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今年のノーベル経済学賞が、途上国支援とビジネスの双方にもたらす革命的な影響とは
現場目線で解説する2019年度ノーベル経済学賞
中村俊裕:米国NPOコペルニク 共同創設者兼CEO
経済・政治 エディターズ・チョイス
2019.10.19 4:20
2019年度のノーベル経済学賞は、MITのエステール・デュフロ氏、アビジット・バナジー氏、そしてハーバード大学のマイケル・クレマー氏が獲得した。受賞理由は、世界の貧困削減に実証実験を用いたアプローチを行ったこと。一見、日本で暮らす私たちとの関わりは少ないように見える。だが、国際NPOコペルニクの共同創設者・中村俊裕氏によると、今回の受賞者らの業績は、途上国支援やNPOの施策はもちろん、ビジネスにも広く影響を与えるという。受賞者の業績を、途上国の中でも援助の届きにくい地域にテクノロジーを届けて貧困を削減する活動を約10年続けている中村氏が、「現場」目線で解説する。
コペルニクホームページより。コペルニクでは、今回のノーベル経済学賞で評価された実証実験の手法を、途上国の現場で実際に実施している。中には、今回の受賞者が属する研究機関との共同プロジェクトもある
2019年ノーベル経済学賞の受賞者と功績
――インドとケニアで教育の質を劇的に変えた2つの実証実験
2019年10月14日、ノーベル経済学賞が発表された。普段はあまり興味をひかれることはないが、今回の受賞は途上国の貧困削減という自身が取り組んでいるテーマそのもので、受賞者のうち2人の代表作“Poor Economics”(邦題:『貧乏人の経済学』)はコペルニクのスタッフにも読むべき本として薦めているほどだ。受賞者たちの研究は、コペルニクの近年の活動に大きなインスピレーションを与えてくれてもいて、協業もしているので、今回受賞した業績について改めて考えてみようと思う。
受賞した3人は、MITのエステール・デュフロ氏、アビジット・バナジー氏、そしてハーバード大学のマイケル・クレマー氏だ。ノーベル賞を与えるスウェーデン王立科学アカデミーは、今回の受賞の理由として、「現場での実証実験に基づいたアプローチ」を実際の途上国課題解決に取り入れたことにより、「貧困削減を現場で行うわれわれの能力を劇的に向上させた」としている[1]。さらに、「複雑な課題を対応可能な小さい課題にまで」昇華させることにより、具体的に問題解決をしやすくしたとも述べられている[2]。まずは、「現場」、「実証実験」というキーワードから、3人が残した業績の具体的をいくつか見てみよう。
例1:インドで「先生の欠席率」を効果的に減らす方法を検証
インドでは、小学校の先生が必要な授業日数の50〜60%しか来ていないということが問題になっている。この問題は教育の質の低下につながり、その影響は当然子どもたちに及ぶ。デュフロ氏らは、インドのラジスタンで学校を運営するNGOと共同で、どのようにすれば先生の欠席を減らすことができるかを明らかにすべく、実験を行った。
実験では、カメラを先生に配布し、授業前と授業後に生徒と一緒の写真を撮ってもらい、その写真で授業をしたことを証明した先生には、出席日数に応じて給料を支払った。また、先生のうち、半分をカメラを与える先生(トリートメント群)、残り半分を今まで通りの運営でカメラを与えない先生(コントロール群)に、ランダムに分けた。コントロール群の先生は、通常通り学校で授業を行っても行わなくても、月に約2300円をもらう。
結果として、何も介入がなかったコントロール群の先生の授業出席率は58%だったのに対し、カメラで出席を証明する必要のあったトリートメント群の先生の出席率は79%まで向上した[3]。
2:腸内寄生虫を減少させる駆虫剤(Deworming)の効果を証明し、世界に広めた
世界保健機構(WHO)によると、主に途上国で暮らす8億5千万人の子どもが汚れた水と接触することで、腸内寄生虫が体内で繁殖し、栄養失調、貧血などの症状につながっているとされている。その結果、マラリアなどの病気にもかかりやすくなり、授業に集中できない、学校を休む、という事態に陥っている。
この課題を解決するため、ケニアの75の小学校を対象に実証実験を行った。75校の学校から25校をランダムに選び、駆虫剤を投入するとともに、どうやって腸内寄生虫を予防するかを教えた(トリートメント群として介入を行った)。残り50校の学校はコントロール群として何も介入を行わなかった。その結果、介入を行ったトリートメント群では、約3割の生徒で重・中度の腸内寄生虫の削減が確認され、病気になり学校を欠席する頻度も減り、また栄養吸収の基準となる生徒の身長の伸びでも向上が見られた。このアプローチの採用によって子ども1人の学校出席率を1年間にわたって向上させるための費用は、300円と非常に低い。このため、途上国の多くの学校で駆虫剤の配布を行うべきだと政策提言が行われたのだ[4]。
さらに注目すべきは、この後の話だ。調査結果を2007年の世界経済フォーラム(通称ダボス会議)で発表したデュフロとクレマーの両氏は、同時に‘Deworm the World’(「世界から駆虫を」)というイニシアティブを発足させ、駆虫を促し支援する活動を世界で大々的に開始した。2009年には、ケニアの当時の大統領が、政府の予算で小学校で駆虫を行うことを宣言し、今でも毎年600万人の子どもがその恩恵を受けている。さらに、インド、ナイジェリア、パキスタン、ベトナムでも中央・地方政府が駆虫のプログラムを開始したが、その実現にあたっては、火付け役である当初の実証実験結果が大きなインパクトをもたらした。ケニアでの学術機関が行った実証実験から、数か国にわたる大規模な政府プロジェクトへ進展したというこの事例は、なぜこの実証実験を行った学者らにノーベル経済学賞が与えられたのかを如実に示している。
これ以外にも現場ベースの途上国課題解決のための実証実験の事例が無数にあり、興味のある人は、MITの関連機関であるJPAL(Abdul Latif Jameel Poverty Action Lab)や、IPA(Innovations for Poverty Action)のホームページをご参照いただきたい。前者はエステール・デュフロ氏とアビジット・バナジー氏、そして後者はマイケル・クレマー氏が所属しており、彼らとその弟子たちの類似の研究結果が多く掲載されている。
[1]ノーベル賞の公式Twitterアカウント(@NobelPrize)など参照。
[2]https://www.bbc.com/news/business-50039214
[3]https://www.povertyactionlab.org/evaluation/encouraging-teacher-attendance-through-monitoring-cameras-rural-udaipur-india
[4]https://www.povertyactionlab.org/evaluation/primary-school-deworming-kenya
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「現場での実証実験に基づいたアプローチ」とは?
受賞理由「現場での実証実験に基づいたアプローチ」とは?
受賞理由の1つである「現場での実証実験に基づいたアプローチ」はこの2つの例を見てもよくわかるのではないだろうか。ケニア、インドの実際の小学校という舞台で、子どもの出席率、疾患率、先生の出席率、そして教育の質の改善を図ろうとするこのような取り組みにはまさに「現場」の視点がくっきりと出ている。
受賞者らの実証実験におけるアプローチで特筆すべきなのは、特定の介入の効果を測定する際の方法論だ。これはRandomized Controlled Trial(RCT)と呼ばれ、日本語では「ランダム化比較実験」とも訳されている。もともとは自然科学、特に医療・製薬の分野で使われている手法で、途上国支援ではほとんど使われてこなかったアプロ―チだ。具体的には、以下の特徴がある。
1) 性質の類似した、介入をするグループ(トリートメント群)と介入をしないグループ(コントロール群)を区別する
2) 介入する対象やデータを集める対象サンプルをランダムに選ぶ
3) トリートメント群とコントロール群の差を見て、介入の効果を測定する
たとえば、製薬分野で新しい風邪薬が開発されたとする。この風邪薬に効果があるかどうかを調べるために、今の時点で風邪にかかっている100人に薬を使ってもらったとしよう。2日間の服用を続け、100人のうち、仮に70人が風邪から治った場合、薬に効果があるといえるだろうか?
多くの人は、これだけではわからないと言うのではないだろうか。そもそも治ったのは薬のせいなのか、それとも自然回復なのかという疑問が浮かぶ。よって、この疑問に答えるためには、よく似た種類の風邪にかかっており、薬を服用しない100人(コントロール群)が必要となる。もしこのコントロール群のうち70人が薬を飲まずに2日後に回復していたという場合、2群の差異はなく、薬の効果はないということが言えるだろう。これが、上で述べた1)と3)に対応する部分だ。
2)のランダム化は、実験をさらに科学的にするために追加される方法だ。トリートメント群とコントロール群の参加者の属性を均一にすることができ、実証実験の結果と介入の関連性がきれいに見えることになる。
開発援助の世界に持ち込まれた「エビデンス」革命
人体の安全にかかわるような新薬のテストでは、このようなランダム化比較を使った実証実験の方法論がすでに確立されている。ところが、貧困削減や、途上国の小学生の出席率向上という別の重要課題になったとたん、このようなアプローチは実はほとんど見られなくなってしまう。
コペルニクを立ち上げて約10年になるが、それ以前に所属していた国連で東ティモール、インドネシア、シエラレオネといった途上国の現場で多くの貧困削減に関するプロジェクトを実行してきた私自身、ランダム化比較実験のアプローチを使った効果測定の経験どころか、そういった考えすら浮かばなかった。
たとえば、私が東ティモール時代に担当していた、元兵士の社会統合を促すプロジェクトでは、元兵士に対して職業訓練や小規模ビジネスを開始する際の資金を提供していた。実際に何百人という元兵士がこのプロジェクトを通じて、家具を作るといった新たなスキルを身につけ、ビジネスを開始する資金を得て自立の道をたどっていったのだが、プロジェクトに参加していない元兵士、すなわちコントール群のデータ収集はしていなかった。そのため、プロジェクトがなくても、またはこのプロジェクト以外の機会を通じて、必要なスキルを身につけて自立できていたのではないか、という疑問には答えられない。
1つ断っておくと、これは国連が遅れていたということではなく、それ以外のODA機関やNGOでもそれが普通だったのだ。このノーベル経済学賞の意義は、そういう「普通の状態」に一石を投じたことにあるといってもいい。兆円単位のお金が開発援助という名目でOECD諸国から途上国に流れている中で、そのお金が効果的な援助の活動に使われているのか、実際に導入された介入は効果的だったのか、ということをできるだけ科学的なエビデンスに基づいて判断しようという流れをつくった意義は非常に大きい。
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コペルニクが生み出したコレクティブ・インパクトとは
途上国支援のジレンマ
――実証実験的なアプローチを阻む「壁」
では、税金が投入されている国際機関や、限られた寄付を資金源として運営している多くのNGOがどこまで実証実験的なアプローチを突き進められるのか。実は、ここに「壁」がある。というのも、実証実験というアプローチには失敗というリスクが常につきまとううえに、ランダム化比較実験を行うには多くの人的・金銭的資金が必要となるからだ。また、倫理的な問題を指摘する人もいる。
リスクについては、評判リスクと置き換えてもいいかもしれない。おそらく、大手のNGOや国際機関に寄付をしている方々からすれば、自分が託したお金で、何十人の人々にきれいな水を提供できたとか、へき地に学校が建設されて何百人に新たな教育の機会が与えられたとか、何千人分のワクチン接種代として使われて子どもの健康状態がよくなったとか、「失敗しない」支援を期待してしまうのが普通だろう。そういった期待感がある中、「学校を建設して、新たにオンライン教育を取り入れて授業の効率化を行いましたが、教育効果はありませんでした」ということになれば、もうこの団体には寄付しないと決めてしまうかもしれない。
さらに、ランダム化比較実験というのは、より科学的、信憑性の高いデータを集める必要があるため、時には数千という多くのサンプル数のもと、中長期的に継続してデータを集めなければならない。その結果、予算として、数千万円、場合によっては億単位の資金が必要となることがあるのだ。上の議論と似ているが、この数千万円を実験ではなく、井戸を掘って水へのアクセスを向上させるとか、確実に効果があることに使うべきだというもっともな意見も出てくるのだ。
さらに、介入しない人々(コントロール群)の存在を前提とすることを非倫理的だと指摘する人もいる。目の前に支援が必要な人がいるのに、ある人には支援を行い、その他の人には支援を行わないというのは許されるべきでないという。それがたとえ、実証実験の後に支援を行うとしても[5]。
コペルニクの新たなアプローチ(1)
解決策の横展開でコレクティブ・インパクトを
2012年にダイヤモンド・オンラインで「世界を巻き込む途上国ビジネス」という連載の機会をいただいた際(後に加筆して書籍化)、私自身の国連での仕事と、コペルニクの初期の方向性などを共有した。あれから7年が経ち、コペルニクという団体も「途上国の課題を解決するためにはどういったやり方がいいのか」を常に自問自答しながら活動の方向性の微調整を行ってきた。
連載当時は、主にシンプルなテクノロジーをラストマイル(途上国の中でも、最も支援が届きにくい地域)に届けつつ、日本内外の企業とパートナーシップを組み、途上国の課題を解決しつつビジネスにつながるよう支援を行っていた。だが、2つのきっかけで新しい方向へと踏み出した。
1つめの転機が訪れたのは、2015年ごろだ。ノルウェーのあるインパクト投資(投資を通じて経済的なリターンだけでなく、社会的課題の解決を目指すこと)機関から、コペルニクが行っているラストマイルにテクノロジーを届ける活動を、彼らの投資先を通じて、つまりコペルニクを通さずに、そのままインドネシアの別の場所で行いたいというコンタクトがあったのだ。当初は、どう対応すればよいのか迷ったが、よく考えてみると、貧困削減という公共性の高い活動を行う団体としては、これほど嬉しい申し出はない、という結論に達した。「模倣は最高の賞賛」ともいわれるが、競争という観念とはあまり親和性がないソーシャル・セクターでは、効率的だと思われるアプローチを他の団体が模倣することで解決策が広がってくれることこそが、最終的にはコレクティブ・インパクト(個別にアプローチするだけでは解けない複雑な社会課題を、行政、企業、NPOなどの立場の違う組織が手を組み解決していくこと)をもたらすと考えたからだ。
その後、国連機関や、国際NGOからも同じような話をいただき、ミャンマーでソーラーライトや調理用コンロなどのシンプルなテクノロジーをラストマイルに届けるプロジェクトのデザインにもかかわった[6]。当初は模倣してもらうなどまったく意図していなかったが、同じ思いを持った他の団体が、コペルニクのアプローチを横展開してくれることで生まれるインパクトにとても大きなポテンシャルを感じた。我々の規模とは何十倍・何百倍も差があるが、腸内寄生虫の駆虫剤の配布の例で、ケニアの小さいプロジェクトが数か国の政府が行う大規模支援に成長していった流れと共通点があると思っている。
[5]https://behavioralscientist.org/rcts-are-not-always-the-answer/
[6]https://www.mm.undp.org/content/myanmar/en/home/presscenter/pressreleases/2015/06/10/affordable-technology-innovations-for-rural-communities-initiative-kicks-off-in-myanmar-.html
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受賞者とも協業。「現場」+リーンな「実証実験」で見えた可能性
コペルニクの新たなアプローチ(2)
「現場」でリーンな「実証実験」
2つめのきっかけは、今回ノーベル経済学賞を受賞したエステール・デュフロ氏とアビジット・バナジー氏の共著“Poor Economics”のデータ、エビデンスを重視したアプローチに大いに感銘を受けたことだ。結果、コペルニクでもコントロール群のデータを収集をするなど、ランダム化比較実験の要素を取り入れていった。さらに、ある多国籍企業とデザインファームのIDEOと共同で行ったプロジェクトでは、インドネシアのデング熱・マラリアを予防するための製品の実証実験を行ったが、その時に取り入れたラピッド・プロトタイピングのアプローチにも強い手応えを感じていた。
これらの学びに基づいて、どうしたら支援のアプローチが模倣され、広がっていくのかを考えるようになった結果、途上国の「現場」で「実証実験」を行い、どういった介入で課題を解決できるのかを理解し、その結果を積極的に他の団体と共有してくことがコペルニクの方向性だと確信した。ただ、リソースの制約など、途上国支援のジレンマを肌感覚で理解している私たちは、いかにリーンな実証実験ができるかに注目し、小規模で、短期間に「現場」で行う「実証実験」を目指すことにした。
新たな方向性を設定して以来、今までに30以上の小・中規模の実証実験を行ってきた。たとえば、インドネシア東部の農村部で栽培されている穀物、ソルガムキビが、収穫後、コクゾウムシに食べられて価値が下落しているという課題に対して、藻類の一種であるオーガニックの珪藻土を保存の袋に混ぜるという介入を行い、珪藻土を入れない伝統的な保存法と、コクゾウムシの数を比較した。結果、珪藻土を追加した保存法では、伝統的な保存法に比べて、コクゾウムシが90%以上減少していた。
ソルガムキビ(左)と実証実験の様子(右)
別の例としては、今年行った太陽熱で収穫物を乾燥させるソーラードライヤーのプロジェクトがある。カカオを乾燥させるため、太陽熱を囲い込む簡単な仕組みを作り、伝統的な乾燥方法と、カカオの乾燥速度、カカオの質の比較を行った。結果として、乾燥速度は2割早くなり、また第三者機関によるカカオの質の調査では、コントロール群に比べて質が上がっているという結果が出た。
カカオを乾かすためのソーラードライヤー
また、こうしたコペルニクの新たなアプローチは、国際会議でも積極的に共有している。2017年に南アフリカ共和国で行われたGlobal Evidence Summitという会議でコペルニクのリーンな実証実験について発表[7]すると、「ランダム化比較実験の弱点をうまく補完するアプローチだ」というコメントをいただいた。
実は、このような活動もあってか、今回ノーベル経済学賞を受賞したデュフロ氏とバナジー氏が中心となって始まった前出のMITのJPALから声がかかり、インドネシアの農村部で、零細農民の収入が減少する時期の収入を補填するための介入に関し、ランダム化比較実験のお手伝いをすることとなった[8]。このプロジェクトはコペルニクが新しい方向性で打ち出したリーンな実証実験よりも重めのデータ収集・分析を必要としたが、非常に多くのことを学ばせていただいた。
今コペルニクでは、これまで行ってきた30を超える実証実験の結果を、他の機関のプロジェクトで採用してもらうとともに、現場でのリーンな実証実験のアプローチそのものを、より多くの援助機関で取り入れてもらうことを目指している。その結果、援助という大きな産業の仕組みがより効率化し、途上国の課題がより効率的に解決できるようになればと考えている。
[7]https://www.globalevidencesummit.org/abstracts/lean-experiments-filling-evidence-gap
[8]https://www.evidenceaction.org/no-lean-season-indonesia/
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日本企業が今回の受賞研究を取り入れる意義とは
日本企業が今回の受賞研究を取り入れる意義
――SDGsをお題目で終わらせないために
ノーベル経済学賞がデュフロ氏らの研究に与えられた意義は、援助業界だけではなく、実は日本企業に対しても大いにある。たとえば、賛同する日本企業もいよいよ多くなってきた、持続可能な開発目標(以下SDGs)。2015年に国連で採択されたSDGsにより、企業は社会インパクトをビジネスに統合することが必要となった。そして、社会インパクトを発信するということと、今回のノーベル経済学賞を受賞した研究には大いに関連性がある。
たとえば、ある企業の製品が子どもの下痢の削減に貢献していると訴求したい場合を考えてみよう。これまでの援助の世界と同様、エビデンスに対する要求度がそれほど高くない場合は、お母さんからの「製品のおかげで子どもの下痢が減りました」というコメントを報告するだけでよかったかもしれない。
しかし、エビデンスに対するリテラシーが年々高まるこれからは、この製品が本当に下痢の削減に貢献しているということを、コントロール群も含めたデータを収集して発信していく必要が出てくるはずだ。たとえば製品を使っている子どもの手のひらの大腸菌が、この製品を使っていない子どもの手のひらに比べて、大幅に減少しているということをデータで示すことなどだ。こうした社会インパクトをエビデンスによって「見える化」することの重要性は、SDGsはもちろんだが、ESG経営や、インパクト投資においても同じだと言えるだろう。
今回のノーベル経済学賞が契機となって、企業も、援助機関と同様、より精査したアプローチで実証実験のデータを収集し、エビデンスを収集、発信していく必要性はより高くなるだろう。そして、それは結果的にSDGsの達成を早めることになるはずだ。
•
世界を巻き込む。
中村俊裕 著
<内容紹介>
今、全世界から注目を集めているNPOがある。その名は「コペルニク」。 アジア、アフリカの援助すら届かない最貧層(=ラストマイル)へ、現地のニーズに即したシンプルなテクノロジーを届ているグローバルNPOだ。創設者である中村俊裕氏が、国連を辞めてまで起業した経緯から世界的なしくみづくりまでを初めて語る
関連記事
国連を辞めてまで、僕がNPOを立ち上げたワケ
中村俊裕
「ビジネス」を掛け算できるかどうかが、
これからの15年を左右する
中村俊裕
途上国向けのビジネスモデルが、日本でも生きる。
コペルニクが被災地支援から学んだこと
中村俊裕
今年のノーベル経済学賞「行動経済学」は何が凄いのか
真壁昭夫
https://diamond.jp/articles/-/218035?page=5
• コペルニクについて
• 実施中の
プロジェクト
•
コペルニクの活動
イノベーションをラストマイルに
コペルニクは「ラストマイル」と呼ばれる途上国で最も支援が届きにくい地域において、貧困削減に繋がる革新的なテクノロジーの開発、検証、普及に取り組んでいます。
コペルニクのインパクト
アドバイザリー・サービスによるビジネス展開支援
民間企業や公的機関に対して、専門的なアドバイザリー・サービスを提供し、新興国・途上国市場の人々のニーズに応える革新的な製品やサービスの開発、普及を支援しています。
コペルニクのインパクト
貧困削減に繋がる
テクノロジーの普及
ラストマイルにおける共通の課題を解決する、革新的でシンプルな テクノロジーを届けています。
コペルニクのインパクト
現地のニーズに応える
イノベーションの実証実験
ラストマイルの人々の生活向上に効果が期待できる解決策を、短期間且つ小規模な実証実験により検証しています。
1
イノベーションをラストマイルに
2
アドバイザリー・サービスによる ビジネス展開支援
3
貧困削減に繋がる
テクノロジーの 普及
4
現地ニーズに応える
イノベーションの実証実験
コペルニクの活動
コペルニクは「ラストマイル」 と呼ばれる 途上国で最も支援が届きにくい地域において、貧困削減に繋がる革新的な テクノロジーの開発、検証、普及に取り組んでいます。ラストマイルの人々が直面する課題を解決し、生活の向上と 自立を支援するために、私たちは以下の3つの取り組みを行っています
実証実験
ラストマイルの人々の生活向上に効果が期待できる解決策を、短期間且つ小規模な実証実験により検証しています。
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アドバイザリー・サービス
民間企業や公的機関に対して、専門的なアドバイザリー・サービスを提供し、新興国・途上国市場の人々のニーズに応える革新的な製品やサービスの開発、普及を支援しています。
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テクノロジーの普及
ラストマイルにおける共通の課題を解決する、革新的でシンプルなテクノロジーを届けています。
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廃棄プラスチックを無くす国際アライアンスにてコペルニク代表中村俊裕がモデレーターを務めました
Hiromi Tengeji
Encouraging Teacher Attendance through Monitoring with Cameras in Rural Udaipur, India
Esther Duflo
Rema Hanna
Stephen Ryan
Location: Udaipur district, Rajasthan, India
Sample: 113 Informal Education Centers
Timeline:
2003 to 2006
Target Group:
Primary schools
Teachers
Rural population
Outcome of Interest:
Enrollment and attendance
Provider attendance
Student learning
Intervention Type:
Incentives
Monitoring
AEA RCT Registration Number:
AEARCTR-0001226
Data:
Download dataset (5.2 MB)
Research Papers: Incentives Work: Getting Teachers to Come to School
Partners:
Despite booming economic growth and an improved educational infrastructure in many regions in India, primary education is lagging in many remote and marginalized communities. This study estimated the effect of financial incentives on teacher attendance on students' attendance and math and language levels. The incentives increased teacher attendance and teaching time, and student test scores rose as a result.
Policy Issue
Over the past decade many developing countries have expanded primary school access, energized by initiatives such as the United Nations Millennium Development Goals, which call for achieving universal primary education by 2015. However, these improvements in school access have not been accompanied by improvements in school quality. Poor learning outcomes may be due, in part, to high absence rates among teachers, who often lack strong incentives to attend work. There have been relatively few rigorous studies that have evaluated successful interventions to address absenteeism, so little is known about how reduced absenteeism impacts other educational outcomes. If teachers are incentivized to show up to school, is that all they do, or once there do they teach? Do simple financial incentives undermine their motivation to teach well?
Context of the Evaluation
Despite booming economic growth and an improved educational infrastructure in many regions in India, primary education is lagging in many remote and marginalized communities. Sixty-five percent of surveyed children enrolled in grades 2 through 5 in government primary schools could not read a simple paragraph, and 50 percent could not do simple subtraction. Teacher absenteeism, a pervasive problem in these schools, may contribute to these poor educational outcomes. Disciplinary actions are rarely undertaken against absent teachers: in a survey of 3,000 Indian government schools, only one principal reported a teacher having been fired for poor attendance . This may account for the extremely high rate of teacher absence in India: in schools examined by this study, teachers attended classes about 65 percent of the time.
Student practicing arithmetic in Udaipur, India. Photo: Vipin Awatramani | J-PAL/IPA
Details of the Intervention
In rural Udaipur in India, Seva Mandir, an Indian NGO, runs informal schools to help students not reached by ordinary government schools. Each school has only one teacher who instructs about 20 students in basic Hindi and math. Similar to other schools around the world, teacher absenteeism was high: the teacher absence rate was 44 percent.
Because these were NGO schools and teachers, it was an ideal setting to test how teachers responded to incentives: would the incentives be effective, or would teachers find a way around the system? Unlike government schools, Seva Mandir had enough freedom and control over its own schools to experiment with a straightforward method for motivating teachers.
Each teacher in the program was given a camera with a tamperproof date and time stamp and was instructed to take a picture with students at the beginning and end of each school day. Teachers were paid for the number of days that they attended as recorded by the cameras, giving them a clear incentive to attend school. To test the effectiveness of the program, Seva Mandir randomly assigned half of the teachers to the camera program, while the rest were supervised and paid the normal way as a control group. Unannounced, random checks measured the true attendance of each group.
The camera program did not require a large change in school regulations or institutions. Instead, it provided a way to enforce existing rules.
Incentives
• Ordinarily, teachers were paid a salary of Rs. 1,000 (about $22) per month, for 21 days of teaching.
• In the camera schools, each teacher was guaranteed a base pay of Rs. 500. Teachers were rewarded with Rs. 50 for each valid day taught.
• When the incentives were implemented, monthly pay ranged from Rs. 500 to Rs. 1,300.
• Upon receiving the first paycheck under the program, each teacher received a detailed explanation of how it was calculated.
Monitoring procedure
• Teachers were instructed to have a student take a picture of the teacher and other students at the beginning and end of each school day.
• A teacher was counted as present only if the two pictures were separated by at least five hours and a minimum number of students were present.
• This rule was strictly enforced and gave teachers one hour of grace from a six hour work day.
• Cameras were collected a few days before the end of a pay period so there was minimal delay between action and reward.
Cameras
• The time and date buttons on the cameras were covered with heavy tape. Each had a seal that would indicate tampering. Teachers were told they would be fined if the seals were broken; no seals were broken.
• Teachers were told they would be fined for using the camera for any other purpose; one teacher did.
• Camera upkeep (replacing batteries, changing fi lm, etc.) was done at regular monthly teacher meetings.
• If a camera malfunctioned, teachers were instructed to call within 48 hours and were credited for the first day of the broken machine.
Results
Objective monitoring linked to clear, credible incentives motivated attendance.
The camera-mediated incentives improved teacher attendance. Attendance increased from 58 percent in the control group to 79 percent in the group with cameras. Overall, this translates into 34 more days of instruction per student per year. Attendance increased for teachers with both relatively high and low attendance records. In the camera group, 36 percent of the teachers were present at least 90 percent of school days; in the control group, only one teacher was.
Material incentives did not destroy teachers’ intrinsic motivation.
Despite fears that well-enforced monetary incentives would reduce teachers’ intrinsic motivation, teachers did not reduce their effort. While at school, a teacher in the camera group was as likely to be teaching students as a teacher in the control group.
Higher teacher attendance means higher test scores for students.
When teachers came to school more, students learned more. Students in camera schools had higher test scores by 0.17 standard deviations and were 62 percent more likely to be admitted to regular government schools. Seven percent more girls were able to take a test that required being able to write. This study also speaks to the debate on informal schools. Many say such schools are ineffective because teachers tend to be less skilled than government teachers. However, this program shows that under the right conditions informal schools can improve education for the rural poor.
The program was a cost-effective way to increase student learning.
The camera program was not designed to be a scalable intervention, but rather to test the impact of motivating teacher attendance, particularly for student learning. Because the incentive pay proved equal on average to the salary teachers would otherwise be paid, the only cost of the program was for cameras and monitoring. Surprisingly, the program was so successful that it became a cost-effective way of promoting learning. The program cost Rs. 5,379 (about $120) per teacher per year, about 40 percent of a teacher’s yearly salary. Of this, about $25 was for the camera; $85 was for film, batteries, and photo development; and $10 was for labor costs to run the program. Each additional day of teacher presence cost $2.20. This translates into 11 cents per extra day of school per child. A larger program with more economy of scale or digital cameras might be even less expensive.
Policy Lessons
Rampant absenteeism of teachers and health care workers around the world is not going to be solved by cameras. This study was not designed to test a replicable program, but to understand the effect of monitoring.
Objective monitoring with incentives worked. Given credible incentives to attend school, teachers improved their attendance. Once at school, teachers in camera schools were just as likely as regularly salaried teachers to actually be teaching, so monitoring caused teaching time to go up. Incentives did not undermine teachers’ motivation: students learned more, scored higher on tests, and were more likely to graduate.
The camera program’s objective monitoring linked directly to incentives caused it to succeed where other programs designed to motivate teacher attendance failed. Neither teachers nor their supervisors could hide performance, excuse absences, or distort incentives. The result gave teachers control of their incomes and gave students a better education.
Duflo, Esther, Rema Hanna, and Stephen P. Ryan. 2012. "Incentives Work: Getting Teachers to Come to School." American Economic Review, 102(4): 1241-78.
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