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とっくに日本は輸出ではなく投資で食う国…「債権国だから豊か」の誤認識が経済衰退招く
https://biz-journal.jp/2019/11/post_129612.html
2019.11.27 文=加谷珪一/経済評論家 Business Journal
「Getty Images」より
日本は現在、世界最大の債権国となっており、2018年における対外純資産残高は約342兆円もある。このところ日本経済の弱体化が指摘されているが、必ずといってよいほど出てくるのが、世界最大の債権国なのに貧しいわけがないという奇妙な反論である。
対外純資産が大きいことは、過去の経常黒字が大きかったことを意味しているが、それが直接的に国が豊かであることを示しているわけではない。日本は徹底的に債権国としての立場を利用すべきと筆者は考えるが、債権国だから日本はスゴいという短絡的な発想は危険である。時代の変化や経済構造の転換で債権国は容易に債務国に転じることもあるし、逆もまたしかりである。債権国としての立場は、あくまでも利用すべき材料であって、精神的な支えではない。
■日本はすでに投資でメシを食う不労所得の国
2018年における日本の対外資産残高は約1018兆円、対外負債残高は約676兆円、対外資産から負債を差し引いた対外純資産は342兆円となっている。対外純資産が増えたということは、過去の経常収支が黒字だったことを意味している。
日本は昭和の時代までは、安い労働力を利用して製品を大量生産し、諸外国に輸出するという、現在の中国のような経済構造だった。輸出する製品は日本円で販売できないので、たいていの場合、代金はドルで受け取ることになる。輸出が増加するにつれて、日本は多額の外貨を蓄積するようになった。
当初、蓄積した外貨は原材料の輸入などに充てられていたが、金額がさらに大きくなるにつれて、運用の原資としての意味合いが強くなっていった。
日本の経常収支は戦後、一貫して黒字が続いてきたが、昭和の時代までは、経常黒字のほとんどは輸出による貿易黒字だった。だが外貨が蓄積され、その運用益が大きくなるにつれて、投資収益に相当する所得収支が増え、2005年以降は、所得収支が貿易黒字を上回っている。
2018年におけるサービスを含んだ貿易収支(貿易・サービス収支)の金額はわずか3900億円しかなく、これに対して所得収支(投資による利益)の金額は21兆円もある。日本は名実ともに、投資でメシを食う国になっており、もはや輸出によって外貨を稼ぐという状況ではないのだ。
もっとも、投資収益のすべてを株式投資や債券投資などの純然たる証券投資で得ているわけではない。かつては証券投資(主に米国債)からの収益が圧倒的に多かったが、リーマンショック以降は直接投資の比率が上がり、投資から得られる収益も直接投資によるものが証券投資を上回るようになっている。
■債権国のメリットは自己資金で投資ができること
直接投資の主な中身は、日本メーカーが現地生産に切り換えたことによる現地法人の株式などであり、地域別では、やはりアジアと米国が多い。コスト削減を目的に工場をアジアに移した日本企業は多く、自動車産業では米国からの圧力もあり、以前から北米での現地生産を強化している。
現地生産を行った場合、販売した製品の代金は日本の本社ではなく、現地法人が受け取ることになる。日本の本社が得られるのは、販売代金ではなく、現地法人からの配当や利子、あるいはロイヤリティ収入のみである。
つまり日本メーカーは輸出によって直接外貨を得るという方法ではなく、現地生産に切り換え、現地法人への投資というかたちを通じて、外貨を獲得する構造に変化しているのだ。
これが、世界最大の債権国である日本の実状ということになる。
債権国であることの最大のメリットは、投資をする際の原資を外国から調達する必要がなく、自前の資金で実施できる点である。外国から調達した場合には、利子や配当を支払う必要があるため収益率が落ちる。
近年、アパートやマンションを一棟丸ごと購入して賃貸する、いわゆる大家さんビジネスを行う人が増えているが、不動産投資は融資を受けて実施してもよいし、自己資金でもよい。だが融資を受けて投資を行う場合には、金融機関に支払う利子の分だけ高い収益を上げる必要があり、物件取得のハールドが上がる。自己資金による投資では、その必要がないので物件選択の幅が広がるのだ。
外国から資金を調達している場合には、リーマンショックのような非常事態が発生した場合、資金回収が最優先され市場が混乱する可能性もあるが、自前資金の場合には、そうした事態が発生するリスクを低く抑えることもできる。
■債権国が享受すべき本当の利益とは
しかしながら、あくまで債権国であることは有利な条件でしかなく、心の拠り所にするような対象ではない。むしろ輸出で稼げなくなった今、債権国であることの立場をどれだけフル活用できるのか、徹底的に考え抜く必要があるだろう。
もし、このまま海外投資で失敗せず、対外債権を保有し続けることができれば、基本的には「大家さん」ビジネスと同じなので、何もしなくても海外から一定の利子や配当が入ってくる。外国人にせっせと働いてもらい、日本人は不労所得を得るわけだから、これはオイシイ話といってよい。
だが、この不労所得は、輸出をしなくても同額の外貨を稼げるだけのことであり、この所得だけで、国内に住む日本人全員の生活を支えられるわけではない。
輸出が減っている場合には、国内の工場がなくなるので、工場向けの設備投資が減少するが、この分を埋め合わせる支出がなければ、従来と同様の豊かさは享受できない。つまり、輸出が減って、投資収益が拡大している国の場合、経済の仕組みを変え、国内消費を活発にする工夫が必要となるのだ。
いまだに日本は輸出大国であると誤解している人が多く、政策も輸出企業の支援策ばかりが目に付く。だが経済の実態はそれとは大きくかけ離れており、政策とのミスマッチを起こしている。これからの経済政策は、個人消費を活発にする部分に徹底的にフォーカスすべきだろう。
これに加えて、債権国の地位を維持するための努力も必要となる。
もし、なんらかの理由で債務国に転落した場合には、国内経済の収益率をより高くしないと、利子や配当の原資を捻出できない。債権国の立場をしっかり維持したほうが、経済運営がラクであることは説明するまでもない。
■経済政策は、国内消費を最優先にすべき
先ほど説明したように、海外投資は証券投資と直接投資に大別できるが、直接投資の多くはメーカーの現地法人である。つまりコストダウンを目的にアジアなどに工場を移したことが直接投資が増えた主な理由ということになる。どんなにコストダウンを行っても、最終的には新興国がさらに安いコストで勝負してくることは明白なので、残念ながらこうした直接投資には永続性がない。
永続性がある直接投資は、サントリーによる米ビーム社の買収に代表されるような海外M&A(買収・合併)である。成長性や持続性がある企業に投資し、必要に応じてそのポートフォリオを入れ換えていけば、半永久的に投資収益を得ることができる。できるだけ早いうちに、工場移転による直接投資から、純然たるM&Aによる直接投資にシフトする必要があるだろう。
目下最大の懸念材料は貯蓄率の低下である。
マクロ経済学の理論上、家計や企業の貯蓄は、投資が一定の場合、財政赤字と経常黒字に対応している(貯蓄投資バランス論)。もし、なんらかの理由で貯蓄が減少した場合には、財政赤字を減らすか経常黒字を減らすかたちでしか辻褄を合わせる方法はない。
日本人は貯蓄好きと言われ、1970年代後半における日本の貯蓄率は20%を超えていた。だが、その後、貯蓄率は一貫して下がり続けており、現在は5%を切った状況にある。この先、高齢化が進むのは確実であり、高齢者は生活費を捻出するためさらに貯蓄を取り崩すだろう。
家計の貯蓄が減った代わりに企業は内部留保を蓄積しており、貯蓄の主体は家計から企業に移っている。現時点では、これが財政赤字をカバーしているが、企業が内部留保を取り崩せば、緊縮財政に転じるか、経常黒字を犠牲にするしか選択肢がなくなってしまう。
この状態は基本的に持続不可能なので、このまま何もしなければ、日本は早晩、対外債権の取り崩しを迫られる可能性が高い。対外債権が減少すれば、投資収益も減るので経常収支は赤字となり、最終的には外国からの借金に頼ることになる。
結局のところ、なんらかのかたちでフロー(GDP)を増やさなければ、国は豊かにならないし、ストックである対外債権を取り崩す結果となる。債権国だから豊かなのだという幻想は捨て、一刻も早く国内消費を回復させる手段を講じる必要がある。
(文=加谷珪一/経済評論家)
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