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官民ファンド、問われる存在意義…巨額税金投入でも成果出せず 根深い構造的問題
https://biz-journal.jp/2019/10/post_124800.html
2019.10.25 文=真壁昭夫/法政大学大学院教授 Business Journal
「INCJ HP」より
政府と民間企業が出資する産業革新投資機構(JIC)の社長に、金融業界出身の横尾敬介氏が就任する。JICに関しては、運営管理を主導する経済産業省と前経営陣がこれまでにも報酬制度などをめぐって対立した。政府としては、大手証券会社の社長を務め、実業界と太いパイプを持つ横尾氏の登用によってJICの信頼回復を目指したいところだろう。
ただ、現時点でJICが役割期待を果たせるか不透明な部分が多い。その要因の一つとして、政府に求められることと、民間の役割には根本的な違いがあることがある。日本の官民ファンドの運営実態を見ていると、この点が十分に理解されているか疑問を覚えざるを得ない。また、多くの官民ファンドが、資金を出資した案件から付加価値を生み出すことができていない。
突き詰めて考えると、政府(官)には採算性という概念が乏しい。民間企業は限られた経営資源を効率的に活用し、付加価値を生み出さなければならない。この違いは大きい。政府は民間に任せることは任せ、人々が常にチャレンジしやすい環境の整備を目指すべきだろう。そのなかで、官民ファンドがどのような役割を発揮できるか、焦点を絞った議論が必要と考える。
■報酬をめぐる政府とJIC旧経営陣の対立
JICの運営には、さまざまな問題がある。なかでも重要と考えられるのが、報酬に関する政府と民間の考え方の違いだ。経済のグローバル化に伴い、日本企業は成長期待の高い海外に進出し、収益獲得を目指している。海外でのビジネスに日本の常識が通用するとは限らない。M&A(企業の合併と買収)には法律やファイナンスなどに関する高度な知識と経験も求められる。その上で、日本の企業はグローバル化が進んだ組織を一つにまとめ、経営しなければならない。
それが、国内企業による“プロ経営者”や専門性の高い人材の登用につながった。プロ経営者をはじめ実績のある人材は引く手あまただ。報酬も高い。専門性が高く経験豊富な人材を活用していくために相応の報酬を支払うことは避けられない。
これは、日本全体が冷静に考え受け止めるべき事実だ。その上で、成果をどのように評価し、報酬の水準が適切か否かを見定め仕組みを整えることが日本には求められている。この考えに基づいてJICの運営を考えると、官民の発想の違いがよくわかる。政府は、長期的な経済利得よりも、目先の世論の反応を重視してしまったように見える。
2018年9月、イノベーションの発揮を目指してJICが設立された時点で、政府は経営陣に相応の報酬を支払う重要性をある程度は認識していたようだ。それは経済産業省が開催してきた研究会や、産業競争力強化法からも確認できる。ただ、政府は高額報酬の支払いに慎重になってしまった。特に、昨年11月、高額報酬を得てきた日産のカルロス・ゴーン元会長が逮捕されたことのマグニチュードは大きかった。政府がJIC経営陣への高額報酬の支払いに対する世論の反感を避けたくなったことは想像に難くない。この結果、JIC経営陣は政府の姿勢に不信感を募らせ、最終的に一斉に辞任してしまった。
■リスクマネーの供給は民間の仕事
そもそも、官と民の発想と役割は大きく違う。政府は、自ら資金調達に奔走する必要はない。また、政府の取り組みには、採算性や効率性よりも、社会全体の公平性が求められる。それは社会全体の安定を目指すうえで重要だ。
一方、民間企業の発想は異なる。企業が存続を続けるためには、採算性を重視してリスクを考慮し、効率的に付加価値を獲得しなければならない。理論上、それができない企業は市場原理によって淘汰されてしまう。経営者は、利害関係者(株主、地域社会、従業員など)の賛同を取り付けつつ、より成長期待が高い分野にヒト・モノ・カネの経営資源を再配分していかなければならない。
JICの運営を見ていると、この根本的な違いをどう解消していくか、具体的な方策がまとまっていなかったように思えてしまう。特に、JICの運営にとって政府の存在感は圧倒的だ。出資金総額約3,000億円のうち、2,860億円が政府予算から拠出されている。官民ファンドと呼ばれてはいるものの、事実上は政府の意向がその運営を左右する。
本来、民間がリスクを負担することが極めて難しい場合こそ、政府の役割が求められる。1990年代初頭、日本では資産バブル(株と不動産の価格が高騰した経済環境)が崩壊した。急速な資産価格の下落を受けて、国内企業のリスク許容度は極度に低下した。この結果、“羹に懲りてなますを吹く”というべき心理が日本経済全体を覆ってしまった。不良債権の処理は遅れ、1997年には金融システム不安が起き、景気も低迷した。
こうした状況を打破するためには、政府の役割が必要だ。政府による規制や税制の改革に加え、リスクマネーの供給(銀行などへの公的資金注入)は、民間のリスク許容度を支える。それは、成長分野への経営資源の再配分にもつながるだろう。政府に求められることは、自ら主導してJICのような投資ファンドを設営することよりも、民間の“アニマルスピリット”を高め、人々がさらなる成長を目指す環境を整えることだろう。
■難しい運営とJICの役割期待
このように考えると、JICが新社長の下で求められた機能を発揮できるかは、依然として不透明といわざるを得ない。
まず、政府自らがリスクマネーの供給主体になるのであれば、かなりの覚悟が必要だ。政府に求められるのは、投資ファンドの運営はその道の専門家に任せ、組織の運営や一度決められたことには一切口を出さない姿勢だろう。特にJICの運営に関しては、契約や法律で定められたことが確実に守られたか否か、不透明な点が多いようだ。
JICが投資実務に精通した人材を確保していくにあたっては、この問題は軽視できない。海外では、すべての意思決定は契約に従う。契約に記載された内容は重い。日本では、この考え方が十分に浸透していない。東芝の巨額損失に関しても、契約に定められたオプション行使に関する理解がその大きな原因となったとの指摘が多い。政府がJICの成果実現を目指すのであれば、他の出資者と同じ立場から、投資の実績に関してのみ意見を提示していくべきだろう。
イノベーションの発揮には、人々の成長へのこだわりや野心など、“アニマルスピリット”の高まりが欠かせない。それが、既存のモノや技術と新しい発想の結合を生み出し、ヒット商品の創造につながる。これは民間企業の活力にかかっている。
政府は巨額の資金を出資して民間の活力の向上を目指すよりも、制度面を中心に改革を進め、競争原理が働きやすい環境を目指すべきだ。その中でJICが、民間投資家が手を出しづらいごく小規模の起業案件などに資金を提供することができれば、日本のダイナミズム引き上げにもプラスの効果が期待できるだろう。
JICと同様の機能を期待されているINCJ(旧産業革新機構)に関しては、ジャパンディスプレイ(JDI)の経営悪化を食い止めることができなかった。経済の専門家のなかには、官民ファンドは成長資金の供給者としてではなく、経営が悪化した企業の延命措置になっているとの厳しい見方を持つ者もいる。投資実績などを見る限り、JICをはじめとする官民ファンドの運営に関する考え方は改められるべき時を迎えている。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)
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