイトの運営側が一方的に規約を変更し手数料を引き上げる行為などは独占禁止法違反のおそれがある」との最終報告書を公表した。
しかし、これはあくまでも表面化したきっかけにすぎない。ある出店者が「規約変更に我慢の限界を超え始めたのは2017年頃」と打ち明けるように、規約に関する不満は年来のものだ。
一方的な規約変更は送料のほかにもあり、たとえば楽天市場に掲載する商品写真の規格が一方的に変更され、数百あるいはそれ以上の多品種を少量ずつ販売する出店者にとって、写真をすべて撮り直すなど、業務上大きな負担が生まれた。そのうえ規格を守れなければ罰金を科されることもあり、こうしたことの積み重なりに、出店者は疲弊し不満は鬱積した。楽天出店者の不満は、アマゾンやヤフーよりも格段に高い。
そして公取委の調査が、特定企業の問題行為について違法になるかどうかを判定することを目的としているわけではないため、出店者側は「公取委はやる気があるのか」といら立つ。公取委の報告書では、楽天と出店者の意見を両論併記するばかりで、「注視していく」などと書かれてはいても、問題の核心に切り込む迫力に乏しいのだ。
■公取委が報告書を公表した日に規約変更を通知
さらに出店者側の怒りに油を注いだのは、公取委が楽天に対して上記の調査報告書を公表したその日に、楽天が出店者に対して前述の「送料無料統一ライン」に関する規約を改めると通知してきたことだ。送料が無料となる購入額を3,980円で統一するとの内容で、送料がかさみがちな重量物を扱う出店者には大きな痛手になる。
公取委が報告書を公表したその日に、ヌケヌケと規約変更を通知してきたのだから、出店者側にはこれ見よがしの当てこすりに映ったようだ。
楽天市場の一部出店者は、「店舗の個性を顧みず、店舗の息の根を止めかねない悪質性を持っている」として、楽天との団体交渉権を求めて10月5日に組合「楽天ユニオン」を結成した。同ユニオンは行動的だ。「すでに協同組合法でモールを立ち上げようとの計画もあり、応援してくれる企業も現れている」といい、天を相手取って訴訟を起こす準備を始めた出店者も現れた。
ユニオン以外でも出店者たちが行動をエスカレートさせたのには、もう一つ深刻な事情がある。「楽天の出店者のなかに規約の一方的な変更に伴う負担に耐えかねて、ついに取り返しのつかない深刻な状況に追い詰められた者さえ出た」(出店者)からだ。
出店者の間では「携帯事業や物流拠点整備に必要な資金を捻出するために、楽天は出店者から搾れるだけ搾ろうとするのではないか」との懸念も強まっている。また、「携帯キャリア(MNO)事業や物流、決済など、楽天の業容拡大に自分たちが犠牲にされてしまう」との危機感も広まっている。
携帯事業への本格参入を控えて東京などの一部地域で無料サポーターを募集し、10月から試験サービスを提供し始めたが、利用者から「つながらない」との相談が殺到。基地局を大幅に増やさなければならないが、その設置コストは当初三木谷浩史社長が公言していたよりも大幅な負担増が避けられない見通しになってきたうえ、携帯事業の四半期ごとのセグメント別損益は、赤字の拡大傾向が続いている。
加えて物流拠点関連の設備投資もかさんでおり、11月7日に発表された第3四半期決算をみれば、これらに関連したキャッシュアウトが次第に大きく膨らんできている様子がはっきりする。携帯事業は初期投資の負担が重く、第3四半期決算のキャッシュフロー計算書を見ると、「投資活動によるキャッシュフロー」は2044億円のマイナスとなっている。
そのなかで基地局などの整備に伴って「有形固定資産の取得による支出」は827億円に拡大し、前年同期よりも大幅に膨らんだ。減価償却費などとの比較で見ても、かなり前のめりの設備投資といっていい。バランスシート上でも社債や借入金が2657億円増加しており、初期投資負担の重さに外部調達に頼らなければならない様子が窺える。
楽天は独自に物流拠点の整備にも資金を投じているが、「楽天の拠点は注文主への配送が大幅に遅れるなどのトラブルも多い。一般利用者の苦情は、楽天だけでなく出店者にも跳ね返る」(出店者)として警戒感が広がっている。
■逆風続きの1年
楽天はEC業者としてスタートしたが、現在の収益構造をみると、インターネット・バンキングやオンライン証券取引などの金融事業への依存度を高めている。さらに決済事業の子会社、楽天ペイメントも立ち上げており、出店者の決済方法を楽天ペイメントに限定して囲い込めば、楽天の事業基盤は強化されるだろう。とはいえ、ここまで金融事業の基盤を強化できたのは、楽天市場での出店者があればこそだ。
楽天にとってこの1年は逆風続きだった。MNO事業の躓きはもちろん、11月には楽天カードとスマホQRコード決済の楽天ペイで不具合が生じ、出資先の米配車大手リフト株の減損処理で7〜9月期に1030億円の損失を計上した。しかし、ある出店者は「むしろ今年のほうが楽天にとって多端な1年になる」として、出店者の反発がさらに広がると警告している。
楽天株は6月に1300円に迫る勢いを見せたが、その後は失速。株式相場が堅調に推移しているのとは対照的に、楽天株は900円台前半にまで沈んでいる。「三木谷楽天」の経営方針に出店者ばかりでなく、株主がどこまで黙っていられるだろうか。
(文=山口義正/ジャーナリスト)
●山口義正
ジャーナリスト。日本公社債研究所(現格付投資情報センター)アナリスト、日本経済新聞記者などを経てフリージャーナリスト。オリンパスの損失隠しをスクープし、12年に雑誌ジャーナリズム大賞受賞。著書に『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』(講談社)
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