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巨大・日本郵政G崩壊の裏側…歪な3社同時上場が元凶、増田新社長では再建できない
https://biz-journal.jp/2019/12/post_135155.html
2019.12.27 文=有森隆/ジャーナリスト Business Journal
かんぽ生命不適切販売問題 経営トップが記者会見(写真:東洋経済/アフロ)
かんぽ生命保険と日本郵便の保険商品の不適切販売を受け、40万人超の従業員を抱える日本郵政グループの3社長が一斉に交代する。役員人事を決める「指名委員会」が12月27日に開かれ、長門正貢・日本郵政社長、横山邦男・日本郵便社長、植平光彦・かんぽ生命社長、鈴木康雄・日本郵政上級副社長(元総務次官)が引責辞任する。鈴木副社長が日本郵政グループの「事実上のトップ」(総務省関係者)であり、同氏が辞任しなければ「責任を明確にした」(同)ことにはならない。
日本郵政の新しいトップには、安倍政権に近い増田寛也・元総務相に決まった。しかし、増田氏は「早い段階で社長就任を打診されたが、一度は断った」(政府関係者)といわれている。
「民間企業の経営経験がなく、巨大金融機関を抱えるグループのトップが務まるか、不安だろう。増田氏の脇を固める優秀なスタッフ(=日本郵便とかんぽ生命の社長)を揃えてもらえるかどうかで決まるということだ」(増田氏に近い関係者)
しかし、脇が固まらないままの見切り発車となった。12月26日現在、トップの候補は増田氏を含めて3人いるとされてきた。一方、日本郵便、かんぽ生命の社長は内部昇格となる。かんぽ生命の新社長には旧郵政省出身の千田哲也副社長、日本郵便は日本郵政の衣川和秀専務執行役の昇格となる。布川氏も旧郵政省出身。親会社、子会社の3人のトップは官僚出身者となった。
日本郵政の鈴木副社長はかんぽ不正に関する行政処分案を、旧郵政省時代からの後輩にあたる鈴木茂樹・総務次官から電話などで情報を得ていた。次官による前代未聞の情報漏洩で、鈴木氏は12月20日付で辞職した。
前次官が情報をなぜ流したのかなど、詳しい経緯は不明のまま。日本郵政は12月25日になっても「事実確認を続けている」とし、一切の説明を拒んでいる。鈴木副社長の辞任会見はあるのだろうか。トップ人事はいずれも2020年1月5日付。
■長門社長は敵前逃亡した
かんぽ生命の不正問題をめぐり、菅義偉官房長官は12月19日午前の記者会見で、日本郵政の長門社長らグループ経営陣について「経営責任は適切に判断すべきものだ」と述べた。長門氏は12月18日、記者会見で「しかるべきタイミングで経営責任について改めて発表したい」と逃げの一手だった。
12月18日の郵政グループの会見は最低最悪の記者会見だった。特別調査委員会の報告に「持ち株会社の取締役会で郵政のガバナンスについて議論されたことはなかった」と書かれていた。驚くべきことだが、内情を知る人は、「長門社長と日本郵便の横山社長は反目し合っていた。タテのコミュニケーションがないのだから、ガバナンスなど機能するわけがない」と切って捨てる。長門氏を筆頭に3人の社長は会見を途中で打ち切り、怒号を浴びながら退席した。
会見に出席したジャーナリストは言う。
「会見冒頭で一礼した3人の頭の高さが、3人が置かれている立場を映し出していておもしろかった。深々と一礼した植平社長は引責辞任が確定。日本郵政の長門社長は責任を子会社の2人のトップに転嫁して留任を画策していたが、首相官邸が後任を見つけ次第、クビ。日本郵便の横山社長は長門社長の後釜を狙っていたが、これはアウト。それでも、日本郵便の社長は自分しかいないと今でも思っている」
「週刊エコノミスト」(毎日新聞出版/12月24日号)が<日本郵政交代濃厚 JR九州会長の名も>と書いた。
<大株主である政府は長門氏の後任を探しているが難航している。名前が挙がるのはJR九州の唐池恒二会長だ。日韓高速船の就航や外食事業の黒字化で実績を上げ、社長時代には豪華寝台列車「ななつ星in九州」事業を成功に導くなど、アイデアマンとして知られる。JR東海の柘植康英会長の名前も取り沙汰される>(「エコノミスト」より)
残念ながら、「週刊エコノミスト」の社長辞令は幻に終った。
19年9月中旬、ゆうちょ銀行の投資信託の販売で、9万件の不適切契約があったことが新たに発覚した。これで郵政グループ4社がすべて“クロ”となったわけだ。ゆうちょ銀の池田憲人社長は横浜銀行出身だ。
「こうした情況下ですから、民間(金融界)から火中の栗を拾う優秀な人材は出てくるわけがない」(金融アナリスト)
「後任探しについては、民間人の引き受け手はゼロ。そこで、内部昇格という話も出てきていた。日本郵政の鈴木副社長が虎視眈々とトップの座を狙っている。日本郵政のトップ人事については、政治家と労組の影響力が大きいので、そことの調整が必要になる」(日本郵政グループ担当の大手紙記者)
こうした読みが、秋の時点では本筋だったが、これも総務次官の情報漏洩が明らかになるまでの話だ。高市早苗総務相は情報漏洩の事実をつかみ、次官を更迭したのを受け、旧郵政省の関係者が日本郵政の取締役に就くことに否定的な見解を示した。これで鈴木副社長が社長に昇格する道は閉ざされた。だが、「郵政のドン」が去った後、監督官庁との調整など誰がやるのだろうか。増田氏に日本郵政グループのトップが務まるのだろうか。
増田氏は16年7月の東京都知事選では自民党推薦候補として出馬し、小池百合子・現都知事にボロ負けした。旧建設省(現国土交通省)の官僚出身で、1995年から3期12年、岩手県知事を務めた。知事と民間企業のトップの仕事はまったく性質が違う。2007年8月に発足した第1次安倍改造内閣で総務相に就き、08年9月(福田内閣)まで総務相を務めた。13年からは郵政民営化委員長を約3年務めたが、存亡の危機にある日本郵政グループの経営かじ取りは重荷だろう。親会社、子会社の日本郵政グループの3人のトップが官僚出身者で占められた。民間から優秀な人材を引っ張ってくることができなかったことを物語る、“ヤリクリ人事”であることが露呈した。
■日本郵政グループ3社同時上場のツケ
かんぽ生命保険の不正販売をめぐり、親会社日本郵政と子会社ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の親子上場の問題点が再び浮上している。今回の一連のスキャンダルも、日本郵政にどのように稼ぐのかというグランドデザインがないことによる悲劇だ。
郵政グループの売上高は07年の民営化以降、減る傾向にある。電子メールなどの普及で郵便事業は大幅減。郵便事業はこのままだと、19年度以降に営業赤字になる見通しだ。郵政グループの純利益の8割前後を、かんぽ生命とゆうちょ銀行の金融2社が稼いでいる構図からの脱皮は難しい。日本郵政は金融2社の株式を今後売却する計画であり、将来は完全民営化を目指す。そうなれば、金融2社におんぶにだっこというわけにはいかない。
かんぽ生命と日本郵便が19年7月から始めている保険の営業自粛が解除されても、従来通りの営業成績を上げることは難しいだろう。非上場で“金食い虫”の日本郵便を、どのように稼ぐ組織にするかが日本郵政グループの最優先課題である。
政府は、政府が持つ日本郵政株を高値で売却するために、日本郵政グループの親子上場を強行したと指摘されている。もともとは、持ち株会社、日本郵政の単独上場を計画していた。だが、東日本大震災が発生。大震災の復興財源として4兆円を日本郵政株の売却で確保する必要に迫られた。
3社の親子同時上場は過去に例がない奇策だった。低収益の郵便事業を抱えているため日本郵政の成長は期待薄であるため、株価は上がらない。政府が想定する価格を下回った水準で売却すれば、復興財源に穴が空く。計画通り、日本郵政株を売却するには株価を高値に保たねばならなくなる。そこで、ゆうちょ銀行とかんぽ生命を抱き合わせて3社を同時上場させた。金融2社が牽引して、日本郵政の株価を高くするというシナリオを描いた。東京証券取引所も政府の方針に協力した。
郵政グループは、持株会社の長門社長(旧みずほコーポレート銀行出身)、子会社の日本郵便の横山社長(旧住友銀行出身)、ゆうちょ銀の池田社長(横浜銀行出身で足利銀行の元頭取)の3人は、銀行出身者ということもあって微妙な関係にあった。かんぽ生命の植平社長は東京海上日動火災保険出身の保険畑だ。長門氏は郵政省出身の鈴木副社長との関係は良好といわれ、郵政族議員や組合ともツーカーの間柄とされてきた。
結局、長門氏は40万人を背負っていくだけの社長の器ではなかった。増田・新社長で大丈夫なのか。瀕死の日本郵政グループの再生への道ははるかに遠い。
(文=有森隆/ジャーナリスト)
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