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「米国人のキリギリス体質」が世界の命運を握る
ミネソタ州の失業率上昇など気になる動きもあるが……
上野 泰也
みずほ証券チーフMエコノミスト
2019年10月29日
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米国の過剰消費体質が、世界経済を支えている
中国やユーロ圏を中心に、世界経済は全体としては停滞色を強めている。IMF(国際通貨基金)が10月15日に発表した最新の世界経済見通し(WEO)で、世界全体の成長率見通しは19年と20年のいずれについても引き下げられた。19年の新たな予想数値は前年比+3.0%。これを下回ると世界経済で全体に不況色が強まるとされる、大きな節目である。
世界で最も経済規模が大きい米国でも、景気はスローダウンしてきている。世界的な経済減速・米中貿易戦争・地政学的リスクを巡る先行き不透明感などを背景に、米国の輸出・生産・設備投資や企業の景況感が悪化している。その一方で、後述するように、大黒柱である個人消費の足取りには底堅いものがある。
こうした「二面性」を十分認識している米連邦準備理事会(FRB)は、彼らの経済見通しに対するリスクがダウンサイドにあることを踏まえた予防的措置として、あるいは2%の目標対比でインフレ率の実績下振れが常態化しており、それが期待インフレ率の不可逆的な下方シフトに結びつかないようにするための保険的措置として、7月と9月に「予防的」あるいは「保険的」な利下げを実施した。
FRBが今後追加する利下げの回数を決めるのは、上記の「二面性」がどのように展開するか次第であり、中でも個人消費が底堅さをどこまで維持できるかが非常に重要なポイントになる。消費の伸び鈍化が大きなものにならなそうであれば、米国経済がリセッション(景気後退局面)入りするリスクは小さいとみて、予防的な意味合いの利下げ局面は近く終了するだろう。
これに対し、景気腰折れリスクが増したと判断される場合は、政策金利はゼロ%近くまで引き下げられ、量的緩和の再開も現実味を帯びる。
米国の景気のベクトルは下向き(=後退)にまでは至らず、上向きの角度が緩やかになる(=減速)ところまでだというのが、市場の内外で、現在はメインシナリオになっている。
とはいえ、気になる動きがいくつか出てきている。
次ページミネソタ州は全米の先行指標
米国経済がリセッション入りするかどうかを探る上で市場参加者が注視しているインジケーターはいくつもあるが、一番手っ取り早いのは、米調査機関コンファレンス・ボードが毎月発表している景気先行指数である。その動きを見ると、10月18日に発表された9月分は市場予想比下振れの前月比マイナス0.1%。1つ前の8月分は同マイナス0.2%に下方修正されており、最近では珍しく2カ月連続でマイナスになっている。
過去最長の景気拡張を成し遂げた米国では折に触れて、「さすがにそろそろ景気の拡大は終わりではないか」的なセンチメント(市場心理)から、リセッションが警戒されやすい。
もう1つ、ここでご紹介しておきたいのは、中西部ミネソタ州の失業率が全米に先駆けて底を打って水準を切り上げたことである。
米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は10月8日、「ミネソタ――経済界で輝く長年のスターが、今後の展開に戦々恐々(Minnesota, Long a Bright Economic Star, Wonders What’s Next)」と題した記事を掲載した。
ミネソタ州は全米の先行指標
米国全体よりも一段低い失業率を実現し続けるという目覚ましいパフォーマンスを見せてきたミネソタ州の失業率が、直近のボトムから0.5ポイントも上昇。好悪双方の材料がある中で経済のベクトルがどちら向きなのかが分かりにくくなり、地元経済界に気迷いが生じているという内容である。
全米失業率の最新データは9月分の3.5%で、1969年12月以来、約50年ぶりの低水準である。一方、ミネソタ州の失業率は7月分が3.4%で、次の8月分では3.3%に小幅低下した。それでも、直近ボトムである2.8%(18年6〜10月に記録)からは0.5ポイント高い水準である。もっとも、10月18日に発表された9月分では3.2%へさらに下がり、やや安心感が漂っている<図1>。
■図1:ミネソタ州と米国全体の失業率比較(季節調整値)
(出所)米労働省・セントルイス連銀、全米経済研究所(NBER)
[画像のクリックで拡大表示]
ちなみに、WSJの記事にある通り、ミシシッピ州とノースカロライナ州でも失業率は8月時点で直近ボトムから0.5%ポイント上昇した。ただし、これらの州では全米よりも失業率が高い(ちなみに次の9月分では、ミシシッピ州が5.4%に上昇、ノースカロライナ州は4.1%に低下)。
次ページ個人消費には底堅さ
76年以降のデータを見ると、上記WSJ記事が「製造業・農業・金融業・小売業・その他企業向けサービス業のミックス」と形容した、米国経済の縮図と言える面もありそうなミネソタ州の失業率には、全米のそれに対して先行性が認められる(81〜82年の景気後退局面直前のケースを除く)。
そして、全米の失業率は景気サイクルの代表的な遅行指標であり、これが上昇トレンドに入ったときには、米国の経済はすでにリセッション入りしてしまっている可能性が高い。
前回の事例(住宅バブル崩壊)では、ミネソタ州の失業率ボトムは2006年5〜7月(3.8%)、全米の失業率ボトムは06年10月・12月および07年3月・5月(4.4%)で、景気の山は07年12月だった。
このときはミネソタ州の失業率がボトムをつけてから米国全体が後退局面入りするまでのラグが、約1年半だった。この前例を今回のケースに仮に単純にあてはめると、20年春頃のリセッション入りが警戒されるという話になる。
個人消費には底堅さ
もっとも冒頭で述べた通り、米国経済の個人消費には底堅さがある。ミネソタ州での動きは、この州の経済の動きが好調過ぎた反動という固有の事情が大きいのかもしれない。
話を戻すと、IMFが発表した最新の世界経済見通しでは世界全体の成長予想が下方修正されたわけだが、米国の見通し数値の動き方は少し変わっていた。
具体的には、19年が0.2ポイント下方修正されて前年比+2.4%になる一方、20年は0.2ポイント上方修正されて同+2.1%になった。共和・民主両党による2年間の財政合意(歳出の上積み)およびFRBの2度の利下げによる景気刺激効果で、20年の数字が上方修正されたのである。
グローバルな景気減速が進んで企業部門が弱まっても、米国経済のいわば大黒柱である個人消費がしっかりした動きを続けている根底にあるのは、(日本人とは異なり)抱えている借金の重みを残高(ストック)ではなく月々の利払い負担(フロー)で認識する傾向が強い、「キリギリス的」とやゆされることもある米国人の過剰消費体質だと、以前から筆者は整理している。
次ページリセッションはまだ先か
米国の家計の可処分所得に占める借金の利払い費などの比率は、ヒストリカルに見て低い水準にある。19年4〜6月期のDSR(デット・サービス・レシオ;可処分所得に占める住宅ローン・消費者ローンの利払い費比率)は9.69%。これに自動車リース、賃借、自宅保険料、資産課税を加えたFORは15.03%にとどまっている<図2>。
■図2:米国の家計可処分所得に占める借金利払い費などの割合
(出所)米FRB
[画像のクリックで拡大表示]
さらに、米家計・非営利団体における資産と負債のバランスを見ると、両者の差である純資産(net worth)は右肩上がりであり、個人消費に資産効果が及びやすいことが分かる<図3>。
■図3:米国の家計・非営利団体における資産と負債のバランス(ストック)
注:総負債の金額はマイナスで表示
(出所)米FRB
[画像のクリックで拡大表示]
長期好況の中で家計が抱える負債の絶対額が膨らんでも、低金利+良好な賃金環境が家計にとって追い風になっており、さらに、高い水準にある株価および住宅価格が個人の支出行動に資産効果を及ぼしている。
FRBが利上げを継続してローン金利上昇・株価下落が大きなマグニチュードで起こっていれば、そうしたある意味危ういバランスは大きく崩れてもおかしくなかった。だが、FRBは利下げに転じ、そのバランスシートは(量的緩和ではなく銀行準備預金を増やすテクニカルな措置としてではあるが)再拡大することが決まった。
リセッションはまだ先か
パウエルFRB議長が「パウエル・プット」という言葉(株価が急落してもFRB議長が金融緩和で対処してくれるから大丈夫だという市場サイドの一種の楽観論)をどこまで意識しているのかは不明である。だが、米国が戦争状態に入るといった何らかのリスクイベントの発生で米国の消費マインドが大きく落ち込むようなことでもない限り、「キリギリス」的な米国人の過剰消費体質はFRBのこのところの金融緩和措置によって、少なくとも当面は温存されそうだ。
要するに、米国経済のリセッション入りと世界経済の一段の悪化といったところまでは、まだ見えてきていないということである。
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米国株から現金・債券へのシフト、2008年以来の規模−ゴールドマン
Christopher Anstey
2019年10月29日 9:06 JST
• 米国株ファンドからは今年これまでに1000億ドル流出
• 債券ファンドは3530億ドル流入、現金は4360億ドル増
ゴールドマン・サックス・グループによると、今年の米国株ファンドからの資金流出は、現金および債券への流入との比較で2008年以来の大きさだった。
ただ、それでも現金比率は「歴史的低水準」に近いと、デービッド・コスティン氏らゴールドマンのストラテジストは指摘。現在の現金配分比率は12%と、過去30年の5パーセンタイルに当たるという。
ストラテジストらは25日のリポートで「高い不確実性、リセッション(景気後退)に対する投資家の懸念、もともと低かった現金比率」のため、2020年に株式配分が大幅に増加する可能性は抑制されそうだと記した。
ゴールドマンがまとめたデータによると、米国株ファンドからは今年これまでに1000億ドル(約10兆9000億円)が流出し、過去15年で2番目のペース。一方、債券ファンドには3530億ドルが流入し、現金は4360億ドル増えているという。
来年についてゴールドマンは、米株買いの主役は今年と同様に企業だとみている。個人と外国人投資家も買い越し、年金基金は株式への配分を減らし続けると予想した。
原題:Goldman Says Rush From Stocks to Cash, Bonds Biggest Since 2008(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-10-29/Q031326JIJUO01?srnd=cojp-v2
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